テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
「ま、こんなに人数がいたなんて少し予想外だったけどね。8人か…」
フレーリットは嘲笑うように見下し、初めてそこで全員を確認した。あくまで目的はラオだが、ある人物を見ると目を見張った。
「お前のその瞳……」
そう、フレーリットはアルスを見てしまったのだ。アルスはビクッと反応し、思わず後ろに一歩下がる。
「銀の瞳って、基本的最近のスヴィエート皇帝の証みたいなもんなんだけど…。もしかして、養子に出された皇族の女の誰かの子孫かなぁ?」
「……………」
(貴方の息子なんですけどね………)
アルスは黙った。口が裂けても言えない。そもそも未来から来た貴方の息子ですなんて言っても到底信じてもらえないだろう。
「なんか、君……つり目がスミラにそっくり……。気味悪いなぁ、僕にもちょっと似てるし…」
「………世の中、自分に似てる人は案外いるものですよ。スミラって人と似てるのも、偶然でしょう」
アルスは誤魔化すように嘘を言った。気づかれて欲しいとは思わないが、これが親子の会話なのもなんだか少し寂しい気がした。
「そうだね。スミラと違ってまぁ野郎だし。そうゆう事にしておくよ。世の中広いしね」
フレーリットは会話を終了させるとサーベルを引き抜いた。その剣先を、ラオに向ける。首を傾げ口角を上げ少し笑うと言った。
「そうだな…。もしそこのアジェス人、ラオを引き渡すんだったら他の人はちょっとは刑を軽くしてやってもいいよ」
「ラオ……、一体彼と何が…?」
「………」
アルスの質問に、ラオは答えなかった。しかし険しい目つきでフレーリットを睨んだ。彼は嘘をついている。自分を確実に仕留めるための口実に過ぎない。ラオにはそれがお見通しだった。
「そんな胡散臭い笑み、バレバレだっつーの」
「べー!誰がそんな手にのるかー!」
カヤが言った。フィルも舌を出し拒否した。フレーリットは笑った。しかし、目は笑っていない。
「心外だねえ。親切心で言ってあげてるのに?僕だって、君みたいな女子供を斬る趣味はないよ?」
また嘘をついている。アルスにはそれが分かった。論理的でさえあれば、どんな非道な事でも実行する。それがフレーリットだ。アルスはカヤに耳打ちした。
「馬鹿、あんまり挑発するな。父の戦闘能力は計り知れない、歴代皇帝最強と言われていた人なんだぞ!」
「チッ、めんどくさいわね…。かと言って、なんも訳も分からないままやすやすラオを引き渡すわけにもいかないしって、フィル?何して…」
そこで、2人の会話を聞いていたフィルはカヤの腰のポーチをガサゴソとまさぐった。
「ならこうすればいいのだ!」
「うべっ!?」
フィルは煙玉を取り出すと地面に叩きつけた。たちまち煙幕が辺りを覆った。
「煙玉……?」
フレーリットは動じもせず、ただ立っていた。
「でかしたぞ!」
「ここは逃げるが勝ちだ!!」
「おいお前ら走れェ!!」
ガットが叫んだ。フィルの機転の利いた発想だった。アルス達は全力で煙の中を駆け出した。
「……逃げたか」
フレーリットは煙が晴れた街道で、彼らが逃げた方向を見つめた。
「あっちは湖だったか」
フレーリットはサーベルをしまうと、ゆっくりと彼らの後を追った。
アルス達は何とかフレーリットから逃げ、湖畔までやってきた。
「湖だ!」
フィルが指をさした。
「どうしますかアルス君!?」
レイリッツ湖。首都オーフェングライスの北に位置する世界最大の湖だ。水面が風に揺られ、波立っている。ガットはほとりの小屋に目をつけた。
「おいあそこ!ボートがあるぞ!」
桟橋に少し大きなボードがあった。エンジンつきだ。
「あれに乗りましょう!」
「あれに乗って遠くまで逃げればフレーリットさんはきっと追いかけてこれないよ!」
「皆!あのボートに乗れ!」
ロダリアとルーシェの意見に皆賛成し、ボートに乗り込んだ。アルスはエンジンをかけ、ボートを運転した。
「よし…、これで向こう岸に着けば、当分は追ってこれない…」
「よっしゃぁ!やったわね!」
「フレーリット……」
ラオはボートの手すりに掴まり、どんどんと遠くなっていく陸地に目をやった。彼は誤解している。ボクはサイラスを、彼の父親を殺していない。でもそんな話題をどの面下げてアルスの前で言えるだろうか?フレーリットに信じてもらえるというのも無理な相談だろう。余計状況が混乱してしまう。
ただでさえまだ頭がぐちゃぐちゃで整理がつかなくて、訳が分からない状態が続いているのに、言えるわけが無い。でも、アルスは絶対疑問に思っているはずだ。何故ボクがこんなにも彼に命を狙われているのかも………。
フレーリットは遠目に、ボートが桟橋から出発するのを見た。あれに乗って逃げたと思って、間違いないだろう。
「湖上に逃げたのか…」
フレーリットはゆっくりと湖畔まで歩いていく。波打つ湖。季節は冬の終わり。フレーリットは湖に手を入れた。水温はまだ冷たいが凍りついてはないない。住民の水資源のためにこの湖の一部には特殊な火属性の光術がかけられ、そこだけは凍らないようになっている。
「僕から逃げられると思うなよ……」
フレーリットは、砂浜に移動すると、広大に目の前に広がる湖を見つめた。そして深呼吸すると右手の掌を湖の水面に当てた。その瞬間、そこから湖の水が凍り始め、徐々に広がっていった。
ラオはいち早く異変に気づいた。隣にいたノインも続いて気づく。
「さっむ!?何ですかこれいきなり!?」
ノインはガタガタと体を震わせた。一気に気温が下がり始めている。体をさすり、足をバタバタと動かす。
「皆……、あれ……」
ラオは湖を指さした。その場にいた全員が恐怖におののいた。操縦席とアルスも、ある違和感に気づいた。
「舵が……!?」
舵の操作が効かない。硬くなっている。そしてボートの動きが鈍りはじめた。アルスは窓を見た。凍りついている。氷点下まで一気に気温が下がり始めているのだ。アルスは思わずハァッと息をついた。真っ白だ。バキバキと外から不審な音が聞こえた。アルスは操縦席から慌てて飛び出した。
「一体どうなってる!?」
「あ、アルス君……!」
「っ!?」
アルスはノインが指差す方へ目をやった。すると、にわかには信じられない光景が目の前には広がっていた。
湖がバキバキと大きな音を立てて凍り始めている──────!
「凍ってっ………!?うわぁっ!?」
そして次の瞬間、ボートは隆起した氷に貫かれ、バランスを崩した。
「うわぁぁぁあああっ!?」
「きゃあああああっ!?」
皆、悲鳴をあげ、ボートから放り出された。激突した地面は氷。さっきまで波打つ湖だった。
「う、嘘だろ!?さっきまで普通の水だったぞ!」
「カチカチだぞノイン!」
「何が起こってるんですか……!」
「この湖全てが凍っているようですわね……!」
ガットはなんとか立ち上がると、凍りついた湖を踵で蹴った。背後で大きな音がした。全員が振り返った。ボートがまっぷたつに割れている。
「ああああああ!!」
「ボートが……!」
よく見ると、ボートの中央を巨大な氷柱が貫いていた。結果としてボートから放り出されて正解というだった訳だ。
「な……、あの氷柱は……!?」
どう考えてもあれは自然で発生するものではない。一瞬で湖が凍っているのも、氷柱の発生も、誰ががやったのだ。そしてその誰かがやってきた。
「見つけた」
彼はゆっくりと歩いてきた。しかし、異様なオーラを放っている。近寄り難く、冷たい冷気が彼を纏っていた。
「フレーリット…、君が湖を凍らせたの……!?」
ラオが姿を確認した。彼は感情を巧妙に隠し、手の内が全く読めない。
「僕は絶対にお前を許さない。お前を殺す。地の果てまでも追いかけてでも、八つ裂きにしてやる。邪魔する者共には一切手加減はしない。もうここは僕のホームグラウンド…。逃げる事は不可能だ」
淡々と恐ろしい事を抑揚なく彼は言った。本気だ。本気で殺しに来ている。この場にいた全員の身の毛がよだつ。
「全員まとめて仲良く、皆殺しにしてやるよ!!!」
フレーリットが拳銃とサーベルの同時に引き抜いた────!