テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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過去編はここで終わりになります


現代へ

全てがスローモーションに見えた。

俺を突き飛ばすガット。

顔面蒼白で驚愕する父。

左肩から鮮血を散らす裏切り者の母。

 

「キャアッ!」

 

「ッスミラァ!!!」

 

響く悲鳴。

フレーリットの絶望の声。

赤い血が氷結の湖上を真っ赤に染めた。

 

スミラは左肩を押さえた。ドクドクと血が流れ出す。腕を伝い、ポタポタと血だまりを作っていく。しかし、同時にその欠損部分を補うように、彼女の体内からエヴィが生み出された。蒸発するように、傷が再生されていく。しかし、誰一人そのおかしな様子には気づかない。いや、気づけなかった。アルスの行動に驚きすぎていて。

 

「何やってんだ馬鹿野郎!」

 

ガットはアルスを叱咤した。あと一歩でも遅かったら、スミラの頭を撃ち抜いていたところだ。

 

アルスの行動を止めようとガットは彼の腕に手を伸ばし突っ込んだ。ガットはそのままうつ伏せに倒れ込んだ。なんとかギリギリに軌道をずらす事はできたようだ。

 

アルスの手はこれ以上にないほど震えていた。

 

やってしまった、感情を抑えきれなかった。過去に干渉するなとルーシェに1番言い聞かせていた自分がやってしまった。アルスはこれ以上ないほど震え、ずりずりと後ずさりした。

 

「貴様──────!!ッよくもスミラを!!貴様から先に殺してやる!!!」

 

「あっ、……あっ、あぁっ……!」

 

フレーリットが怒りに震えた表情でアルスを見た。今までで1番恐ろしい顔だ。目は血走り、息が荒い。

 

彼の周りからまた猛吹雪が吹き荒れ始めた。激しく吹き荒れるそれは、彼の姿を隠した。

 

アルスは頭の中の整理が追いつかない。足も手も震え、動く事ができない。まるで蛇に睨まれた蛙だ。

 

視界も、吹雪で真っ白。かなり悪い。

 

何も、見えない。

 

「待って、ッフレ──────!」

 

スミラの制止の声を振り切りフレーリットは手の内から一瞬のうちに氷の剣を作り出し、走り出した。

 

アルスがハッと気づいた頃には、彼が目の前にいた。

 

「ぁっ……………!」

 

一瞬だった───────。

 

ズン、と腹に何かが貫かれた衝撃。

揺れる紫紺の髪。怒りに満ちた父の表情。

 

「……………が、ハッ……」

 

腹を貫いた氷の剣先から、血がぽたりと落ちた。痛い、息ができない。苦しくなり、口から血を吐いた。

 

「大将ぉお!」

 

仲間全員が驚き、戦慄した。1番近くにいたガットはその様子を目の前で見てしまった。

 

「ああっ、あ、アル……ス……!」

 

吹雪の中、ルーシェは絶望に打ちひしがれた。吐血したアルス。その光景をただただ見つめることしかできなかった。膝から崩れ落ち、ガタガタと震えた。

 

しかし、ある力が体の奥底から湧いてきた。何だろう、この力は。私の物じゃない。そして、頭の中である聞き覚えのある声が木霊した。

 

(やはり奴のアレはセルシウスの力か…。もうしばらく傍観しておこうと思ったが、まぁいい。確信したぞ。ご苦労だった、器)

 

(えっ、何っ………!?この声っ、まさかクロノス!?)

 

(我のもう一つの目的がこれで果たせそうだ。人間でないと、いかんせん会話が不便だ。しばらく体を借りるぞ)

 

(え………なっ……何………っ!)

 

ルーシェのに右手から何か熱いエヴィが溢れだした。クロノスの分身とも言える、力の一部だ。以前クロノスに手を掴まれた時と同じ感覚がかけ巡る。その直後、ルーシェはふっと感覚が夢の中へ落ちていくのを感じた。

 

 

 

「よくも、よくもスミラをっ!!」

 

真っ赤に染まる氷の剣。フレーリットはアルスの肩を掴み、剣を引き抜いた。アルスは重力に身を任せ仰向けにドサッと倒れた。

 

その一瞬、近くで父の顔を真正面から見た。彼からすれば、愛する妻を撃った輩にしか今見えていないのだろう。怖い顔だ。余裕はもうまるでない。

 

(────スミラの事を、本当に心から愛しているのか。何故?何で……?裏切られる運命なのに?彼女に殺されるのに?父上……、貴方は…………)

 

薄れゆく意識の中、悲しい目で、そして憐れむような目で父親を見つめた。アルスの血は、氷の上にどんどん広がっていった。フレーリットは両手で剣を構えた。止めを刺すつもりだ。大きく息を吸うと、

 

「死ねぇええええええええ!!!」

 

無防備なアルスの胸の中心に、まっすぐ剣を振り下ろす────!

 

(あぁ、殺される………)

 

アルスは妙に冷静さを取り戻した。死の間際だからだろうか。死ぬのか。いや、殺されるんだ。実の父親に、こんなにも憎悪に満ちた顔で。

 

「やめてフレートッ!!!」

 

スミラが叫んだ。

ピタッ、とフレーリットの動きが止まった。間一髪。剣はアルスの心臓スレスレで停止した。彼はカタカタと手を振るわせ、歯を食いしばり叫ぶ。

 

「何故だ…!何故止めるスミラ!!コイツは君を撃った!殺そうとしたんだ!」

 

首を振り、何故、と剣を構えながらスミラに振り返り訊ねた。

 

「さっきから、もうやめてって、言ってるでしょ…!?私の為なんかに…、これ以上手を汚さないでよっ!私は大丈夫だからっ!」

 

スミラは肩を押さえるのを辞め、フレーリットへ訴えかける。驚く事に、スミラの肩の傷は治り始めていた。

 

「ウソ……!傷が治りかけてるっ…!?」

 

「そんな馬鹿な…!確かに撃たれた筈なのに……!?」

 

カヤとノインはその様子に目を疑った。先程まで血を流していたのに、これは一体どうゆうことだろうか。しかしフレーリットはさして驚かず続けた。

 

「何言ってるスミラ…!僕はちっとも大丈夫なんかじゃないよっ!君は、君は僕の全てだ!君の為に今僕はここに存在している!」

 

「だったら!私の言う事さっさと聞きなさいよこのアンポンタン!」

 

フレーリットはその発言に思わず剣を下ろした。

 

「なっ、ア、アンポンタンって…!君は撃たれたんたぞ!少しは怒りってものが湧いてこないのか!」

 

「湧いてるわよ!?当たり前じゃない!沸かない方がおかしいわよ!!でも元はと言えば、原因は何も言わずに出ていったアンタのせいでしょー!!1人で勝手に暴走してー!バッカじゃないの!?これは僕の問題?私が悩んでた時は、ウザイくらいに相談に乗るくせしてっ!これじゃ何のための夫婦よー!?」

 

「君を巻き込みたくなかったんだ!!」

 

「いちいちカッコつけて、紛らわしいし、全部裏目に出てて余計ダッサイのよ!復讐者だか何だか知らないけど、普通妻に相談するものでしょ!?悩みを分かちあって、それが夫婦ってもんでしょー!?」

 

「君にこんな血なまぐさい事情は、知られたくなかったんだ!!君の事を想って……!!」

 

「んなの!何となく察して分かってたっつーのぉ!私を舐めてんの!?」

 

「し、知ってたのか!?」

 

「さっき聞いて確信に変わったのよっ!!ぅっ、気持ち悪っ!」

 

まるで痴話喧嘩だ。しかし突然、スミラは口を押さえて突然座り込んだ。

 

「ッスミラ!?」

 

「うっ、うぉぇぇ……。きぼちわるっ…」

 

「だ、大丈夫か!!」

 

フレーリットは血相を変えて駆け寄った。しかしスミラの険しそうな表情は変わらない。それどろか、

 

「そうよ……、普通そうするもんでしょ……!何が私のためよ……。普通撃たれた後私に駆け寄るもんでしょ……!」

 

と、先程の不満点を露にする。フレーリットはスミラの肩を支え、心配そうに覗きこんだ。

 

「ご、ごめん……。僕ちょっと、冷静じゃなかったね……」

 

「私が、これ以上、手を汚さないでって、言ってる理由は………!うっえぇ!」

 

「わぁぁあ!スミラ!!」

 

嘔吐したスミラの両肩を掴もうとしたフレーリットだが、

 

「ちょっと、触んないで!殺すわよ!?」

 

「ええっ!?」

 

突き飛ばされた。

2人のペースに、周りは全く付いていけない。

 

「し、尻にしかれてるってああいうんですね」

 

しみじみとノインが感想をもらした。

 

「なんか、フレーリットの表情がだいぶ穏やかなものになったネ」

 

ラオも頷き、彼の顔を見て言った。

 

「あの症状って……」

 

「つわり………?」

 

カヤとロダリアは、スミラの症状に気づいたようだ。

 

 

 

「おい!大将!」

 

フレーリットのその隙を見てガットは瀕死のアルスに駆け寄った。目が虚ろで、ヒューヒューと浅い呼吸だ。

 

「父上…………、あな……たは………」

 

「黙ってろ!今治すから!」

 

ガットはアルスの貫かれた胸に手を当てた。しかし、何かが遮るようにして、力がうまく発動できない。

 

「な、んだこれ……、嘘だろ……、治せねぇ……!?」

 

ガットは両手の掌を見つめた。何かが、邪魔をしている。しかし次の瞬間、アルスの傷口から大量のエヴィが生み出された。それらは自力で傷を再生し始めた。

 

「んだこれ………?再生してやがる……?けど、俺の治癒術は全く効かねぇ。一体何の力だ……?フレーリットの野郎、何をした!?」

 

ガットは、その奇妙な様子を見ていることしか出来なかった。

 

 

 

当のスミラのそばに付き添っている彼は先程の様子からは想像もできないほど情けない姿だ。

 

「だから、フレート、あんたは、パ……!っうぇぇっ」

 

「あぁ、ス、スミラ…!しっかりして、ど、どうすれば……。待って、死なないで。君が死んだら、僕は生きていけないよ…!くそっ、やっぱりアイツのせいでっ…!」

 

フレーリットは必死にスミラの背中をさすった。それだけしかできなかった。

 

「肩……撃たれたぐらいで………死なないっての……!アンタ、いい加減……、気づかないわけ……?」

 

「え、えっ?何が?」

 

スミラはうんざり、といった表情の後、説教混じりの声色で言った。

 

「赤ちゃんが!!赤ちゃんが出来たのぉ!?分かる!?これはつわりなの!!」

 

「……………………………え?」

 

フレーリットは素っ頓狂な声を出した。目が点になり、いまいち受け入れられない。

 

「アンタはパパになるの!!だから、赤ちゃん抱くその手!これ以上穢さないで!!」

 

「パ………パ?僕が?」

 

「あとタバコもやめて!!いい!?」

 

フレーリットはスミラのお腹をじっと見つめ、

 

「僕が……………、父になる、のか?」

 

と、言い聞かせるように繰り返す。

 

「そうよ!!そんな血なまぐさい手で、私の赤ちゃん抱かせないから!いい加減自分を自制して!いい大人なんだから!出来るようになりなさいよ!言わせないでよ!」

 

「僕、が……父親……」

 

「聞いてんのっ!?」

 

「い゙ッ!」

 

スミラはフレーリットの頭をゴン、と思いっきり殴った。フレーリットは反射的に頭を押さえる。

 

「復讐とか!そうゆうのじゃなくて!今を生きてよ!生まれてくるこの子のために!私の事が全てなんでしょ!?だったら私と私達の子の為にこれから生きなさいよ!復讐者とか、もうっ、ハッキリ言ってダッサイから!いつまでネチネチネチネチ男が引きずってんじゃないわよ!キモイのよっ!」

 

「スミラ……!僕、は……!」

 

「っきゃ!」

 

フレーリットはスミラを抱きしめた。瞳から涙を流し、大切に、愛おしそうに。

 

その様子にぽかんと見ていることしか出来なかったラオがついにつっこんだ。

 

「ナニコレ!ボク達の事完全忘れて、いきなりハッピーエンドみたいな展開になってるんですケド!?」

 

「スミラパワー………、ですね」

 

「ノイン!気楽なこと言ってないで、このスキに逃げた方がいいんじゃないのかこれ!?」

 

フィルが冷静に判断しノインに言う。

 

「に、逃げるわよルーシェって、あれ?ルーシェ!?」

 

カヤは先程絶望していたルーシェを心配し、様子を見た。しかし彼女はゆらゆらと立ち上がり、とにかく様子が変だ。

 

「ルーシェ?どうしたの……?」

 

 

 

彼女はゆっくりとフレーリットとスミラに近づいた。そして普段の彼女では想像もつかない口調で話しかけた。

 

「フレーリットとやら」

 

「ん?」

 

フレーリットはスミラを抱きしめながら立ち上がった。そして怪訝そうにルーシェを見つめる。

 

「っルーシェ!?」

 

「知っているのかスミラ?」

 

スミラはルーシェの顔を見て、驚いた。彼女にとって、つい先程まで一緒にいたメイドなのだ。

 

「何処行ってたのよ、心配したのよ!?」

 

「黙れ」

 

ルーシェは冷たく突き放すように言った。いきなりのことにスミラは、

 

「………は?」

 

と、唖然とする。

 

「我はこの男に話しかけているのだ」

 

「僕?」

 

フレーリットが自分の顔に指をさした。

 

「何?どうしたのルーシェ?クッキー作ってたさっきとまるで雰囲気違うけど……!?」

 

「貴様その力、セルシウスの力か」

 

ルーシェはスミラを無視して話し続けた。フレーリットは舌をまいた。

 

「へぇ……気づいたの?まぁあれだけ使ってれば、そりゃ分かるか…」

 

「せるしうす?精霊の?」

 

スミラや他の皆は話についていけない。

 

「彼女、何言ってんの?」

 

「ルーシェ?どうしたというのだ?」

 

ラオとフィルは明らかにおかしいルーシェの様子に首をかしげた。だが、これだけは分かった。セルシウスとは、氷の精霊の事だ。ここスヴィエートではおとぎ話で有名である。

 

「何故人間如きのお前がそこまで力を扱える?」

 

「……ん〜、力の使い方が上手いのかは僕も詳しくはあんまり分からないんだけど、古くからスヴィエート家がセルシウスの監視者だったらしいから、力が馴染んでるのかもねぇ?」

 

「ま、今の全部適当だけど」と、小声でフレーリットは言うとこれ見よがしに肩をすくめた。

 

「ふざけるな!真面目に答えろ!それに力が馴染んでいるからと言って、そこまでの力はいくらなんでも人間には不可能だ!貴様、一体何を……!?まさか、直接使役を……!?」

 

ルーシェは足を一歩引き、ドン引き、といった様子でフレーリットを見つめた。彼はというと、

 

「アハハッ、いくら何でも、そんなハードルの高い事は僕には無理かなぁ」

 

クスリと笑いどこか馬鹿にしたように、首を傾げる。

 

「じゃあ一体何故────!?」

 

詰め寄るルーシェに、ふぅ、とフレーリットは息をつくとネッグウォーマーを首から緩めた。そして

 

「これさ」

 

と、言って首に下げていたネックレスを取り出す。綺麗な水色の装飾だ。ひし形に輝くそれは、この世のものとは思えないほど綺麗なものだった。まるで雪の結晶のように、角度ごとに白く、銀に、そして水色に輝く。

 

「ずっと隠してきたけど、もう君には何故かバレちゃってるみたいだし、別にいいか〜」

 

「っそれはっ!?」

 

そのネックレスから、ルーシェは強い力を感じ取った。間違いない。セルシウスの力だ。そのネックレスを見たロダリアは確信の表情で小さく言った。

 

「やはり……あれはまさしく氷石……!確認できましたわ……!」

 

しかし、仲間の誰一人遠目にはそれが一体何なのか分からず、ロダリアの小さな声も聞き取れなかった。カヤは、

 

「何?ルーシェは一体何してんの?」

 

と、不審に思うばかりである。

 

「な、何それ!?私そんなの見たことない!」

 

スミラはネックレスを見つめると目を見開いた。

 

「だから、隠してきたって言ったでしょ?」

 

ルーシェはわなわなと震え、奪い取ろうと手を伸ばした。

 

「っそれを渡せ!!」

 

「おっと」

 

しかし、彼は軽々とよける。

 

「ル、ルーシェ!?」

 

スミラは尋常じゃないそのルーシェの姿を見て、驚き声をあげた。

 

「悪いね。よく分かんないけど、まだ奪われるわけには行かないんだ。この先まだ大きな仕事が残ってるしね」

 

フレーリットはネックレスを右手に巻き付けた。そしてルーシェに手をかざすと、ネックレスから氷の力を発動させた。集結した氷のエネルギーがルーシェを襲う。

 

「効かぬ!」

 

ルーシェはそれに素早く反応し、手で吸収するようにして防御した。

 

「え?」

 

フレーリットは目を丸くした。今までこんな事をやってのけた人物はこの女性ただ1人だ。

 

「っ、あの力って…!」

 

カヤは思い出した。これに少し似た現象をカヤは見たことがあった。精霊イフリートの戦闘後の事だ。火の精霊であるイフリートが彼女に触れてもルーシェに何も代償はなかった。

 

「驚いたなぁ?」

 

フレーリットはケラケラと笑った。しかし、言うて驚いた様子ではない。

 

「この娘に、そのような力は効かぬ!」

 

「ふ〜ん…………?」

 

フレーリットは顎に手を当てて不敵な笑みを浮かべると、スミラを優しく手で制し下がらせた。

 

「下がってスミラ」

 

「っちょっと、なに?」

 

スミラは眉をひそめてフレーリットの後ろ姿を見つめた。

 

「ならこうするしか、ないよねっ!」

 

次の瞬間、フレーリットの容赦ない強烈な蹴りがルーシェの腹に叩き込まれた。

 

「がっ!?」

 

ルーシェは勢いよく吹き飛ばされた。息が詰まる。腹は、じんじんと鈍痛が残っていた。

 

「ルーシェ!!」

 

フィルは素早く糸で大きな蜘蛛の巣を作り、クッションとしてルーシェを受け止めた。見ると、ルーシェの口から一筋の血が流れている。

 

「ルーシェ!ルーシェ大丈夫か!?」

 

「しっかりしてルーシェ!」

 

フィルが顔を覗きこんだ。カヤも駆け寄り、心配そうに見つめる。

 

「ア…アンタ何してんのよっ!?」

 

絶句したスミラはフレーリットに詰め寄った。しかし彼は、

 

「人の物をいきなり奪おうとするんだもの。これは大切なものだし、彼女は引き下がる様子もない。だから僕はそれ相応の処置をしただけだ」

 

と、淡々と何食わぬ顔で受け流した。

 

「だからっていくらなんでもやり過ぎよっ……!」

 

スミラは顔を青くして、あちらの様子を伺った。

 

 

 

苦しそうにルーシェは目を開けた。

 

「ぐっ、まずい…!」

 

ルーシェは蹴られた腹を押さえた。

 

「ルーシェ、あぁ、血が…大丈夫!?」

 

カヤは彼女の口の血を指で拭き取った。

 

「いきなり変な喧嘩売ったりするからよ!」

 

「我の……力が……っ!」

 

「え、我?」

 

カヤは彼女の一人称に疑問を覚えた。

 

「カヤ!離れて!そいつはルーシェじゃない!」

 

「えっ!?」

 

ノインは異変に気づきカヤを引き離した。確かに、口調がおかしい。しかし、外見はルーシェそのものだ。

 

「くそっ、人間のこの娘のダメージが大きすぎてっ……力が、維持できんっ……!」

 

「おいルーシェ!!頼む!アルスが!アルスの傷が治んねぇんだよぉ!!でもなんか、再生しててっ!よくわかんねぇ!って、どうしたんだ!?」

 

ガットがアルスを背負い、急いでルーシェの所へ走ってきた。しかし、ルーシェのその様子を見て驚きを隠せない。

 

「一体何がどうなってやがる!?色んなことが起きすぎて、何がなんだか……!?」

 

ガットの声を遮るようにして、ルーシェは呻き苦しんだ。

 

「うっ、ぐぁああっ。くそっ!限界だ───────!」

 

ルーシェは胸を押さえつけた。次の瞬間、眩い光が彼らを包み込んだ。

 

「おわっ!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「のわぁっ!?」

 

「っ!」

 

「うわわっ!」

 

ぁぁあぁぁぁああああぁぁあああ─────!

 

光の中、皆の声が木霊した。

 

「っいきなり何だ!?」

 

「フレート!何が起こってるの!?」

 

凍りついた湖上の中心で、凄まじいエネルギーが爆発するように広がり、ルーシェの周りにいた仲間達全員がそれに巻き込まれた。

 

フレーリットとスミラはその光に思わず目をつぶり、手で顔を覆った。

 

そして、目を開けた時には──────

 

「消えたっ!?」

 

ルーシェ達の姿は、跡形もなかった。




仮にも未来の息子をブスリしちゃうフレーリット。
でも赤ん坊の時はしっかり守ったよ(言い訳)

でもルーシェという女の腹容赦なく蹴る時点でコイツも結構クズである。心を許した者以外相当ひねくれている。というかこのあと明らかになる元凶は大体コイツのせい。親父ェ…。

彼が言った「この先の大きな仕事」とは、言わずもがな。「リュート・シチート」作戦の事です

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