テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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二手に分かれて

宿屋の部屋をとりしばらく自由行動となった。皆体を休め暖まったりシャワーを浴びたりして疲れを癒す。ルーシェはラオの頭痛の具合を見るため彼の部屋に来ていた。

 

「ラオさん、もう痛みはありませんか?」

 

ラオの頭痛はすっかり収まり今は至って平常である。

 

「あ、ウン…、もう平気だヨ。わざわざありがとネ」

 

ラオはにこりと微笑むルーシェにお礼を言った。

 

「頭痛……。そういえは、以前にも似たような事がアルスに起きてましたね…。今度はラオさんが……」

 

ルーシェは思い出した。あれは確かベクターに船上で襲撃された時。

 

自分を庇おうとしたアルス。しかしベクターの標的は最初からアルスだった。ルーシェを庇いに来る事を前提した上で攻撃してきたのだ。アルスはそのフェイクにハマり、いきなり方向転換したベクターに対処しきれなかった。そして、それから庇ったのがラオである。突如まばゆい光に包まれ、その後アルスはあまりの頭痛のひどさに失神してしまった。

 

「ボク、頭痛がしてしばらくしたら視界が真っ白な空間にいきなり飛んだんだ」

 

「……?アルスみたいに失神しかかったってコトですか?」

 

「ウウン、違うんだ。その真っ白な空間に男の人が1人、いた」

 

「男の人……?」

 

「アルスに少し似てた。髪の色はアルスと同じ色だった。ほら、コバルトブルーの綺麗な青って感じの」

 

「アルスに似たコバルトブルーの髪の男の人……?」

 

「でも雰囲気は大分違ってた。爽やかで、物腰柔らかくて…、アルスみたいに堅苦しくないし髪もアルスより少し短い。その人は、サイラス。サイラス・レックス。ひとりでに話してて、自己紹介してくれた」

 

「えっ!嘘!?サイラス……!?」

 

ルーシェは大きな声で驚いた。

 

「ナニ?どうしたの?知ってるの?」

 

「そんな訳ない筈です、何か、何かきっと見間違えですよ!だって…サイラスは……!」

 

「サイラスは…?」

 

ラオは静かに答えを待った。ルーシェは顔を青ざめて言った。

 

「……私が生まれるもっと前に暗殺された6代目スヴィエート皇帝です。私の記憶が間違ってなければ…、多分サイラスはアルスの祖父にあたる人物…」

 

ルーシェは記憶をたどり、サイラスに関係する事をラオに説明する。

 

「────下町の人々から話は散々聞いたことがあります。サイラス暗殺後、即位した彼の弟、ツァーゼル。一時期彼が暗殺を企てたのではないかと騒がれたそうです。実際の犯人はアジェス人だったそうですが……。

 

ツァーゼル、彼はその…つまりアルスの大叔父にあたる人物ですね。

 

彼は、兄サイラスと対立していました。兄とは全く反対の思想を持ち、スヴィエート暗黒期として名高い時代を作り上げた最悪の皇帝だったらしいです。今も残る身分制度を確立し、とことんサイラスとは反対な事をした。民衆がサイラス政権下で行われた政策を望み、反対運動を起こすと大粛清が行われスヴィエートは激しい内戦状態となった。反政府軍とスヴィエート軍がぶつかり、戦力差は歴然。反対勢力の民衆は皆殺しにも近い形で粛清されたんです。生々しい記憶としてスヴィエートでは有名だと同時に苦い記憶でもある。忘れないように親から子へと語り継がれる場合が多いそうです。私もその1人です。最も私の場合、女将や下町の人から聞いた話ですけど……」

 

身分制度と言うのも、スヴィエートでは特徴的だ。首都も貴族街、平民街、そして貧民街と分かれている。ラオは頷いた。

 

「なるほどネ……。まぁツァーゼルは今はおいといて、祖父ネェ……どうりでアルスに似てたわけだヨ…」

 

「でも、何でその人がラオさんの頭痛の幻に?」

 

「それが分かったら、頭痛に悩まされないんだけどネ。原因何なのかな…。でもツァーゼルってのもナーンカ聞き覚えあるような……ん〜、ダメだ……」

 

ラオははぁ、と溜息をついた。そして思い出したように行った。

 

「あぁ、そうだ。この事は、アルスには黙っててくれないかな?」

 

「え?どうして?」

 

ルーシェは疑問に思った。アルスの祖父の話なら彼は知っているかもしれないからだ。

 

「彼、何だか今神経質じゃない?ルーシェも今喧嘩中なんデショ?」

 

「……それは…」

 

「防空壕で喧嘩してたよネ。途中から話がズレて、彼のコンプレックスに触れてしまったってところかな。昔、つまり過去の事を口にしたときだったよネ。アルス、何だか過去にあまりいい思いを抱いていないみたい。皇帝家ともなれば、家系が複雑なのも肯けるヨ」

 

「そう…ですね…」

 

ほんのちょっとした事からすれ違いが始まり、アルスとルーシェの2人仲に深い亀裂が刻み込まれてしまった。ラオはなんとなく察していた。一線引いた目で見てはいるが、実はよく観察し、見ている。口にしないだけだった。

 

「だから、頭痛の事を話すのは、今じゃなくていいと思うんだ。ただでさえさっきのはボクの問題だったしネ。あまり彼に心配かけられないヨ。迷惑にもなるし」

 

「分かりました……、そうゆう事にしておきます…」

 

「ウン、ありがとう」

 

 

 

一方その頃、ロダリアはというと─────

 

「そこのお二方…、私と一杯どうです?」

 

ロダリアは1階のダーツバーに来ていた。そしてそこで、先程からダーツをプレイしていた非番中の軍人2人に話しかけた。

 

「あ?誰だアンタ?」

 

「ちょっとお聞きしたい事がありますの。立ち話もなんですし、カウンターで御一緒にお飲みしません事────?」

 

ロダリアは上品に笑うと扇子で口元を隠した。

 

 

 

アルスはシャワーを浴び終わり着替えるとベットに座った。棚に置いておいた懐中時計を手に取ると鎖を持ち、蓋に装飾されているスヴィエート皇室の紋章をじっと見つめた。この紋章から明らか父、つまりスヴィエート家の者が所有している筈なのに何故か話によると母の形見となっている。つまり、裏切り者のスミラだ。父があげたのだろうか?母はこの金色の懐中時計を一体どこで手に入れたのだろうか?やはり父が?

 

────謎は深まるばかりである。

 

「………本当、俺は両親について何一つ知らなかったんだな……いや、スミラの事になると、知りたいとも思わなかった…」

 

20歳にもなって後悔している自分が馬鹿に思えてくる。物思いにふけっていると、コンコン、と誰かが扉をノックした。

 

「…はい?誰ですか?」

 

アルスは立ち上がって言った。

 

「私ですわ」

 

「その声はロダリアさん?」

 

アルスは扉を開けた。ロダリアが立っている。

 

「ふふ、いい情報が手に入りましたのよ、感謝して下さいな」

 

「情報?」

 

「ええ、これからの目的に大いに関係してくるかと……」

 

「………とりあえず、部屋にどうぞ」

 

アルスはロダリアを招き入れた。

 

 

 

その日の夜アルスの部屋に皆が集まった。テーブルを囲み、彼を中心に話をする。

 

「皆、これからの予定についてなんだが……」

 

アルスは神妙な顔付きで話始めた。

 

「ロダリアさんからある情報を聞いた。非番中のスヴィエート軍からの噂話だそうだ」

 

「噂話?」

 

ノインの返しにロダリアが答えた。

 

「ええ。なんでも、シュタイナー研究所とかいう所で、ここ最近大規模な研究や実験が繰り返し行われているそうですわ」

 

「シュタイナー研究所………」

 

ガットが呟いた。

 

「そこは昔からスヴィエート皇室が関係しているそうです」

 

「へぇ〜、アルスは知らなかったの?」

 

「あぁ、知らなかった。俺もさっきロダリアさんから聞いたんだ。俺達の時代になかったということは、恐らくこの時代限定で重要な機密だったんだろう。戦時時代独特のな」

 

カヤの問いにアルスは答えた。

 

「そう、兵器を開発したりする所なら尚更国家機密の筈です。国家機密となれば皇室管轄の研究所と言っても不思議ではないはず……。私はそこに目をつけましたわ」

 

「つまりどうゆうコト……?」

 

「ロピアス王国でラメントがもう陥落していたということは、スヴィエート軍がロピアス本土に既に上陸しているということ…。つまり、マクスウェルがもうロピアスにはいないと言っても過言ではないでしょう」

 

「もう……スヴィエートが手に入れてる……って事ですか?」

 

ルーシェが言った。あえてフレーリット、とは言わなかった。あまりアルスの逆鱗に触れたくはない。しかし、当の本人アルスもそう予想している。

 

「えぇ、あくまで仮説ですがね。可能性は高いでしょう。フレーリット氏がマクスウェルを掌握しているとして、しかも研究、実験となればそれ相応の施設が必要です。管理するにもね……。そして、ここ最近では何かの研究、実験が頻繁に行われている……。これ以上怪しい事はありませんわ」

 

ロダリアの言う通りだった。アルスも先程2人きりで聞かされたがまさにそれしか今は可能性がない。父の事が未だよく分からずじまいだが、自身とロダリアの仮説通りだと、結局辻褄が合いすぎているのだ。あと残る仮説といえば────

 

「まぁ、先程言った通り、あくまで仮説を前提とした予想。そして、そうではないとする場合の仮説は…」

 

ロダリアはアルスを見た。目が合い、アイコンタクトで合図を送られる。話せ、と言っているのだろう。

 

「あと残る可能性は……、父、フレーリットが直接マクスウェルを掌握している事だ。そんな所業出来るのか定かではないが、可能性がないとは決して言いきれない。もしかしたら、体に精霊を取り込む事だって出来るのかもしれない。父は自ら戦場に立った。そして、かなり精度が高く、完成された高威力の完璧な光術を用いたリュート・シチート作戦に前線として参加した。つまり、道は2つ。シュタイナー研究所に行くか、スヴィエート城へ行き、直接何か手がかりになるものがないかを探す」

 

可能性は五分五分と言ったところか。どちらも有り得る話なのだ。

 

「でも師匠、どうするのだ?順番に回ってその可能性とやらを潰していくのか?」

 

フィルがロダリアに聞いた。

 

「あら、それは私の考える事ではありませんわ。アルスが決定を下す筈です。この話は今より事前に、アルスに話していたことですからね」

 

そう、目的の決定権はリーダーであるアルスにある。

 

(ま、私は城行きを所望しましたがね)

 

あとは彼の決断を待つのみ。そうロダリアは助言したに過ぎないのだ。しかし、事は思い通りに転がっていった。自暴自棄に陥っている人程掌で転がりやすい。

 

「これから、4人4人で、二手に分かれて行動する。研究所へ行くチームと、城へ行くチームだ」

 

ロダリアはほくそ笑んだ。




次話から研究所サイド、城サイドと交互に話が進みます。こっちがここまで進んだらあっちに切り替わる、みたいなゲーム展開。
なお、残念ながらパーティは固定。

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