テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
「そっ……荷物……こ……だー!」
「了解!」
「すい……ん!これは…………しますか?」
翌朝、アルスは何かが床にこすれる音と人の声で起きた。段々と頭が覚醒してくる。
「……はっ!もう朝だ!荷物が運び出されてる!」
アルスは素早く起き出すと寝ているルーシェの肩を揺すった。
「ルーシェ!起きろ!見つかったら面倒な事になる!」
「ふぇ?」
「早く起きて!」
「ふぁぁああい」
なんとかルーシェを起こしたアルスは彼女を連れ、隙を見て貨物倉庫から抜け出した。
「ルーシェ、こっちだ」
人目が無いのを見計らって、彼らは港に降り立った。看板には、「ようこそ、世界の中心、スターナー貿易島へ」と書いてある。
「ここは……」
「昨日言った通り、やはりスターナー貿易島だったな」
「へぇー……」
ルーシェはキョロキョロと辺りを見回した。
「あ、えっと…、私スヴィエートからは疎か、育った街のオーフェングライスからも出たことが無くて……」
「そうなのか。でも、ここは俺も初めてなんだ。名前だけは知っている」
スターナー貿易島。
世界中から集められた貿易品が集まり、取引が行われる世界最大の市場だ。看板通り、世界の中心に、この島は存在している。言わば物々交換の場である。その国ごとに採れる資源が違うのだ。食料や光機関等も、独自のものがあったりする。貿易島は唯一の中立領土として、どの国にも属さない。しかし、それ故3国全ての国籍の人間が集まるため、いざこざが起こりやすく、そのため治安もあまり良くない。ただでさえ仲の悪いスヴィエートとロピアスは、睨み合ってばかりいる。貿易島に派遣されている軍人同士の小競り合いが起こると大変だ。
アルスは記憶を巡らせた。確か、第2次世界大戦はここでの軍人同士の下らない小競り合いが発端だったような、と学んだ歴史を思い返した。
「あ!見てみてアルス!」
ルーシェは物珍しそうに商業地区へ向かった。皆自由に商いをしているようだ。占い師や雑貨品、何を売っているのか良く分からない店などが所狭しと並んでいた。
「綺麗〜♪」
そして彼女が目をつけたのはエヴィ結晶の専門店だった。鮮やかな色の石、エヴィの塊の事をエヴィ結晶と言うのだ。
「お嬢さん、エヴィ結晶を持ってて損はないよ。綺麗だし、加工すりゃ宝石みたいにもなるし、いざとなれば燃料にもなったりするよ」
店主の男がルーシェに営業トークを始めた。
「ルーシェ、エヴィ結晶を見た事はないのか?」
「いや?あるよ〜?でもいつも見るのは赤と青のばっかりかな。ほら、ストーブに。勿論その2色も綺麗なんだけどね。やっぱり安物だし燃料用だから、こんなに鮮やかじゃないんだよね」
「成程、と言うことはお嬢さんはスヴィエート出身かな?」
「あ、はい、そうです!」
「ストーブっつー光機関を使うにゃ、赤色の炎結晶と青色の水結晶を使うからな」
「あれ、原理どうなってるんですか?私何気なく使ってるけど、よく分からなくて…」
「結晶と言うのはねぇ、そのエヴィ結晶の反対属性を注入する事で反応するんだよ。勿論、量を間違えると大変な事になるから、使い方は用心だよ」
「へぇ………」
店主の説明イマイチ分かっていなかったルーシェに付け加えてアルスは説明した。
「つまり、ストーブを例にするとね。まず燃料の炎結晶を火属性のエヴィに還元しないといけない。そのために水結晶も同時に使うんだよ。その相反する反対属性のエヴィ結晶同士を反応させ続ける事で、結晶から火のエヴィが生み出され続けて、暖がとれるんだ」
「なるほどぉ…!そんな事やってたんだ……!」
「兄さん分かり易いねぇ、その道に詳しいのかい?」
「光機関とか大好きなんだ。エヴィが無ければ動かないからね。確認されている属性は今現在8種類あって、火、水、風、地、雷、氷、光、闇だよ。」
「私、知らない事だらけ……。なんだか少し恥ずかしいな……」
「これから知っていけばいいんだよ」
アルスはルーシェをやんわりと慰めた。我ながら彼女に甘いなと思う。しかし次の瞬間、店主が血相を変えて叫んだ。
「………!ど、泥棒!」
「え?」
「っ!やばっ!」
突然店主が叫び出した。アルスは急いで辺りを見回した。女の声がした。
「え!?ん!?」
そこにはフードを深く被った人物がいた。いつのまにかアルスの横にいたらしい。
「あのフード被った奴!今懐に俺の商品を入れやがった!待ちやがれ!盗人!」
「何?いきなりどうしたの!?」
店主は急いで追いかけ始めた。泥棒は駆け出した。フードを被ったそれは全速力で逃げていく。
「本当に噂通り治安が悪いんだな……」
「大変!どうしようアルス!」
「どうしよう、って……」
「私達も追いかけよう!?」
「えぇっ!?」
ルーシェはアルスの手を握り走り出した。泥棒は人混みをかき分け、身のこなし鮮やかに逃げていく。
「待て!誰か!そいつを捕まえてくれ!泥棒!泥棒ー!」
店主が叫ぶ方向にルーシェは全速力でアルスを連れて行く。やっと追いついたと思うと、泥棒は商店街の道ど真ん中で止まっていた。両脇に店が建ち並び、人が多く賑わっている場所だった。民間人は何事かと騒ぎ始める。
「観念したか!?おとなしく…」
店主が言い終わらないうちに泥棒は何かを床に投げつけた。パン!パン!パン!と音をたて何かが爆発した。
「っ!?」
「爆竹!?」
「それだけじゃないっつーの!」
また聞こえたその泥棒の声は明らかに女だった。爆竹によって周りの野次馬諸共店主を怯ませた彼女はまた地面に何かを投げつける。アルスは一瞬の内にそれが何か分かった。
「っ閃光手榴弾!?」
「えっ、何アル………」
キーン────────
耳をつんざく音が響いた。悲鳴が上がり、何も見えない。真っ白だ。
「……くっ!ルーシェ!ルーシェ!どこだ!?」
「うぁあぁぁ、アルスぅ、どこ!?耳、耳がキーンって……!視界が真っ白だよぉ!あれ!?今度は真っ黒!?」
「ごほっ、げほっ!煙……!?あいつ爆竹と閃光手榴弾だけでなく、煙幕まで!」
やっと視界が明けてきたと思ったら黒い煙が立ち込めていた。そのせいで視界は最悪だった。野次馬達もパニックに陥っている。
「…………きゃぁ!」
「ルーシェ!?どうした!?どこにいる!」
「おい!あっちに逃げたぞ!」
「待ちやがれ!」
「ルーシェ!?ルーシェどこだ!?」
「アルスー!」
ルーシェを見失ったアルスは必死に彼女の姿を探した。だが大勢の民間人パニックに陥りこう入り乱れては、あたりを確認するだけでも大変な事だった。そしてやっとアルスは地面に倒れ込んで尻餅をついているルーシェを見つけ出した。
「大丈夫か!?何があった?」
「けほっ、けほっ!あの泥棒の人とぶつかったの!」
「奴はどこに行った!?」
「分かんないよ〜!?煙で辺りは全然見えないし、ぶつかったのがフードかぶってたあの人だったから分かったの」
「そうか……。とりあえず、この周辺から脱出しよう!」
「うん!」
アルスはルーシェに手を差し伸べて立ち上がらせた。しかし、
「あぁっ!?」
「今度は何!?」
「ない!」
「ないって、何が?」
「私のナイフがない!」
「ナイフ?」
「腰に付けてたナイフ!大事なものなのに!」
「あぁ、あれか」
アルスは思い出した。腰の後ろ位置に彼女はナイフを装備していた。
「でも、たかがナイフだろう?また買えば…」
アルスは言った。しかしルーシェは顔面蒼白であった。
「あれ、私の両親の………形見なの!!」
「何だって!?」
「あの人にすられたんだ絶対!!だってすれちがってぶつかった時、腰に衝撃があって、私倒れたんだもん…」
「そう、なのか………。とりあえず、探してみないか?もしかしたら落ちてたりして、見つかるかもしれない」
アルスとルーシェは煙と人混みが大部はけてきた時、先程の場所に戻ってナイフをダメ元で探してみたが。
「ダメか……」
「どこにもないね……」
結局見つからなかった。やはりあの女盗賊に盗まれたと考えるのが妥当だった。沈んだ気持で宛もなくただ何となく歩き続け2人は商業地区から抜けていた。一番最初に来た港地区に戻って来ていた。しかし、そこでも何やら人だかりができていた。
「何だ?」
アルスは気になった。何故ならそこがスヴィエートの港地区だったからだ。自分達が乗ってきた船が、あそこに停泊したのだった。
「スヴィエートに行けないって、どうゆうことですか!?」
アルスは野次馬をかき分けた。そこにはスヴィエート人と思われる人々が沢山がいた。
「命令なんだ!とにかくダメだ!」
「そんな!なら私達は何の為にここに来たんだ!?」
「今スヴィエートには1人も立ち入らせてはならない!スヴィエートの港も同じなのだ!出国禁止令がででる!それに伴い入国も禁止だ!例えスヴィエート人であってもだ!」
貿易船の船員とスヴィエート軍人が言い争っていた。
「貿易品どうするんだ!?我々の仕事は!?」
「知らん知らん!私達は軍人であって、商業人ではない!それに!ここに駐在している我々軍もお前達と同じ立場なのだ!」
「あんまりだ!!」
「その規制はいつ解除されるんだ!?」
「解除の目処はたたない。いつになるかは、誰にも分からないのだ!」
「閉鎖の理由は!?何のために!?」
「知らないと言っているだろう!!」
「入国禁止だって……!?」
アルスはその騒ぎに衝撃を受けた。
「出国も、入国も禁止なんて……!いや、それだったらルーシェも帰れないことになるじゃないか………!」
「アルス……?どうしたの?」
ルーシェがアルスに追いつき、彼に心配を掛けた。
「理由もなく港を封鎖する筈がない……!理由を明かさないと言うことは、何が隠したい事があるからだ。情報が他国に一切出回らないように仕向けられてる……!」
「アルス、大丈夫?一体何があったの?」
「あぁ、ルーシェ……。申し訳無い……。しばらくスヴィエートに戻れそうにないよ……」
「私も少し話を聞いたけど、何も理由がなくて港を封鎖するなんて、おかしくない?スヴィエート人も入っちゃ行けないなんて……」
「………何だか、天に見捨てられた気分だよ」
アルスは深い溜息をついた。トラブルだらけだった。前途多難、というのはこうゆう事を言うのだ。
「あぁ…………どうしよう………」
アルスは絶望に打ちひしがれた。ルーシェが思いついたように言った。
「あ!でも、アルス皇子様なんでしょ?それを理由に戻れないの?」
「あのな、ルーシェ。それが出来たらとっくにやってて、こんな苦労はしないよ……。何故そうしないかって。理由は聞くまでもないだろう?」
「えーっと……」
ルーシェはいまいち理解していないようだった。
「君と、シューラを襲った奴は誰だった?どんな格好をしてた?」
「………スヴィエート軍服……。あ!」
「そうだ……。俺の予定としては、また貿易船に乗り込んで、君をスヴィエートに送り届けて、その後責任を持って保護するつもりだった。治癒術が使えるからねルーシェは」
「でも、その貿易船は……」
「そう、貿易船どころか、ここにいるスヴィエート人は、全員今はスヴィエートには帰れない。もし俺が軍に、名乗りをあげて助けてくれって頼む。はいそうですか、では助けますって、本国に送り届けてもらっても、あの時と同じように反逆され、寝首を掻かれたりでもしたら……。それに……」
「それに……?」
「……君を守れない」
「アルス……」
「俺は君を危険にさらしたくない。ただでさえ昨日、治癒術が使える事が、軍の一部に知れ渡ったんだ。その情報がここにいる軍に知らされてないとは言いきれない。君の安全の保証が、できないんだ!」
ルーシェはアルスがそこまで考えてくれていたのか、と少し驚いたがここは素直にお礼を言った。
「………ありがとう」
「………何で礼を言うんだ。情けないよ、どうすることも出来ない、自分が………」
今のアルスとルーシェは八方塞がりの状況だった。