テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
世界の中心、スターナー島、海上付近。
ミーレス輸送機は順調に航空していた。もうじき、ロピアスとスヴィエートの領空の境目だった。仲間達の様子は、操縦席からはあまり見えない。出発してすぐにはクラリスの描いた似顔絵と折り紙等、クラリスの話題が耐えなかったが今は寝ている者が殆どだ。
「アルスー、これ。腹減ったっしょ。ソランジュさんから貰ったのよ」
先程まで爆睡していたカヤが起きてきたようだ。彼女の手のバスケットにはサンドイッチが沢山入っていた。
「サンドイッチまで作ってくれたのか。ありがとう、頂くよ」
「ん」
アルスは卵のサンドイッチをとった。それからツナとカツサンドと野菜が入ったサンドイッチ食した。
「今あたし達どこらへんなの?」
「もうすぐでスヴィエート領内に入る。入る瞬間、あのレオンテ鉱石の機能を発動させる。その効果は1時間しかない。だからスヴィエートに入ったら一気にスピードを上げざる負えない。皆に覚悟しておいてくれと伝えといてくれ」
「はいはーい。んじゃそん時になったら合図頂戴ね〜パイロットさん」
「ああ」
アルスは現在の位置を確認した。ロダリアが言うには、レオンテ鉱石に雷属性のエヴィを注入すれば反応すという。調整に苦労したが、やりがいのある作業だった。
そして、スヴィエートの領内に入る直前まで来た。アルスは気を引き締めた。いよいよである。ここで油断してはいけない。
「皆!そろそろスヴィエートに入る!」
アルスは言った。
「……ついにスヴィエートか」
「なんだか緊張するね…。一応私の母国なのに。戦争中ってだけでこんなにも緊迫感があるなんて……」
「戦争中でなくてもスヴィエートは厳しいですがね。ロピアスのスパイでスヴィエートに潜入して、帰って来た者はいませんわ」
「ひぇ〜、そんな事聞くと余計恐ろしく感じちゃうヨ」
仲間達が雑談していると、アルスの声が聞こえた。
「境界線を発動する!」
アルスは操縦席のあるスイッチを押した。すると少し窓が曇りがかった。しかしそれは透明になり、境界線のようなものを空に作り上げた。アルスはレーダーを確認した。実機が消えている。どうやら成功のようだ。
「うまく行ったか……」
「はぁ〜……、あとは無事スヴィエートに着くだけだね〜……」
そして次第に雪が降ってきた。白い大陸が見える。目の前には高い雪山がある。グラキエス山だ。
「え、ちょっと待って下さいよ?アルス君はどこに着陸するつもりなんですか?」
「………そういえば」
ノインとフィルが外の光景を見て話している。
「……機体はグラキエス山に飛んでるネ」
「………まさか」
そしてラオとカヤ。
「グラキエス山!?」
ルーシェが叫ぶ。
「はっ!?マジかよっ!?」
「まぁ、機体が発見されたら大変な事になりますからねぇ。手を加えているとはいえ、立派なロピアス航空機ですし」
「だからってうおっ!?」
「まじかぁあぁあぁぁぁぁぁぁ!」
そしてガット、ロダリア、カヤの会話を最後に、機体は着陸態勢に入り、会話どころではなくなったのであった─────。
「おいアルス!何て事すんだテメェは!?」
「先に知ってたら大反対してただろう」
「たりめぇだ!!心臓飛び出るかと思ったぞ!」
「飛び出てないから安心しろ」
アルスが操縦するミーレス輸送機は、スヴィエート最高峰のグラキエス山に着陸した。勿論、アルスもこの事を想定していて、改良は元より重ねていた。ここ以外どこにも着陸させる場所が思い浮かばなかったのだ。目撃されれば撃墜待ったなしのロピアス輸送機をのうのうとそこらへんに止めるわけにも行かない。
「はぁ………、ガチで死ぬかと思った…」
「おえ……小生吐きそう……」
カヤとフィルが胸を押さえている。
機体は大分揺れたものの、なんとか無事に着陸することが出来たのであった。アルスの操縦技術のお陰でもあるが、二度とできない体験であった。
「アルス君……、やけに手慣れているようですけど……、何かやっていたんですか?貴方皇帝ですよね?」
ノインがアルスに話しかける。
「あぁ…、スヴィエート皇家男子は代々空軍で飛行免許をとるんだ…。それがとれないと、皇帝になれないし認めらもしない。一種の通過儀礼みたいなものだ。その他にも色々な免許は一応持っている。かなり苦労したが、今ではいい思い出かな」
「す、すごそうですね……」
「へぇ〜……大変なのね皇帝も……」
「10代の頃はとにかくこうして己を磨く事に専念の毎日だった」
「………ハッ。だ〜から女に免疫ないのね………」
カヤが鼻で笑った。
「ぐ………」
「図星なんかい。天下のスヴィエート皇帝アルスも、可愛いとこはあんのね〜」
「う、うるさい……、とにかく、早く中から出て、下山して、オーフェングライスに行く」
アルスの声に皆はぞろぞろとミーレス輸送機から降り始める。外から、寒い寒い、死ぬ、凍る、と悲鳴が聞こえてくる。アルスはまた懐かしくなった。この銀景色こそ、時代こそ違うが自分の生まれた故郷なのだ。
そしてグラキエス山をなんとか下山し、アルス達はオーフェングライスに到着した。
「さ、寒い、寒すぎる………」
ノインが言った。彼の鼻から垂れる鼻水が凍っていた。あの雪山から降りてきたのだ。皆心身共に冷え切っていた。首都オーフェングライスの広場は独特の静けさに包まれていた。雪に音が吸い込まれるため静かなのだ。
「でもはっきり言って今は暖かい方だ。もうすぐ冬が終わる時期なのかもしれないな。皆…、とりあえず今日はどこか休める所へ行こう…。そこで次の目的について話し合おう、平民街に宿屋があるはずだ…」
アルスの意見に賛同し、平民街地区に行く。すると思いの外賑わっていた。ロピアスとは勝手がまるで違った。いかにスヴィエートが現時点で優勢かが分かる。歩いている途中見かけた本屋の新聞記事の見出しにこう書いてある。
”我が軍はまたもや圧勝。我々スヴィエートの民の復讐劇の終幕は時間の問題か”
アルスはこの時代がまるで違う事を改めて思い知った。ロピアスと違いスヴィエートは逆に戦争の影響が全く街に被害を及ぼしていない。
(俺達は平和な時代に生まれたんだな…)
アルスはそう思えざる負えなかった。
平民街の宿屋”ピング・ヴィーン”の扉を開けた。カランカランと来店を知らせる音が響いた。この宿屋は1階がバー、2階、3階が宿屋になっているようだ。アルコールの匂いがアルスの鼻に付く。
「あぁ〜いいなぁ〜、酒飲みてぇなぁ…」
ガットが言った。
「駄目だ我慢しろ。何が起こるか分からない。気を抜くな」
「しばらく飲んでねぇんだよ…」
「……俺は受付してくる」
ガットを無視しアルスは受付へ向かった。
「ルーシェ、あれ何?」
「ん?」
フィルがクイクイとルーシェの服を引っ張った。彼女が指をさしているのはダーツボードだった。
「あれはダーツっていうゲームに使う道具の一つだよ。あの的に向けて手でダーツの矢を投げるの。射的みたいなものかなぁ」
「小生やってみたい!」
「うーん……フィルちゃんは、身長が明らか足りてないみたいだね……」
「えー!」
それもその筈。全て大人用の身長の高さに的があるためフィルは到底届かない。
「むー……」
「アハハ、僕が肩車してあげようか?ほらプチ騎馬戦ごっこの時やったよネ」
ラオが笑いながら言った。
「お前首取れそうで怖いから断る!」
「大丈夫だヨきっと。クラリスがアグレッシブ過ぎただけだヨ」
「えぇ〜、どうせならノインがいいー」
「ノインはこの前乗せてもらったデショ。彼よりかは僕の方が身長高いヨ」
ノインのプライドを傷つけつつフィルの両肩を掴み歩かせ、ラオはダーツゲームのコーナーへ歩み寄った。今、ゲーム中の客は4人いた。非番と思われる軍人が2人、中年で小太りの男性が1人、そして黒のコートを着て、全身黒ずくめの背の高い男性が1人。彼は室内だというのに黒い帽子を深くかぶっていた。
「………アレ?」
ラオは突然鋭い頭痛に襲われた。こめかみを押さえ立ち止まる。
「おい、ノインの身長を言ってやるな。本人それかなり気にして……、って、どうした?頭痛いのか?」
振り向いたフィルは驚いて声をかけた。普段基本的に緩い表情なラオだが、険しい顔をして目を開けている。
「……、ナンカ、何かが流れてくるような………」
「何だそれ?」
「ウッ……!」
ラオは頭の中にキーンと音が響くのを感じた。まるで足りない何かを埋め合わせるように、その何かが流れ込んでくる。しゃがみ込みそれに耐えたが、気分は良くならない。
「おい、大丈夫か?」
フィルはラオの手を引き移動させた。ルーシェの元へ連れていく。
「ルーシェ、ラオが頭痛いらしいぞ。何とかならないか」
「えっ?どうしたの?」
ルーシェもしゃがみ込み、ラオの頭に手を当てる。ラオは俯いて痛みが緩和されるのを待つが一向に痛みは引かない。それどころか更に痛みが増した。
「うぐっ……!」
ラオの視界が突然真っ白になった。そして徐々に視界が開けてきた。真っ白な空間にたった1人、誰かが立っていた。
(……………アルス?)
──────否、似ているがよく見ると違う。髪はアルスと同じコバルトブルーだったが、顔は違う。似ているがやはり違うのだ。
その人物はにこやかに笑い言った。
「僕の名前はサイラス・レックス。首都からここの工場に視察団として来たんだ、色んな人を見たけど君の惚れ惚れする仕事の達人っぷりに思わず目がいってしまってね」
─────ボクはこの人を知ってる。
「へぇ、アジェスからわざわざ奉公なんだ…。すごいねェ。尊敬するよ。ご両親もきっと君を誇りに思っているんじゃないかな」
いつか見た光景。いつ?どこで?この人は誰?知ってる、ボクはこの人を知ってる。
「ラオ・シン…、か。いい名前だね。よろしく、ラオ」
そして彼は握手を求めてきた。その差し出してきた手を握り返そうとした。しかし次の瞬間。
「………ハッ!?」
そこで視界が戻った──────
「ごめん、少し気分が悪くなったから今日は帰るね。お金はここに置いておくから。釣りはいらない」
丁度受付をしている最中だった。アルスは突然後ろから無造作に置かれたガルドに驚いた。条件反射で後ろを振り返ったが顔は見えない。見えた姿は後ろ姿だった。
「だっ、大丈夫ですか?」
受付の店員が心配そうに声をかけた。それを無視して黒い帽子に黒く長い丈のコートを着た背の高い男が店のドアを無造作に開け出ていった。カランカランとベルの音が大きく響く。
「………?まぁいいか、で、男4人と女4人の8人なんですけど…」
アルスは特に気を止めず中断された受付を再開した。