テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
翌日、アルス達はロピアス直通の船に乗りエルゼ港から発車するハイルカーク行きの列車に乗った。列車内、アルスは少し気になっていた事をルーシェに聞いてみる事にした。
「ルーシェ……って、カヤもいるのか…」
コンパートメントのドアを開けるとルーシェの他にカヤがいた。
「あん?何か用〜?」
「アルス!今ね、カヤと恋バナナしてたんだよ!」
「恋……バナナ?」
アルスは聞いたこともないその言葉に思わず聞き返した。
「ちっがう!恋バナ!何!?恋バナナって!バナナが恋でもすんのっ!?」
「い、いや、俺に言われても……」
「あっ、ごめん!間違えた!恋バナだ!」
「………とりあえず女子の会話ということだけは分かった…」
アルスはコンパートメントに入ると席に座った。
「ところでアルス?どうしたの?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだ。なんというか、この手の類は女子の方がいいというか、いまいち俺にはよく分からないんだ」
アルスは少し照れながら言った。無意識に頭をかく。
「んで?その聞きたいことって何?」
カヤの催促にアルスは答えた。
「俺の、その、血は繋がってはいないんだが、親戚の叔母様がいるんだ。その人は俺の父親の従弟のヴォルフディアっていう人とと結婚してるんだけど。……ヴォルフディア様はもう亡くなっているがな。で、その人、サーチス様って言うんだが」
「あぁ、なんか城でチラッと見た気がする。白衣なんか着てて物珍しかったんだもん。メガネかけた白髪のポニーテルの人?」
「そう!その人だ!サーチス様だ!」
「そのサーチスがどうかしたの?」
「サーチス様にも、父のことを聞いたんだ。なんせ同期の人がもうその人ぐらいしかいなかったからな。それで…、こっからが聞きたいことで……、サーチス様に父のことを聞いたら、変な反応されたんだ」
「変な反応?」
オウム返しにカヤが聞き返す。
「なんというか、俺が見たこともない。普段の厳格な雰囲気とかからは想像も出来ないような表情……」
「焦れったいな!具体的にはっきり言ってよ!」
「うーん、父の名前を出した途端、取り乱したというか、焦っていた、な」
「ふーん……?ほっほ〜う?」
カヤはニヤリと笑った。
「頬も少し紅潮していて、なんだか普段と様子が違っていたというか」
「フレーリットさんに隠し事でもしていたんじゃないの?それがバレそうになったとか!」
ルーシェが思いついたように言った。
「バッカ!ルーシェ!アンタはどんだけ鈍感なの!?つーか!アルスもそうだけどさ!普通そんな反応されたら!導き出される答えはひとつだけでしょ!」
「ほえ?どゆこと?」
「ズーバリ!サーチスって人は、フレーリットの事が好きだったのよ〜!」
「そっかー!」
ルーシェは納得し、手を叩いた。
「は?」
一方アルスは素っ頓狂な声を出した。
「え、っぇぇえええええええええええ!?有り得ない!あの人は結婚していたんだぞ!?ヴォルフディア様と!」
「女にはね……、忘れられない恋ってモンがあんのよ……。それが初恋ならなおさらね」
「カヤ、大人ー!」
「ったくこの鈍ちん共…。まぁ、分かるわ〜。ルーシェもフレーリットの写真見たっしょ?かなりイケメンよアレは」
「うんうん!すっごくかっこよかった!ホントに!」
「あんな超絶イケメンに、言い寄られたら、男を知らない女は簡単に落ちちゃうのよ、お分かり?」
「…………でも、父は死んでいるんだぞ?20年も前に。流石にそれは無理あるんじゃないか?」
「ふっ…………女心は、複雑ってもんよ……。多分アンタには一生分からないだろーね……」
カヤはうんうんと頷きアルスを横目でチラリと見た。
「なんか、馬鹿にされてる気がする……!」
「馬鹿にしてんのよ。ま、ルーシェも似たようなもんだけど……」
「私馬鹿じゃないよ!………多分」
「はいはい〜、ソーデスネー」
「もー!カヤ!」
「待てよ?………って事は、スミラにゾッコンな父の姿は、サーチスにはどう写ったんだ?女も嫉妬するのか?」
カヤは飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「ブッ!げほっ!ごほっ、はぁ!?嫉妬しない人間なんかいないわよ!ぜっーたいしてたに決まってるでしょ!でも、諦めたんでしょ?フレーリットがスミラに夢中過ぎて、眼中に無いって、気づいたのよ。そんで、別の人と結婚したってこと。世の中よくあるよこんなパターンなんて」
「って、事は……。もしかしたら、スミラとサーチスは、対立関係にあった、とか?」
「そ、そこまでは私にもわからないけど。そうねぇ、目の敵にする人もいれば、裏で歯ぎしりしながら見てる人、ネチネチ嫌味な奴もいるし、ヒステリー起こす女もいるんじゃない?」
「ならサーチス様は、きっと大丈夫だろう。あんなに冷静な人は感情を律する事が出来るはずだ」
アルスが見てきたサーチスはそのような人なのだ。
「いや?分かんないわよ?案外、そうゆう女程、内なる思いが強かったり、なーんてね?」
カヤは冗談混じりに言った。
「………もし、そうだとしたら恐ろしく対立関係にだったのだろうか……スミラとサーチス様は……?」
「そーだなー、女は男と金絡むと、厄介極まりないからねぇ。その人の幸せを願って諦めるってのが一番穏便な解決方法なんだろうけどさ。ま、唯一救いなのは、フレーリットって人がスミラに一筋だったって事。もし二股でもかけてみ?ドロドロぬまぬまの修羅場合戦よ……。ま、二股なんてかけるそんな屑男はこっちから願い下げするのが吉ってもんよ。やんわりと断ったんじゃないの?サーチスの思いに、フレーリットは。これは予測だけど」
「三角関係ってやつだね〜」
ルーシェが気楽に言ったが、もし本当なら、大変な人間関係だったと予測できる。アルスは整理した。
「ヴォルフディア様が本当にサーチス様を愛していたと仮定して。ヴォルフディア様は、サーチス様の事が好き。で、サーチス様はフレーリットのことが好き。フレーリットは、スミラの事が好き。フレーリットとヴォルフディア様は、従兄弟関係………。うわ、凄いな。これでスミラがヴォルフディア様の事もし好きだったら更に物凄い人間関係になったに違いないな…」
「あーあー、凄いねー、何それ?」
アルスは親の世代を分析して身震いした。ちょっと分析してみれば、こんなにも複雑な人間関係だったと分かる。かなりの泥沼の関係だ。本当に、唯一救いが、父がスミラ一筋って事だろう、とアルスは心底思った。
「まもなく、ハイルカーク、ハイルカークでございます。お降りのお客様はお忘れ物のなさいませんようご注意ください。まもなく、ハイルカーク、ハイルカークです」
車内アナウンスが流れアルス達はコンパートメントを出た。
ハイルカーク時計塔前に行くと、随分と懐かしい感じがした。初めて見た時は、ガットとルーシェの2人だけだったが、今は7人だ。そしてこの塔に登った時は線路爆破事件を調べに来た時だ。その時以来か。
「時計塔横の大聖堂へ入ってみましょう。そこで何か分かるかもしれません」
ロダリアが大聖堂へ案内した。大聖堂は幻想的な雰囲気に包まれており、天井はかなり高い。
「もしかしたらどこかにガラサリ火山と同じような場所があるかもしれません」
ロダリアがそう言った。アルス達は手分けして大聖堂の中をくまなく調査した。しばらくすると案の定、以前と全く同じような、そう、古代プロメシア語が書かれている箇所があった。柱に隠れ、かなり分かりにくい場所だ。
「この壁……、小さいが古代プロメシア語が書いてある……」
アルスは壁に手を当てて文字をなぞった。アルスは読む事ができないので、ルーシェを呼んだ。
「ルーシェ!来てくれ!」
「はいはい〜」
ルーシェはアルスの近くに行くと、他の仲間達も同様に集まってきた。
「見つけたのか、アルス」
「ああ、それらしきものを見つけた」
「階段を転げ落ちるという事を試さなくてすみそうだな」
フィルの冗談にクスリとルーシェは笑い、やがて解読しはじめた。
「我、アーロン・ハイルカークは我が友をここに祭る。願わくば、いつかその封印が解き放たれるように、ここに記す。汝が其の全ての源、並びに時の末裔ならばその証をたてよ。さすれば道は開かれん。原初の三霊、時空を操る精霊クロノス、ここに眠る」
「当たりだな………」
アルスは確信して言った。イフリートの時と同じである。
「ロダリアさんの言う通りでしたね!ドンピシャです!」
「ルーシェ、以前のガラサリ火山と同じようにはいきますか?」
ルーシェはロダリアの問いかけに頷いて答えると、手を文字盤部分の壁に当てた。すると鈍い音を立てて壁のレンガが横にぱっくりと開きアーチ状の入口が開き、階段になっていた。ルーシェは息を呑んだ。
「わぁ……、深そう……」
「………行こう」
アルスが先行した。とても長い螺旋階段だった。かなり降りただろう。するとイフリートの時と同じような陣があった。
ルーシェがそれに乗り、起動させた。アルス達はそれに乗り、一瞬のうちに光に包まれた。
目をあけて飛び込んできた風景は歯車だった。まるで自分たちが小さくなって、時計の中のからくりに入り込んだようだ。時計独特の秒数を刻む音が響き、歯車が回る音が耐えず聞こえてくる。しかしやはり不思議な感覚があった。まるでベールに包まれているかのような空間だ。
一行は歩き出しある位置で止まった。
「ここ……だね」
カヤは手を見えない壁に当てた。
「ルーシェ、頼む」
「うん……!」
アルスは頼んだ。ルーシェは深呼吸をして両手を壁に当てた。ピシ、とヒビが入り、そのヒビが徐々に広がっていった。
やがて大きな音を立てて壁は壊れた。壁の欠片はエヴィとなり、空中に粒子となって消えていった。
粒子が消えると、中央に歯車で覆われている何かがあった。うずくまっている。イフリートと比べると、人間に近い、アルスはそう思った。ただ違うのは周りに歯車が漂っていて人間とは違うオーラを放っていた。
その何かは、むくりと起き上がった。
「………誰だ、我の封印を解いた者は……。アーロンはもう死んだ筈…」
そう言い、立ち上がった奴は肌は黒く、腕には時計の針を型どった鋭いブレードのようなものがついていた。周りの歯車も連動してクロノスについていった。
「……お前はクロノスなのか?」
「…………ふん、何も知らずに封印を解いた事に、感謝するぞ、人間。これで我は、憎きお前らを殺すことができるのだからな!」
「……!」
アルスは身構えた。やはりこうなってしまった。
「滅べ、人間共」
クロノスが殺意を持って戦闘態勢に入った。