テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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逃走

「すまない、立てるか」

 

衝突し尻餅をつき倒れたノインにアルスは手を差し伸べた。しかし、それと同時にロッカールームから出てきたルーシェもノインに近寄った。

 

「ノ、ノインさん、大丈夫ですか?」

 

「は、はい。ビックリしましたよ」

 

「あ、アルス……!?」

 

「ルーシェ……!」

 

ルーシェはアルスの姿に驚きを隠せない。ノインはアルスの手を握り立ち上がった。アルスは静かにルーシェを見つめた。しかし何も言わず、そのまま目を逸らした。その様子に、ルーシェも何を言っていいのか分からない。とてつもなく気まずい雰囲気だ。ノインはその状況に違和感を抱きながらもアルスに質問をぶつけた。

 

「ど、どうしてアルス君達がここに……?」

 

「研究所から脱出する際、とある抜け道を通って来た。それが城の地下の一室に繋がってたんだ」

 

「そうだったんですか。あぁ、残念な報告がありますよ。城はどうやらハズレのようです」

 

「え?どうゆう事だ?」

 

アルスは困惑した。研究所がハズレなら城の方は成果があると思っていたのだ。

 

「ラオさん、説明してください」

 

「えーと、すごく簡潔に話すとネ、フレーリットに直接聞いたんだ。ボクの特殊な札を使って尋問みたいなので喋らせた。アレを使われた人は、嘘は絶対をつけない。一種のマインドコントロールみたいなのにかけるんだ。彼はボクの質問、マクスウェルを持っているかという問に対いして『持っていない』と、はっきり答えた。名前を聞いたことがあるだけ、そう言った」

 

「一体どうゆう事……?」

 

カヤが言った。アルスもガットもフィルも、その事には疑問しか抱けない。ラオは研究所チームの反応に首をかしげた。

 

「え、研究所チームがアタリって事じゃないの?確かに持っていないとは言ってたから、もしかしたら研究所に他に何か手がかりがあるんじゃないかってボクらは期待してたんだけど……」

 

「いや……、研究所の方はもっと凄い、というか。予想外なモノを発見してしまった」

 

「予想外?それは一体なん……?」

 

ノインが言いかけた時、廊下の先から1人の執事が来た。

 

「ア、アンタ達誰だ!?見ない顔だ!城の人じゃないな!?」

 

「あっ!ヤバイですよアルス君!」

 

彼は恐らくロッカールームを使いに来た使用人だ。ノインがアルスに助けを求めた。

 

「ハッ!まさか例の侵入者……!そうに違いない…。し、侵入者だー!!皆ー!!」

 

執事はくるりと方向転換すると叫びながら駆けていった。

 

「やっべぇ、どうすんだ!」

 

「小生に任せろ!捕まえてやる!」

 

「待て!事を荒立てるのは良くない!俺はあまり人に見られちゃいけないんだ!ここは逃げるぞ!」

 

アルスは糸を構えるフィルを止めた。

 

「どうやって逃げるのだ!?」

 

「……城に、甲冑廊下のある場所から抜け道へと続く道がある。そこから逃げる。行くぞ!多分こっちだ!」

 

アルスは城の地下の構造を思い出した。勘で行くしかないが、感覚で大体分かる。アルスに皆続いた。

 

「抜け道抜け道って、どこもかしこも抜け道ばっかだな!」

 

「城には必ずあるものだ!攻められた時の脱出路としてな!」

 

「……!傍受しましたわ!」

 

走っている最中、ロダリアは無線をいじっていた。さっきロッカールームで聞いた傍受の件を聞き、周波数を少ない情報を頼りに手探りに合わせていたのだ。ロダリアは無線の音量を上げた。

 

「緊急連絡、ネズミ共は複数いる!地下3階だ!殺すな、生け捕りにしろ!特に薄金髪でマフラーを身につけている奴は、発見し次第陛下に御連絡するのだ!」

 

「了解!地下3階へ急行します!」

 

警備兵と思われる人達の会話だった。

 

「完全にバレましたわね」

 

「早く逃げないと!」

 

アルス達は駆け出した。

 

 

 

「いたぞ!アイツらだ!逃がすな!追え!」

 

1階まで上がって来て後少しという矢先、警備兵に発見されてしまった。

 

「逃げろ!」

 

逃走しながらも、1階甲冑廊下に到着した。

 

「この先だ!この先の初代皇帝銅像の下に抜け道がある!」

 

そこには左右に甲冑が並び、一直線に続く廊下だ。その先は行き止まりだが、人の銅像がある。後ろから靴音が聞こえる。追っ手だ。

 

「走れ!!」

 

アルス達は全力で走り出した。皇帝銅像までたどり着けば、逃げ切れたも同然だ。あと少し───!

 

「あそこを曲がったぞ!薄金髪のマフラー野郎も一緒にいる!」

 

警備兵達が甲冑廊下にやって来た。しかし、その廊下には誰もいなかった。

 

「なっ……消えたっ!?」

 

「そんな馬鹿な!この先は行き止まりだぞ!」

 

警備兵は消えた侵入者に困惑するしかなかった。

 

 

 

間一髪だった。

 

アルスは初代皇帝銅像の隠しボタンを押した。裏側の土台部分が開き、抜け道の階段が現れ、それを下った。この道を知っているのは本当に一部の人間だけだ。アルスの場合、ハウエルから教わったのだ。

 

「はぁ……はぁ……危なかったな……」

 

「あと、少しで見られそうだったよもうー!」

 

カヤはへたっと腰が抜けたように座り込んだ。暗い地下道だ。微かに下水の匂いもする。

 

「確か、この地下道は数カ所に繋がってるらしい。俺も全部は把握してない。とりあえず1番近い北のルートを使ってみよう。記憶が正しければ平民街に繋がってるらしい」

 

 

 

フレーリットは自室に入ると、本棚の後ろの隠し部屋に入った。そして明かりをつける。そこには大量の武器が壁にかけられ、保管されていた。彼は軍服の上着を脱ぎ、無造作に床へ放り投げた。ワイシャツ姿になり、第一ボタンと袖のボタンを外し、袖を少し折り曲げ手首を出す。

 

首からキラリと光る水色のネックレスがこぼれた。

 

彼はそれをワイシャツの下にしまうとボディアーマージャケットを手に取るとそれを身につけた。

 

ジッパーを閉め、ナイフ、弾、投げナイフ。それらを手当たり次第に掴んで選び、装備品としてジャケットのポケットにしまう。両肩にホルスターをかけた。右には予備の弾をしまい、左は拳銃を入れた。両太腿にベルトを身につけた。次にサーベルを取り出し、状態を確認し終わると、鞘にしまった。それを右腰に身に付け、右太腿のベルトでしっかりと固定する。腰周りのベルトを閉め、確認した。最後に手袋をはめギュッと奥まで指を入れる。馴染ませるように指を動かした。

 

「ふー………」

 

そして静かに息をついた。これで準備は整った。フレーリットは隠し部屋の机に乗っているとある写真を手にとった。そこにはラオとサイラスがにこやかに笑い、肩を組んだ姿で写っていた。

 

「父上………」

 

フレーリットはそうポツリと呟き、うつむいた。そして目を見開き、拳銃を構えた。

 

「………父上、敵は必ず取ります。母のためにも、僕自身のためにも」

 

フレーリットは拳銃で写真のラオの頭を撃ち抜いた。貫通した弾が机にめり込む。無線から声が聞こえた。侵入者は甲冑廊下に追い詰めたが、そこで突然消えた。一体どうなっている、と状況が混乱しているようだ。

 

「陛下!陛下!応答してください!薄金髪の奴も複数の仲間と共に消えました!」

 

「分かった…。ご苦労だった」

 

無線を切り、隠し部屋から出る。ふと壁にかかっているネッグウォーマーに目をやった。

 

「汚したくはないが……一応着けていくか……」

 

街の外に出る時、お守りのように身に着けている。誕生日にスミラが作ってくれたものだ。そのネッグウォーマーを首に身につけた。ネックレスを隠すのにも丁度いい。

 

「絶対に、僕の手で葬ってやる」

 

フレーリットはそう言うと部屋を後にした。

 

 

 

「アルス、研究所の方は結局どうだったの?」

 

ラオが地下道の道中、質問した。さっき話せなかった内容だ。

 

「実は────」

 

アルスはあらかた研究所の出来事を話した。ハーシーという人物の日記により、大規模な研究の正体は”イストエヴィ技術”

 

つまり、治癒術師生産研究だった事。その他にまだ明らかにはされていないが”シフレス技術”があった事。そして、ガットの治癒術の件については、本人の口からだ。

 

「俺は、2人を見捨てて、逃げて、今だ人生をさまよってる屑だ……。どうしても、あの時の恐怖が蘇る。暴走したリオは、幼かった俺達の手にはとても負えなかった……。トレイルがリオから俺を何度もかばってくれた。その光景が、未だ鮮明に目に焼き付いてやがる。こびりついていて、取れないんだ……!優しくて、姉のように俺の面倒見てくれたリオが、1日に数回精神崩壊を起こしてまるで獣のように暴れ、暴言を吐き、破壊衝動が止まらない。俺らの事をキレイさっぱり何もかも忘れちまったかのように…」

 

過去を、城チームに自身の口から話した。しかし、彼の握り拳は震えていた。相当堪えているのだろう。無理もない。

 

「まさかとは思ってたが、そのまさかのあの研究所とはね……。はずれて欲しかったっつー願いがあるのは本当だ。でも、どうしても行かなきゃいけない使命感に駆られた気がしたんだ……。ハーシーが、呼び寄せたのかもな……」

 

ガットは鞘に巻いてある彼の白衣の切れ端を指でなでた。今はハーシーのおかげで心を保っているようなものだ。

 

「へぇ……そうだったんですか」

 

「大変でしたわねぇ?」

 

「君の方も、色々あったようだネ」

 

犬猿の仲のラオは流石にはぐらかさなかった。それにラオ自身も、フレーリットと接触した際、一切の記憶を取り戻したのだ。だが、言うタイミングがない。彼の息子、アルスは今かなり神経質だ。わざわざコンプレックスをいじって、更に逆鱗に触れたくはない。

 

(……とりあえず、事が落ち着いてからにしようかな…。過去から戻った後でもいいし、なによりガットの辛い話もあったってのに、今話すとゴチャゴチャになりそうだヨ)

 

ラオは記憶の事はまだ話さないことにした。

 

「ガット……、そんな話があったの…」

 

「俺は所詮ルーシェに比べりゃ、劣化治癒術師さ」

 

「そ、そんな事ない……!むしろ、使える私が、何だか…申し訳なくなってくるし……、こんな力、なんだか気味悪い……」

 

後半の言葉は、ほぼ聞きとれない程の小声になった。ルーシェは自分がごく当たり前に使っている治癒術が急に恐ろしくなってしまった。でもそういえば、と思い出した。

 

(アルスも……、私との最初の出会いの時には、この力に対してかなり気を使ってくれた。私を全力で守ってくれた…。私は、世間知らずの能天気娘だっただけ…。この力……、今思うと、ホント薄気味悪い力なのかも…。人の傷を一瞬で治せちゃうんだもん……)

 

ルーシェは両手の掌を見つめた。その様子を、横から怪訝そうな顔でカヤが見つめた。

 

治癒術。つくづく不思議な術だ。しかし、この力があったからこそ今の自分が形成されている。アルスと出会えた理由の1つでもあり、旅に着いてこれる唯一の理由でもあるのだ。

 

(………アルスは、私にこの力がなかったら、もし、もしカヤに形見を取られていなかったら……戴冠式の後に、さよならだったのかな)

 

自分の長所は、なんといってもこの傷を治せることだ。あぁどうも気分が沈んでいる。いつもポジティブな考えが、ネガティブに行ってしまう。ルーシェは目を伏せた。城で再開した時も、何一つ彼は物を言わなかった。ただ、憎悪と軽蔑ざ混じった眼差しで見ただけ。

 

(ダメダメ!何の為に!スミラさんにチョコクッキーのレシピ教わったの!私のばか!)

 

ルーシェは一足先を歩くアルスの後ろ姿を見つめた。フィルはルーシェの服を引っ張った。

 

「ルーシェ?」

 

距離が昔とはかけ離れている。昔は並んでたのに。

 

「ルーシェってば!」

 

気がつくと、目の前にカヤの顔があった。隣にはフィルもいる。

 

「わぁっ!カヤ!」

 

「何ボーっとしてんのよ、ほらあれ!着いたっぽいわよ?」

 

カヤは上の梯子を指さした。経緯の会話をしながら歩いていたらいつの間にかもう着いていたようだ。先頭のアルスが梯子を登っている。

 

「アタシは、アンタの治癒術の力に本当に感謝してる。気味悪いだなんて、全然思わない」

 

「小生もだぞルーシェ!」

 

「……!」

 

ルーシェは2人を見た。

 

「もちろん、アンタの治癒術だけを評価してるんじゃない。アタシはアンタに命を助けられた。ルーシェが手を掴んでくれなかったら、あのままマグマにドボンよ。アタシは、明るくて真っ直ぐで能天気で天然なルーシェが好きだよ」

 

「ルーシェは、小生にアイスを奢ってくれた!小生の旅の同行に、小生の為に一肌脱いでくれた!一緒に夜寝てくれた!」

 

「カヤ…フィルちゃん…」

 

「その力のおかげで、我が妹ポジションとなったクラリスとの出会いがあった。結果オーライで、ここスヴィエートにも来れたのだ。しかし、あの堅物スカシ顔のアルスとの喧嘩に発展したりもした。物事には、メリットデメリットってものが必ずついてくる。それをどう乗り越えるかが重要なのだ」

 

フィルはたまにこうゆうふうに、見透かしたような事を言う。年齢を疑ってしまう程大人びている。と、思いきや子供なところもたくさんあるが。

 

「あんま気にすんな!ポジティブに行きましょ!それがアタシ達女の取り柄っしょ?ネガティブでネクラのうざい女なんて、嫌われるだけよ!」

 

「アルスに何かされたら、すぐ小生に言うのだぞ」

 

「皆……、ありがとぅ……」

 

ルーシェは涙目になり、思わず顔を覆った。カヤはそんな彼女の背を優しく撫でた。

 

「あーったく、ガットもルーシェも、最近メンタル弱くなってるわよ!ガットは仕方ないかもしれないけど、とにかく女は度胸!タフでなきゃ!気張っていきましょー!」

 

「おー!!」

 

「本当に、ありがとう…!」

 

フィルは拳を高く上げた。ルーシェは、2人に深く感謝した。

 

 

 

梯子を登ると平民街のマンホールに出た。

 

「おぉ……、本当に平民街ですね……」

 

ノインは見覚えのあるその建物に目をやった。宿屋ピング・ウィーンだ。

 

「っ!皆さん!スヴィエート兵ですわ!」

 

ロダリアが指さした。平民街だと言うのに兵がうろついている。情報伝達がかなり早い。ここに留まっていてはいずれ発見されてしまう。

 

「北門から街の外へ逃げよう!」

 

アルスに続き、平民街の中を駆け出した。外に行き、事が落ち着くまで待つしかない。平民街の北門。つまり首都オーフェングライスの北だ。それを抜けた先には、住民の貴重な水資源、レイリッツ湖が広がっている。

 

外に出ると、街道が続いている。所々雪があった。道が全て雪で覆われているわけではないが、まだ少し肌寒い。だが、冬が終わろうとしている。この冬が終わると、ロピアスの大規模な空軍の作戦のリュート・シチートが始まるのだ。

 

「大将!これからどうすんだ!」

 

「とりあえず、もう少し先に行って様子を見るしかない!最悪野宿するハメになってもこの寒さなら問題ない!」

 

「アンタは慣れてるかもしれねーけど、アタシは蒸し暑いアジェス育ちだっつーの!」

 

「グダグダ言うな!我慢しろ!」

 

「ってか、もういいんじゃないの!?」

 

カヤは文句を垂らした。アルス達は速度を落としながらもまだ逃げ続けている。街道を進み、水のある湖を目指そうと思っていたアルス。しかしとある木の陰、寄りかかっている人影を見つけ足を止めた。

 

「逃げきれた、そう思ったかい?」

 

アルスは唖然とした。その人影はタバコを右手に持ち、口に加えている。煙を吐き、こちらへと向き直った。

 

「─────ち、父上」

 

アルスは小声で、自分にだけ聞こえるようにそう呟いた。

 

紫紺の髪、銀色の瞳、目の下に隈が少々、不気味なその目つき。だが、写真で見るような軍服姿ではなかった。そう、言うなら戦闘服。ボディアーマーを身に付け、脇のホルスターには拳銃、腰にはサーベル。そして首にネッグウォーマーを身につけていた。

 

アルスの父、フレーリットだった。

 

彼は吸殻を落とすと、タバコを握り潰した。それを広げると、凍りつき、とても細かい破片となって風に流され消えた。皆その光景にただただ驚いた。

 

「僕の目的はただ1人、そこのアジェス人だ」

 

フレーリットはラオを真っ直ぐに指さした。アルスはラオに振り返った。ラオの周りの空気が張り詰めている。目つきは鋭い。いつもの緩い目ではない。アルスはこう疑問を持たざる負えない。

 

「どうしてラオを……?」

 

「だが、邪魔すると言うなら容赦しない。どの道貴様等は侵入罪に問われている。しかし、アジェス人と違って、殺しはしない。スパイの可能性もあるからね。特にそこの女は」

 

フレーリットは目線をロダリアにやった。この中で唯一フレーリットと接触したのはこの2人だけだ。

 

「アッハハハッ。さぁーて?どうする?」

 

フレーリットは口元を歪ませて、意地悪く笑った。


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