テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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研究所サイド2

俺の名前はハーシー・グレイウェル。突然だが日記を付けることにした。毎日は書けないから恐らく部分的にはなる。俺がこの歴史あるエヴィ研究の権威、シュタイナー研究所に配属された事は、とても名誉な事だ。少しでもそこ事を記録していきたい。そしてこの国に貢献して行きたい。これからここでの研究員生活が始まりだ。ここが俺の第2の家となるだろう。

 

この研究所に来て3ヶ月、研究や実験で忙しい毎日だ。徴兵制の軍学校とは言え、学生時代もっと遊んでおくんだった。でも、こうしてここ、エリートが集う研究所に配属されたのも、学生時代に真面目に必死に勉強しておいたおかげだ。しかし、友人ともうしばらく会っていない。研究員の友人も話は合って楽しいが、やはり昔なじみの友人が懐かしい。

 

配属されてから半年がたった。相変わらず研究はエヴィについてばかりだ。だけど最近は特に複合光術の取得をさせられる。複合光術は、術発動の際、エヴィ結晶を用いて威力を最大限まで高める術の事だ。はっきり言って複合光術は難しい。使う術の属性と逆の属性を操れなければあの術は発動しない。火の術の複合光術を発動するためには用いる炎結晶に水のエヴィを操って注入して反応させなければいけない。しかし量が少なければエヴィに変換されず発動しない。逆にエヴィを注入しすぎれば結晶から大量のエヴィが放出されて暴走し、命の危険に晒される。エヴィの調節事態がかなり難しいのだ。よほどの光術エキスパートでなきゃ出来る芸当ではない。しかしどうしてこんな訓練じみた軍人の真似事なんかしなきゃいけない?俺らはあくまで研究員であって術の実践訓練はさほど必要ないはずだ。だがこの技術を訓練をしないと何だか研究員の風上にも置けねぇ、そんな冷たい視線で見られる。前にも書いたようにここはエリートが集うシュタイナー研究所。光術に長けた奴も多くいる。だが取得した者は少ないみたいだ。少しホッとした。俺だけじゃないみたいだ。

 

ここに来て1年、半年もかかってしまったが、俺はついに複合光術を会得した!!嬉しい事がもう1つ嬉しいことが起きた!!俺は研究所の幹部として昇格したのだ!!たった1年で幹部だなんて、あぁ喜びが文体には表せない程嬉しい。平民街の実家にも手紙を書いておいた。きっと喜んでくれているに違いない。そして俺以外にも幹部になった奴が2人いた。デンナー・エーリッジ、ローガン・キャドバリーだ。こいつらも複合光術を会得したのだろうか?何にせよ、幹部になったからには、配属が変わるようだ。このシュタイナー研究所には地下施設がある。ただでさえ上にも長いのに下にも長いとは、随分縦長に伸びた研究所なこった。そして昇格と共に上司も変わった。何か上と地下だと所長が違うらしい。俺の上司はクラーク・ヘクター・シュタイナーから、サーチス・イキシア・シュタイナーに変わった。まさかの女だ。びびったぜ。男社会のスヴィエートの中のさらに男社会の研究部門に女がいるんだから。しかも所長ときた。さらに驚く事に、噂によると彼女こそが、複合光術の考案者だそうだ。しかし部下に任せてあまり表には出てこないらしい。何か他の研究に力を入れているんだとか。怪しいな。さて、一体どんな研究生活が待っているやら……。

 

 

 

そこまで読んで、アルスは一旦中断した。

 

「サーチス……!?サーチス・イキシア・シュタイナー!?

 

「どうしたアルス?」

 

ガットが聞いた。アルスは知っていると思ったが、ガットは知らないらしい。

 

「お前、知らないのか!?」

 

「いや……俺は昔……名前だけ聞いたことはある…が、姿は見たことない。記述通り、殆ど部下に任せてたらしいからな……」

 

そういえば、ガットは城でもサーチスの姿を見たことが無い。話題も話したことがあるのはルーシェとカヤのみだ。

 

「サーチス……サーチス様は、俺の親戚で、従兄弟叔母だ……!」

 

 

「んだと……!?サーチスって…、スヴィエート皇室関係者だったのか!?」

 

「……とりあえずもう少し読み進めてみよう…!」

 

 

 

幹部になって1か月、ここの研究はヤバイ。ヤバすぎる。地下にある理由が分かった。最初は先輩方から7代目皇帝ツァーゼルの時代に成し遂げられなかった意志を継ぐものだと聞かされてきた。即ち、人口治癒術師を生産する事だ。聞こえはいいが、治癒術師を生産する過程がヤバイのだ。身寄りのない子供や孤児などを拾い集め、実験の材料にすると言った非人道的な研究施設であった。7代目ツァーゼルが残した何処で集めたかは知らないが、治癒術師達の細胞遺伝子サンプル。簡単に言うとそれを被検体に埋め込み、治癒術が使えるようにするというものだ。治癒術師には独特で特殊なエヴィが体内に流れているからだ。我々はそれを゛イストエヴィ゛と呼んでいる。そしてその実験結果もえげつないのだ。実験は失敗続きばかり。

 

大まか経緯を書くとこうだ。

 

まずサンプル、つまりイストエヴィを被検体に注入する。しかし、イストエヴィの素養のない者は必ず自己免疫反応を起こしてしまう。それにも増してイストエヴィ事態も何故か拒絶反応を起こすのだ。それがこの実験の最大の問題だった。まるで意思を持つかの如く、このイストエヴィは扱いが難しい。双方の反応が体内で暴れ回り、体の細胞はズタボロにされる。そして最終的には死ぬ。失敗だ。

 

次に、イストエヴィを注入後、被検体の免疫情報をエヴィで上書きする事によって体の免疫反応を抑えるという事を試した。しかしイストエヴィの方はそう甘くはなかった。意思を持つかの如く、と書いた。つまりそうなのだ。イストエヴィの拒絶反応は抑えきれない。奴らは被検体の細胞をいいように作り替えてしまった。正確に言うと、死んでいく元の被検体の細胞の代わりとして、新たに治癒術師としての細胞を生み出す。凄まじい再生力だ。結局は細胞が一斉に変わっていく事に対し体が追いつかない。なおかつ人格変動、凶暴化も見られ、バタバタと死んでいく。これも失敗だ。

 

その後改良の結果、イストエヴィに情報の上書きをした。簡単に言えば、今まではイストエヴィが強すぎた。だから抑制する命令情報をエヴィに変換し、それをイストエヴィに書き込んだ。ついに成功かと思われた。しかし、本末転倒だった。体内に入るエヴィの量が膨大になってしまい、被検体は耐え切れなかった。精神崩壊や、皮膚に斑点、結晶化が見られた。

 

治癒術師生産。

 

この実験の実現は不可能だ、と、思われた。しかし被検体の中で唯一3体のみ、成功したのだ。エヴィに対して多少の抗体を持つ者だ。

 

そいつらは

 

No. 0765 トレイル・ロトマイア 11才

 

No. 1457 リオ・ターナー 12才

 

No. 1778 ガット・メイスン 7才

 

 

この3人は見事イストエヴィと適合した。しかしあれだけいた被検体の中でたった3人とは。特殊過ぎる、このイストエヴィというものは。今後要観察対象、といけすかねぇデンナーの奴から言われた。アイツの目はちっとも光がねぇ。まるで人形のようだ。実験で頭がイカレちまったのか?

 

何にせよ、彼ら3人の世話係を頼まれたなんでもNo.0765No.と1457は適合が不十分らしい。しかし、これはあまりにも哀れだ。まだ10才そこらの子供だというのに。1番年下は7才だ。そして皮肉にも7才の奴が1番優秀な結果を残してくれる。他の2人も適合してくれるといいんだが……。

 

 

 

「No.1778ガット・メイスン!?」

 

アルスは日記に記されているその名前を見て驚愕した。

 

「これアンタの名前じゃない!」

 

カヤの声にガットは静かに息を吐いた。ついに隠しきれなくなった。そう、それはどうして自分が治癒術を使えるのか。

 

「あぁ……、そうだ。俺は、この研究所の、被検体だった……」

 

「そうか、だからお前は治癒術を使うことができるんだな?適合した1人だったから!」

 

「その通りだ」

 

「でも、どうやってここから脱出したんだ?やっぱりあのマンホールの抜け道が関係あるのか?」

 

フィルが言った。

 

「……、こいつが、この日記の書き手、ハーシー・グレイウェルが俺らを逃がしてくれたんだ」

 

ガットが再び日記を読み始めた。

 

 

 

あまり研究員としてよくないことが俺に起き始めている。いや、もはやこうなる運命だったのかもしれない。俺は元々情にもろい。彼らの世話をしているうちに、同情してしまったのだ。成功者の彼らだけ過酷な実験の毎日。モルモット生活で自由という言葉はない。一体彼らはいつから外に出ていないのだろう。いつから太陽の光を浴びていないのだろう。No.1778ガット・メイスンは安定期に入っているが、残りの2人は、これ以上実験を続けるとマズイ。無茶させすぎたんだ。俺は何度もデンナーとローガンに言ったが、奴らは耳を貸しやしない。所長の命令は絶対、としか言わない。一体どうすれば………。

 

とうとうリオに異常が見られ始めた。適合が上手くいかないからといって、上書き情報のエヴィを大量に摂取させすぎたんだ。いくら抗体を多少の持つとはいえ限度がある。それにリオは女だ。体が他の2人と比べ丈夫ではない。体力もない。彼女は1日に1回、精神が狂ったように凶暴化し暴れ出す。同部屋のトレイルとガットにまで被害を及ぼしてしまった。このままでは、このままでは………!なんとかしなければ。トレイルさえもいずれこうなってしまう。その前に、俺が何とかしなければ!!!

 

リオの精神崩壊が1日に数回になってきた。彼女の部屋を別にした。姉弟のように仲が良かった3人だったが、仕方がない。そしてトレイルの肌には斑点が見られ始めた。まだだ、待ってくれ。まだ耐えてくれ頼む。このスヴィエートの冬真っ只中に脱走なんかしたら凍え死んでしまう。もう少しだけ耐えてくれ!

 

ついに脱走計画を実行した。冬も終わりに近づいてきた今日のスヴィエート。この寒さなら、外に出ても、グラキエス山にさえ行かなければ凍死はすまい。No.0765 トレイル・ロトマイア。No.1457 リオ・ターナー。No.1778 ガット・メイスン。常に一緒で仲が良かった3人をこの地下の実験牢獄から開放してやった。この前教えてもらったマンホールの抜け道を使わせた。貴族街から出られるはずだ。あぁ、3人共、無事に生き延びてくれよ…。

 

「………なるほど」

 

フィルはガットが読んだ日記の内容を聞いて納得した。

 

「それでアンタ、どうしたのさ、この後」

 

カヤが言った。アルスもそこは気になるところだ。

 

「俺ら3人は、無事に逃げられた、そう思った。けど────」

 

ガットは語り始めた。あの苦い記憶を、命懸けの…脱出劇を。


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