テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
アルスとルーシェが港で途方に暮れていると、どこからともなく怒鳴り声が聞こえた。
「待てこの野郎!!誰か!アイツだ!捕まえろ!!」
港でスヴィエート軍と貿易商人達が揉め事を起こしている間に、また奴が出現してしでかしたらしい。
「何ぃ!?おい貴様等!行くぞ!」
軍靴の音が一斉に聞こえてきた。
「アルスっ!危ない!」
ルーシェの声が聞こえたと思ったときはもう遅かった。どうにかして、と思案を巡らせ、フラフラと前を向かずに歩いていたアルスはスヴィエート軍人の1人とぶつかってしまった。
「うわっ!」
「ぐぅっ!?」
アルスは思い切り不意を付かれたので尻餅をつき転んでしまった。
「ったく!ボケッと歩いてんじゃねぇよ!」
軍人はそう吐き捨てた。
「つっ……す、すみませ………」
しかしアルスの情けない姿に少し罪悪感を抱いたのか彼は手を差し伸べた。
「チッ、ほら!」
「あ、ありがとうございま……」
「……あ?お前のその顔……、どっかで見た事あるような……」
そう、スヴィエート市民、軍人なら1度は誰もが見た事がある顔。それがアルスだった。無論ルーシェのような貧民街に住む人々は例外が多いが。
「………いや、んなわけねぇか。それにしちゃ……。いやいやでも……」
(まずい………!)
「………っさよなら!」
アルスはサッと立ち上がり軍人に背を向けて走り出した。
「あっ、おいちょっと待て!」
「ルーシェ!!来い!」
「え、ええっ!待って!?」
ルーシェは突然の出来事に対処できず、一足遅れてアルスを追い掛けた。港を走っていると貿易品の木箱の上にマントが乗っているのが見えた。誰かの忘れ物か知らないが不幸中の幸いだった。あれなら顔を隠すのに最適だ。
「しめた!」
アルスはそれを手に取り素早くそれを身につけた。フードを被り、顔を見られないように姿を隠しながら逃げ走る。しかし、それで全て上手くいくわけではなかった。焦っていたせいか、動揺していたせいか。どちらも当てはまる。
「あれ?アルス?アルス?アルスどこー!?」
見事にルーシェとはぐれてしまったのだった。
「はぁっ……!はぁ…ここまで来れば大丈夫だろう……!」
暑い、額から汗が垂れる。疲れた。アルスは辺りを見回した。港から無我夢中で逃げ、とっさに入り込んだ細い路地を進み、入り組んだ道を逃げてきた。そうして薄暗く、下町のような所に来てしまった。なるほど見た目からしても、いかにも治安が悪そうである。
────ルーシェはどこだ?
「しまった!はぐれた!」
アルスは自分の失態をこれでもかと言うほど恥じた。
(何をしているんだ俺は!馬鹿か!あろうことかルーシェを置き去りにして逃げてはぐれるなんて!)
後悔の念が激しく押し寄せる。申し訳ない気持ちで一杯だった。
「はぁ………はぁ……あァ………くそっ!取り敢えず一旦戻ってみるか……!?」
アルスは全速力で走ってきた反動の息切れを抑え、来た道を引き返し始めた。
しかし。
「なあ。ちょっとそこのあんた。何してんの?」
「……。何ですか?」
ふと、後ろから声をかけられた。声からして男性だろう。あからさまに軽い調子で話しかけられ、先ほどの不良か何かかと振り返る。すると、予想外な風貌が視界に入る。
「何ってなんだよ。さっきからマント被った怪しい奴がうろついてて、何やってんのかなーと思って親切心で話かけたのにさー」
「……これは失礼しました。ちょっと、……探し物をしていたんです」
アルスは嘘をついた。逃げてきたと言ったら面倒なことになるに違いない。俺を怪しいというのなら、この男もかなり、そう、変だ。おおよそ俗に言うこの下町の景色に似合わない外見をしている。この男性は、緑髪で、深い緑がかった、確か浴衣だたか、それに似たような服の上にジャケットを着ている。軽薄そうなその格好からはおおよそここに住み慣れているわけでもなさそうな男だった。不良と言うには大人びた外見。しかし髪の色と格好からして不良か何かが最も近い表現だろうと思って訂正はしない。その最大の理由は、背中にある大きな刀。太刀というのだろうか、俺くらいの高さはあるだろう長く細身な刀を男はさも当然のように背負っているのだ。
「へえ。探し物、ね。俺こう見えて何でも屋やってんだよ。所謂万屋ってやつ?奇遇だね、俺も探し物してんのよ」
「……そう、なんですか……見つかるといいですね」
アルスは胡散臭い彼の見た目に警戒心を抱き、なるべく関わらずに事を済ませようとした。そうしたかったのだが…。
「ハッ、おいおいおいおい。俺の探し物はもう見つかってるだろ?」
その男は笑わせるな、とでも言うように呆れて笑った。
「………?何のことです?」
アルスはその男と目を合わせた。
「マントにフード。息切れ、明らか誤魔化し口実、探し物っつー胡散臭い言い訳。お前、スヴィエート軍に追いかけられ逃げてるあの盗賊だろ?」
その瞬間、ちょうど彼が言った直後。彼の纏う雰囲気が一気に変わった。雰囲気だけでなく、声もさっきより通った高圧的な声色に変わり、今は「万事屋」より「傭兵」の方が正しいような、うまく形容できない危険信号が脳内に響く。そして、表情は、さっきとなんら変わらない胡散臭い笑みを貼り付けたままだった。それが何より異質に感じられた。
「違っ!俺はっ!」
「おっと平常心を保てよ青年?せっかくのイケメンが台無しじゃないか。っと、冗談はこんなもんにして。俺の現在の雇い主さんは掘り出し市っつー店の店長やってんだ。んでそこの?
「…それは俺じゃない!そもそも奴は─」
「おしゃべりは終わりだ。面倒だから?さっさと大人しく俺に倒されてお終いにしてくれよ」
「……くっ!」
どうやら彼は聞く耳を持たないようだ。どうしてこうも厄介事になるのだろうか。アルスはあの本物の方の盗賊を心から呪った。男に気付かれないよう、銃のホルダーに手をかけた。この距離なら威嚇以上の必要性がおきても対応できる。そして、隙を見て、逃げ……たいが。出来ることならそうしたい。しかしこんな入り組んだ路地裏道でそんな事をしたら袋の鼠になりかねない。
(やるしかないのか─────!?)