テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
早速その花屋フローレンスへ行く事にし、アルスは部屋を後にしたのだが────。
「あ!ちょ、ちょっとお待ち下さい陛下!」
突然ハウエルが引き止めた。
「何だ?まだ何かあるのか?」
「えぇ、1つアドバイスを、思いまして。フレーリット様は私達側近にも見せない姿も絶対にあった筈です。あの御方が見せる仮面のような顔…。もう随分昔の事で少し曖昧なんですが、まだスミラ様と会ってない時、そう、彼の学生時代です。スミラ様とお会いしてから、フレーリット様は劇的に変わられましたが…、あの方の若い頃、特に10代は荒んだものでした。酒、煙草も未成年からやっていたのです。ですから、スミラ様の事を調べても分からない事があるとすれば、それは彼の10代…、つまり学生時代に通っていた軍の士官学校、ロストレーへ行ってみるのもいいかと私は提案します…。それに城から近いのはロストレーの方ですから…」
「ロストレーか、懐かしいな…。俺も通ったな」
アルスは思い出した。自分も昔、そこで学生をやっていた時代があったのだ。
「恐らくそこに行って、年配の先生がいたら、絶対に知っているでしょう。スミラ様と会う前のフレーリット様の事を。彼がスミラ様には決して見せない、そして聞かせなかった、昔話────」
ガットは要約して先程の事を整理した。
「早い話、ロスなんたらに行けば、妻にゾッコンじゃないアルスの親父の事、フローレンス行けば妻にゾッコンな親父の事が知れるって訳だろ?」
今、アルス達は城から比較的近いロストレー士官学校の校門前にいた。
「スッゲー!ナニコレ!これが士官学校!?うひょあ〜、私の村丸々入るっしょこれ〜!」
カヤはその壮大な建物を仰ぎ見て言った。ここ首都オーフェングライスの軍人を訓練する施設であり、寮もある。なおかつ訓練場もあるため、とてつもなく広いのだ。
「俺は昔3年通った。14歳で入って17歳で卒業した。ここに父も通っていたのは知っていたが、比較されるのが嫌であまり知りたくなかったんだ、父の学生時代なんて。散々比べられてきたからな」
アルスは昔を思い出した。事あるごとに父の名前を出されていた思い出があるのだ。
「まぁそんな事はどうでもいい。校長室に行ってみよう」
早速校長室に行き、事情を話すと現在の校長、バートンが話してくれた。
「えぇ、知っていますとも。フレーリット様が学生だった頃、私は彼の担当教官でしたから」
どうやら彼は昔の父の教官らしい。なら話が早い。アルスはまずハウエルに聞いた時と同じように聞いた。
「父は、どんな生徒でしたか?」
バートンは思い出すように顎にてを当てて言った。
「一言で言えば、極めて優秀な生徒、でしたね。秀才とはああ言うのでしょう。聡明で、飲み込みが早く、とても教えがいがありました。学年成績は常に首席でした。そして、この頃にあの圧倒的に人を惹き付ける才能を開花させたんでしょうね。リーダーシップがあり、彼の言う事を聞かない人はいないに等しい程、生徒、教師共に絶大な信頼がおかれていました。皇帝時代のあのカリスマ性も頷けますね」
「アルスのお父さんって頭良いのか。小生の何倍だ?」
「一億倍ではなくて?」
「師匠!それは見積もりすぎだ!」
「おい、茶々をいれるんじゃない」
フィルとロダリア、アルスの会話にバートンは苦笑すると、話を続ける。
「肉体的にも支障はなく、健康そのもの。勉学、体術、光術、射撃、判断力、全てにおいて完璧でした。剣術に関しては、従兄弟のヴォルフディア様と競われてましたが、最終的に追い抜かして、剣術さえもトップ成績に。当時からも、100年に1度の逸材との噂でした」
バートンは話しながら立ち上がると本棚から一冊のアルバムを取り出し、彼らに見せた。
「首席で卒業…フレーリット・サイラス・レックス・スヴィエート…。あぁ、あった、これだ…」
バートンがあるページで指を止め、机に置いて見せた。そのページは彼の成績、獲得した賞、資格、顔写真など個人データだった。
「うっわ超イケメン!!!」
「ひゃ〜美男子だ〜♪」
カヤとルーシェはその写真を見て率直に言った。
「おぉ〜……、まぁこれは確かにイケメンの類に入るな…」
「まぁ〜カッコイイ。それに若いですわねぇ…」
端正な顔立ちで、女性陣は黄色い声をあげた。サラサラの紫紺色の髪に銀の瞳。髪の長さはアルスと同じ位で、若い頃の写真なので余計にアルスに似ていた。
「おおっアルスに似てる!」
「なんか…どっかで見た顔な気が…ンン〜?」
ガットとラオが言った。
「当たり前だろ、俺の父親なんだから…」
アルスは呆れながら言った。しかしアルスは、父の若い頃の写真を見て少し違和感を感じた。
(何だか、寂しそうな目をしてるな…。くすんでいるというか、生気がないというか…)
顔写真だからかなのか分からないが何故かそう感じたのだ。
「ハハハ、皆そう思いますよね。私もさっきアルエンス様を見た時は面影を感じましたよ。いやぁ、似ていますねぇ」
バートンはアルバムから手を離すと、紅茶を飲んだ。
「人を惹きつける才能に、好成績、そしてその顔ですから、それはそれはもう女性にモテてましたねぇ。当の本人は全く恋愛の事など関心ないようでしたが。看護学生の女性達が彼を見る度、ヒソヒソと噂をしていました。彼はそれを忌々しい目で見ていましたがね」
「勿体無いですわね。ですが、そのおかけで、今のアルスがいるのですけれど」
「アルス君のお父様チート過ぎません?人生勝ち組ですよ、イケメンで、頭も良くてモテモテとか。身長も187cmとか書いてあるし……何という………!」
「って事は俺と同じぐらいか」
ノインは靴をコツコツと床に鳴らし、苛立ちを募らせた。この中ではガットが1番身長が高いのだが、ノインの身長は男性陣では1番低い。
「ですが……素行はあまり良いものではありませんでしたね…」
「……バートンさん、続けて下さい」
アルスは注意深く耳を傾けた。
「彼はまだ未成年なのに、煙草を吸ったり、お酒を飲んだりと…。消灯時間を過ぎ、出歩き禁止の夜中抜け出してバーに入り浸っていたり等。これらはほんの一部ですが、ヤンチャしていましたねぇ」
「うははっ、グレてたって事か〜」
ガットはケラケラと笑った。
「どうも私は彼の張り付けたような表情が胡散臭く感じましてね。後々調べて見たら色々と出てきたんですよ。しかしそれらは全て証拠のないグレーなもの…。頭が良いのですから当たり前ですね。実に狡猾でした」
バートンは溜息を吐いた。素行の悪い生徒程印象に残るのだろう。彼の場合頭が良く、時期皇帝候補となれば当然嫌でも目に付く。アルスはさらに掘り下げて聞いた。
「バートンさん、もっと父の裏の部分を知りませんか?例えば、そう。父には不思議な力があったとか…?」
「不思議な力…?いえ、そのような事は……」
バートンは考え込んだ。しかしふと、何かを思いついたようだ。
「そう言えば……」
「何かあるんですか?」
「3年生の時の、そう、フレーリット様が17歳の時…。奇妙な事故があったんですよ」
「奇妙な事故?」
「えぇ、学年全員が参加するサバイバル訓練。25名ずつ小隊に別れて行動するのですが。凶暴な魔物に次々と小隊が襲われて、死者も出たのです。そして行方不明者も、多数…」
「………それと父と何か関係が?」
「…………フレーリット様がリーダーだった小隊は、1番被害が甚大でした。魔物の群れと鉢合わせしたのです。吹雪も吹き荒れ、その小隊はバラバラになってしまいフレーリット様も仲間と完全にはぐれ、孤立したそうです。ですが、彼は血塗れで大変生々しい姿で帰還しましたが、体の方は無傷そのものでした」
「………!?」
「後に調査が行われ、発見されたのは、魔物によって無残な姿になった生徒達、魔物の氷漬けの死体、氷漬けのまま粉々に砕かれ砕けちった識別不可の肉片多数、これらが発見されたのです」
「氷漬け…!?どうゆう…事ですか…?そ、それは父がやったという事ですか?」
アルスは震えた声で言った。
「それは分かりません…。それをフレーリット様がやったとは限りません、あの時は吹雪いていましたしね。念のため問い詰めてもはぐらかされるだけ。あまりしつこく聞いても、私の身が危ないですからね。あの闇皇帝ツァーゼルを叔父に持つ少年ですし…。彼は、私のように教官すらも畏怖するような、そんな危険な面の雰囲気を持ってもいた、生徒でしたよ──────」
叩けば埃のように出てくる父の裏の姿。バートンの話を聞いて、アルスは考えた。もし、父がその時代から既に何らかの力を手に入れていたとしたら…?
否、精霊の力を知っていたとしたら?
父の性格上、利用しない手はない。20年前の第二次世界大戦。その事を知るには、20年前の父……、スミラと一緒にいた頃だ。アルス達は、平民街のはずれへと歩いて行った。
「見るからに廃墟………ダネ」
平民街のはずれにある一軒家。放置されていて、外見はボロボロ。ツタが所々に巻き付いていて、一言で言えば不気味だ。
「花屋…フローレンス……かすれてるけど、なんとか読めるね。ここがそうみたい」
ルーシェは店の看板を見て読み上げた。
「ここに……俺の知りたいことがあるといいのだが……」
アルスは入口の戸を開けた。ギィイ、と嫌な音が室内に響いた。中は死後に清掃されていて、物は少なかった。しかし、長らく人の出入りはなかったのだろう。歩く度ギシギシと音を立て、埃が舞う。そして、土、だろうか。土もある。
(流石、花屋なだけはある)
アルスは床を一瞥して思った。顔を上げると、奥に階段があるのが見えた。
「1階はどうやら店だったようだな。2階に行ってみよう」
アルスは奥の階段を登った。登っている最中、横の壁に写真が飾ってあった。
(……セルドレアの花畑?)
一面青に埋め尽くされたその写真。言うまでもない。スヴィエートの国花だ。
(へぇ、花畑なんてあるんだ…)
アルスは特に気にもせずに階段を登りきり仲間もそれに続く。2階はリビングに繋がっていた。テーブルや家具はそのままのようだ。植物と違って、腐らないからそのままにされたのだろう。
「おじゃましま〜す…?」
ルーシェはアルスのすぐ後ろについて来て、恐る恐る部屋に上がった。だが、これと言って特別なものはない。
「……古くて、埃っぽいけど普通の家って感じ?」
「そうだな、皆、色んな所を探してみてくれ。何かあったら知らせるように」
────しばらくしてルーシェが歓喜の声をあげた。
「わぁあ見てみてアルス!凄いよ!フレートアルバムだって〜!」
カヤ、ルーシェチームがアルスにアルバムを差し出した。
「フレート?」
「多分あだ名だね。スミラさんがそう呼んでたんだと思う」
アルスはアルバムを開いた。そこには父の写真が貼られていた。写真の下に1つ1つにスミラの直筆でコメントが書いてある。アルスはそのアルバムを読んだ。
ベットの上で父の眠っている姿が写っている。コメントには、
”フレートの寝顔。すごく可愛い♡黙っていればイケメンの、それにかなりのイケメンに類には入るわね。黙っていれば。喋るとダメ。クソ虫。愚図。変態。ストーカー。デリカシーナシ男”
(酷い言われようだな…………)
アルスは心の中でツッコミを入れた。
今度は父がこの部屋のテーブルでだろうか。完璧なテーブルマナーで上品に食べている写真…、とその隣にはとても美味しそうにチョコクッキーを頬張る写真。どれもこの部屋の角度からしてキッチンから撮ったものと予測した。しかも目線があってないということは隠撮りだ。
(これ程皇帝のプライベートな写真は実はかなりレアなんじゃないか?)
アルスは思った。
”フレートの食事。腐ってもコイツは皇帝。超お上品なテーブルマナーで食べてたけど、私の家ではぶっちゃけいらない。けどクッキー食べる姿は素で可愛い”
(スミラも律儀だないちいちコメントとは……)
そしてまた次は父の寝顔だ。ソファに横になり本を右手に持ち胸においたままうたた寝している。左手はだらんとソファから落ちて床についている。
”フレートの寝顔パート2。私の家に泊まりに来たはいいものの私が仕事中暇過ぎてうたた寝してたみたい。この後の写真が次”
お次は父が黄緑色のエプロンを着ている後ろ姿の写真だった。多分これも隠し撮りだろう。白のワイシャツに黒のズボン。腰の位置でエプロンの紐が巻かれている。ラフな格好だがよく似合っている。右手には花束を持っていて静かに微笑んでいた。
”フレートの花屋手伝いエプロン姿。暇過ぎるから何か手伝わせてって言われたから用意したこのエプロン。なんかめっちゃ様になってるのがイラつく。何この妙な色気?フレートの癖に生意気だったからエプロンの後ろ紐解く悪戯を何回もしてやった。ざまぁみろ!”
読んでいて恥ずかしくなったので中止し、アルバムを閉じた。盛大にアルバムに惚気られている。しかも幸せそうな父の姿ばかりだ。この写真らはさっき見た学生時代の父とは明らか感じが変わっている。明るいというか、元気というか。多分表現するならアレだ。俺がルーシェと一緒にいる時のような。つまり彼女の事が好きで好きでたまらなくてデレデレの状態…。さっきとギャップが違いすぎて逆にすごい。
「何だかんだ言ってー、スミラさんもフレーリットさんの事好きだったんじゃないかな?」
ルーシェはニッコリと笑顔で言った。
「お茶目な人ね。スミラって人。読んでて飽きないわ〜これ〜アハハッ、フレートの寝顔パート3だ!」
カヤはにんまりと笑い、アルスを見る。
「俺は日記を探してるんだよ……」
アルスは照れ臭くなりアルバムをカヤに返した。
「えぇ〜これもある意味日記っしょ〜」
鼻歌交じりに機嫌良さそうにルーシェとキャッキャ騒ぐカヤ。
「女子だな…………」
アルスはそう呟くと探索を再開するが、
「喜べアルス!日記っぽいものを見っけたぞ!」
「本当か!」
フィルが差し出してきた本を期待して開く。パラパラと適当にめくってみては見るが、これは明らかに違う。
「家計簿だこれ………」
「カケーボ?」
「日記とはまた違うものだ、元に戻して来い」
「えぇー!せっかく持ってきたのにー!」
フィルはブツブツ言いながら戻って行く。
(ん?そもそもアイツは文字が読めたんだったか?)
「花屋だそうですから、植物図鑑が多いようですわ。ちらほら光術の本も見かけますが…、まぁ!料理の本ではありませんか!スミラさん、料理が好きだったのですわね!私と同じですわ!」
「アンタの殺人料理と一緒にされたくないと思うぞスミラさんは」
「失礼ですわねガット。人を殺す料理など私見たことも食べた事もありませんわ」
「俺アンタに一度殺されれかけたんだけど、料理で………」
ロダリアとガットが料理の本で盛り上がっている。
「アレ?ここの引き出しだけ開かないんだけど?」
「え?どれですかラオさん」
ラオ、ノインチームは机の側にいた。ラオが机の1番下の引き出しをガタガタと引っ張って言った。
「ここここ。鍵穴はついてないんだよネ。何か突っかかってるとか?」
「んー?でも手応え的にそうは感じませんが…、ふんっ!」
ノインとラオは机を漁っていた。ノインはその引き出しを思いっきり引っ張るがびくともしない。
「どうしたんだ2人とも」
アルスは気になって2人の元に行く。
「あっ、アルス〜。ここの引き出しだけ開かないんだヨー。他にめぼしいものはなくてもう机だとここだけなんだけどネー?」
「無理矢理開けようとしても少しも開きませんでした」
「引き出し?ふーん…どれ…」
アルスは引き出しに手を掛け引っ張った。ガタン、と一旦は引っかかったがアルスは何か違和感を感じとった。
(………ん?)
何か、手先から自分のエヴィが吸収されたような感触がした。次の瞬間、ガラッと音を立て引き出しが開いた。
「おっ?」
「あっ!?」
「嘘!ナンデ!?」
「普通に開いたじゃないか」
ノインとラオはびっくりして声を上げる。アルスは不思議に思い、平然とした。力を入れるわけでもなく普通に開いたのだ。
「チョ、チョット待って!オイ!脳筋ガット!」
「あぁ?」
「チョット来て!」
「あっ!おい、何だよっ!」
ラオは素早く引き出しを閉めてガットの腕を引っ張った。
「ねぇ、この引き出し開けられる?」
「はぁ?馬鹿にしてんのか?開けられるだろ普通に………って、…………アラ?」
ガットは、開けようとしたが、開かないようだ。ラオは仲間全員呼びだし、試させたが開けられる人はアルス以外居なかった。
「何か特殊な光術がかかっているのかもしれません。例えば、スミラさんだけが開けられる一種の鍵のような特殊なエヴィを感じ取って開くシステムとか。それが息子であるアルス君と反応したのでは?」
ノインが冷静に分析した。
「なるほど……。それなら納得いくな。見られたくない物は、そう隠すしな」
アルスはにやりと笑い引き出しの中から本を取り出した。
「えーと、なになに……、見たら殺す。日記、スミラ・フローレンス……」
アルスは表紙に書かれている文字を読み上げた。なんとも物騒な事が書いてある。
「これだ、これを探していた…」
アルスは日記を開いた。人の日記を勝手に読んではいけないと言うが、これは母の日記だ。読んでもいいだろう。パラパラと開き、目を通していった。
「違う、ここじゃない。何か、何かないのか……!?」
アルスは流し読みして違うと思うと、次の日にちを読んでいく。ルーシェもアルスの隣に立ち日記を覗き見る。
「うふふっ、読んでみると、いかにスミラさんとフレーリットさんが仲良かったか分かるね……♪」
ルーシェは部分部分読んでいたがなかなかに面白い。彼はほぼ毎日この花屋に通いつめていたようで。毎日フレーリット、という単語が出てくる。
「………全く、そんな事を知りたいんじゃない……。ん?」
アルスは気になったところで目を止めた。そこの文だけ今まで読んできた他のより長いのだ。しばらく読んで、皆に言い聞かせる。
「今日またフレートにセルドレア花畑に連れて行ってもらった。行きはフレートの完璧な護衛のお陰で大丈夫だったんだけど……。私の不注意のせいね。本当にごめんなさいフレート。セルドレアの花畑、2人で過ごして帰る時、私がふざけて駆けっこしようと提案したの。フレートは勝利は目に見えてるからやめた方がいいんじゃないって言った。その時の私、勝利は目に見えてるって言われて、ムキになったの。確かに彼の方が身長はかなり上だし、足の長さと身体能力的に女に負けるわけないんだろうけど。私は1人で花畑から駆け出して、森の中に入った。花畑に魔物はいないけど森の中には魔物が沢山いる。私、フレートに守られすぎてて、忘れてたみたい。馬鹿なことをしてしまった。後ろからフレートのスミラ、危険だ、戻って。って何度も静止の声が聞こえてた筈なのに私は笑って走ってた。夢中になってて、まるで気付かなかった。いつの間にか、魔物に囲まれた事に」
そこまでアルスが読むと、ルーシェは息を呑む。
「狼みたいな魔物が私に襲いかかってきて、腰が抜けて私は尻餅をついてしまった。足が震えて立てない。
もうダメ、そう覚悟した時銃声が鳴って狼が倒れた。私の名前を叫んでフレートが走ってくる。だけどまた狼が襲ってくる。今度は3体同時に。それもまたフレートが撃ち落としてくれた。周りの魔物達を蹴散らして私の傍にフレートは駆け寄った。
何発も銃を撃ってるとフレートが突然右肩を押さえて、膝をついた。
とても苦しそうにしていた。
だけどその時隙をついた狼が私に襲いかかってきて来た。私は一瞬で彼の腕に抱きこまれた。狼はフレートの背中を引っ掻いた。彼は痛そうに顔を歪めてた。フレートは剣を持ってくればよかったって言って、自嘲気味に笑ってた。彼は私を私をかばってくれたの。数が多過ぎる魔物達。そして庇いながら戦うのは限界があったみたい。
私は後ろから鳥の魔物が飛ばしてきた鋭い羽根に左肩を刺されてしまった。
その直後、フレートの雰囲気が変わった。何だかとっても冷たい視線と、恐ろしいような殺気。こんなフレートは見た事ない。あれは完全に怒ってた。俗に言うマジギレってやつね。あの時の出来事は忘れられないわ。
森の中に物凄い吹雪が吹き荒れた後、彼の左手から鋭い氷の剣が出てきて、そのまま鳥の魔物を突き刺した後、それは枝別れを起こして次々と他の魔物を貫き、すごい断末魔が響きわたった。右手を狼達にかざしたと思えば、狼は一瞬で氷漬けになってた。そして、両手を広げた瞬間、何だか凄まじいエヴィが凝縮して魔物全部氷漬けにした後粉々に砕いてしまった。
もう何がなんだか分からない。私は夢でも見ているのかと思った。彼、上級光術を一瞬でやってのけてしまったようだった。何も言わず。いや、言ったのは、冷たい声で消えろ、とか、死ね、の一言。
家に帰って、あの術は何だったの?った聞いたら僕みたいに光術に長けてると、ああいう事も出来るんだよって言われたけれど、本当なの?あれって無詠唱なんじゃないの?
って、胡散臭くて根掘り葉掘り聞き込んでいたら抱き締められて、君が無事で本当に良かった、ですって。もうその後は雰囲気に流されて。イチャイチャして終わったけれど…。まぁ、今書いてる時は、割とどうでもいいわねそんな事。私を命からがら守ってくれたし、気にしないわ。それよりも、惚れ直したかも……?フレートって案外強いのね♡」
アルスは最後の部分は蛇足だ、と思った。が、これは随分と重要な事が書いてある。
「ノイン、ここに書いてあるような術などはお前にも可能なの?しかも無詠唱で」
「…………いやいや無理ですよ。どう考えても。不可能です」
「そうか……」
予想した答えが返ってきた。そうだろう。聞かなくたって誰でも分かる。フレーリットは一体、何者なんだろうか。
俺がたてた仮説として────
(もし。もし、元素を操るマクスウェルの力を掌握していたとしたら。これは不可能ではない。氷を操る事など容易いことだろう。ましてやスヴィエートは氷のエヴィで満ちている。それを最大限に利用して威力を上げていたとも考えられる。イフリートがやっていたように、人間が無詠唱で術を発動することなど造作もないはずだ)
アルスは日記を閉じ、疲れたように溜息を吐いたのだった。