テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
アルスはまたあの夢の世界に引きずり込まれた。真っ暗な空間。そして彼は気付いた。これは前の夢の続きだ。そうだ、前に見たのは、スターナー貿易島からエルゼ港行きの船の中で見た光景だった。
前は真っ暗だった空間が今度は違う。はっきりと眼前に映し出された。
一体ここはどこであろうか、周りにはゴツゴツとした黒い岩が並び、その岩からは時折赤い液体がごぉっと音を立てて上がる。これはマグマだ。周りを見渡しても、眩しいぐらいの赤で、目がチカチカする。前に見た時より、かなり鮮明だ。自分と老人以外にも、周りに少し人はいるようだ。
そして今自分は全く知らない老人を見て叫ぶ。だが自分の声ではなかった。
「お待ちください! やはり彼らを封印するのは!?」
自分の体が動き、老人の手を必死に掴む。止めようとしているのだ。
「黙っていろ!!さもなくばお前も裏切り者と見なし殺すぞ!」
老人はそれを鬱陶しそうに払い除けると杖を地面の陣へ向けた。光術陣だ。それは眩い光を放ち始めた。次の瞬間、陣は結界のようなものを生み出し中にいる赤い何かをとじこめた。
「ぐあぁああぁぁぁあ!!貴様あぁああぁあ!?」
赤い何かは、苦しみ、咆哮を上げた。憎しみにあふれるその声を、発するのは人間ではない。あれは人間ではないが、言葉を話した。
(あれは、一体何だ!?)
「ははははは!!いい様だな!」
老人は高笑いしてその光景に恍惚とした表情で眺める。周りにいた人間も歓声を上げてそれを眺める。
「あぁ!イフリート!!何て事だ!?精霊ともあろうものが!!
」
自分は膝を着き、絶望に嘆いた。目の前の光景は、イフリートという精霊を、封印している─────?
「貴様ら………許さん……!許さんぞぉぉぉおお!薄汚い人間め……!!いつか、いつかこの恨み晴らしてくれようぞ!大精霊オリジン様の復活!我々の……ひが………ん………!」
そこでそのイフリートという精霊の声は途切れた。陣の結界が完全に精霊を包み込んだのだ。
「………ハッ!」
そこでアルスの夢は覚めた。目の前には列車の天井が広がっている。
「またあの類の夢か……」
アルスは未だはっきりと憶えている夢を思い出した。
「っ痛ッ!」
不意に両眼が鋭い痛みに襲われた。
「ぅっ、ぐ……!」
アルスは目を瞑り痛みに耐える。そして手探りで立ち上がり部屋の明かりを付けると鏡を見た。
「…………!?」
瞳を開いたアルスは驚いた。一瞬、ほんの一瞬だが今自分の銀色の瞳が赤色に変わったのだ。
「何だ…、今の……!?」
アルスはもう一度鏡を見つめた。だがそれはいつもの自分の色。父親譲りの銀色であった。
「……寝ぼけているのか?俺は…」
アルスは自嘲気味に少し笑うと気のせいか、と自己完結した。そう簡単に瞳の色彩が変わってたまるものか。アルスは顔を洗いに行った。
(イフリート………か。精霊……。我ながら随分とファンタジーで非現実的な夢を見たものだな……)
まだ仲間は1人も起きていないようだった。アルスは部屋に戻ると銃の整備を始めた。
やがてロピアス、スヴィエート協力の気候調査使節団、アルス一行はカルシン砦の国境線を越え、ヨウシャンからシャーリン、ここからは徒歩だ。アジェス特有のじめじめとした空気を肌に受けながら進んで行く。
ラオに案内を頼んだ時、彼にソガラはどのような村なのかを訊ねた。
「ラオ、ソガラという村はどんな村なんだ?」
ラオは少し考え込んだかと思うと口を開いた。
「う〜んとね〜、僕が小さい頃温泉に入ったことがあるような記憶があるんだよネ、って言ってもこれもう何百年前の記憶が定かじゃないんだけど。百年前のソガラと今のソガラは全く一緒ってワケないからあんまり一概には説明出来ないネ。ただ、火山が近くにあって、その影響で温泉が湧き出しているってのは覚えてるな。火山がもたらす鉱山資源で栄えていた時とかもあったヨ。僕の記憶、だとネ」
アルスは頷いた。
「確かに、火山の影響は避けられない故にかなり人の生活に密接に繋がっていそうだな」
そこでロダリアが口を挟んだ。
「アルスの言う通り、火山は人類の生活に密接につながりさまざまな恩恵を与えてくれている、と言われています。火山から得た恩恵のうち重要と思われるものは、火山がもたらす地形と、その環境から得られる肥沃な大地、湧水、火と温泉、黒曜石を代表とする鉱物や美しい風景があげられますわね」
「俺はあんまし良いイメージねぇけどなぁ…、ふわぁぁ……」
ガットは欠伸をしながら言った。皆それぞれの意見があるようだ。
「小生はよく分からんから抱くイメージはただ一つ、暑そう」
「極論だなオイ、あながち間違っちゃいねぇけどよ」
「火山なんて厄介なものじゃいないですか?火山の噴火は人間社会に壊滅的な打撃を与えてきたため、記録や伝承に残されることもありますし」
それを言ったのはノインだ。彼は火山に対するマイナスのイメージを言った。
「でも、ノインの言う火山の噴火なんてそんな頻繁に起こるものなのかなぁ?」
「そこなんだよルーシェ。レガルトも言っていたがそのガラサリ火山は20年前までは休火山として活動は見られず住民も独自の文化を作り上げて豊かに自給自足の生活を送っていたらしいんだが、戦争以来、大規模な噴火は未だ見られないが小規模の噴火活動を頻繁に繰り返している。特に火山灰の被害が凄いらしくてな、最近はろくに農作業できなくなっているらしい」
ガットはうなった。
「世知辛いねぇー。噴火活動が頻繁に起こるならおっかなくてあのゾンビの言ってた鉱山資源ってのも期待できそうにないな」
「ゾンビゆうな、ラオだって何回言えば分かるの。これだから頭が筋肉って言われるんだヨ」
「あぁん!?」
「オォウ!?やんのかワレ!?」
「ラオ……口調荒くなってるぞ……」
アルスは呆れた。
「はぁ、なんか行く先々喧嘩してませんかこの2人……」
ノインも呆れてため息をつく。これは今までにもよく見た光景である。
「まぁいいや、フィル〜、ソガラ着いたら一緒に温泉……」
「ルーシェルーシェ、小生は温泉とやらに興味を持った。一緒に入らないか」
フィルはルーシェの服の裾をちょこんと引っ張ると甘える仕草を見せた。
「勿論!いいよ〜!」
ノインは絶句した。
「ちょ……僕が一緒に……!」
「ノイン、ルーシェと一緒に温泉なんか入ったら殺すからな?お前の全身に風穴を通してやる、蜂が巣を作れるようにな」
「発言ヤバイでしょ!?アルス君目が怖すぎるんですけど!?」
ソガラ村は想像していたものと遥かに異なっていた。少しでも栄えている村なのだろう、と思っていたが全く違った。ガラサリ火山の麓、西位置するその小さな村─────。
目に見えるみすぼらしい木造の建物が並び立ち、村人は貧相な着物を着て、貧困に耐える生活を送っているという事が嫌にでも分かる。ここは技術が進歩していない。否、技術が届いていないのか?畑には火山灰が降り積もり、作物は枯れていた。
(これは、本当に思ったよりも酷い…)
アルスは硫黄の臭いに顔をしかめた。手で口と鼻を塞いだ。それはこの光景を目に絶句する心情も混ざっていた。
「げほっげほっ、なんかっ、息苦しいし、目が痛い〜!師匠ー!」
フィルは目をこするとロダリアに擦り寄った。
「火山灰、ですわね。強い風が吹いた時は目をつぶった方が懸命ですわ。大気に大量に紛れ込んでいますわ」
ロダリアは掌を宙にやるとその灰を見て言った。
「硫黄の臭いがひどいですね…」
「思ったより衰弱してやがるな…、この村…」
「何あれ…、灰がたっくさん……」
「ウワァ、見事に僕の記憶は大外れだネ」
「ここまでとは……」
とにかくアルス達はいつも通り情報集めから行うことにした。ある人物から聞いた話ではやはり年配の人に聞いた方がいいという結論になった。そして彼らが来たのがソガラ村のカヨという長老がいる家であった。
「ごめんくださーい、カヨさんは居ますかー?」
「む…?」
アルス達がは長老の家を訪ねると年老いた老人がいた。
「あ、こんちには。カヨさんでいらっしゃいますか?」
「えぇ、はい。私がカヨですが…」
「初めまして、俺は…、いえ。私達はロピアスに協力しているスヴィエートの気候調査使節団です。ちょっとお話をお伺いしたいのですが…」
アルスはあらかた説明をした。カヨ長老はうんうんと頷いた。
「そうですかそうですか。遠い所からよう来てくださりました。ほんまお疲れ様です」
「それで、この村の現状についてなんですが…」
「見ての通りの有様です。政府は何も助けてくれません。何でも戦争が起こりそうなのにこんな所に人員を派遣出来ないゆうてね。それにここは首都から遠い辺境地域。腐海のせいでシャーリン経由でしか道がないんですよ。昔は鉱山資源が豊富で栄えていた時期もあったんですが、今は見る影もありません。エヴィ結晶に頼って生きています。ただ、それももうなくなりそうでなぁ…」
「それは…、大変ですね……」
皆悲痛にそれを聞いていた。だがアルスはこれを根本的な部分から解決するために来たのだ。村の生活も確かに可哀想には思うがいよいよ本題に入ることにした。
「カヨさん。この異常な変化はいつ頃から見られましたか?」
「あぁ、それは覚えとります。おおおよそ20年前位になりますでしょうかね?戦争以来、こうなったのは誰もが疑問に思っていた事です。ですが、スヴィエートは直接アジェスと本土決戦をした事はない。そこが不思議なんですわ。まずこの村にさえ来ていませんしね。平和でしたよ至って。ましてやスヴィエートのせいかも分らない。もしかしたら環境が何らかの原因で変わったとか」
「いえ、それはありません」
アルスはきっぱりと言った。
「何故なら、この問題は実は世界中で起こっているのです。スヴィエートも、ロピアスも気候が20年前を堺に変化が見られます」
「まあ、そうなんですか。すいませんねぇ、この村から出ることなんて滅多にないもんで。情報は孫が持ってきてくれることもあるんですが…」
「孫?」
「えぇ、とってもイイ子ですよ。この村の為に世界をまたにかけて商売をやっとる立派な孫です。この前も珍しい綺麗な氷みたいな石を持ち帰ってきてくれたり。生活に必要な物を持ってきてくれるんです。エヴィ結晶を持ち帰ってくれるのは、ホンマにありがたい事ですわぁ。なんせそう簡単に老人が外に行けませんからね。村も年老いた者が多いもんで……」
「へぇえ~、本当に立派なお孫さんですね!」
ルーシェは目を輝かせてその話を聞く。
「ちょっと待て婆さん、今氷みたいな石っつわなかったか?」
だがガットは鋭い視線で会話に割り込んだ。
「え?ええ、言いましたが…」
「どうしたんだガット?」
「大将は俺の依頼覚えてねーかもしれねーがな、俺にはまだ契約してる仕事があるんだよ」
「そうですわね、私がその受け取り主ですけど……」
アルスは一切を思い出した。
「あっ!氷石……!」
そうだ、確かガットはスターナー島の商人から依頼を受けていた。それはカヤという盗賊に氷石を奪われて、それを取り戻す事。
そしてまたアルスの目的の一つにもルーシェの形見のナイフを取り戻す事だった。それも、カヤに奪われた物だ。
不意に玄関の方面で物音がした。そして同時に若い女性の声も聞こえた。
「ただいまおばぁちゃ~ん!帰ったよー!あれ、お客さんいんの~?」
アルスはハッとしてすぐさま立ち上がった。この声、聞いた事がある。段々とその声が近づいてきた。カヨはその、女性に返事をする。
「おかえりカヤちゃん。よぅ戻ったなぁー」
「いやぁ~、遅れてごめんねぇー。ちょっと最近またあの2国の戦争が起こるとか起こらないとかでちょっと動きづら…………あ…」
アルスはカヤとばっちり目が合った。
「あーお前!!」
「あー!!」
「あー!?」
ルーシェは彼女の顔を見るなり指を指して大きな声をあげた。
「お前カヤだな!?動くな!!」
「カヤ!?アイツがそうか!!」
ガットも気づいたようだ。アルスは右手に拳銃を構えた。左手でそれを支える。
「げぇっ!?お前は私の華麗なジャンプの踏み台にさせられた奴!!」
カヤは変装を見破られた相手、アルスの印象が強かったのか覚えていた。そして隣にいるオレンジ色の髪の、歳もそう自分と変わらないの娘も。
「最後一言多い!いいか!?お前に散々振り回されたんだぞこっちは!やっと会えたな!さぁ!盗んだ物を返せ!盗賊風情が!!」
「カヤちゃん…?これは一体なんなの…?そ、それに盗賊やて…?」
カヨは訳がわからないと言った様子で混乱した。
「あ…、ちがうの!おばあちゃんは、何も心配しないで!こいつらが頭おかしいだけ!!ただそれだけだよ!!」
カヤは焦った。今まで祖母には商人として上手くやっていると嘘をついてきたからだ。アルスの声をまるで聞かせたくないように大声で全否定する。
「とぼけるな!この後に及んで見苦しいぞ!」
アルスは更にカヤに近づくと拳銃を目の前で突きつける。
「くっ……そ…!あー!!」
「っ!?」
カヤは大きな声を上げ指をアルスの後ろに指した。アルスは衝動的に振り向いてしまい、カヤはニヤリと笑った。
手に持っていた袋から白い玉のような何かを取り出すと地面に叩きつけた。その玉が弾けるとあたり一面に白い煙が立ち込めた。
「!また煙玉!?ま、待て!」
まんまとその場をしのいだカヤは一目散に家から飛び出し逃げていった。
「逃がすか!追うぞ!皆!!」
やっとえた女盗賊。アルス達はカヤを追いかけた。
忘れた頃にヒョッコリでてくる女盗賊カヤ、それがまたテイルズっぽい(????)