テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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北アジェスへ

「良かったねアルス!平和条約結ばれたよ!」

 

会議室から出るとルーシェが祝福の言葉をアルスに掛けた。

 

「ああ、ありがとう………はぁ」

 

アルスは全身の力が抜け壁にもたれかかった。そして深いため息をついた。

 

「何だ?浮かない顔だな大将?」

 

ガットはからかうように言う。平然を装ってはいるがアルスはかなり緊張していた。初めての皇帝としての公務にして重大な出来事過ぎたのだ。

 

「緊張した………」

 

「エ〜?そんな風には全然見えなかったんだケド?」

 

ラオが不思議そうに聞いた。

 

「当たり前だ、顔に出したらマズイだろ」

 

「スゴイねぇ、アルス君は」

 

そしてラオは孫を見るように褒めたたえ、温かい目で朗らかに笑った。

 

 

 

今日のところは休む事として、出発は明日になった。ロピアス城で1泊する事になり、仲間は皆休んでいたがアルスは自分と一緒に着いてきていた年配のスヴィエート軍人のハイツ、そして元老院のワイリーから興味深い話を聞いていた。気候変動の件についてだ。ハイツはアルスにその事を聞かれ、

 

「陛下の仰る通り、確かに20年前から、スヴィエートも気候が少し変わったように私は思います」

 

と、言った。

 

「それは何故だ?」

 

「はっ、私は軍に支えてもう30年になります。私の入隊当時の訓練でとにかく厄介だったのがグラキエス山から吹く凍結風です。あの猛吹雪の寒さのお陰で何人死者が出た事か。ですが先の第2次世界大戦以来、心無しか、何と言うか、和らいだと言うのでしょうか。あまり厳しくなくなったのです。勿論、寒いことには変わりはないのですか。でもやはり、スヴィエートは昔よりは寒くはないと、私は思います」

 

「そうなのか…。俺は生憎その終戦の時に産まれたからな。20年前の事は全く分からない。参考になった。礼を言う」

 

「いえ、滅相もありません。陛下のお役に立てたのなら至極喜びに存じ上げます」

 

アルスはワイリーに向き直った。

 

「ワイリーはどうだ?何かあるか?」

 

アルスはハイツから話を聞き終わると、今度はワイリーから話を聞く。

 

「はい、私もハイツ氏と同意見なのですが。そうですね、これは私的な意見なので言って良いのかどうか…」

 

ワイリーはあごひげをさすると目をそらした。

 

「私的でも構わない。俺は意見を聞きたい」

 

「で…では。凍結風の事もそうなのですが、スヴィエートは他国よりも月の光がとても強く、美しいものでした。ロピアスやアジェスよりもはるかに引けを取らない。それにアジェスなんてスヴィエートの月明かりが異常過ぎるぐらい、暗いのです。前にアジェスに行った時に思いました。スヴィエートとアジェスの環境や気候はそれは大いに違いますが。そして、その月明かりなのですが、20年前より更に明るくなった…、と言うか…。他国に比べれば本当に明るい方なのですが、やはり長年住んでいると、なんとなくなのですが、私はやはりそう感じざる終えません」

 

「月明かり…か。抽象的だがそれもやはり気候変動の一部なのか?一体20年前に何が起きたんだ…?」

 

アルスは顎に手を当てて考え込んだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

ハイツとワイリーは黙った。2人とも、口には決して出さないが憶測していることはあった。ただ、それは口には出せない。何故なら先程自分達が言った気候変動は自国にとって有難いものだったからだ。

 

月明かりはともかく、その他にも影響はあったし、スヴィエート最大の問題の寒さについては少なからず嬉しいのだ。

 

彼らの思う所、それをやったのは────。2人ちらりと視線をずらしアイコンタクトをとった。そしてそのまま視線をアルスに向けた。

 

そう、2人は今こう思っているのだ。

 

(気候変動……、それをやったのは、恐らく─────)

 

(今、私の目の前にいるアルエンス陛下のお父上。スヴィエートの英雄と呼ばれた賢帝、フレーリット様───)

 

先々代、8代目のフレーリット皇帝の存在が彼等の頭から離れなかった。彼しか考えられないのだ。

 

だがこれはあくまで彼等の憶測。口に出してはいけない。それにその証拠もないのだ。第一、どうやってやったのかも分からない。だが彼は自国の利益の為なら何でもやる男だった。もしかしたら、もしかして、という思いは20年間収まることはなかった。そしてこれからも墓場まで持っていくつもりだ。

 

アルスはそんな彼らのアイコンタクトのやり取りなど全く気づくはずもなく、眉間にしわを寄せ考え込んでいた。

 

 

 

翌日、これからの予定を立てる会議でレガルトはこう提案した。

 

「僕の国はもう自分達で調べ尽くしてる。でね、最近になって分かったことなんだけど、どうやらこの問題はロピアスだけじゃないみたい。アジェスの情報が入ってきたんだけどね。アジェスの辺境の辺境らへんの地域でガラサリ火山ってのがあるんだよ、ノア〜、地図出して」

 

「御意」

 

ノアはアルスの前に大きな世界地図を広げた。レガルトはアジェスの領域をを指で示す。そして一点を示す。首都だ。

 

「これが首都のヨウシャン。腐海の問題でアジェスの地区は大きく3つに別れてる。三角形みたいになってて西の点に位置するのがヨウシャン周辺。ここはアジェスの中でも最も栄えてるし、腐海の影響が少ない。リューランっていうアジェス人が信仰してるカミサマ的なモノがあって。まぁ本当にカミサマっぽくてこの木のお陰でヨウシャンは豊かなんだけど。ヨウシャンの少し北に行ったところがカンラン港。ここら辺が、ヨウシャン周辺ね。で、2つ目はこれシャーリン周辺。三角形右の東の点に位置してる。侵食している腐海を突っ切るようにサンハラ川がヨウシャンから流れて、その川の下流地点がシャーリン。そして最後がガラサリ火山地帯。これが三角形頂点の位置にある。ヨウシャンやシャーリンからかなり離れてて、まさに辺境。僕もよく知らない。行ったことないし、昔は有名だったらしいんだけど。なんかふもとに小さな村はあるらしいよ。名前は…、えっと、ソガラだったかな?」

 

「で?そのガラサリ火山がどうしたんだ?」

 

「この火山、20年前まで休火山だったんだ。でもそれ以来火山活動を頻繁に起こすようになったんだって。不思議だよね。これってもう、偶然じゃないんじゃないかな。どの出来事にも、ある境を期に変化している」

 

「20年前の第2次世界大戦…か…」

 

「そうなんだよね。スヴィエートにはないの?そうゆうの」

 

アルスは昨日聞いた話を思い出した。

 

「ある。無論俺が産まれる前だから実際にこうだとは一概には言えないが、部下の話を聞くとスヴィエートは20年前より降雪が少なくなった。それから。スヴィエート特有の月明かりが更に明るくなった、とかも聞いたな」

 

「ほぁ~、やっぱり世界中で起こってることだったんだね〜。でもロピアスと逆だね。僕の国は雷や風が強くなったり雨がよく降ったりと国にとって迷惑なのにスヴィエートは何か得してない?雪少なくなるって嬉しいんじゃないの?」

 

レガルトは眉をひそめて言った。

 

「俺の発言でそうゆうのは控えさせてもらう。さっきも言ったように、俺が産まれた頃からだからな。雪が少なくなったなんて思いもしなかった。昔はもっと多かったのか、と驚いたものだ。ただでさえ降雪は多いのに。だが年々減少していったらしい」

 

「ふ〜ん……。まぁいいや。とにかく、僕からの依頼はアジェスの気候調査もする事だね。アジェス政府から正式な申請もあったし、何よりロピアスとアジェスだけじゃないと分かった今、とにかく行って調べてみるしかないね。百聞は一見にしかずってね」

 

「分かった。で、お前は何してくれるんだ?」

 

「とりあえずまずアジェス行かなきゃいけないから、長~い旅になるよ。まずこのロピアスから終点のアンジエまで行くのに列車でも3日はかかる。端から端の大陸横断だし、仕方ないね。その分快適な旅が出来るような列車、んでもって特急のシャーワイザー号を用意したから。それに乗ってね。そんで、アンジエ駅に着いて降りたらすぐカルシン国境砦に行く。その国境を越えて首都のヨウシャンに着いたら川を下ってシャーリンへ。そこからは徒歩だね」

 

「それは長い旅になるな…」

 

アルスは道程を想像した。恐らく今までで1番の大移動となる。

 

「まぁロダリア曰く、君の仲間にはアジェス人が1人いるんだって?その人に案内を頼むといいよ。それにシャーリン出身だって聞くし。ソガラは腐海のせいで直接首都から行けないんだ。だからシャーリンの川を経由するしかない。シャーリンとソガラは多少の交流があるって事だ。アジェスの首都民からしたらド田舎の村って感じらしいけど」

 

「ラオか。奴にまた頼むか。よし、ありがとうレガルト。世話になる」

 

「いいんだよー、だって協力してくれるんだから。僕の目の代わりをロダリアとノインに頼んだから。僕ノインとも会ったことあるんだ」

 

アルスは驚いた。

 

(アイツ、カジノ職員じゃなかったか?)

 

「何でノインが?」

 

「…、まぁ、そこは蛇の道は蛇で」

 

うまくはぐらかされてしまった。そんなにしつこく聞くのも変に思われるのでアルスは興味のない素振りのする返事をすると、仲間達と合流し、特急シャーワイザー列車に乗った。

 

目的地はまず遥か遠くの北アジェスのソガラ村。その近くにあるガラサリ火山だ。

 

アルスは列車のベットで横になると静かに目を閉じた。


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