テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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槍を持った男

「───ッ!」 

 

咄嗟に右に避けた。顔スレスレに鋭い槍が突き抜け、髪が少し切られて落ちていくのが横目に映った。

 

「殿下ァ!」

 

「殿下を守れ!こいつが首謀者だ!」

 

兵士は指を指して糾弾する。男はその兵士に槍を突きつけ斜めに振り下ろす。1秒後、その切れ目に沿って血がドバッと吹き出した。

 

「ぐあああっ…!あっ、あ……」

 

兵士は一瞬で事切れた。

 

「う、撃てっ!射殺しろ!」

 

「う…うわぁぁあぁああああ!!」

 

男は飛び交う銃弾をいとも容易くよけ、兵士を次々と殺していった。

 

「邪魔だよ、お前らはお呼びじゃないんだからサ、出しゃばんな」

 

「ぎゃぁああ!!」    

 

護衛兵が着々と殺されていく。元々護衛兵の数は少ない。 何だこれは、夢なら覚めてくれ。頼む、これ以上……! 

 

アルスははっと我に帰った。護衛兵が一人もいない。アルスと先ほど親しく精霊について話していた兵士は目を開けたまま死んで、アルスを見ている。恐らく庇ったのだろう。呆然としていたアルスはただ兵士が死んでいくのを見ているしかなかった。

 

「はっ……、……おい…おい!!しっかりしろ!!」

 

さっきまで生きていたのに!俺と話していたのに。アルスは叫んだ。足が震えて、動けなかった。

 

「いたいた、お前、アルスだろ?」

 

奴と眼が合った。全身が返り血で染められていた。白髪の髪は血に染まり、ただでさえ赤黒であった彼のメッシュがさらに生々しく染まっている。

 

「いっ……一体何なんだお前は!? お前が全部やったのか!?」

 

アルスは後ずさった。その槍の男の血まみれの風貌に、恐怖しか抱けない。

 

「うん?そうだけど、いやぁそれにしても寒いなぁここ。死んだふりなんかして本当に死んじゃうかと思ったぜ」

 

血に染まる槍を、男は撫でた。ケタケタと笑う。

 

「ふざけるな!?何故俺の名前を知っている!?」

 

しかもこいつは、アルス、と言った。本名はアルエンス。アルスと呼ぶのは、ごく親しい関係者のみ……。アルスは首を振った。今はそんなこと考えている暇じゃない。

 

「いいじゃん、そんなこと。俺にはどうでもいいことだよ」

 

「どうでもいいって…!? お前ッ…!」

 

「負け犬みたいに吠えないでよ、俺が損しちゃう」

 

「損…?何を言ってるんだ、お前は……!」

 

「ああー、もういいから無駄無駄こんな会話。じゃ、行くよ―」

 

槍をアルスに突き付けた─────。

 

 

 

男は一気に槍を片手に持ち一直線に急所の首を突いてくる。先程ははぎりぎりでかわしたが、単調的な攻撃で全く同じ行為。アルスは下にしゃがみ、足を横から引っ掛ける。───が、

 

「ちっ!」

 

当たったのは男の足ではなく、堅い槍の柄の部分だった。しゃがんだ瞬間、次の動きを読まれ、男は槍を自分ではなく地面に突き刺したのだった。そのまま槍を軸にして飛び、俺の蹴りは見事に避けられた。大きく隙ができたアルスに槍の軸を利用して回転し飛んだ奴も横から蹴りをいれてくる。

 

「ッうわっ!」

 

急いで後方にバックステップし、なんとか受けないで済んだ。しかし読めない動きをする奴だ。何も考えていないようで、戦闘能力はずば抜けていると言ってもいいだろう。

 

「お兄さん体術も使えんの? すごいねー」

 

気安く話しかけてくた。会話なんてしている暇はない。無視した。こいつと会話したら無駄な体力の消耗につながる。ただでさえふざけたやつで会話が通用しないのだ。太腿のホルダーに手をかけ、二丁の拳銃をに構えた。

 

「…そうこなくちゃな。」

 

ふ、と笑い、槍を地面から抜いた。もう、かまってられない。殺らなきゃ殺られるだけだ。

 

しかし一人で策もなしにこいつに勝てるかなんて不可能に近い。幸いここはグラキエス山。アルスは思考を巡らした。地形を最大限に利用するしかない。空を見上げた。山の天気は変わりやすい。風向きが変われば天気は変わると言ってもいい。アルスは風に揺られる髪を見た。

 

風向がさっきと変っている────。

 

グラキエス山から凍結風の西風が吹いていたが今は…。アルスは息を吐いた。真っ白なそれは風によって一気東へに流される。つまり、風がグラキエス山に流れ込んでいる。

 

アルスはじりじりと立ち位置を変えた。後方から風が吹き込んでくる位置で足を止める。男は向かい風になれば状況的にはこちらの方が有利だ。常に追い風で戦わなければ。だんだんと風は強くなってる。恐らく…吹雪くだろう。

 

「なにボーっとしてんの? 怖くなった?」

 

ふーっと息をつき、神経を手に集中させ、一気に連射する。

 

「おっと」

 

男の足を狙いながら撃っていく。まずは様子見だ。しかし、よけられ、地面の雪が跳ね上げられ空に舞う。さらに風が強くなり、そして吹雪始めた。跳ね上げられた雪は一気に風向きの男の方面へと流されていく。銃弾を撃ち込むが、後方に下がったり、左に飛んだりと先の読めない動きを繰り返す。

 

「くっ…ちょこまかと…」

 

間髪入れずに撃ってはいるがことごとく避けられる。

 

────風向きが変わった。雪が吹雪がアルスに吹き込んできた。咄嗟に目をつむった。

目め開けると、そこ男にいない。

 

「……しまった!」

 

吹雪が轟々と唸る。いくら慣れているといえこれは流石に見えずらいことこの上ない。

 

空を見た。男が槍を振りかざし降下してくる。飛び上がっていたようだ。

 

「あぁっ!」

 

アルスは尻餅をついて倒れ込んでしまった。手袋に、雪が溶け、染みていくのが分かった。

 

─────雪?

 

「残念、ジ・エンドで〜す」

 

アルスは右手で精一杯に雪をつかみ取り、男の目……、もといサングラスに向けて投げた。

 

「ッ!!?」

 

怯んだ男は体勢を崩した。水滴がサングラスに滴る。上から降下してくるのだから身動きは自由にとれまい。アルスはありったけの力を右脚に込め、回し蹴りを食らわせた。

 

吹き飛ばされた奴は見事に落ち雪の上に転げ落ちた。槍も飛ばされ、地面に突き刺さる。ここで仕留めなければ!!吹雪が激しくなり視界は悪くなる一方だ。

 

男はすぐさまはムクリと起き上がった。槍を引き抜くと、付着した雪を舐めた。

 

「やるねぇ………」

 

殺るならここだ───!

 

銃を構え撃った。パァン!と乾いた銃声が雪山にこだまする。すると奴はに槍を横に振り、弾をなぎ払った。

 

「えっ……!なっ…!!」

 

そのまま走りこんできて一気に距離を詰めてくる。

 

真っ直ぐに向かってきた男に咄嗟に3発弾を撃ち込む。血しぶきが見えた。1発命中したようだ。しかし止まることはない。動き回り、狙いが定まらない。

 

まずい、これでは────!

 

右手で槍を刺してくる。男の次の動きが確定した。確実に仕留める。銃口の焦点も合った。不安な要素と言えば、男が常識外れ過ぎることだ。撃たれるわかっているのに、全く動きを緩めない。

 

(ここだっ!!)

 

乾いた銃声と、何かを引き裂く音が頭に響く。ほぼ同時にその音は聞こえた。

弾が撃たれる音と、

 

 

 

脇腹に槍が突き刺さる音─────。

 

「が…はっ…」

 

口から血が出た。肺がカリカリと引っかかれるような感覚。息が詰まる。呼吸が苦しい。

 

「ちっ、くそ……が…!!」

 

奴も銃弾を食らいその場に崩れ落ちた。相打ちだった。

 

(くそ…急所を外したか…!)

 

弾は心臓より少しずれた所に命中していた。

 

「ぐ…ぅ…!」

 

激し痛みが襲う。手で必死に槍を引き抜く。抜いた瞬間、トバッと血が吹き出した。血まみれになる自分の手。ぬるりのした血の感触が伝わる。

 

「は…ぁ…!」

 

槍を引き抜き、無造作に地面に下ろす。奴は槍を決して離さなかった。柄をしっかりと握りしめている。血に染まる髪、赤黒のメッシュ、奇抜なデザインをした服、サングラスそいつは膝をついてそのまま動かない。

 

心なしかなんだか口元が笑っているように見える…。奴は動かなかったが、口だけは、確実に上がっていた。ニヤリと、不気味に。

 

 

 

───脇腹を押えながら来た道を辿った。丁度吹雪も収まってきている。目を必死に開けながら足を前に出す。

 

寝るな。倒れるな。歩け。

必死に頭に言い聞かせる。

 

「ハァ…はぁ…」

 

道をゆっくりと降りて行き、街道に出た。首都オーフェングライスまでの辿ってきた道を引き返す。

 

(とりあえずこの事を報告して…、治療しないと…!)

 

寒い。いや、熱い。脇腹が燃えるように熱い。血が滴る。傷口を押さえた時、ある違和感があった。アルスは立ち止まった。

 

(……っ、何だこれ、ホントに熱いっ……!?)

 

まるで傷口から何かが出てきたようだ。熱い、熱い。アルスは押さえた手を見た。血と一緒に、一筋の煙のようなものが指の隙間から出てきている。

 

(何……だ?これ……は、エヴィなのかっ……?)

 

アルスは不審に思いつつも今は歩く事に専念しよう、と思って再び歩き出した。

 

 

 

首都、オーフェングライスの門が見えた。最後の力を振り絞り、広場へ行く。

先程の吹雪のせいで人が全くいない。

 

(ああ…やっと着いた…)

 

が、そこで眩暈が襲った。

 

「ッ…!」

 

足元がふらつき、まともに歩けない。間違いない、貧血だ。思わず広場の真ん中にある噴水のふちに手をかけた。

 

「ハッ…ぁ…はぁ…ぁぁ」

 

そのまま立っていられなくなり重力に任せて膝をつく。ここまで来たのに、ダメだ、死ぬな!と心の中で唱えるが視界がぼやけてくる。

 

(もう駄目だ…、限界…だ…)

 

ふちにかけた手がずり落ち、その場に倒れる。

 

(あぁ、ここで俺は死ぬのか…)

 

そう思い、重い瞼を閉じた─────


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