テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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自分のルーツ

アルスとレガルト、おまけのノアはロピアス城の会議室の一室にいた。

 

「で、話す内容がアレって事は、どうやら気候調査は上手くいったと認識していいのかな?」

 

レガルトが最初に聞いた。ノアは彼女の後にいる。アルスとレガルトは向き合う形で椅子に座り、会談していた。

 

「ああ、上手くいったとは一概に言えないが、そうだな。まずどこから話すべきか……」

 

アルスは要約して説明し始めた。カヤの事もアルス達にとって大きな収穫だったが、今彼女に伝えるべき事は精霊の存在、イフリートが教えてくれたエストケアラインの真実、その影響で大陸が別れた事による精霊がいる大陸の配置配分。

 

精霊の力、ロピアスの霊勢はマクスウェルによって緩和されていた事。しかし、それが20年前のマクスウェルの霊勢減少を堺に徐々に崩れていき、今現在最も進行して、世に露になっている事。ここまでは全てを包み隠さずイフリートが言った事と同様に話した。

 

「スケールの大きい話になってきたんだねぇ…、凄いよ。信じられないって言いたいけど、そんな壮大な嘘君がわざわざつくとは到底考えにくいし、どうせ君達の仲間も見たんだろうしね」

 

レガルトはアルスの話を聞くと両手を頭につけて後ろに反り返った。

 

「ねぇノア、君はどう思う?僕達、これからどうすればいいのかなぁ?」

 

「私は……私は、分からない……。でも、変わらない。これからもずっと貴女と共にあり続ける。国に天災が起ころうが、貴女が死なない限り私は生きて、一生使える」

 

「エッ………ノア……!それってプロポーズ……♡」

 

「そうとも言う」

 

「ノア…………!」

 

2人はいつの間にか変な雰囲気になり始める。話の趣旨が2人にとっての壮大な話になっている。

 

「おい、論点ズレてるぞ」

 

自分そっちのけで話を進められたらたまらない。アルスはそこでストップを入れた。

 

「もぉ〜、アルスってば空気読めないの?」

 

「生憎お前らの異様な空気についていける自信はない。これからどうするかはノアに聞くんじゃない、俺と話し合う事で決定する事だ」

 

「ちぇ〜、ま、そうだよね。ところで、さっきの話。つまりさ、三大精霊のマクスウェルが戻れば、ロピアスは安泰なんでしょ?どうしてマクスウェルの霊勢がロピアスから消えたの?どうしてそうなっちゃったの?マクスウェルはどこに行ったの?」

 

レガルトは不真面目なようで、前半の話はしっかりと聞いていたようで、アルスに問うが、それはアルスにとって痛い質問だった。そう、何故なら────。

 

「それは……」

 

アルスは口ごもった。イフリートに聞いた話。スヴィエートが原因としか思えない第2次世界大戦時代背景の出来事。

 

「それは?」

 

「それは……。マクスウェルの霊勢は、今はスヴィエートにある、とイフリートは言っていた…」

 

「ふーん、スヴィエート…。20年前を堺に、ね…」

 

レガルトは大体の予想がついた。何故アルスが口ごもっているかも。

 

「お前が以前会議で言っていたように…、20年前の第2次世界大戦で当時のスヴィエートが何かをやったとしか思えないんだ…!こんな事、信じたくもないし、そんなことができるのかも定かではないけど。当時の皇帝は俺の父親…。スヴィエートの政策の全てを牛耳ってた人だ。その、フレーリット8世しか考えられないっ…!」

 

「アルス……」

 

「どうやってやったのかは、分からない。父が精霊の存在を知ってて、この世界の理も熟知していたから、そんな事が出来た。だとしたら父はどこでそんな事を知ったんだ?何の目的で、そんな事を?本当に気候の為だけなのか!?もし仮に、父がマクスウェルを掌握していたとしたら何故第2次世界大戦末期に、戦争に反対したんだ?その時までロピアスを支配する気満々だったと聞かされていた。ましてやマクスウェルの力さえあれば、世界だって征服できたはず……!だが!父は最終的に平和を望んだ!しかし結果的に今こうして20年後は混乱し始めてる…!疑い出したら止まらないんだ!もう、何がどうなって……!?」

 

アルスは一気にまくし立て、声を荒げて言った。ここ数日はこの問題の事で頭が一杯だった。分からないことだらけでイライラしている。

 

「アルス、落ち着いて。今は、これからどうするか、を話すんだろう?」

 

レガルトは冷静にアルスを諭した。彼は動揺して、整理しきれていないのだ。それに対して自分が言える助言は、たった一つ。

 

「アルス…、君が自分の父親を疑いたくないのは大いに分かる。誰だって自分の家族が何か悪い事をしていたらそれを信じたくはないと思う。だから、君は知らなくちゃいけない」

 

「知る…?何をだ?」

 

「自分の父親…、いや、家族についてかな?君、家族の事を知ってるようで、実は何も知らないんじゃないの?」

 

「……!?」

 

アルスは全身に電撃が走ったように動けなくなった。レガルトの言っていることは彼の核心を貫いた。

 

「スミラって、言ったかな。フレーリット8世の奥さん。イコール、君の母親。知ってるよ、あの暗殺事件。有名だからね。君は案外悲惨な目に遭ってるらしいね。

 

君に会う前に調べてみたんだけど、そのスミラって人がアルスを産んでしばらくしてからの事件…。彼女はフレーリット8世を殺害した後、バルコニーから飛び下り自殺…。ま、何故か一緒に死んでないところから心中ではないんだろうけど、変な事件だよねぇ。子供の君が生まれて、幸せ絶頂って時なのに、こんな事件を引き起こしてしまうなんて」

 

「………っ!母親の事は!スミラの事は口にするなっ!!!」

 

アルスは机に両手を叩きつけ立ち上がった。ノアはそれに素早く反応しレガルトを庇うが、彼女はそれをやんわりと手で制した。

 

「君は知るべきだ。自分の国の事を知るには、先代、つまり父親について調べるしかない。父親を調べれば、必然的に母親の事も出てくるだろう。それは即ち、家族を調べることだ。自らのルーツを知らないから、今君は混乱し、状況の整理がつかない。一度スヴィエートに戻って、家族の事を調べてみるといいよ。それを知る事で、もしかしたらマクスウェルの事も少し分かるんじゃないのかな?」

 

「………………!」

 

アルスはレガルトに言われ、気づいた。

 

思えば自分は、家族の事など一部しか知らない。旅に出る前なんて、父はただひたすらに立派で極めて天才な人だったと尊敬するばかりだった。旅から一度帰ってきて、雑談の時に聞いた話だと、妻のスミラにめっぽう弱く頭が上がらない人だったと。そして、スヴィエートの利益になる為ならどんな非道な事でもする、と。その癖最終的に戦争を終わらせる方針に移行し、平和を望んだ。一体、どうしてそのような思考になったのだろうか?

 

そして、母親の事はそう、避けていた。その話題も、母という存在も、スミラと言う名前を聞くだけでも、胸が焼かれるように痛む。彼女のせいで自分は裏切り者という汚名を背負いざる負えないのだ。父の功名で隠れてはいるが、紛れもない事実だ。

 

スヴィエートは裏切り者に対して世間の目は非常に厳しい。スヴィエートにとって、裏切りは最も恥ずべき行為として教育される。裏切り行為は死刑にも等しい、大罪なのだ。

 

裏切り者のアルスの母親。スミラ。

 

スミラ・フローレンス・スヴィエート。

 

───だが彼女はどこで父と会った…?

 

母と父の馴れ初めは?母の出身地は?父と会う前は何をしていた?何故父は母に惹かれた?

 

何故……結婚した………?

 

母親似のつり目、口元。アルスは特に自分のこのつり目が嫌いだった。スミラに生き写しのようにそっくりなのだ。

 

そして父親似の鼻、瞳の色は父親譲り。何度思ったか。何故瞳の色が父親譲りの銀なのに目の形は母親似なのか、と。

 

髪は祖父からの隔世遺伝のコバルトブルー。これがアルスだ。

 

一度見た事ある母の写真。目と口元がそっくりだった。その時は嫌悪しか感じなかった。自ら避けていた母親。美化しすぎていた父親像。あまりにも知らないことが多過ぎると痛感する、家族という存在。

 

「レガルト………、ありがとう。すまない、取り乱して。お前のおかげで、俺がこれからどうするべきからはっきりと答えが出た」

 

「そう、よかった。家族って、大事だよ。自分のルーツなんだから。ま、僕は君に依頼した身だからね。まだ気候調査団の親善大使を除名したワケじゃないし、しっかりとこれからもやっていってもらうよ?サポートは出来る限りのことはする所存だしね?」

 

「感謝する………。さて、会談は終わりだ。俺は、もう一度スヴィエートに行く」

 

「オッケ~、船は任せて〜?」

 

会議室に飾ってある絵の向こう側、不敵に笑みを浮かべる黒髪の長髪の女が、その場から去っていった。

 

 

 

翌日、アルス達はスヴィエートの銀景色を見ながら、首都へと向かうのだった。


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