テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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研究所サイド3

─────俺は、俺達はハーシーの助けを借りて、この地下研究所から脱出した。

 

「3人で一緒にどうにかして最南端のシューヘルゼ村へ逃げろ、そこなら安全だ。そして助け合って共に生きて行け」

 

そう言われた。そして俺達は船を求めてオーフェンジーク港へ向かった。必死に逃げて、走って走って走りまくった。後少しだった。港まであと少しの所で……リオが精神崩壊を起こした。

 

リオは魔物のように凶暴化して、俺らを襲い始めた。かなり進行が進んでたんだ…。何度呼びかけても、正気には戻ってくれなかった。そこで足止め食らってる時に、トレイルの足が突然撃たれた。撃ったのは、研究所の追手だった。

 

俺はトレイルに駆け寄ったが、来るなと言われ突き飛ばされた。次の瞬間、光術陣が2人の足元に広がった。術が発動して、光の檻があっという間に2人を閉じ込めた。リオはその檻から発動した光に貫かれて、倒れた。………死んだかどうかはわからない…。気絶だったかもしれねぇが、幼い俺にはショックがデカかった。慌ててその檻に駆け寄ったさ。でも、すぐ近くから追手の声と足音が聞こえた。

 

トレイルは俺に逃げろと言った。そんなの出来ない、3人で一緒に、そう言った。けど、トレイルに初めて怒鳴られた。

 

「俺達の事は構わずに行け、じゃないとげんこつ食らわすぞ!!」

 

って言われてな。もう追手がすぐそこまで来てた。俺は涙をボロボロ零しながら、走り出した。視界が滲む道の中、後ろを振り返った。そしてその時トレイルの声が、聞こえた。

 

「ガット、生きろ!生きるんだ!!!」

 

ってな。

 

──────俺は、2人を見捨てて逃げたんだ………。そして港へ行き、人の目を盗んで密航した船はシューヘルゼなんかじゃなく、スターナー貿易島行き……。そっからは捻くれた人生の始まりよ。スヴィエートに戻る気も起きねぇ。んでよ、ガキに出来る仕事なんてありゃしねぇ。かっぱらって、物乞いして、ドブネズミのような生活をしていた。それでも生き続けた。生に必死にしがみついて、辛い時は、あの言葉を何度も思い出した。身を守るために、剣術を身につけた。宿屋に泊まってる奴らから盗んでな。そしていつか、2人を助けたい。生きているのなら、もう1度会いたい。けど、20年もたってて……、いまだ会えない。

 

いや、恐れてんのかもな…。2人見捨てた罪悪感から…。それを紛らわすために、万事屋なんて便利屋やってたのかもしれねぇ……。とにかく、時系列的に、ここは俺らが逃げた後の研究所って事だ。

 

 

 

ガットの壮絶な過去が明らかになった。何故彼が治癒術を使えるのか。そして何故この研究所に土地勘があるのか。

 

「………そんな過去があったのか」

 

静かに聞いていたアルスが口を開いた。たまに見せる黄昏たような表情、そして治癒術に何かしら思いれがあるとは思っていた。だが深くは聞きはしなかった。

 

「ふー……、他人に話したのは、初めてだ…」

 

ガットは深呼吸すると気持ちを落ち着かせた。でも、ずっと誰かに話したかったのかもしれない。この苦しみを誰かに知ってもらいたかったのかもしれない。

 

「今は、俺達3人しかこの話を知らないが…、他の4人にはどうする。話していいのか、秘密にするか?」

 

「構わねぇさ………。知られても痛くも痒くもねぇ。いや、むしろ話したいのかもな……。とにかくアイツらとは、合流して落ち着いたら、俺から話すさ」

 

「そうか……」

 

アルスはそう言うとガットから視線を外す。そしてフィルが日記を手にとっているのを見た。ハーシーの日記をめくっている。

 

「ム?どうやらまだ続きがあるようだぞ」

 

「え?ウソ、終わりじゃないの?」

 

「小生は文字が読めない。カヤ、読んでくれ」

 

フィルはカヤに日記を渡した。彼女はペラペラとそれをめくった。

 

「ホントだ、脱出させた記録で終わりかとおもってたけど、ページが飛んで書き足されてるみたいね」

 

カヤは日記を読み上げた。

 

 

 

あれから数日、案の定研究所内ではあの被験者脱出事件の話題でもちきりだ。誰かが手引きしたに違いない。そう言われている。部下の研究員達がコソコソと話していた。大体予想はつく。逃がしたのは、世話係の俺だと疑っているのだろう。1番彼らと近かった関係だ。疑われて当然。そして、逃がしたのは紛れもない事実だ。バレるのは時間の問題だろう。そして何故、俺達が複合光術を取得させられたかも分かった。戦争の為だ。優秀で実践で使える奴は光軍に全て引き抜かれていったそうだ。何か大きな作戦が今度リュート海付近で実行されるそうだ。どうりで最近研究員がめっきり減ったと思ったわけだ。俺は根っからのインドア派だったから引き抜かれなかった。まぁ結果オーライだ。そのお陰で3人を安全に外まで逃がすことができた。研究所内の人の数自体が少なかったからな。

 

俺はこの研究所を去る事にした。ここにこれ以上留まっても、意味はない。もう目的は決まってる。この研究所を告発する。全てを明らかにしてやる。人権もクソもありゃしない。こんな研究所なんか、あってはならない。

 

しかし、どうしても1つだけ気になることがある。俺が加担してきた”イストエヴィ技術”

即ち、治癒術師生産の技術。

 

それの後に出てきた言葉がある。

 

”シフレス技術”

 

ローガンとデンナーが話していたのを聞いた。一体何なんだ?胸騒ぎがする。何故だが嫌な予感しかしない。俺はこれを調査してから退職する事に決めた。告発するなら、なるべく多くの事を知っておいた方がいいに決まってる。告発タイミングは戦争終結後になるから時間は十分あるはずだ。

 

調査してから、あくまで噂だが関係ない話まで色々と分かってきやがった。なんでもこの地下研究所はスヴィエート城にも繋がってるらしい。7代目ツァーゼルが行き来出来るように作ったとか。だが噂に過ぎない。これも確かめておく必要がありそうだ。7代目がこの研究所自体さえも作ったのだとしたら、大スクープだ。何かと嫌な噂しかなかった7代目だが、また汚名を発見することになるなこれは。ここを去った後、全てを告発してやる。そういえばサーチスっていう所長の姿を結局俺は一度も見ていない。彼女がここに姿を現さないのは、もっと大切な役目があるからに違いない。もしかして、最近複合光術を使える奴らが引き抜かれていった事に関係してるのかもしれない。しかし元々姿をめったに見せなかった人だ。真相は、調査してみるしかないな。

 

 

 

「…………、今度こそ終わりみたい」

 

カヤは日記を読み終えた。ペラペラとページをめくったが最後のページまで書いていないがどうやらここで終わりらしい。

 

「今までの日記の書き方からして、ハーシーがシフレス技術の調査内容を書かないのは可笑しい。これは、彼に何かあったとしか言い様がない」

 

アルスが言った。ハーシーは研究内容を事細かく書き込んでいた。しかし、真相を調査する、その後は何も書かれていない。つまりこれは…。

 

「ハーシーに何かあったってワケね…」

 

「恐らく……な」

 

アルスは頷いた。アルスは言わなかったが、だいたい予想はできた。

 

「………俺らが研究所入って、最初見た結晶に覆われたバケモンの奴が、本当にハーシーだったって事だ……」

 

ガットは拳を握り締めた。背の低いフィルはそれを間近に見つめた。

 

「ガット………」

 

しかしガットはそれ以上は何も言わなかった。フィルは視線を拳からはずし、カヤの持っていた日記に移した。

 

「この後、研究所で一体何が起こったのだ?何故人の気配がこれ程までに感じられない?閉鎖されたとでも言うのか?それとも、事故が起きたとでも?どれも小生には有り得ると予測するが」

 

「分からない、だが何かがあったに違いないのは確かだ。ハーシーが、あんな姿になってるなんて…」

 

ガットは幼い頃の記憶を必死にたぐり寄せた。世話係だった彼。ガットにとっては、自由への恩人だ。しかし、自分が去った後あんな事になっていたとは。

 

「しかし、ここに来てはっきり分かったことがある。幹部のハーシーが知らないと言うことは多分……ここに、マクスウェルはいないという事だ」

 

アルスが改まった表情で言った。

 

「つまり、ハズレね……」

 

「そう、それとスヴィエート皇室が関係しているとロダリアさんが言っていたが、それは7代目ツァーゼルの事。それから、大規模な実験というのは、恐らく、日記に書かれていたとおりの事だったってわけだ。恐らくはイストエヴィ技術……についてだと思うんだが。シフレス技術というのも気になるな…。これ以上情報がないのが、残念だ」

 

アルスは日記のシフレス技術、というのが気にかかった。記述には、嫌な予感がする、と書かれていた。その調査後に日記が終わっている。アルスも、これには胸騒ぎがしないはずがない。しかし、真相は闇に包まれたままだった。フィルはアルスに言った。

 

「って事は、師匠率いる城チームが当たりなのか?」

 

しかし、アルスではなく、ガットが答えた。

 

「いや、それはまだ定かじゃない。でも俺は、ここに来て心底良かったと思ったよ。あの後のハーシーの事を、知れたからな。カヤ、その日記、俺にくれないか」

 

ガットは日記を持っていたカヤに言った。

 

「……?いいけど」

 

「サンキュ」

 

カヤはそれを差し出した。ガットはそれを受け取った。

 

「俺にとっちゃこいつは俺の命の恩人だ。アルス、いいだろ」

 

「……………好きにしろ。ただ、クロノスが何言われるか分からないぞ」

 

「覚悟の上だ。俺は、これを持ってなきゃいけない。そんな気がするんだ。これはハーシーの、唯一の………形見だ。そして、弔ってやりたい…。俺の手で…」

 

ガットは日記を持つと部屋のドアの前に立った。

 

「すまねぇちょっと待っててくれ、さっきの所まで戻ってくる。あいつの白衣の布の切れ端があったはずだ」

 

ガットはドアノブを回した。しかし、カヤの手がそれを静止させた。

 

「アンタ1人で行くつもり?」

 

カヤの目はいつになく真剣だ。ガットは目を逸らした。

 

「あぁ、これは俺個人の問題だ。それに、付き合わせるわけには行かねぇ。ここで待ってて……っておい!」

 

ドアの前にアルスが立ちはだかった。真っ直ぐとガットを見つめている。

 

「単独行動は危険だ。それに、ガット。お前は俺個人と言ったな。それは間違っている。ここにいる、日記を読んだ研究所チームの3人全員の問題のはずだ」

 

アルスが言った。

 

「そうだそうだ!悲しみは分け合える!ってどっかで聞いた!今がその時だ!」

 

フィルも続いて言った。

 

「お前は俺達の仲間だ。辛い過去を思い出して、苦しかっただろう。話してくれて、本当に感謝する」

 

「大将………」

 

「アンタ1人いいカッコすんなっての。私達も、ハーシーさんを弔うわ。アンタを、ガットっていう仲間を助けてくれた人なんだから」

 

「お前ら…………」

 

ガットはツンとする感覚が、鼻を突き抜けたのを感じた。

 

「ありがとう…………」

 

 

 

先程のハーシーが倒れた廊下へと着いた。跡形もなく、身体は消えてしまったが白衣の布切れが、床に落ちている。アルス達はその前で、祈りを捧げた。ガットがしゃがみ、それを手にとった。

 

「…………ハーシー」

 

ガットはそれをギュッと掴むと額に当てて、ハーシーを弔った。そして、決意を固めた。

 

「俺は、お前の意思を継ぐぜ。お前がどうしてこうなっちまったかの原因も、絶対明らかにしてやる。それと、果たせなかった真相の調査もな……」

 

ガットは白衣の布切れを太刀の鞘に結びつけた。

 

「見ててくれ、アンタの無念、俺が必ず……」

 

「御守りってヤツね」

 

カヤが言った。

 

「御守り……か。そうだな……」

 

ガットは立ち上がった。しかし、クラッと頭が揺れた。

 

「……っ、なんか、頭いてぇな……」

 

「小生も……」

 

「そういえば、アタシの気のせいかな……、エヴィがさっきよりも濃く感じるような……」

 

エヴィは濃すぎると体に毒だ。軽いものだと頭痛や目眩を引き起こす。しかし長時間ここにいるのは危険だ。いずれ命にかかわる。

 

「いや、気のせいじゃない。さっきよりも確実にエヴィの濃度が濃くなってる…。もしかして、この研究所がこう人気がないのに関係してるんじゃな……」

 

アルスがそう言いかけた途端、廊下のランプが赤く光り出した。

 

「エヴィ濃度レベル5に到達。残っている研究員は、至急避難してください。シェルターが閉まります。繰り返します────」

 

突如音声が廊下に響きわたった。

 

「どうりで行けない所が多かったワケだな…」

 

ガットはここに来て疑問に思っていた。記憶にある研究所よりも、狭く感じたのはシェルターが閉まっていたせいだ。濃度が濃い場所はほとんど封鎖されているのだろう。

 

「エヴィ漏れの事故が原因で、この研究所は封鎖されたのか?」

 

フィルがガットに訪ねた。

 

「……詳しいことは分かんねぇ!とりあえずここをいち早く脱出すんぞ!ここにいたらマズイ!」

 

「来た道を戻るぞ!」

 

アルス達は駆け出した。

 

 

 

そして下水道の抜け道まであと少し、という時に、アルスは絶句した。

 

「道が、封鎖されてる……!」

 

「嘘だろ……!?」

 

ガットから教えられ、通って来た抜け道への通路がシェルターで封鎖されていた。また赤くランプが光、音声が鳴り響いた。

 

「エヴィ濃度限界レベル到達。緊急非常用通路のロックを解除します」

 

「やばいよ……ホントにエヴィ濃度が、ハンパじゃなくなってきてるっ……!」

 

「緊急非常用通路!?さっきそのドア前を通ったぞ!」

 

アルスは後ろを振り返った。

 

「ハーシーから聞いたことがある!開かずの扉で有名だったやつだ…!」

 

ガットは思い出した。

 

「本当に緊急時しか開かないらしく、その扉を開ける事ができる権限は光機関の判断次第と所長だけだったはずだ!」

 

視界が赤くなった。廊下全体がランプで赤く染まり、エヴィの濃度もかなり濃くなっている。

 

「エリア17、エヴィ濃度限界値まであと1分。エリア17のシェルターを閉めます。至急避難してください」

 

後ろでシャッターが降り始めた。緊急非常用通路のドアはシャッターの向こう側だ───!

 

「皆走れ!!!」

 

アルスが叫んだ。全速力で皆駆け出す。シャッターはもう中間まで降りてきている!

 

「うぉおおおぉおお!間に合ええぇ!」

 

ガットはそれをしゃがんでくぐり抜けた。

 

「っしゃセーフ!!!」

 

背の高いガットが一番乗りだった。

 

「………ハァッ!間に合った!」

 

2番目にアルスが到着する。

 

「カヤ!フィル!」

 

振り返り残り2人を見る。2人ともあと少しだ。

 

「フィル!走って!!」

 

カヤは必死に足を動かし振り返りつつ駆け抜けた。これならフィルは間に合いそうだ。カヤはスライディングしてシャッターをくぐり抜けた。

 

シャッターは中間を過ぎ、もう少しという所まで閉まりかかっている。

 

「っぐえ!」

 

フィルは前のめりに崩れ落ち、転んでしまった────!その声に反応し、アルスは急いでしゃがんだ。

 

「フィル!!!」

 

名を呼び叫んだ。シャッターはもうあと残り少しだ。アルスは頬を地面に着けて向こうを覗き叫んだ。

 

「フィルー!!!」

 

絶体絶命のピンチだった。


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