テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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一難去ってまた一難

「よぉ、進んでるか?」

 

ガットは荷台を載せるカートを足で引いた。しかしカートに乗っているのは荷物ではなくアルスだった。

 

「………おい、邪魔をするな」

 

「ひでぇ顔だな。初めて見たぜそんな大将の顔!」

 

アルスは不機嫌な顔でガットを睨みつけた。彼の顔は黒く薄汚れている。

 

それも何故かと言うと、ぶっ続けでミーレス輸送機の修理に取り掛かっていたからだった。その修理のためカートの上に仰向けになり機体の下に潜り込んでいたのだった。ガットに引きずり出されたが、すぐさままた機体の下にアルスは移動した。

 

「まるで整備士だな」

 

「……俺は元々こうゆう作業は好きなんだよ」

 

手を動かしながら、整備をしながらも一応ガットの声には答えた。

 

「あぁ…、そういや光機関好きなんだっけ?」

 

「あぁ、もし俺が、スヴィエート皇帝じゃなかったら、こうゆう光機関いじりの仕事に付いていたかもな」

 

「オタクだなぁ、俺にはさっぱりだわ」

 

「なんとでも言え、好きなものは好きなんだよ。それに、お前の脳筋っぷりを見ていればそれぐらい分かりきったことだ」

 

「ケッ、嫌味かよ、せっかく差し入れ持ってきてやったっつーのによ」

 

「何!?」

 

自分から這い出てきた。よほど腹を空かせているのだろう。

 

「それを早く言え!」

 

「オメーが早々に作業に戻るのがいけねーんだろうが」

 

ガットはトレイを2つ差し出した。彼が右側の料理の銀のクロッシュを開ける。するととても食欲を誘う匂いが立ち込めた。

 

「右がルーシェが作った野菜たっぷり栄養満点、体力がつき、元気100倍、あつあつ愛情シチュー」

 

 

(何だそれ…)

 

ガットのキャッチフレーズにそう思いながらも早く食べたいと言わんばかりに腹の虫がなる。しかし、左側は嫌な予感しかしなかった。本能的に。一応アルスは聞いてみる。

 

「………………左は?」

 

ガットはクロッシュを開けた。

 

「………うっ!?」

 

アルスは口を抑えて身を引いた。

 

「こっちはロダリアが作った野菜、魚、あらゆる健康品たっぷりの精力満点、気力はガタ落ち、胃の耐久力100倍、あつあつ愛憎シチュー」

 

緑色や青色が混じった群青色、と形容するのだろうか。いや、形容できない程気持ち悪く混ざりあった配色のシチューが何故か一人でにうごめいていた。おおよそシチューといはいい難いその色と同時に吐き気を催す生臭さと、青臭さが鼻を貫く。正直言って。いや、もう誰が見てもこう言うだろう。シチューじゃない。

 

「うぅッ!」

 

アルスは思わず呻き声を発し、鼻を摘んだ。匂いをかいだだけでも気持ち悪くなった。かく言うガットも、鼻を摘んでいる。そして魚が死んだような目になっている。

 

「何でこんなの持ってきた!?」

 

「いや、だってロダリアが持ってけって聞かねぇんだよ」

 

「ぜっっっっったいに食べないからな!?いいか!!絶対にだ!!」

 

「ですよねー」

 

 

 

食事も無事終わり、アルスはまた整備に戻った。ガットはそんなアルスの様子を見て、

 

「ハイペースで一生懸命やってんのは分かるけどさぁ、今日中に治すつもりか?別に明日にまわしてもいいんじゃないの?」

 

と言った。そう、アルスはこの駐屯地倉庫に来て以来、1日中整備をしていた。時折ラオやノインに手伝ってもらったが、専門的な事になるとどうしてもアルスにしか出来ない。そのため他のメンバーはスヴィエートに行くための準備に取り掛かっていた。武器の新品調達、道具整理など。しかしそれも終わると本格的にやる事が無くなり、暇なのだ。外は迂闊に歩けないし、あとやる事といったらロイとクラリスの遊び相手だった。そのおかげで2人はアルスとルーシェ以外にも、遊んでくれた人にはとてもよく懐いていた。

 

「ちょっと、………今話しかけないでくれ!」

 

「…………ヘイヘイ」

 

ガットは片隅にある木箱に腰掛けた。その上に転がっているネジをいじりだした。

 

「あ、なぁなぁ、やっぱお前ルーシェと何かあったの?」

 

「……………」

 

「カヤがなーんかぶつくさ言ってたぜ〜。元気がねー、心配だあーだこーだ。当の本人はは気丈に振舞ってるけどな。ま、ルーシェ図太くてタフな面もあるけど、いつか壊れちまうんじゃねーの?ってなぁ」

 

「…………いつもの恋愛アドバイスのつもりか?」

 

「独り言よ独り言〜。はい作業に集中集中ー」

 

(余計集中出来ないだろ…………)

 

アルスはガットの意味深な発言に気をそがれた。かまわずガットはそ”独り言”を言う。

 

「そーいやお前この前寝言言ってたぜ?ごちゃごちゃ言ってて全然聞き取れなかったけど、許してくれ、殺しがうんたらとか言ってたぞ」

 

「許してくれ、殺し………?」

 

「ま、大将が寝言言うのはその以前もあったからな。意味不明過ぎてよく分かんねぇんだよな。俺も大体寝て忘れちまうし」

 

アルスは聞き流しながらも作業を続けた。ガットの言う事が少し気になったが、所詮寝言だ、と言い聞かせ、最後の仕上げに取り掛かった。

 

が、アルスはそこで手を止めた。

 

「そうだ……、忘れてた……」

 

「あん?どったの?」

 

「いや、機体の修理自体はほぼ完成したんだ」

 

「おぉ!おめでとさん!いやー、お疲れお疲れ」

 

「でもこのままスヴィエートに飛んだとしても、エヴィレーダーで発見されたら領空侵犯で一斉攻撃される!」

 

ミーレス輸送機体を飛ばすエンジンには当然燃料としてエヴィ結晶が使われる。しかし、自国スヴィエートには今この時代から早くもエヴィレーダーというものが開発されている。不自然な位置からエヴィが感知されれば疑われるのは当たり前である。それがロピアス側から来たとなれば尚更だ。そのエヴィレーダーの存在が第2次世界大戦時、ロピアスの敗因の一部でもあるのだ。

 

「な、何だと!?馬鹿何でそんな重要な事忘れてんだよ!?」

 

ガット木箱の上にあるはネジをぶちまけて取り乱した。

 

「修理に無我夢中だったんだよ!」

 

「どうすんだよ!?発見されないのを祈って玉砕覚悟で突っ込めってか!?そりゃいい作戦すぎるな!?」

 

アルスとガットが言い争っていると、

 

「あれー?なんか喧嘩してるー!」

 

「ホントだ、喧嘩してるネ」

 

「アルス君、調子はいかがですか?」

 

「喧嘩している暇があるなら早く終わらせろ」

 

クラリス、ラオ、ノイン、フィルがやって来た。しかしラオはクラリスを、ノインはフィルを、と2人共肩車をしている。

 

「何してんだ?お前ら……?」

 

ガットはその異様な光景に思わず突っ込む。

 

「アジェスに伝わる騎馬戦、という戦いだ」

 

「怪我しないように肩車の超カンタンルールにしてるからネ、プチ&ごっこのただの遊びだよ。略してプチ騎馬戦ごっこ」

 

「私の背中とフィルお姉ちゃんの背中に貼ってある札を先に剥がした方が勝ちだよ」

 

「今んとこ25勝25敗です、正直言ってもうかなりしんどいけどフィルの為ならなんのこれしき……」

 

「宣言してやる!26勝目は小生が頂く!!」

 

「私負けないから!!」

 

アルスは呆れた。自分が必死に整備している間にそんな遊びをしていたとは。

 

「気楽なもんだな……」

 

「あ、ネェネェアルス、さっきはどうしてたの?」

 

「あぁ、それが─────」

 

アルスは先程ガットと話していた内容を説明した。

 

「んー、レーダーネー」

 

「もしかしたら師匠なら何か知っているかもしれんな」

 

フィルはロダリアを呼びに行った。

 

「フィルー!ついでに皆呼んで来ちゃって!」

 

ノインがフィルに頼んだ。

 

 

 

やがて倉庫に仲間達全員が集まった。

 

「まさに一難さったらまた一難だよー」

 

「そ、そうだね……」

 

カヤはその話を聞いてがっくりと項垂れた。ルーシェとカヤとロダリアはメイドのハンナの手伝いをしていたらしい。料理に関してはロダリアはハンナに出禁をくらったらしい。

 

「師匠なら何か知っているかと思って」

 

「そう……ですわねぇ……」

 

ロダリアは少し考え込んだ後言った。

 

「ふむ、さっぱり分かりませんわ」

 

「えぇー!!」

 

「私にも分からないことはありますわ。いえ、むしろ分からないことだらけですわ」

 

「胡散臭……、ホントかよ…?」

 

「何か言いまして?ガット?」

 

「別にー?」

 

八方塞がりになってしまった。このままでは、とアルスは頭を抱え込む。長い沈黙が流れている。

 

「………とりあえず、今日はもう休まない?アルスも疲れてるっしょ?」

 

カヤが沈黙を破った。確かに彼女の言う通りだった。

 

「そう……だな……」

 

「また明日になったら考えましょう?ふふ?」

 

ロダリアの言う事に皆賛成し、パーティは解散した。

 

 

 

「後で話があります」

 

アルスは去り際、ロダリアにそう耳元で囁かれた。


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