テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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見知らぬ言語で書かれた祭壇

「ったく無茶しやがるぜ、ルーシェさんよ」

 

「ご、ごめんなさい…」

 

アルスが急いで呼んだガットは、ルーシェの右腕の傷を治し始めた。

 

「あんま俺の治癒も万能じゃねえからな。ヒヤヒヤさせんな」

 

「えへへ、今度から気をつけるよ、ありがとう、ガット」

 

「ま、礼を言うならアルスにもだな。滅茶苦茶慌てて呼ばれたもんだから何事かと思ったぜ。あんなに焦った大将はなかなか見れねぇよ?流石ルーシェだな」

 

「…?流石?何が?」

 

ルーシェは意味がわからない、と言った様子で首をかしげた。

 

「……いや、分かってないならいい。ほら、治ったぞ」

 

「わぁ!凄い!綺麗に治った!ありがとうガット!」

 

「おう」

 

アルスはルーシェの腕の傷が治るとホッと溜息をこぼした。あそこで自分が駆けつけていたかったらどうなっていたか、想像もしたくない。

 

「アルスもありがとう。色々と迷惑かけちゃったね…」

 

ルーシェばバツが悪そうにアルスに言う。だが別に、アルスはこれっぽっちも迷惑なんて思ったことはなかった。それどころか何か頼られると嬉しい。多分これが男独特の思考なんだなと思った。好きな女の子に頼られるのはすごく嬉しい。

 

が、

 

「あぁ、全くだ…!少しは考えて行動してくれ。ルーシェは、その、えっと、治癒術使えるんだから死なれたら困る!」

 

変なところで素直になれない。それに無茶のし過ぎで怒っていることは事実。しかしすぐにアルスは、

 

(しまった…!)

 

と、思った。しかも仲間達がいるせいか余計にこんな風に突っぱねてしまう。

 

「そうだね〜…、ごめんね……」

 

ルーシェは愛想笑いで誤魔化すと眉を下げ落ち込んだ。アルスがこんなに怒るのは珍しい。

 

「あ、いや違っ!えーっと、だからガットと同意見で無茶は良くないというか、心臓に悪いというか……」

 

訂正を入れるが語尾がどんどん小さくなっていく。

 

「うん……、無茶は、分かってる…。体が勝手に動いちゃったというか…。あぁ、言い訳だねこんなの。ホントにごめんなさい」

 

「治癒術使えるからとか、そうゆうのは言葉のあやでっ……!」

 

カヤはそんな光景を見ていて物凄くムズ痒い。

 

「あのアルスとか言う奴。ルーシェにお熱でしょ絶対」

 

思わず近くにいたラオに耳打ちする。

 

「ウン。凄い分かり易いよネ。ボクもすーぐ分かっちゃった。でもお似合いだと思うな。僕は応援するケド」

 

「前途多難過ぎない?」

 

「そこが見ていて面白いのですよ」

 

「うわっ!?アンタいつの間に……!?」

 

カヤは後ろから割り込んできた女性、ロダリアに驚いた。

 

「ソーソー。見ていて飽きない程面白いんだよネ〜2人は。アルス君は変なところで堅物発揮したり、ボクらの前では恥ずかしいのかあんな風にツンツン気味だけど」

 

「ヘタレで堅物でツンデレなんてもの面白い以外他ありませんわ。分かります?」

 

ロダリアの言葉にカヤはうんうんと頷き、

 

「分かる分かる……。ルーシェは図太さが磨きかかって天然で鈍感過ぎ、とか?」

 

と、にやりとした表情で言った。ロダリアがくすりと笑い返した。

 

「おや、やはり女子なのですね。恐らくその通りですわ。私はルーシェと話が噛み合いませんからね。そうだとは思っていましたわ」

 

3人でこそこそと話していると、

 

「おい、何普通にカヤと話しているんだ2人は」

 

アルスに突っ込まれた。ロダリアはぱっとカヤから離れると、

 

「いえ?何でもありませんわ?幻聴ではなくて?私、ラオとカヤが話しているのは聞きましたわ。ええ、きっと私はその会話に参加しているように貴方には見えてしまったようですわね。たまたま近くにいただけで。ええ、たまたま近くにいただけで。悲しいですわぁ」

 

「ちょっと!苦しすぎるよ!その言い訳!2回言わなくていいし!」

 

「しかもさり気自分は何一つ非がないようにしてボクらに全部罪擦り付けてるし!」

 

アルスはロダリアを一瞥するとカヤに視線を向けた。

 

「まぁいい…、カヤ。お前は一体ここで何をしていたんた?」

 

「はぁ〜?何していたって、逃げに来たんですけど〜?何もしてないんですけど〜?」

 

カヤは分かり易いシラを切った。当然アルスには通用しない。

 

「それはないだろう。さっき本を持っていた。そしてそれを持ってあの祭壇で何かをしていた」

 

(バレてるし……)

 

カヤは舌打ちをした。

 

「チッ。はいはい、教えてあげますよーだ。この本で祭壇にある訳のわからん文字を解読……、ってあれ?

 

カヤは腰に手を当てた。が、ない。

ない、どこにもない!苦労して手に入れたあの本がない!!

 

「ないいいいいいい!?嘘だぁぁぁああ!」

 

「はぁ?」

 

頭に疑問符を浮かべ、アルスは「ないって、何が?」と聞き返した。

 

「嘘!嘘ぉ!?どこで落としたのおおお!?」

 

カヤは辺りを見回した。それらしき本はどこにも見当たらない。つまり────

 

「マグマの中…!?」

 

そうだ、きっとそれしかない。そう言えばあまりの衝撃体験過ぎて覚えていないがルーシェに手を掴まれた時に落としたのだろう。そうなると本は今頃跡形もなく溶けて消えている。

 

「うわぁあああん!最悪ぅ!何でだよー!?」

 

「何だ何だ?一体どうしたんだ」

 

「カヤちゃん?どうしたの?項垂れて、お腹痛いの?」

 

ルーシェが聞いた。アルスは分かる情報で要約して話だした。

 

「えーっと、つまり考古学に興味があるのかは知らんが、あの何かを祀ってある祭壇の文字の解読の為の本をさっきまで持っていたけど地震が起きてカヤはマグマに落ちそうになった時、ルーシェに助けてもらったんだが本はその時マグマに落としてしまったらしい」

 

説明し終わると、フィルが祭壇に走って行った。

 

「ふむ、お?これがその祭壇か。なんかミミズみたいな文字が書いてあるぞ。小生は現代の文字すら読めないがな」

 

フィルは文字を見て顔をしかめた。

 

「我々が使っているフォスフィ文字とは違うようですね……。あー、なんて書いてあるんだコレ…」

 

ノインも近づきそれを見つめる。アルスもその文字を見てみたが、読めない。読めないが、何故か何処かで見たような気がしないでもない。

 

「何だこりゃ?マッジで分かんねぇ〜!何語だよこれ」

 

ガットは頭を抱えてボリボリと掻いた。

 

「あんねー、何だっけな〜。本にはプロ何とか語とか書いてあったよ」

 

ガット問にアルスが答えた。

 

「プロ何とか?古代プロトスアル語の事か?」

 

「あー!!んー?でもなんかそんなような名前だった気がするんだけどなーんか違う気がする……!」

 

「ぷろとすある?んだ?それ?」

 

ガットはアルスに聞いた。

 

「今俺達が使っているのはフォスフィ語といって世界共通の文字と言語だ。エストケアライン以前に使っていた文字は古代プロトスアル語と言う。今のフォスフィ語より複雑で、エストケアライン以降、何故かどこから生み出されたか分からないフォスフィ語というのを人類は使うようになったそうだ。まるで元々その文字を知っていたかのようにまたたくまに普及して、今ではプロトスアル語なんて滅多に使わないが、知ってる人はしってる。かなりマイナー言語。軍上層部や政治の上の上に立つような人間しか習わないし、そもそもみんな知らないし教えられると人自体もめったに存在しないから習える機会がないんだ。そして専門書とかも全然ないから俺も途中で匙投げした」

 

「プロトスアル…、ではないような気がする……!でもなんか似てる!あー!分かんない!んもー!本があればああああ!!」

 

「………もしかしてプロメシア語ですか?」

 

ロダリアが訝しげに聞くと、

 

「なぁー!!それそれ!なんかそんなんだった気がする!」

 

「まぁ……。どこでそんな書物を手に入れたのやら…」

 

ロダリアは小声で愚痴った。カヤはペラペラと喋り出す。

 

「そうそう!プロメシア語!リザーガの連中からくすねたんだ!あー、スッキリした!」

 

「ふむ……」

 

ロダリアは少し考え込んだ。が、肩を竦めると、

 

「私にも分かりませんわ。何が書いてあるか、まるでサッパリ」

 

と言った。

 

「ボクも使ってたのはフォスフィ語だったしなぁ。ンー、分かんないや。そもそもエストケアラインっておおよそ100年前で、ホントはもっと昔かもしれないんでしょ?」

 

ラオが言った。

 

「そうですね、学者達で意見がかなり分かれています」

 

ノインが答えた。

 

アルスは祭壇の文字を見て唸った。

 

「うーん………、何処かで見たような………、でも読めないんだよなぁ…」

 

アルスの横にルーシェが入り込んだ。そしてそのままじーっと見つめると、

 

「……汝が其の源、並びに焔の末裔ならば、その証をたてよ。さすれば封印は解かれん。火山に眠りし灼熱の業火の意志、其の名は精霊イフリートなり……」

 

「…………ルーシェ、今なんて?」

 

アルスは今ルーシェが喋っている言葉に耳を疑った。彼女はこの文字を解読したのだろうか?

 

「えーっと、前半はよくわからなかったんだけど……、なんかここな祀られてるのはイフリートっていう精霊さんみたいだね。ほら、精霊って、おとぎ話とかでよくでてくる」

 

「えっ!?ちょっ?!はぁ!?どいて!」

 

「痛っ!」

 

カヤはアルスをどかしてルーシェの隣に割り込んだ。

 

「アンタこれ読めんの!?」

 

「ん?うん。あれ?何で私読めるんだろう?あれれ?」

 

「イヤイヤイヤイヤ!?すっげー!!ルーシェ!!すげー!!何で読めんの!?アタシの努力全く無駄だったけどすげー!!えっ!すげー!!?」

 

「お、落ち着いてカヤちゃん…、すげーしか言ってないよ」

 

「いやでも凄いわ、ホント。ねぇ、他には何か書いてないの?そもそも証って何?」

 

「何だろうね〜、およ?なんか他にも書いてあるね。うーんと…、人名かなぁ…?シライ・エン・ウアン?あと…、ライナン…、んー文字がちょっとかすれてるなぁ、えー……」

 

ルーシェはその祭壇の石版の文字に手を当てた。すると、

 

「きゃっ!」

 

「わっ!」

 

また地面が大きく揺れ始めた。

 

「また地震か!」

 

「おい皆!一旦離れろ!」

 

ゴゴゴゴゴ……、と音を立てて祭壇は揺れていた。だがアルスはある不自然に気がついた。

 

祭壇の部分しか揺れていないのだ。

 

「ん?おお?あやや?」

 

ルーシェが祭壇から降りるとそれはまっぷたつに割れ始めた。

 

「あれれれ?ええええ!?」

 

「割れたぞ!?」

 

「ナニコレー!すげー!!」

 

鈍い音を立てて開いていく。そして完全に動きが止まるとまっぷたつに割れたその中心に光が集まっている。

 

「な、何だ……、これ……!?」

 

アルス達はその光景を呆然と見ている事しか出来なかった。だがこの出来事から、歴史が大きく動き出す事を彼らはまだ知るよしもなかった。


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