テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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炎の精霊 イフリート

猛々しく、紅蓮の炎を具現化して生命体を象った何かが襲ってくる。

 

「フラムルージュ!」

 

「っ!よけろ!」

 

アルスは素早く反応して叫んだ奴は右手を振りかざし、下ろしただけでアルスが飛び退いた場所に火柱をたててしまった。

 

「なっ…!無詠唱で光術……!?ありえない…!」

 

アルスは驚愕した。自身の経験上そんな人は見た事がないからだ。もっとも、目の前にいる奴が人だとはあまりにもいい難いが。

 

「おわっちちちち!アッツ!!」

 

「気をつけろガット!炎の使い手だ!」

 

「んなもん今の見りゃ分かるっての!しかし、弱ったな、これじゃまともに近づけねぇ…!」

 

「ファイアボール!ウォオオオオオ!」

 

奴がまた咆哮をするとビリビリと空気が威圧された。そして奴の周りに火の玉が浮かび上がると、それは追尾するように追いかけてくる。

 

「アクアストライク!」

 

ノインは手をキューの先端にかざした。水のエヴィの塊を取り付けて、火の玉を素早く叩き落とした。

 

「ハエたたきみたいです」

 

「ノイン!小生もやりたいそれ!」

 

「くっ!何よこれっ…!」

 

「うわわ!なんか追いかけてくるヨ!」

 

ラオはホーミング性能付きのその火の玉をバク転でかわした。

 

「ふふふ、さしずめ私達を死へ誘う火の玉、案内役と言ったところでしょうか?」

 

「んななっ!!何言ってるんですかロダリアさん!!」

 

「ルーシェさんは相変わらず反応がよろしいですわねぇ」

 

「蒼龍水弾!」

 

アルスもノインと同じように水属性の龍の形のエヴィ弾を発射して相殺する。その後、すかさずルーシェを守るために素早く庇うようにして前に立った。

 

「こんなもん気合だオラァ!円月刀!」

 

ガットは水平に太刀を構え、力いっぱいそのまま一回転させ周りの火の玉をまっぷたつに切り裂いた。太刀には水属性のエヴィが付与されているためだ。

 

「まさに力業!何と言う脳筋……!ゴリ押しを絵に書いたようなお手本だネ!」

 

「っせぇぞ!ソンビ!てめぇは火葬されろ!」

 

「ジョーダン!墓にまた埋められたくはないネ」

 

皆それぞれ対応すると、奴はまた咆哮をあげる。

 

「グぁぁあああアアアアアッ!」

 

両手を上に掲げ先程よりもダントツに大きい火の玉、というよりももはや炎の渦だ。

 

「あれはかなりまずいのでは?」

 

「ロ、ロロロダリアさん!!あれを撃ってください!あんなの撃たれたら終わりですよぉ!」

 

「私ので何とかなるとは到底思えないのですが、如何しましょうか…」

 

アルスはカイラの言葉をハッと思い出した。ノインは優秀な光術師。今までの戦いっぷりを見てきてもそれは舌を巻くほどだ。彼の実力は本物である。

 

「ノイン!何とかしろ!」

 

「えぇええ!?それは無茶ぶりってモノですよアルス君!!」

 

「でないと皆死ぬぞ!!」

 

「そんな事言われたって!」

 

「お前なら出来る!お前がアレを何とかしないとフィルも死ぬんだぞ!」

 

「ハッ!そうだ!!えぇーいやるっきゃない……!」

 

フィルの事を出すとすぐにノインは目の色が変わった。

 

「ノイン!頑張れ!小生がついてるぞ!」

 

「よ、よーし!」

 

フィルに応援され、俄然やる気が出たノインはキューを構えると素早く詠唱を唱えた。

 

「青き星の覇者よ、旋渦となりて災いを呑み込め! 」

 

ノインの周りに青色、即ち水の光術方陣が浮かび上がった。

 

「メイルシュトローム!!!」

 

ノインはキューを対象の赤い生物に向けた。焦点が合い、赤い生物の下に激しい水流が巻き起こり、上昇し飲み込んだ。

 

「グアアアアアアァァァ………!」

 

奴はもろにそれを食らうと猛々しい咆哮とは違う、苦しみの叫びをあげた。

 

「うおぉ…!すげぇ…」

 

一番前衛だったガットはその水飛沫を顔に少し浴びた。炎には水。弱手を確実に突いたノインの的確な術で奴は倒れた。

 

「よかった……、なんとか僕の力で対抗できたようです……」

 

「よくやったぞ流石小生のノイン!」

 

「へへん、フィル〜、もっと褒めてもいいんですよ〜?」

 

 

 

「少しは頭が冷えたか…?」

 

アルスはルーシェから離れると、恐る恐る赤い生物に近付く。アルスはこの姿をした生物を見た事がある、現実では初めてだが、夢の中、朧げだが記憶にあるのだ。

 

「待てよ…?お前は、お前はまさか、イフリート……なのか……!?」

 

アルスは話しかけた。列車の中で見た夢に出てきた、恐らく炎を司る精霊…。非現実的なお伽話のそれが今目の前に確かにある。

 

「グゥッ、俺本来の力を出すことができれば……、貴様ら人間など……!」

 

「人間って、事は、やはりお前は精霊イフリートで間違いないようだな………」

 

イフリートはよろよろと体を起こし、空中に浮かんだ。そして傷ついた体を癒し始めた。するとイフリートの体の周りに赤い光が浮かび、傷を補正していく。やがてその赤い光はスゥーと空気に溶け込んだ。近くにいたアルスはその様子の異様さを敏感に感じ取った。

 

(イフリートが傷を癒すために赤い光を発した、その直後気温が上昇している……)

 

アルスは先程のノインの放った術のメイルシュトロームの水溜まりを見た。少し蒸発している、ということは、

 

「火のエヴィを生み出しているのか…?」

 

アルスが問いかけた。

 

「如何にも、俺は精霊のイフリートだからな。最も、人間共に長らく封印され、力の半分は奪われていて、本来の力はあまりない……」

 

「封印……」

 

アルスは夢の中での出来事を思い出した。まるで自分が他人の体に入ったように視界がジャックされ、体が勝手に動き、事が進む。その中で、自分はある老人に、精霊イフリートの封印を咎めていた。

 

イフリートは真っ直ぐにアルスの目を見据えた。彼は何かを感じ取ったようだった。目付きが少し険しくなった。

 

「お前は……、お前はセルシウスの封印者の子孫か?」

 

「セルシウス?」

 

アルスは驚きながらも返した。その名前は聞いたことはある。お伽話、だが。

 

「はっ、俺の姿を見るのも初めてなような人間に、あの冷徹女の存在を知るはずもないか」

 

「待て、セルシウスという名前なら聞いたことはある。スヴィエートのグラキエス山に住む精霊だとお伽話では言われている。実際に見たことは無いがな」

 

「場所までは俺も知らない。ただ、貴様からはあの冷たいエヴィが感じ取れるのだ。封印者の子孫の人間にしてはかなり強い方だ。奴の精神を強く感じる」

 

「………?全く心当たりないんだが、俺の先祖が何かしたのか?」

 

「………フン、あの女も俺と同じ目にあったようだが、いかんせんそれにしては……」

 

「………おい、何だ?どうゆうことなんだ?」

 

「………………知らんな」

 

ピリピリとした空気が漂う、が。

 

「オイオイ、何訳のわからない事言っちゃってんの大将!俺らが置いてけぼりくらっちゃってるんですけど?」

 

痺れを切らしたガットが割り込む。確かに今の話はアルスにしか分からない事だらけだ。

 

「………これは精霊イフリートと言って、炎のエヴィを生み出し、自在に操る。火のエヴィはこのイフリートによってこの世に生み出されているんだ。恐らく……な」

 

アルスは今最低限自分が分析した結果を述べた。間違ってはいない筈だ。

 

「ハァ〜?話が飛躍しすぎて分かんねーよ?そもそも精霊なんてモンはお伽話に過ぎなかったんじゃねーのか?」

 

「お前は今目の前にいる生命体が人間に思えるのか?」

 

「…………」

 

ガットはイフリートを見つめた。赤い生命体は周りに火のエヴィをまとっているのだろう。少し近くにいるだけでも暑い。そしてさっきの戦闘からして、人間でもなく、魔物でもない。知性があり、喋り、意思を交わすことができる。

 

「わーったよ………。チッ、色々な事が起こりすぎてなんだか頭がパンクしそうだぜ…」

 

「脳筋だもんネ」

 

「うおっ!お前いつの間に俺の隣に!」

 

「まぁ僕みたいにゾンビもどきもいる訳だし、精霊がいてもあまり驚かないかな僕は。僕自身が異質すぎるせいかな?アッハハ」

 

「るせー!死に損ないが!さり気お前さっき俺の事また脳筋ってディスっただろ!」

 

「ガ、ガット!やめようよ!もぅ、2人はいつも喧嘩ばかりなんだから…」

 

ルーシェが2人の仲裁に入った。イフリートはルーシェの姿を確認すると大きな声を出した。

 

「ッ!お前は!?」

 

「ふぇ?」

 

イフリートがルーシェの目の前に素早く移動するやいなや、彼女の両肩を掴んだ。

 

「えっ?えっ?何?何でしょうか……?」

 

イフリートは彼女の目を真っ直ぐに見据え、肩を掴んだ。そして自分のその手を見ると確信に満ちた声で言った。

 

「………やはり、貴方は、あのお方の……」

 

「オイ、精霊イフリートさんよ、ルーシェが可愛いのは分かるがあんまやんちゃするとウチの大将が黙ってねー………ってアチチチチチ!」

 

ガットがイフリートに静止をかけるように彼の手に触るが、触った瞬間、ガットは飛び退いた。

 

「アッツ!アッツ!ひぃーあちちち!」

 

慌てて右手の手のひらを自分で治癒する。火傷のような跡は消えたが、

 

「何でルーシェは平気なんだ?オイ、差別か?コラ?」

 

イフリートは掴んだ手を離した。

 

「………貴様には関係のないことだ」

 

「あ?喧嘩売ってんのか?また水浸しになりたいのか?」

 

「水浸しにしたのはお前じゃない、ノインだ」

 

アルスがすかさずツッコミを入れた。

 

「大将〜!いいんだよ!」

 

「しかし、俺も気になるのは確かだ。ルーシェに何かあるのか?イフリート」

 

「黙秘する。そもそも俺は人間が好きではない。貴様らの問に何でも答えると思ったら大間違いだ」

 

「………残念ですわね、いかんせん私も精霊を見るのは初めてですが、ね」

 

「小生も12年生きててこのような奴を見るのは初めてだ。師匠も初めてとなるとかなり珍しいという事、だな。そうだろう?ノイン?」

 

「……………」

 

フィルはノインに問いかける。しかし上の空のようで、返事はない。

 

「ノイン?」

 

「えっ!あっ、な、何?フィル?」

 

「だから、精霊という存在は、見るのも初めてだし、かなり珍しいっ、ていう話だ」

 

「えっ、あ、ああ、そう………だね……」

 

「?何か変だぞノイン?大丈夫か?」

 

「へ、変?僕が?」

 

「彼が変なのはいつもの事でしょう?」

 

ロダリアが辛辣に言った。

 

「師匠……、確かにそうだが……」

 

「ははは………」

 

ノインはから笑いした。

 

カヤはルーシェの近くに寄り、彼女の肩を見た。何も外傷はない。その理由がイフリートにあるのか、はたまたルーシェにあるのか。今は何も分からなかった。しかし、1番に聞かなければいけない事がある。自分がここまて来た目的。カヤにとっての最大の優先順位だ。

 

「……で?精霊イフリートさんだっけ?私も今色々なことが起こって頭があまり整理できてないんだけど、この質問にだけは答えてもらうよ。私はその為にやって来たんだから」

 

「む………?」

 

カヤは静かに怒りを込めた口調で言った。

 

「ガラサリ火山周辺のここ20年の異常気象はアンタが原因なの?」

 

「………成程、それを知りに来たのか?貴様達は」

 

「……まぁ、話が少しズレたが当初の目的はそれを知る事だな」

 

アルスが答えた。

 

「俺が原因?ハッ、笑わせるな。原因は他でもない貴様ら人間仕業だろう?マクスウェル爺さんの霊勢が消えて20年…。着実にお前らは破滅の道を突き進んでいる」

 

「マクスウェル?何?何言ってるかサッパリ分かんないよ!」

 

「イフリートさん、詳しく教えてくれませんか?私達、知りたいんです。知らなきゃいけないんです!」

 

イフリートはルーシェの目を見た。

 

「…………、そうだな、お前は知っておかなければなるまい……。よかろう、この世界の理を。貴様ら人間の過ちを……」

 

そうしてイフリートはぽつりぽつりと語り出した─────。


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