テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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夢の中の幸福

アルスはまた夢を見た。今度はすぐにあの例の夢だと分かった。もう段々と慣れてきたのだ。色々と推測してはみたけれど、アルスの考えはこうだった。

 

実際に過去に起きた出来事───。

 

これしか考えられなかった。そして見る夢も、視界もまたそれぞれだ。ある時は第三者だったり、またある時はその当事者自身の視点だったり。不思議なものだった。

 

目の前に、赤ん坊用のベットが映った。ある生まれて間もない赤ん坊がスヤスヤと眠っている。

 

そこから徐々に視界が開けてきた。部屋の一室だった。この部屋、見覚えがある。スヴィエート城だ。アルスはその部屋の真ん中に立っていた。人がいた。しかし自分は認識されない存在らしい。

 

「…………父さん?」

 

紫がかった黒い髪の毛、スラリと背の高い男が立っていた。それは父、フレーリットだった。机の書類を整理している。やがてそれが終わると、部屋を出ていった。

 

「父さん!」

 

いつもは父上と呼ぶのに、父さん、と呼んだ。こうして呼びたかったのだ。1度も話した事のない父親。せめて夢の中ではと、アルスはそう呼んだ。

 

場面が切り替わり、彼が部屋に帰ってきた。哺乳瓶を手に持っていた。

 

「アルス〜ご飯だよ〜」

 

アルスは目を見開いた。あの赤ん坊は自分だったのだ!

 

「いやぁ〜この前はごめんね、冷たいミルクあげちゃってさぁ……。あの後散々だったよパパ。スミラママにめっちゃ怒られちゃったよ。ミルクの温度大体体温より少し高いくらいなんだね。初めて知ったよー」

 

「うぁ〜」

 

赤ん坊がそう返すと、フレーリットはニコりと笑って、

 

「今日はちゃんと確認してきたから。っよっと」

 

そう言い、赤ん坊を抱き抱えた。ぎこちない手つきでミルクを与えた。が、赤ん坊は飲もうとしない。

 

「あれ?飲まないの?」

 

「や〜」

 

「やーじゃないよ。飲んでほら今度は大丈夫だって」

 

「ぎゃー!!」

 

「うーん、お腹減ってないのかな?」

 

仕方なく哺乳瓶を下ろすと、

 

「うぎゃぁぁいやああ!!」

 

それも嫌がった。

 

「ああもうっ!どっちなの!?」

 

アルスは思わず吹き出した。あれが自分だと分かってから少し恥ずかしいが、あの父にもこんな姿があったんだなと思うと、いささかギャップが激しくて笑える。

 

そこで場面がまた変わった。フレーリットが赤ん坊を抱き抱えある女性と話していた。その女性の顔はまだ明瞭ではない。

 

「飲まないの?」

 

「そうなんだよ」

 

「はぁ?何でよ?ちゃんとミルクあげる時間よ?アンタもしかして嫌われてんじゃないの?」

 

徐々に女性の顔が明らかになっていく。

 

「えっ、そんなぁ。あぁでもやっぱり?冷たいのあげちゃったから?」

 

「ふふっ、もしかしたら、そうかもね〜?」

 

「えー!?アルス!ごめんってばホントに〜!」

 

「ぅぎゃぁぁあああ!!!」

 

「あらあら」

 

「ひぃいいまた泣いちゃったよ!」

 

「もう、かしてほら。アンタあらゆる事が出来る器用さあるのにこれに関してはホントダメね」

 

「言い返せない………」

 

女性の顔がはっきりとアルスの瞳に写った。

 

───────スミラだった。

 

スミラとフレーリットが、仲むつまじく話している。彼女が自身の母乳を与えて、それをまじまじともの珍しそうに見るフレーリット。2人は笑いあって、目が合うとキスを交わしていた。本当に幸せそうだった。

 

一方、アルスはそれを冷めた目で見ていた。

 

(こんな幸せそうなのに、いや幸せだったのにどうして、どうして、何故?スミラ、スミラ……!裏切り者のスミラ……、お前は何故。

 

何故フレーリットを殺した──────!?)

 

 

 

「はっ!」

 

そこで目が覚めた。目に映るのはレガート家の天井。そう、自分達は今レガート邸にいるのだ。

 

「………ふん、随分幸せそうだったな」

 

子育てに奮闘する父親と、温かい目で見守る母であるスミラ。まだ朝は早かったが、隣で眠る男性陣を起こさないようにアルスは起きだし、カーテンを少しあけて窓の外を見た。

 

「っ!あれは……!」

 

見えた先、中庭ではセドリックが体操をしていた。アルスはそれを見ると、すぐに外に出た。中庭にセドリックがいた。クラリスの父親だ。

 

「おはようございます」

 

「やぁおはよう!君は確か……」

 

「アルスです」

 

「そうか、よく眠れたかね?」

 

「えぇ、まぁ」

 

「それは良かった。今朝日を浴びているんだよ。毎日の習慣でねー」

 

「セドリックさん」

 

「ん?何だい?」

 

「スヴィエートに渡る方法はありますか?」

 

アルスは単刀直入に言った。沈黙が流れた。セドリックは困惑した表情を浮かべた。

 

「………………。え、な、どうして?今スヴィエートに渡るなんて、一体何を考えているんだか…」

 

「いえ、俺は、スヴィエートに行かなくちゃいけないんです。どんな事があろうとも。絶対に」

 

ざわざわと木々が風に揺れた。朝の日差しが目に眩しい。セドリックはアルスの目を真っ直ぐ見つめた。

 

「………理由は?」

 

「言えません」

 

「………そうか」

 

「すみません」

 

そうだ、俺はこのためにクラリスを利用したに過ぎない。スヴィエートに行くため。彼女の弟はついでに過ぎない。所詮過去の人間なのだ、と言い聞かせる。

 

「……行けないことは、ない」

 

「それは、どうゆうことでしょうか」

 

「……はぁ。いいか、こんな事を言うのは、貴方達が息子の恩人だからだ…」

 

「…………」

 

アルスは何も言わなかった。こんな事でいちいち心を痛めてられない。

 

「……ポワリオ駐屯地の倉庫に、廃棄処分として回された旧型ミーレス輸送機がある。部品も旧型で、使えないんだ。物好きな芸術家達に売り渡すしかこの先使い道がない。しかし、旧型という事は、それほどのリスクが伴う。それに、操縦だって素人には無理だ。………そうゆうわけだ、諦めて……」

 

「……いえ、俺はある程度の飛行免許は持っています。知識も十分あります。大抵のものなら、操縦する事が可能です」

 

「正気かね!?壊れている部分だってあるんだぞ!それに、例え操縦できたとしても!気づかれたら攻撃されて木っ端微塵だ!無謀だ!無茶だ!」

 

「案内して下さい、その倉庫に」

 

「本気かね!?それにポワリオだぞ!?占領されているラメントに1番近い!あそこもいつスヴィエートに攻め込まれてもおかしくない!」

 

「本気で、言っています」

 

「………はぁ……」

 

セドリックは呆れ返ったが、ここまで言われたとなると、もう彼が引き下がるとは思えなかった。

 

「分かったよ…………」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

アルスは起きてきた仲間達に事情を話し、ハイルカークからポワリオ地区へ行きその倉庫へと向かった。いよいよこの過去に来た目的に本格的に近づいてきたのだ。

 

「一刻も早く、スヴィエー トに行かないと……!」

 

ミーレス輸送機の修理をしていたアルスは焦りの気持ちで一杯だった。


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