テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
「二手に分かれる…か。それが1番効率いいわね…。でもチーム分けどうすんの?アンタはどうせスヴィエート城でしょうけど」
カヤはアルスに言った。しかしアルスは首を振った。
「いや、俺は研究所だ、スヴィエート城にはロダリアさんに行ってもらう。彼女は城行きチームのリーダーになってもらう」
「はぁ?何で1番城の事知ってるアンタ自身が行かないわけ?」
「考えてもみろ。俺は現代のスヴィエート皇帝だ。隠密に行動するとは言え、外見や目の色でバレる可能性だってあるし、明らか不審に思われる。特に側近のハウエルやマーシャ、そして両親と接触するのは極めてまずい。顔を見られちゃいけないんだ。未来を変えかねない」
「な、なるほど……、確かにそうね……万が一ってのがあるし」
カヤは納得した。
「だが、正直少し興味があったりもする……」
「何に?」
「俺の父と母だ」
「あぁ、ご両親の事ね……」
「でも…、会わない方がいいんだ。特に、スミラと会ったら…………。はぁ、俺は平静ではいられないかもしれない。それも考慮して考えた結果だ。安心しろ、城の地図は既に書いておいた。父の部屋も書き込んでおいてる。後はルート通りに行くだけだ」
アルスは書いておいたスヴィエート城の地図を引き出しから出した。
「それで?チーム分けはどうすんの?くじ引き?」
「俺が考えておいた、まず……」
「俺は研究所行きを希望する」
アルスの言葉を遮るようにガットが言った。いつも適当に流し積極的な態度など皆無な男が、自ら希望した。
「ガット?珍しいな、だが何故?」
「頼む、アルス。それに俺、その研究所多分知ってんだ。あと治癒術も多少使える。治癒術師は片方に1人は入れておいた方が絶対いい筈だぜ」
「…………それもそうだな、分かった」
アルスは少し心の中で安心した。ただでさえ気まずいルーシェと同じチームになると行動に支障をきたしかねない。ガットが一緒ならルーシェとは別チームになる。アルスはガットの願いを受け入れた。
「ルーシェは私のチームに、いいですわね?」
「はい…、分かりました」
残るメンバーはフィル、ラオ、ノイン、カヤだ。
「城の方は完全な潜入捜査になりますわ。よって子供のフィルは必然的に対象外。貴方は研究所チームですわ」
「……分かった、師匠がいうなら…」
「って事は僕も研究所って事で…」
「ノイン、お前は城だ」
アルスは素早く言った。
「ええっ!?何で!?」
ノインはフィルと一緒のセットのように仲がいい。だが今はそんな事考慮していられない。
「最初は変装の得意なカヤを城に行かせようとした」
「アタシ?アタシは別にどっちでもいいけど…」
カヤは自分を指差して言う。
「だが、城で変装するとしたら男の方が確実に動きやすい。男2人でスヴィエートの警備軍人に扮して、フレーリットの部屋に侵入するんだ。そうなると、残りのノインとラオは城行きだ」
「オッケー、潜入なら任せて!スパイ活動の基本だよネ。忍者のボク!色々城での行動なら役に立つと思うヨ!」
「うー……フィルと別れるのか……、まぁ仕方ないか……。分かりましたよ…」
ノインは承諾した。
「じゃあアタシは研究所って事ね」
「あぁ、ノインとラオに変装のコツでも教えておいてくれ」
「そんなホイホイできるもんじゃないっての!まずスヴィエート軍人の服!それが必要でしょうが!」
「あら、それなら心配ありませんわ」
ロダリアが言った。
「こうなる事を想定して、既にご用意できています」
ロダリアは宿屋2階の物置部屋に案内した。そしてその扉を開けた。
「あー!これってさっきバーにいた軍人だ!師匠!?殺したのか!?」
「まさか、そこまでしませんよ。ちょっと眠ってもらっただけですわ。泥酔状態にもさせましたし、しばらく目を覚ますことはありません」
バーでダーツをしていた非番中の2人の軍人が下着姿で縛られていた。ぐっすりといびきをかいて寝ている。ロダリアは言葉巧みに誘い、この状態に持ち込んだのだ。
「うっわ、えげつな…」
カヤが言った。スヴィエート軍服は既に用意できているとはこのことだったのか。
「あら、変装の得意な盗賊さんに言われたくありませんわ?」
「ごもっとも………」
「じゃあ、ボクとノインはこのスヴィエート軍服着て潜入だネ〜」
「うへぇ……、絶対上手くいかないと思うんですけど……」
ノインはげっそりした。ルーシェがロダリアに言った。
「あの、ロダリアさんはどうするんですか?」
「私は平民街に売ってる洋服をそれっぽく組み合わせて、シスター姿に変装します。精霊信仰として使用人達や軍人達に祝福をしに来たシスターに扮します」
「な、なるほど。で、えっと、私はどうすればいいでしょうか……?」
「貴方の変装服は現地調達ですわ。まず私の助手としてついてくる、そして後にメイドに変装して、スミラに接近してもらいます。フレーリットの妻なら、彼の部屋に入る事等、造作もないことですから。貴方はスミラと親しくなり、そしてそれを介してフレーリットに近づくのです」
「メ、メイド!?」
「あら、貴方家事全般得意でしょう?うってつけのポジションですわ」
「わ、分かりました……、上手くいくかは分かりませんが、全力を尽くします……」
「シュタイナー研究所は、貴族街の北西にありますわ。さ、2人はまず着替えてください。そして私の服を揃えた後、アルスとたてた作戦をお話しますわ。では、ご武運を?」
そこで城チームと宿屋で別れた。残るアルス、ガット、フィル、カヤの4人は研究所だ。
研究所チームは貴族街に足を運び、北にあるシュタイナー研究所に来ていた。
「思ったんだけど、研究所ってそう簡単に入れるもんなの?」
「見学しに来ましたー、じゃダメか?」
「フィル…子供のアンタならもしかしたら通用するかもしれないけど、流石に無理っしょ……」
「どこか入れる場所が必ずあるはずだ。正面玄関ではなく、裏口とかが…」
「あぁ、あるぜ」
ガットがさも当然のように言った。
「それは本当か?」
「あぁ、言っただろ、俺知ってるってな。多分そうだと思ったが、やっぱりそうだった。昔来たことあんのよ」
「昔?お前スヴィエート人だったのか?それに貴族……?お前が?」
「何も俺がスヴィエート人だなんて言ってねぇだろうが。色々とあったのよ、で、どうすんの。裏口。案内するけど?」
「あまり深くは聞かない方がいいか……。分かった、案内してくれるならありがたい事この上ない」
「────こっちだ」
ガットが案内した場所は貴族街の片隅にあったマンホール。静かで人通りが少ない簡素な場所にポツンとあった。
「この下の下水道から、研究所に繋がる梯子がある。まずは下に降りて、その梯子を探す」
「分かった。よし、行こう」
アルス達研究所チームは、マンホールの梯子を降りていった。
下水道の道を抜け、しばらくすると天井に梯子が掛かってるいるのが見えた。
「アレだ。あれを登ると、研究所に繋がってる」
「しかし、どうしてこんな裏口を作ったんだ?」
フィルは上を見上げて言った。
「そうねぇ、万が一事故とかが起きて出口が封鎖されたりした場合の脱出路として確保しておいたんじゃないの?」
カヤが答えた。
「……まぁ、あながち間違っちゃいねぇな…」
ガットは目を伏せて言った。
「え?アンタどこまで知ってんの?まさか職員だった………とかはないよね?」
「ちげぇよ……。ま、多分入ってみりゃ分かるんじゃねぇの?」
「お前……過去にここで何かあったのか……?」
アルスは不審そうに聞いた。しかし、彼は答えなかった。無視して梯子を登っていった。
梯子を登り終え、研究所の床に降り立つと、皆が何かを感じ取った。
「……なんか、すっごいエヴィの濃い所ね……」
カヤは顔をしかめた。通常、エヴィは肉眼では見えないが濃度が濃いと属性に従ってその色を表す。イフリートの時は赤い色をしていたというように、それぞれ色が違う。しかし、現在の場所は様々なエヴィが混ざり合い、紫色の霧状のモヤがうっすらと見える。アルス達は梯子がある部屋を出た。薄暗い廊下に出る。更に不気味だった。まるで毒ガスのようにエヴィが宙に円満していた。
「薄気味悪い所だな……、しかも、人の気配が感じられない……。本当に研究しているのか?ロダリアさんは大規模とか言っていたが……」
「それは恐らく、ここのエリアが通常の研究員は立ち入り禁止になっているからだ。下水道から上がってきたってことは、地下施設って事だ。つまり、光の当たらない、影の……」
ぅおぉおおぉおおおぉおぉぉぉん───────
廊下の奥から、突如地に響くような不気味な唸り声が聞こえた。
「ギャー!!カヤ!!今のはなんだ!?」
「知るかぁあ!ってちょ!ひぃぃいぃアタシを盾にしないでよぉ!」
フィルは悲鳴をあげてカヤの後ろに隠れた。
「な、何だ今の声………!?」
アルスも声が震えていた。
うぁああぁあおおおお────
「ちょっとちょっとぉ!アタシ達は肝試ししに来たんじゃないっての!」
カヤは涙目になり、必死に後ずさる。しかし、段々と声は近づいてくるのだ。
しかし、声は聞こえ続ける。それにも増して、ヒタ…ヒタ…と何かが歩く音も聞こえてくる。人間の靴音とは思えない。聞いたこともない音だ。
「この声………」
ガットは何かに感ずいた。しかし、確信が持てない。いや、持ちたくなかった、と言おうか。
「おい!何か来たぞ!」
アルスは拳銃に手をかけた。ヒタ…ヒタ、と歩いてくるそれは、人間─────。
いや、おおよそ人間とは言えなかった。しかし足はある。それに、白衣と思われる白い布がボロボロになりつつもかろうじて体に着ている。上半身は、結晶とような物に覆われたいた。様々なエヴィが凝縮し結晶化したものだ。
「なに…………あれ…………?」
「ひっ…………」
カヤとフィルは立ち尽くして戦慄した。
「ア゛ァァアァアァオ゛ォオ゛ァオ゛アァアアア!」
その得体のしれない生物は手を伸ばしてこちらに近づいてくる。
「嫌……来ないで……!来ないでよっ!!」
「やめろ!しょ、小生に近づくなぁ!!」
「2人共!下がれ!」
アルスは恐怖を押さえ、カヤとフィルを手でかばった。しかしその生物は、
「イオ………オレイル………ア゛ット……アァアアァ」
そう言い残しガシャァン!と、耳障りな音を立てて床に崩れ落ちた。結晶が砕け散り、やがて跡形もなく空気中に消えていった。そして、白い布がパサリと床に落ち、そしてカラン、と金属の音がした。
「……え、何……、何なの?何て言ってた?」
「………し、死んだのか?」
アルスは恐る恐る近づいた。何も動く気配はない。完全に結晶からエヴィに昇華したようだ。ガットも近づき、しゃがんだ。そして、先程音を発した金属を拾い上げた。
「それ……鍵か?」
アルスが尋ねた。
「あぁ、みたいだ」
鍵を見ると、何か文字が刻み込まれている。数字だ。
「084……」
アルスはその数字を読み上げた。
「これは多分、研究員の部屋番号だ。つまり、コイツはここの研究員だった。恐らく、俺の記憶が間違ってなけりゃ………。認めたくないが、まさかハーシー……」
「ハーシー?」
「いや、まだそうと決まったわけじゃねぇ…。とりあえず、ここの番号の部屋に行ってみようぜ」
ガットの意見に皆同意し、研究所を散策した。そしてその部屋を発見した。
そこは研究員が寝泊まりする部屋だった。しかし、個人部屋だ。この部屋の人物はそれなりに階級が高いのだろうとアルスは思った。
(幹部の1人……か?)
簡素で必要最低限なものしか置かれていないその部屋。しかし机の上に、何かが置かれていた。本だ。
「これは、日記?」
カヤがそれを手にとった。
「ハーシー・グレイウェル…、と書かれているな」
「………やっぱり、そうだったか………」
ガットは溜息をつき、首を振った。
「知ってるのか?」
「あぁ、……話せば長い、とりあえずアルス、それ読んでみないか?」
「あ、ああ。分かった」
アルスはゆっくりとその日記を読み始めた。