テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
フレーリットの狙いは決まっている。真っ直ぐラオに向けると、彼は右手の拳銃の引き金を引いた。アルスは素早くラオを見た。今ラオの隣にいるのはアルスだ。
「ッ!」
ラオとアルスはそれを見切り右に転がり回避した。フレーリットはそのラオの行動を読んでいた。避けた位置に向かって走りこみ、凍りついた湖の氷を切り裂くように下から上へ斜めに斬り上げた。
「
バキバキと音を立てながら氷が割れていき、せり上がった。自然現象の御神渡りを人間の彼がやってのけたのだ。しかし自然現象のものとは規模がまるで違う。隆起する氷が大きい。
「うっ、くっ!」
「くそっ!」
ラオは必死にバク転して避けた。アルスも同様にそれから逃げた。しかしそれは枝割れしては、蛇のように迫ってくる。
「んのヤロッ!やめろ!」
ガットが太刀を抜き走り出した。あれをコントロールしてるいのはフレーリットだ。ガットはそう確信し斬りかかりに行く。
「
「うおっ!?」
フレーリットは右足を強く踏み出した。ガットの目の前に鋭い氷柱が氷結した湖上から生み出された。槍のような鋭い氷柱は扇型に広がり、意思を持つかのごとく動きガットを牽制した。思わず足にブレーキをかける。
「チクショ〜…、おいノイン!頼むぜ!」
これでは彼に近づけやしない。仲間の援護が必要だ。
「了解!」
「一旦下がれガット!」
「おわっ!?」
ノインは光術を唱えた。フィルは糸をガットの背中に張り付けると引っ張って後退させる。
「勇猛なる黒炎、ここに集いて浄化の力を示さん…、爆散!ノワールインフェルノ!」
ノインの光術が炸裂し、フレーリットの出した氷柱を中心に広範囲に黒煙が上がった。カラカラと湖上に散る氷柱の破片。ロダリアがショットガンを構えた。
「降り注げ、オルフェス!」
フレーリットの頭上に撃たれた光弾は雨のように降り注いだ。
「チッ」
フレーリットはラオへの追跡を辞めるとサーベルを上に一閃振りかざした。パキン、と冷たい音がしてそれは凍りついた。
「っ!何て力……!?」
凍りついた鋭い氷柱。光弾だったものだ。ロダリアの術は凍らされ一振りで完封されてしまった。
「利用させてもらう」
斜めに一振り、横に一振り。氷柱は意思を持つかのごとくサーベルの動きに操られ彼の左右の空中に浮かび上がった。新たに生み出された一回り大きな氷柱もある。彼自身の術も発動しているのだ。
間違いない、無詠唱だ。しかし、同時にラオとアルスの攻撃がやんだ。
「フリーズランサー!」
「っまずい!」
皆防御体制をとった。無数の氷柱が矢となり風を切る。
「オラオラオラ!」
ガットは氷柱を太刀で切り裂く。前衛の自分はなるべく仲間に行かないように努めなければ。
「カレンズガン!」
フィルも負けじと、エヴィ糸玉を発射し相殺させた。フレーリットは新たに複数の氷柱を空中に生み出した。彼のサーベル一振りで現れるそれは、少なくとも人間相手では見たこともない光景の無詠唱光術。
「そろそろ行かせてもらうよ!!!」
鋭い氷柱を纏わせながら彼は走り出した。
「させるかっ!」
「邪魔だ!」
「ぐっ!?」
サーベルを振りかざしガットへ氷柱を発射した。氷を自在に操り縦横無尽に走り抜ける彼は正に恐怖そのものだ。
「カヤ!」
「ルーシェ!」
2人はアイコンタクトをとり、同時に頷いた。カヤはナイフを逆手に持ち走り出した。すかさずルーシェが詠唱を唱えた。
「焔よ!彼の者に眠りし力を引き出したまえ、フレイムオフェンス!」
クロノスと戦闘した時の術だ。
「いくよっ!
「なっ!?」
流石にこれには驚いたのか、フレーリットは狼狽えた。灼熱の熱風衝撃波がフレーリットを一直線に襲った。
「やったか!?」
カヤはナイフをくるくると回した。水蒸気が辺りを覆い視界が白く、かなり悪い。
「ラオ!上だ!」
アルスが叫んだ。水蒸気の煙を切り裂くようにフレーリットがサーベルを振り下ろした。
「うっ、ぐぅっ!」
素早くクナイを2本取り出し、頭上で交差させ防ぐ。しかし上と下では力が圧倒的だ。ラオの地面の氷がその衝撃で割れた。
「死ね!!」
空いた右手の拳銃を、無防備なラオの額に、狙いを定める。アルスは咄嗟にラオを守るため、実の父親向けて、撃った。
「
「っつ!?」
一直線に高速で飛んでいく光弾。見事空中で身動きが取れない彼に命中した、と思われた。
フレーリットは拳銃を持ったまま、トン、ラオの両クナイに手で触りそこを起点として空中で一回転して避けた。そのまま体制を少し崩しながらも、ラオの後方に着地する。
当然、ラオのクナイはカチコチに凍りついていた。
「クソがっ!!」
フレーリットはキッとアルスを睨みつけた。後少しのところだったのに。
アルスはその恐ろしい視線に恐れおののいた。父の口調が荒くなっている。段々と感情を露にしている。その感情は言うまでもない、憎悪と怒りだ。
「ラオ!アンタと私で同時に!!」
「リョーカイ!」
カヤが走り斬りかかった。ラオもすかさず新たなクナイで同時にフレーリットへと斬りかかる。
「くっ!」
彼はすかさずサーベルを頭上に掲げ、横に構え防いだ。正面から見て左側にラオのクナイ、右側にカヤのナイフ。2人の力だ、両手で支えざる負えない。拳銃を片手にサーベルを押さえつけているフレーリットの様子にラオは違和感を覚えた。
(こっちの方が、明らか圧している───!?)
男女の力の差なのか。しかし、これは歴然としすぎている。しかも利き腕の右手のはずだ。これはおかしいとしか言いようがなかった。
この好機を逃すまいとガットが駆けつけた。
「喰らえっ!
前方に跳躍し、サーベル中央に豪快な兜割を叩き込んだ。ビキッ、とフレーリットの右肩に鈍痛が走った。
「っつ゛、ぁああ゛っ!?」
その苦痛の表情、声と共にサーベルがベキンッ、と鈍い音を立てて折れた。右手の拳銃も手放してしまい、思わずバックステップしてその衝撃から逃れた。ラオはその一瞬、彼が右肩を手で押さえたのを見逃さなかった。
「ッ舐めるな!」
フレーリットは勢いをつけ地に掌を当てた。
「ハイドレンジア!!」
次の瞬間、フレーリット以外全員の足元が隆起し、複数の氷の槍が出現した。
「っ皆!!よけろー!!」
いち早くその術に反応したノインが叫んだ。
「きゃあぁあっ!」
「うわぁっ!」
「うおぁっ!?」
「わぁああっ!」
フレーリットの近くにいたカヤ、アルス、ガット、ラオはよけきれなかった。仲間同士固まっていたせいか、氷槍が他のより比べて格段に巨大だったのだ。
「皆ぁ!!」
後方のルーシェ、ノイン、フィル、ロダリア達はなんとかよけきったが、あれは並大抵の力ではなかった。もろにくらった前衛の彼等を見て、ルーシェは叫んだ。
「命を照らす光よ、
「なんだとっ!?治癒術師がいるのか!?」
フレーリットは目を見開いてルーシェを見た。前衛陣の氷槍に貫かれた傷がみるみる治っていく。
「クソッ、治癒術師め……。つくづく面倒だ、死ねッ!」
これでは埒があかない。フレーリットはルーシェに向かってナイフを投げた。一直線にそれは彼女の喉元へと空を切る。ルーシェは一瞬の出来事過ぎて動けなかった。
「っ危ない!
カヤがうつ伏せになりながらも咄嗟にそのナイフに向かって花を投げつけた。ドォォオン!と音が響きナイフは粉々に砕けちってしまった。
「ッ!?」
フレーリットはカヤを見た。ルーシェの治癒術のお陰で行動が可能なのだ。その隣へと視線を移した。ラオだ。傷は治り、既に立ち上がっている。彼は舌打ちし、ラオへ回し蹴りを入れた。ラオは腕で対応し、そこから凄まじい体術合戦に突入した。
「っとぅ!」
「はぁっ!」
見とれるような攻防戦。互いに一歩も譲らなかった。
「
「
ラオの側転を受け流すように手刀でかわし、
「
駆け抜けるようにクナイで切りつけ背後に回ろうとするが、
「
コンバットナイフで繰り出す火属性の技で受け流し火花が散る。
「
陽動で4本投げナイフを咄嗟に投げる────!
だが全てラオは反応しきった。
(今だっ!)
ラオは渾身の力でサマーソルトを繰り出した。
「
右肩に命中し、
「つっ!」
隙あり。思ったとおりだ。着地と同時に、技を繰り出す。
「
「ぐあっ!?」
地に手をついて回転蹴りを食らわす。
「
後方に飛び、雷を纏った2本のクナイを右肩に向かって投げた。
「うっ、ぐぁぁああぁあっ!?」
電流が流れフレーリットは絶叫した。膝を折り、右肩を押さえる。少し可哀想だとも思ったがこうでもしないと自分がやられてしまう。
(スミラさんの日記にも確か書いてあったな……)
と、ラオは思い出した。日記の内容は『拳銃を撃ち続けていたら肩を押さえた』だったか。あの時はあくまでも推測だったが、当たったようだ。
(彼、右肩を痛めてるみたいだネ………)
その事に不謹慎だが大いに感謝した。これがなければ彼の圧倒的な力には絶対に勝てなかっただろう。唯一の弱点と言ったところか。
「っ!父ッ………ぅぇ………!」
アルスは咄嗟に言ってしまった。しかし後の声は、蚊が鳴くような声に変わってしまった。ダメだ、抑制しなければ。悟られてはいけない。例え親子だとしても、知らないふりをしなければいけない。
「ぐぅ、がァっ!」
フレーリットは刺さったクナイを勢いよくがむしゃらに引き抜いた。氷結の湖上に鮮血が散る。
「貴様ッ………!!」
「ごめんネ卑怯な真似して」
「何…、謝ってるっ…!?貴様に同情されるぐらいなら、死んだ方がましだ!」
よろよろと立ち上がると、左手にまたナイフを持ち、鬼のような形相で言い放った。
「殺してやる、殺してやる……!絶対に殺してやる!!ラオッ!!裏切り者の貴様の行き先は、地獄の底だ!僕が送ってやる!!たとえ相打ちだとしてもだッ!!」
迫真の表情だ。何が彼をそこまでさせているのか。
「貴方は何故そこまでして!?」
その疑問。気になって仕方が無いアルスは思わず聞いた。
「何故だと?僕が理由もなしにここまで追いかけてきたりはしない!そう、そこまでするのには当然理由があるからだ!!」
ついに感情を爆発させたフレーリットは独白した。そして、衝撃的な発言が飛び出した。
「そいつは!ラオ・シンはっ!僕の父上を殺したんだ!!!」
フレーリットはラオを指さし糾弾した。
「殺した……!?」
「っはぁ?何言ってんだコイツ……?」
「どうゆうことですの?」
「何?どうゆうこと?サッパリ分かんない」
「ノイン、説明しろ!」
「僕にも分からないよフィル……!」
皆その発言に驚いた。しかし、1番驚いているのは──────。
「えっ………………?」
アルスは絶句した。何が何だか分からない。これは一体どうゆうことだ。言葉がうまく発せられない。動揺のあまり震えてしまう。
「………ラオ、一体どうゆう………」
「違うんだ!免罪なんだヨ!」
「黙れ!!」
全てを遮り、彼は叫んだ。
「言い訳なぞ聞きたくもない、どうやって死を逃れたのか、そしてどうやって今まで生きていたのか、どの面下げて僕に会いに来たのか。不明な点はあるが、あのラオに間違いない事は事実だ!!お前は!6代目皇帝サイラス、父上の敵だ!!」
「父上を殺した……!?ラオは、サ、サイラスを………殺し……たのか!?」
アルスは後ずさりした。頭が混乱し、呼吸が荒くなる。
「あんな事がなければ!僕はあんな惨めな人生を過ごすことはなかった!!あの悪魔のような叔父に虐げられる人生を過ごすことはなかった!!!」
フレーリットは頭を抱え、叫ぶように言った。彼の感情の起伏に答えるように、吹雪が湖上に吹き荒れ始めた。
「え……?どうゆうコト……?」
ラオは震えながら言った。
「お前がそれを聞くのか!?裏切り者のお前が!父に巧妙な話術で親しくなり信用を得てから殺す!実に卑怯な手口だ、流石はアジェス人と言ったところだよ。
僕はお前に!人生をねじ曲げられた!父上が死んでいなかったら母上は、叔父の慰めものにならなくて済んだ!父が死んだ事で、あの悪魔のような叔父が皇帝になることもなかった!全てうまくいってたんだ!地獄のような日々…!抜け殻のように過ごした10代…!何度死のうと思ったか、何度罪の意識に何度潰されそうになったか!」
「フレーリット。君に、一体何が……?」
「叔父に従わなければいけない、叔父に気に入られなければいけない、だから僕は!叔父に気に入られるような体裁を繕った。もう本当の自分が何なのかも分からなくなってたよ!まるで自分で自分自身に洗脳をかけてたみたいだ!
体裁が本物になりかかってた学生時代のある日、叔父が病にかかった。あの時ほど幸福な気持ちになったことはない!まだ僕にも抗いの自我とチャンスがきちんと残ってたんだ!
でも、病は叔父の残虐な性格をさらに歪めるものに過ぎなかった!病を治すために、スヴィエート中の治癒術師の召集命令を出した。僕にもそれは命じられた。
病を治せない、それだけで、何の罪もない治癒術師が、叔父のその機嫌1つ損ねるだけで殺される。治癒術師を叔父に引き渡す時に、『殺さないでくれ、助けてくれ』そう懇願していた奴らを僕は、叔父への恐怖に負けて、引き渡した!
次にその治癒術師の姿を見るのは、殺された後の死体処理の時…。憎き兄の息子の僕にやらせる仕事は、吐き気を催すような殺され方をした治癒術師達の死体の数々ッ……!
気が狂いそうだったよッ……!いや、狂ってたのかなァ…?
だってもう、その死体処理に、僕は慣れてしまったんだからね…!でも、ある日母上が叔父の部屋から出てきた時、僕はすぐに分かった。様子がおかしいってね。
その後嫌でもなんとなく分かったよ……、僕の母上は愛人として叔父の性欲処理にされてたって事がね!!あいつはどこまでも僕達をどん底に陥れた。母上の絶望に恐怖する顔を見た時、僕の中で何かが音を立てて切れた!」
皆、その先のセリフが予想することが出来た。猛吹雪の中、アルスは首を左右に振ってまた後ずさった。
「だからッ!!僕の手で殺してやったのさ!アーハッハハハァ!思い出すだけでも笑いが止まらないよ!クハハッ!あのイカれた!血が繋がってると思っただけでも反吐が出る叔父をこの僕が!この僕が殺したんだからなァ!?ハハハハハッ、ハハッ、アーッハッハッハッハッ!」
フレーリットは狂ったように笑い叫んだ。
「アッハハハハハ!!皇族なんてこんなもんさ!!血なまぐさい継承権争い!父が死んだ時から、僕の人生の運命は既に決まってたのさ!!僕は復讐者だっ!!母の、父の!そして僕自身の!!ハハッ、ハハッ、アハッ、ハハハハハハハ!!」
「あの闇皇帝ツァーゼル7世を殺したのは、貴方だったのっ……!?」
ルーシェは驚愕した。国民は皆原因不明の病で死んだと聞かされていたからだ。
「あ、あぁっ……、そん……なっ……」
アルスに至っては、声も出せない。
「お前も殺してやる、殺してやるラオ!!どんな事をしてでも!お前を─────!」
「もうやめてフレート!!」
「っ!?」
フレーリットはビクッと反応し声がした方に振り返った。吹雪が止んだ。
ローズピンクの髪、ふわりと揺れる花びらのようなスカート、アルスによく似たつり目、そして左目の下の泣きぼくろ。
「スミラッ!?」
フレーリットは唖然とした。
「スミラさんっ!?」
ルーシェは両手で口を押さえて驚いた。アルスはこれ以上ないほどに、目を見開き彼女を見た。体のそこから、あらゆる感情が押し寄せてくる。
「お願い、もう……もうやめてよ…!」
悲痛な表情でスミラは訴えた。
「ど、どうして……、君がここに……!」
「アンタが心配だからに決まってるでしょー!?」
「えっ、ええっ、そ、それっは、あ、いやこれはそのっ」
スミラは叫んだ。フレーリットはあたふたと弁解し始めた。
アルスは、混乱していた頭の全てがある感情に注がれた。憎悪だ。スミラに対する全ての思いが爆発した。
冷静などかなぐり捨てた。頭の中で響く。
殺せ。
殺せ。
今すぐ奴を。
裏切り者を。
──────スミラを殺せ!!!
「ッ!スミラァァァァアアア!!」
アルスは拳銃を両手で構えた。スミラは状況が判断できなかった。
「えっ、何っ?」
「ッやめろ大将!!!」
「うぁぁあああああぁああああああああ!!!」
パァンッ!
と、乾いた拳銃の音が静かに湖上に響いた。