テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
「ホ、ホントに、ホントに上手くいくんでしょうか……!?」
ルーシェはロダリアの服の裾を掴みながら言った。
「覚悟を決めなさいルーシェ。この先は行き当たりばったりしかありませんわ。計画などたてても無意味です。貴方はスミラが相手なのですから」
城チームはゆっくりと貴族街の道を歩いていた。この道を抜ければスヴィエート城だ。右隣には妙に似合ってるシスター服姿のロダリア。先程平街の仕立て屋で仕立てたものだ。
「しかし、物の見事に様になってますね……」
「あら、そうゆう貴方こそ、ノイン?」
「………どうも……」
「同僚皆背高いから気まずそうだネ!ノイン!」
「だぁから!身長の事は!言わないで!下さい!!」
そして左隣にはスヴィエート軍服姿のノインとラオ。こちらもこちらで2人ともなかなか似合っている。この中で唯一通常服なのはルーシェだけだ。
「ルーシェ、まず城に入ったら地図なメモ通りの手順に、ひっそりと、さり気なく私から離れて行ってください。そして、使用人達のロッカールームに入ったら、適当にメイド服を拝借し着替えるのです」
「そそ、その後は!?その後はどうすればいいですか?」
「あとは自己判断です。流石にスミラの場所までは分かりません。ですから、自分の判断で行動して下さい。くれぐれも怪しまれないように、スミラを探して近づくのです。貴方ならきっと大丈夫な筈ですわ。
─────さ、着きましたわよ。お二人は先程仕立て屋で話したとおり、お願いしますわね?」
「リョーカーイ!」
「そっちも上手くやってくださいよ!でないとこっちも動けないんですから!」
「ええ、勿論…」
「ご苦労様ー!」
「ご、ご苦労……」
ラオとノインは城の警備に配属されている2人の警備軍人に声をかけた。
「ハッ、異常はありません」
ラオとノインの軍服は警備軍人のとは違う。階級が少し高い者が着れる服の為、難なく素通りできる、かと思いきや…。
「すみません、そちらの方々は……?」
軍人姿のラオとノインの後ろに、シスター姿のロダリアとルーシェがいた。
「こんにちは、いつも警備お疲れ様ですわ」
ロダリアは静かなトーンで話しかけた。
「………誰だ貴様は?」
警備軍人は顔をしかめた。
「あぁ〜っとね、この人達は、ボク達スヴィエート軍を勝利に導いてくれるお祈りや激励をしてくれる精霊信仰の宗教のお偉いさんだヨ!」
「精霊信仰のお偉い……?曖昧だな……しかもそんな連絡は届いていないが……?」
「サプライズですの…。皆さんに暖かいお料理も後でお持ちいたしますわ。そして、どうかスヴィエートに、精霊様の御加護があらんことを……」
ロダリアは服の裾をつまむと恭しくお辞儀をした。
「……………そちらの女性は?」
「この方は私の助手……。主に下請けの仕事を引き受けてくれて、お料理を作ってくださるのもこの子ですわ。付き人……と、言ったところでしょうか?」
「ど、どうぞお見知りおきを……」
ルーシェもロダリアと同じようにお辞儀をした。しかし、
「どうも怪しいな………。怪しすぎる………。そもそもフレーリット陛下はそうゆう類のものは一切信じず、受け入れない御方だし……」
「あぁ……、これ、もっと上の方に確認とった方がいいんじゃないか?」
もう1人の警備軍人が提案した。
「ちょ、ちょっと……ラオさん……、この流れ非常にマズいんじゃないんですか……」
ノインは小声でラオに耳打ちする。
「あら…?こうゆうものは一々陛下の許可が必要でして?」
「2人には申し訳ないが、少しここでまっ……」
「ずぇぇぇぇえええいい!!」
ラオは渾身の力で両手に持った札を2人の警備軍人の顔に叩きつけた。警備軍人は一瞬固まり、札が剥がれると言った。
「どうぞお通り下さい」
「お時間を取らせて申し訳ありませんでした」
いきなり彼らの態度が急変した。そして城への門を開けてくれた。
「ちょっとぉ!そんな札があるなら最初から使ってくださいよ!」
ノインはラオに掴みかかった。
「これ3枚しかないの!!なるべくとっといて使いたくなかったのにこれで2枚も消費しちゃって!!残り1枚だヨ!!」
「どうしてもっと用意してないんですか!」
「無茶言わないでヨ!そんな簡単に手に入るものじゃないんだヨ!これかなり貴重なんだヨ!」
「ラオ!ノイン!今はそんな争いは無意味ですわ!」
ロダリアは2人を引きはがし言った。
「もう作戦は始まってます。早く行きますわよ!」
「えぇぇえい!もうなるようになれ!」
「ダイジョーブなんとかなるって!」
「ひぃいぃ、私これから1人行動……!やだなぁもぅ……!」
こうして、城チームはドタバタながらも潜入捜査に入っていたのだった。
ルーシェは使用人達のロッカールームに無事たどり着き、メイド服を探していた。ラオ、ロダリア、ノインの元の服もルーシェが全て預かっており、ロッカーにしまった。
「そんな、簡単に、見つから、ないよね〜……」
ルーシェはロッカーを1つずつ確かめ、開けては閉め、開けては閉めを繰り返していったが、そう簡単には見つからない。
「あぁ~、どうし、よー。早く、見つかって、ってあったー!!」
ルーシェはやっとメイド服を見つけた。サイズも少し小さいがまぁいい。ルーシェは素早くそれを手で掴むとそれに着替えた。
「………よし!」
ルーシェは腰を叩くと自身に気合を入れた。
「頑張るよ!私!」
そしてロッカールームを出ていった。
同時刻、ロダリアとラオとノインはというと。
無線管理室がある廊下の角。ロダリアが小声で話している。
「作戦通り、まず連絡手段を確保するために無線を拝借します。そして1人1つずつそれ持ちます。後にルーシェにも無線は私が渡しておきます」
「あんな無謀な作戦……上手くいくんです?」
「上手くいくためには、貴方方が上手く立ち回る事、ですわ」
「はいはい……」
「じゃあ仕掛けてくるネ」
ラオが先陣を切った。ラオはカヤから貰った爆竹を無線部屋の前に置いた。そして素早く角に戻って来る。
「よし、ノイン、頼むヨ」
「オッケ~………、ほっ!」
ノインはキューを取り出すとを爆竹に向け突き出した。次の瞬間炎が先端から飛び出し爆竹に火をつけた。バン!バン!バン!と大きな音を出し爆発して煙を出した。
「何だ!?」
「一体何が起きた!」
扉のロックが解除され開き、中からゾロゾロと人が出てきた。
「今ですわノイン!」
「いきますよ!」
ノインはカヤから渡された催眠玉を宙に投げ、キューでつついた。それはノインのエヴィでコントロールされ部屋の中に入って行く。中で弾けたそれは催眠ガスを発生させた。
「よし!行くヨ!」
ラオはマフラーをマスク代わりに巻き付け、扉へと走り入口付近にいた無線の管理者たちを部屋に押し込んだ。先程の爆竹を聞いて出てきた2人だ。
「やめろ!何をすっ……」
(ごめんヨ~)
そして彼らを押し込んだ後、ラオは扉に札を貼り付け素早く閉めた。自身の背も扉をつけて、中から出られないように押さえる。ドンドン、と扉を叩く音と咳き込む音がする。そしてしばらくするとそれもなくなり、静まり返った。
「上手くいった……かな?」
ラオは扉を開けた。すると中にいた人々は全員眠っていた。
「とりあえず、無線は確保…ですわね?」
ロダリアが言った。
ルーシェはロッカールームを出て、城の階段を上っていた。
「ぁあ、あのっ!スミラ様!スミラ様どこにいるか分かりますか!?」
しどろもどろになりながらも階段を掃除していた1人のメイドに話しかける。
「スミラ様ならさっき中庭にいたわよ?あの方がどうかしたの?」
「ぇ、あっ、ええと!先程仕事を頼まれたんです!それで!その報告を!」
そのメイドは首をかしげた。
「……?よく見ると貴方見ない顔ねぇ?新人?」
「は、はい!そうです!ぁあ早く行かないとスミラ様に怒られてしまうかも!私!もう行きますね!」
ルーシェはそのメイドを通り過ぎ、階段を駆け上がった。
「ちょっと!中庭は1階に決まってるでしょー?」
「そそ、そうでしたー!!」
慌てて引き返して降りていく。
「落ち着きのない子ねぇ~……」
階段を降り中庭へと続く通路を歩いた。
「きゃあっ!?」
すると角で誰かに腕を掴まれ引きずり込まれた。
「しっ、静かに、私ですわ」
「ロダリアさんっ!?」
ロダリアはルーシェの口に人差し指を当てて黙らせた。
「ルーシェ、これを」
ロダリアは1つの無線機をルーシェに渡した。先程手に入れたものだ。
「なんですかこれ?」
「無線機ですわ。別々行動の我々4人の唯一の連絡手段、無くさないで下さいまし?」
ロダリアはルーシェに使い方を少しレクチャーすると、またどこかに立ち去っていった。
「そういえば、ロダリアさんはどんな役なんだろう……?2人のサポートなのかなぁ?」
ルーシェは無線機を服にしまうと、再び中庭を目指した。
「いた、あれだきっと!」
ルーシェは中庭の位置やどんな場所なのかもある程度は知っていた。アルスの戴冠式の後に来たからだ。そしてその中庭の中央、ジョウロを片手に花に水やりをしている女性がいた。ローズピンクの髪。花片を思わせるふんわりとしたスカートにエプロン。ルーシェは彼女に近づき、勇気を出して話しかけた。
「あ、あの!スミラ!様……ですよね?」
「はい?」
その女性がルーシェを見た。
(わっ、つり目がアルスそっくり……)
背はルーシェより低い。その為か高いヒール靴を履いている。髪は結んでいなく全て下ろしている。かなりの美人だ。
「私に何か用?」
「こ、こんにちは、私、メイドの新人で、ルーシェって言います。ええっと、ご、ご挨拶に来たんです!」
「あらそうなの、こんにちは。わざわざどうも。私はスミラ、フレートの婚約者よ……ってあ、いけない、これあんまり他言しちゃいけないってフレートに言われてたんだった…、まいっか☆」
このスミラという女性が、後にアルスの母親になるのだ。ルーシェは思わずまじまじと見つめてしまった。