テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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城サイド2

そう言うとスミラは再び花壇に水をやり始めた。ルーシェに課された潜入ミッションは、彼女と親しくなりなるべく多くのフレーリットの情報を引き出す事だ。そして最終的に彼の部屋に入れれば上出来、と言ったところだが流石にそこまで上手くはいかないだろうとルーシェ自身そう思っていた。それにフレーリット部屋の調査はあちらに任せた方が良さそうだ。しかし、会話も計算ずくめでやってもぼろが出てバレるだけだ。

 

(よし……ここは自然体に行こう…!)

 

ルーシェは笑顔でスミラに話しかけた。

 

「スミラ様、そちらのお花は何のお花ですか?」

 

ルーシェが指さした花は小さな白い花。丁度水をやっていた花だ。

 

「あぁ、これ?スノードロップよ」

 

「すのーどろっぷ?」

 

「白くてちっちゃくて可愛いでしょう?花言葉は希望、慰め、逆境のなかの希望、恋の最初のまなざし、よ」

 

「へぇ……、希望……!」

 

ルーシェはスノードロップという花に好感を持った。その小さく可愛らしい外見も好みだ。

 

「この花はね、冬に育つの。耐寒性が強くてスヴィエートのここの地域でも育つのよ。ただし土壌は選ぶから、ここの花壇に栽培してるんだけどね」

 

「凄い……、流石花屋さんですね!」

 

「あら。よく私が花屋だったって知ってたわね。新人さんでしょう?」

 

「えっ!?あ!さっき先輩に聞いたんですよ!」

 

ルーシェは咄嗟に思いついた嘘を述べた。未来から来て貴方の家に実際に上がり込ませてもらえました、なんて口が裂けても言えない。

 

「何だ、そうだったの。でもね、今は戦争中もあるし、身の危険もあるからって、あまり平民街にある私の家には帰れてないのよね、はぁ、ったくアイツ過保護過ぎんのよ……」

 

「そう、なんですか……」

 

スミラは溜息をついた。だがルーシェは納得してしまった。ただでさえ戦時中で何が起こるか分からない世の中だ。いくら勝ち越し続きで戦火に巻き込まれていないスヴィエートと言えども心配なのだろう。フレーリットがスミラを溺愛しているなら尚更の事だ。ルーシェは戦争という話題から反らすために花の話題に戻した。

 

「私、この花好きです!希望って、いい響きですよね!こんなの貰ったら、元気でちゃいます!」

 

「あら、水を差すようで悪いけど。その花、贈り物には向かないのよね」

 

「え?どうしてですか?」

 

「ロピアスから伝わる話でね。ロピアスでは、スノードロップは不吉な花として有名なのよ。貴方の死を望みますって花言葉でね。恋人の死を知った乙女ケルマはスノードロップの花を摘んで、恋人の傷の上に置いた。でも、命を蘇らせることはなかった。ただ、花が触れたとたん、男の肉体は雪の片、つまりスノードロップに変わってしまった。この言い伝えからロピアスでは死の象徴となっていのよ。勿論、異性に贈るなんて言語道断ね。貴方の死を望みますって言ってるんだから」

 

「そんな!こんな可愛らしい花なのに!」

 

ルーシェは慌てふためいた。

 

「まぁ落ち着いて、これはロピアスの話よ」

 

スミラはくすりと笑った。そしてしゃがむとスノードロップの白い花片を愛おしそうに撫でた。

 

「へ?ロピアスの?」

 

「そ。最初に希望って言ったでしょ?スヴィエートではこう伝えられてるの。月で暮らしている精霊アスカと精霊ルナ。2人の精霊はとても仲が良い親友同士だった。けどある日アスカは人間に興味を持った。そして人間に会ってみたいとルナに相談した。ところがルナは猛反対。2人の意見は完全に割れてしまったの。ルナは怒ってアスカを月から追い出してしまった。追放されたアスカ、もう月に戻ることは決して出来ない。堕ちた地上、そこは人の姿などまるで無くただ降りしきる雪の中だった。アスカは絶望したわ。けどそのとき、天使が現れて『もうすぐ春がやってきます、それと、酷い事言ってごめんなさい』と告げたの。そして、雪をスノードロップの花に変えた。天使はルナの使いだったのよ。アスカは親友ルナを許し、希望を見出したこの地上で生きて行く事を決めた。このことから、希望という花言葉が生まれたって言われてるわ」

 

「へぇ〜!そうなんですか!あ、でもルナとアスカの話は私も少し知っていますよ!スヴィエートの月明かりが他国と比べて明るいのは、2人がお話しているからなんですよね!」

 

ルーシェは女将に昔聞かせてもらった話を思い出した。これはアルスにも以前話した事がある。

 

「ええ、ルナが地上のアスカを照らしていると言われているわ。謝罪の念も込めて。見守ってる、照らしてる、例え生きる場所が違っても、私達は親友だ、ってね」

 

「素敵な話ですね〜」

 

ルーシェはその話を聞き安心した。両手を合わせウットリする。

 

「2人の絶縁の雪解けを現してるって、私は勝手に解釈してるわ。そして、雪解けと言ったら、新たな希望ね。だから、オーフェングライスでこの花が咲くと、徐々に季節が変わる潮時なのよ。冬が終わって、もうすぐ春がやってくる知らせなのよ」

 

「あ、そっか。だからあんまり寒くないんですね?」

 

スヴィエート出身のルーシェにとって、改めてあまり寒くない感じる。むしろ暖かい方だ。グラキエス山は相変わらずの寒さで、そこから下山して来たので気づくのが遅かったが、今の時期、冬がもう終わろうとしているのだ。

 

「そうよ。最も、春超短いけどね。すぐ夏。これもまた短くて次の秋すっ飛ばしてまた冬に逆戻りよ。ここの地域はホント不便ね。ほっとんど雪に覆われてるんだもの。寒いったらありゃしないわ」

 

スミラは再び立ち上がるとルーシェにやれやれと言った様子で言った。

 

「凍結風……、ありますもんね…」

 

「そうねぇ〜、グラキエス山がねぇ〜。あぁ、でも寒い環境下だからこそ、咲く花ってのもあるのよ。原因分かってないんだけど。その花は───」

 

「スミラ様!」

 

スミラが何かを言いかけた時、庭師の1人が彼女の名を呼び駆け寄って来た。

 

「シャガル?どうしたの?」

 

シャガルと呼ばれた中年の男性の庭師。彼はある折りたたまれたメモを差し出した。

 

「陛下からのスミラ様に渡してくれと申し付けられました。えーと、あと伝言なんですが…よろしく頼むよ、だそうです」

 

「はぁ?何がよ?」

 

スミラは訳が分らないと言った様子で、メモをひったくった。それを開いた途端、スミラは顔をしかめた。

 

「で、では私はこれで…」

 

シャガルがすごすごと立ち去っていく中、スミラは舌打ちした。

 

「チッ、ったくまぁた〜!?アイツどんだけよ!!」

 

「え、え、ど、どうされました?」

 

スミラのうんざりと言った表情にルーシェは不安になった。

 

「これよこれ!」

 

ん!と見せびらかしたメモにはこう書いてあった。綺麗で達筆な字だ。しかし書かれていたのは完結に一言。

 

”スミラのチョコクッキー食べたい”

 

「チョコ……クッキー………?」

 

ルーシェは目が点になった。陛下からと言われていたのでてっきり重要な知らせかと思えば、ただのおねだりリクエストだった。しかし、念のためにルーシェは聞いた。

 

「え、えっと、これって何かの暗号ですか?」

 

「暗号?ぷっ、アハハ!違うわ、ホントそのままの意味よ」

 

スミラはルーシェの警戒した言動と表情がおかしくて笑ってしまった。

 

「フレーリット陛下、がチョコクッキーを食べたい……、と言ってるのですか……」

 

「そうよ。そのまーんま!」

 

(…………そう言えばスミラさんのフレートアルバムにあったっけ……)

 

ルーシェは思い出した。あれから推測するに、恐らく彼の好物なのだろう。

 

「しかし面倒ね……、この前作ったばっかなのに全く……、よっと」

 

スミラはじょうろの中の水が空になった事を確かめ、片付け始めた。地面に置いてあった植木鉢なども台車に乗せる。背を向けたスミラにルーシェは言った。

 

「あ、あの、私!」

 

「……?どうしたの?」

 

振り返ったスミラに少し大きな声で言った。

 

「私も料理好きなんです!チョ、チョコクッキー作りのお手伝いさせてもらってもよろしいでしょうか!?」

 

スミラと更に親しくなれるかもしれない。これはチャンスだ。逃すわけには行かない。それにチョコクッキーは、チョコ系全般が好きなアルスにとって必ず大好物だろう。今のルーシェにはよこしまな気持ちも少し入り交じってもいる。

 

「嘘!手伝ってくれるの!?ありがとー!」

 

スミラは顔をパッと明るくさせるとルーシェに礼を言った。

 

「それと、あ、あとついでにできたらでいいんですが、その……、作り方教えてもらえたらなぁ〜……なんて」

 

ルーシェはもじもじと指をいじった。アルス、彼と仲直りするためにもここで1つ母の味とやらを学んでおきたい。それも本音だ。

 

「お安い御用よ〜。ふふ、この前マーシャにも教えてって言われたわ。私の1番の得意お菓子なのよ!」

 

「あ、ありがとうございますスミラ様!」

 

「よし!そうとなれば厨房へ行くわよ!あ、えっと………」

 

スミラはまだ彼女の名前を知らない。呼ぼうとしたが、止まってしまった。

 

「新人さん、じゃ悪いわよね。貴方の名前何て言うの?」

 

「ルーシェです!」

 

「そ、ルーシェね。よろしくルーシェ!」

 

2人は笑い合った。そしてルーシェはスミラの案内する厨房へと向かったのであった。


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