テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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アルスの両親、スミラとフレーリットがどのようにして出会って、結婚まで至ったのかという番外編のストーリーとなっております。我ながらこの記念すべき出会いをえがいた馴れ初め編1話は、これほどドキドキしないラブコメはあるだろうか、とおもいました。

本編読んでない人だと完全にネタバレになりますので本編読んだ上で読むことをお勧めします、その点はご注意。


番外編 スミラとフレーリット 
スミラとフレーリット 馴れ初め編


レイシア・エッカート

家族構成 母のタチアナ、父のレオニド、弟のコールジェイ

 

母親譲りの薔薇色の髪、家族全員同じの赤い目。父親譲りのつり目。そして左目の下に泣きボクロがあった。

 

家族や村の皆からはレシーというあだ名で呼ばれていた。

 

レイシアはスヴィエート最南端の村に産まれた。村の名前はシューヘルゼ。この村は主に農業や林業、狩猟、それと鉱業で生活している。

 

南にはアジェスのガラサリ火山があるに加え、クロウカシス山に東北部分は包まれ、東から吹く凍結風が来ない。この恵まれた環境のお陰でスヴィエートの中では群を抜いて温暖である。植物が豊富で自然の恵みを一身に受けることが出来るこの村で、レイシアはすくすくと育った。

 

特に彼女は花が大好きだった。よく花冠を作っては家族にあげたり、村人にあげたりした。お花のレシーちゃん、なんて村であだ名をつけられたりもした。

 

この魅力的な自然に惹かれてやって来る首都民も多い。観光目的や、退役した軍人など。所謂田舎と呼ばれる土地だ。レイシアが9歳の時、ある首都民からこんな話を聞いた。

 

「ここの花をあっちに持っていけたらなぁ…」

 

そこでレイシアは尋ねた。

 

「首都には花がないの?」

返ってきた答えはこうだ。

 

「厳しい環境下だからね、特定の花しか咲かないよ。この国の国花は知ってる?そう、セルドレア。あれぐらいかなぁ、咲けるのは」

 

”咲けるのは”

 

この言葉にレイシアは引っ掛かった。首都の詳しい話を聞き、図鑑でセルドレアを調べた。首都民の話では、首都オーフェングライスではグラキエス山から発生する凍結風の風下に位置する影響で年中降雪状態。わずかにある夏の期間はとても短く1ヶ月程度だと言う。夏と冬のみ。それがスヴィエートと言われ想像するイメージだろう。無論スヴィエート全域がそうというわけではない。この村が証拠だ。

 

その中で咲くセルドレアは特別な花のようで、あの極寒の環境でこそ咲き誇る、とでもいうように鮮やかな青の花を咲かせる。植物の対応進化なのか、もとからそのような性質の花なのか。図鑑には不明、としか書いてない。ただ、国花に指定する理由も分かる。あの鮮やかなコバルトブルー。はじめて見た人は目を奪われるという。この村で青色に咲く花は観たことない。

 

(見てみたいなぁ…)

 

どうせ家業は長男の弟コールが継ぐのだ。私はどうしようか。もうすぐ18歳だ。何もしないまま華の10代、そして20代を終わらすの?この村にいたままじゃ絶対そうなるに決まってる。

 

(そうよ、首都よ。都会!都会へ行くの!)

 

首都でこの素晴らしい花を皆に見せてあげたい。首都でセルドレアの花を見てみたい。こんな田舎じゃなくて都会に行きたい!!都会に行って、私自身のお店を!花屋を持つの!

 

これが私の夢になった。17歳の時、この事を家族に話した。だが、夢はすぐさま打ち砕かれた。

 

「首都へ行くだと!?言語道断!!それに、お前はこの村から出てはならん!!」

 

「姉さん!?本気なの!?よりによって首都だなんて!俺は反対だよ!姉さんを危険な目に遭わせたくない!」

 

「だめ、だめよレシー。母は許しませんからね」

 

家族に話したらそれはもう大反対。

 

私は呆気にとられた。だって、てっきり了承してくれるものだと思っていたからだ。ここの良さをを伝えて何が悪い?それに家業は弟が継ぐはずだろう。農業は弟に任せて自分は自分の道を行く。それのどこがいけないのだろうか。このまま田舎でつまらない人生を送るつもり?嫌よ、遊びたい。夢を追いかけたい!

 

実質、この村からオーフェングライスやグランシェスクに行った者も多い。確かにここは辺境の地すぎるせいか圧政の影響が少なく居心地がいい。だが、彼女は夢に燃える女だった。家族と離れ離れになる、それでも、それでも行きたいのだ。だってよく言うでしょう?

 

反対されたり、障害がある程恋や夢は燃え盛るってね。

 

「私!!絶ッッッ対に首都に行くからぁぁああーーー!!!」

 

 

 

エッカート家は特殊な能力を引き継ぐ末裔だった。治癒術を得意とする能力。いわば再生だ。傷ついた部分に手をかざして術を発動すればその傷は治る。術者にもよるが、きれいさっぱりに消えるのだ。だがその力の能力者は第1次世界対戦時にスヴィエートからほぼ全滅した。敵国、ロピアスによって。

 

なんとか難を逃れ必死に逃げてきたのが遠い最南端の地、シューヘルゼだ。彼らは村を作り、静かにひっそりと暮らす事を決めた。そして力を隠し、決して使わないと誓った。元々個々の一族別に力の強さが別れていた末裔だ。エッカート家は治癒の力があまり強くない代わりに、再生能力だけは飛び抜けていた。

 

生命力に溢れ、寿命が長く、傷はすぐさま治る。治癒の力を使わない分力は再生能力に特価し、やがて治癒術は使えなくなったが再生能力はもはや一族の中で最も優れていると言ってもいいだろう。

 

だがエッカート家は守っていかなければならない。一族の歴史と力を。それが、頑なにレイシアの父が村の外に出ることを禁じたのだ。

 

レイシアはその話を聞いた。18歳の時だ。お前がまだあの夢を持っているというなら話しておく。そう言われ話された。父の思惑はきっとこうだろう。

 

この話を聞けば自分のやろうとしている事の重大さが身に染みるだろう。それで、首都に行くなんて事も諦めてくれる。だけど私の意見はそうだ。

 

 

「はぁ?お父さん、大事な話ってそれ?それが何?力なんて隠せばいいじゃない。少なくとも私の夢に支障はきたさないからそれでいいじゃない、私の意思は変わらないから!」

 

レイシアは20歳の時に家を出た。誰にも相談せずに。お金、花の種、服。必要なものは全て自分で貯めて持った。

 

夕飯を自分で作り、家族全員の水に独学で学び花の花粉から生成した睡眠薬を混ぜた。

 

もう、数年、いや、もっと長い期間会えないかもしれない………。

 

「うぅーん……もう食べれない……姉さぁんの……相変わらず……、料理ウマ……」

 

「ッ!」

 

寝言で弟コールが呟いた。私をずっと慕ってくれた可愛い弟…。

 

「ごめんねコール……。お母さん、お父さん……」

 

せめてもと、家族全員に置き手紙を残し、セビ川にかかるエフロ橋を渡り、その日の最終ゴンドラでクロウカシス山を越えた。

 

麓の山小屋で一夜を過ごし、馬車に揺られ2日。グランシェスクに到着し、またそこでひと休みし港へ向かう。

 

「港で船に乗れば、いよいよ首都へ行けるのね……」

 

港まで徒歩で向かう途中の街道に、菫の花が咲いていた。

 

「私は今日からレイシアじゃない、レシーでもない。スミレ……、貴方から名前を貰うわね。あとは、花の女神フローラから……、フローレンス。うん、花屋っぽくていいわね」

 

私はもう、レイシア・エッカートじゃないわ。

 

スミラ・フローレンスよ。

 

 

 

スミラが首都に来て6年がたった。

 

時間はかかったけど念願の自分の店を持てた時は本当に嬉しかった。

 

でも、時代が時代というか、素直に喜べなかった。もちろん、首都ではあまり取り扱ってない花ばかりを取り入れてる花屋だから花自体は飛ぶように売れる。

 

田舎者が首都に来てよくやって来たと思っている、我ながら。

 

エヴィの扱いだって独学でなんとか取得したし、それを応用してこの店に特殊な環境にして花は咲けるようになってる。

 

私の努力の賜物。苦労は多かったけど。

 

田舎者、とか身分の事とか。名前も変えて、きちんと平民身分証も発行した。私がレイシアだと知る人は家族だけ。

 

家族が心配じゃない、といえば嘘になる。なんでも、今は戦争が始まりそうで、花は軍事パレード用や軍人の見送り式で使う用の大量予約が入ってる。

 

「ハァー……戦争か…………………」

 

微妙な気持ちだ。起こって欲しくないと思う反面、今の主な収入源はこれなのだ。本当に複雑な気分になる。

 

今思えば、セルドレアの花だって、見ることは出来た。だけど本物じゃない。軍事パレードの時、軍人達の軍服に必ずある花模様。それがセルドレア。

 

正確に言うとそれらはアウドレアと言う。

 

セルドレアは花が完全な状態の事を指している。6枚の花弁が咲いている時を満開時でセルドレアと言い、それ以外はアウドレアと言う。軍人がつけてるのはほぼアウドレア。なんでもその花弁の数で階級が決まってるらしい。つまり、皇族は必ず6枚のセルドレアの紋章が服のどこかにある。

 

と、そんな事を思っているともう日が暮れていた。そろそろ閉めて、また明日の準備をしなければ。

 

「さてと、予約の確認は終わったし、後は………」

 

 

 

そう言いかけた途端、店入口のドアが開きカランカランと音がした。

 

(わっ、やばっ。閉めてなかった!)

 

「すみません!お客様!今日はもう……」

 

「どうも」

 

声がだんだんと小さくなり、終わり、そう言いかけた。でも言えなかった。

 

なんか、今その台詞言ったらダメな気がしたのだ。気まずく、なんとなく。入ってきた男性の雰囲気的に言えなかった。正直怖かった、トラブルは起こしたくないし、このお客様が今日の最後の人としよう、スミラはそう決めた。

 

「ごめんごめん、店閉めるところだった?でもちょっと花が必要でさ」

 

そう言ったそのお客様は店を散策し始めた。帽子にサングラス、丈の長い黒いコート。怪しい…、めちゃくちゃ怪しい。

 

そして怖い。

 

(お花売って大丈夫かなこの人……)

 

身長は高いし、目は全く見えない。ピリピリと冷たい空気を纏ってるというか、そもそと全く店主である私に興味を示していない。

 

「へ~、こじんまりとしてるけどなかなか見ない花の品揃えばかりだな」

 

でもこの声、どこかで聞いたような…。

 

「あ、ありがとうございます。よろしければ今日はどのようなものをお探しか教えて頂けませんか?」

 

「……………」

 

(無視!!?)

 

流石に顔が引き攣るのを感じた。この客はまじまじと花を見つめている。

 

(いやいやいや、聞こえなかっただけかもしれない。きっとそうよ)

 

負けるものか…、とスミラは平静を保った。接客業は辛いが、私が店主である。お客様放置は論外。

 

スミラは花を見ている彼に再び話しかけた。

 

「あの、今日は…誰かの贈り物ですか?」

 

「…?君には関係ないだろ、放っておいてくれ」

 

何度も話題を振ってくる自分に迷惑そうに答えた。案の定の返事だが、案の定すぎて余計腹がたった。私のことを見もしない。スミラは若干ムキになって言い返した。

 

「むっ…!い、いやいやか、関係ある……と思います。いやてかあります!!お客様の目的と条件によって私は適切なお花を選べます!」

 

「え」

 

彼はそこで驚いたように、そして初めて真正面からスミラを見た。

 

「……ふーん?」

 

ようやくここでお客様は振り返った。

 

「じゃあ目的と条件を言うからやってみてよ。僕の母が喜ぶ花を選んで。これだけ、簡単でしょ?」

 

「へ?」

 

「ほら早く~」

 

「そ、それだけ!?」

 

「うん」

 

(ええええええええええ……何こいつ…)

 

スミラは心の中で悪態をついた。最後の最後で嫌な客に当たってしまった…。

 

「ちょっ、ちょっと待ってください。せめて何か……あの、ヒントを…!」

 

「ヒント~?あーヒントか、そうかそうだなぁ。んーそういえば寒いのは嫌いって言っていた~かな?」

 

どこか嘲笑うような、バカにするような言い方に更にカチンときた。

 

(この喋り方うぜえええええええええ、てかそれヒントなの!?)

 

「わ、分かりました!すみません!少々お待ちください!」

 

(この野郎…!私を試してる!いや完全に舐めてる!!こんなお客は初めてよ!)

 

「いい性格してるねぇ、君」

 

(アンタに言われたくないんですけどッ)

 

「しょ、少々お待ちを~」

 

思わずリップサービスが崩れ苦笑いで答えたスミラだった。

 

 

 

(寒いのが嫌いってことは暖かい、つまり夏の花が好きなのかもしれない……。このバカめ!今の時期夏に咲く花なんてあるわけないと思っているでしょうねコイツあるわよ!!今冬だけど!)

 

スミラは店の奥へ進みラッピングを整えた。アジサイ少々、キキョウにアサガオ。メインはヒマワリにして見事な花束の出来上がりだ。

 

「お…、お待たせしました!」

 

「え、ホントに出来たの~?」

 

ニヤニヤと笑い、腕組みをして観戦気分の彼にドヤ顔でスミラは言ってやった。そしたら拍子抜けした顔で、いや、声も拍子抜けしていた。

 

「ひ、ひまわりメインで夏の花を周りにやって、ひまわりをひきたたせるようなイメージで作りました…。寒いのが嫌い…だ、そうなので暖かいイメージのあるひまわりでその……仕上げてみましたが、あの、いかがでしょうか?」

 

深く帽子被っててサングラスかけてる人の表情なんて、背の低い私からじゃ見れない。因みにこの身長の低さは私のコンプレックス。必然的に背の高い彼を見上げる形なる。彼の様子を窺う為に。

 

「いや…ビックリした。まさか、こんな事って。凄いね君。いやホントに。ヒマワリが好きって確か昔母が言ってたよ。君は超能力でもあるの?」

 

彼はサングラスを外しながらそう言った。思わずその瞳に驚いた。綺麗な銀色だ。目の下にはクマがあるけど。それにコイツの顔もどこかで見たことあるような…。

 

「い、いや、超能力は…流石にないですけど。まぁ一般的な夏の代表的な花ですから。ヒマワリの花畑なんてとっても綺麗ですし、いかがですか?お客様!」

 

花の事を話すと、スミラは自然と笑顔になる。我ながらよく出来た、と愛おしそうに花を見つめる彼女の姿に、その客は息を呑んだ。

 

「っ…!」

 

「あの…気に入りませんでしたか?」

 

返答を待っている彼女に慌てて声を出す。

 

「あっ、いっ、いや、あ…、ありがとう。こんな良い花束をくれるなんて思っていなかった。これで母も喜ぶよ」

 

「いえ!そんな、全然!」

 

こうも素直に褒められると照れ臭くなる。スミラの中で初期の第一印象とは少し違う人になった。

 

(あとはお金なんだけど…。どうしよう、ええいズバッと言っちゃえ!)

 

「えーと、すみません!お代を…」

 

恐る恐る言ってみると、

 

「へっ!?あっ!ああそうか。お金ね」

 

彼はそう言うと衣服をまさぐり始めた。ポッケの中に手を入れると一瞬止まり、「ごめん」と一言。

 

「財布忘れた」

 

「ええっ!?」

 

「あー、ゴメンゴメン、大丈夫。代わりのモノあずけておくから。これで勘弁してくれるかな」

 

彼はそう言うと懐中時計を取り出した。

 

「はい。取り合えずこれ。まぁ担保だと思って。価値は保証するよ」

 

ジャラっと卓上に出されたそれはなんと金の懐中時計。美しく満開に咲き誇るコバルトブルーの、セルドレアの花が蓋に美しく装飾されていて、どこからどう見ても相当な値打ち物である。

 

「えっ!?こんな、いいんですか!?いっ、いやいやいや!受け取れませんよ!これ割に合いませんよ!お釣り多すぎます!」

 

スミラは思わず目がくらみ、最初は悩んだけど、いや、ダメだ!と思い思わず断りを入れる。

 

「いいよいいよ気にしないで。なんなら君にあげようか?ソレ」

 

「いやいやいや!?でも!」

 

「んー、じゃあこうしようか。ソレお金として持っておいてよ。また今度絶対お金持ってくるからさ」

 

「ええー!う、売っちゃいますよ?私?!」

 

この金時計、どれだけ価値があるのだろうか。スミラはやっぱり金に目がくらむ。いや、お金は大事だ。

 

「別に売っても構わないよ。でもどうせしないんでしょ?」

 

「うっ、……そ、そんなこと」

 

完全に嘘がバレていた。しないって分かってて煽ってくるのだ。こいつは。

 

「じゃあ僕、そろそろ帰らないと。またね、フローレンスさん。意外とすぐに会えるかもよ」

 

彼は花束を持ちサングラスをかけると出ていった。ドアに設置してある鐘がカランカランと鳴り、しばらくしてまた店に静寂が戻った。

 

「……意外とすぐに会える……?ってぇ!住所聞き忘れた!!もし会えなかったり来なかったらどうすんのよーー!?あのクソ虫!!」

 

 

 

数日後……。

 

「いっ、いっ、1億7千万ガルドォ!?」

 

スミラは履いていた高いヒール靴を曲げさせ、危うくコケそうになった。

 

「おい姉ちゃん!これどこで見つけたんだ!贋作にしても出来すぎてる!ていうか本物かこれ!?こりゃ先代皇帝のツァーゼル陛下が持っていたという世界に1つしかないスーブル社製の貴重でとても豪華な懐中時計だよ!!姉ちゃん!俺に是非売ってくれ!もうこの際どうやって手に入れたとか聞かないからさぁ!」

 

なんてこった。スミラは目眩を覚えた。これ、こんな、こんな時計に私の一生を賄える価値があるのだ。スミラは混乱せざる負えなかった。とにかく落ち着こう。とりあえず家に帰って一旦ゆっくり考えよう。

 

「いや!やっぱりやめます!ありがとうございました!」

 

「あっ!おい姉ちゃん!」

 

スミラは周りを警戒しながら帰り道を急ぐ。

 

(驚いた!!なんて事なの!?試しに質屋に持っていった結果がアレよ!1億7千万って!こんな小さな時計にそんな価値があったなんて!というか、それも重要だけどあの質屋の言い分が本当ならあの人は何であんなもの持っていたの!?質屋の人の反応は演技には見えなかったわ。一体どうなっているのよー?!)

 

しばらく歩いていると、すごい人混みになってきた。困惑して立ち往生していると周りの人が話す噂話が流れてきた。

 

「おい!フレーリット様の演説がはじまるぞ!」

 

「急げ!何と今日は平民街まで来るらしいぞ!」

 

「大変!陛下に失礼のないようにしなきゃ!」

 

軍事パレードだ。

 

(げっ、今日は平民街の私の店の前も通るの…)

 

ああ、だからあんな予約入っていたのか…、とスミラは納得した。もう花は随分前に用意して軍に発送したが…、どんな風に使われているのか気にならないでもない。

 

今の時間帯は商店街の皆が店を閉めてパレードを見ている。私もその1人にならざる負えない。緊張して喉が乾いたので軍がやっていた売店の飲み物のミルクティーを購入し、少しずつ飲みながらパレードの様子を観察した。楽器隊やら、兵器を持った人やらが闊歩していて、道路はかなり盛り上がっている。と、次の瞬間、ワァッと人々が更に歓声を上げた。

 

「なになに……なんなのよ……?痛っ!ちょっと!押さないで!もうっ!」

 

背が低いせいで押されるわ埋もれるわ全く見えないわでスミラはだんだんイライラしてきた。

 

「陛下ー!!!」

 

「フレーリット様ー!!」

 

「皇帝陛下ー!!」

 

「どうも~~」

 

皇帝陛下とやらがいて皆騒いでるけどスミラは本当に何も見えない。ピョンピョンと飛び跳ねるが、誰かの靴をヒールで踏んでしまって悲鳴が上がった。

 

「あっ、ごごめんなさい!」

 

今確認できたのは散って、地面に落ちている花片や花が私が出荷したモノだっという事ぐらいか。地面に落ちているのでいやでも分かった。

 

パレードの行進は進んでいき、スミラも人の流れに流されつつやがて平民街集会場に行き着く。演説する所は高いので、見上げる形で見えた。

 

(なんだ、待ってればどの位置からも一応見れることになっているのね)

 

そして歓声が上がったと思えば陛下と思われる後ろ姿が見えた。後ろ姿に思わず目を疑った。この前来たあのクソな客にそっくりだったからだ。

 

そして彼が振り返った瞬間、確信した。

 

(あいつだ!あのクソ虫!)

 

「う、嘘…」

 

そう、心の中ではクソ虫なんて悪態付いているけどこれ軍に聞かれたら多分不敬罪で殺される。

 

「どうも、こんにちは皆さん。フレーリット・サイラス・レックス・スヴィエートです。単……入に言い……す。近々………スと我が………………戦争が起………でう。しかし、私は約………す、必ず…………スヴィ…………収め…………──────────」

 

驚きすぎて、スミラは全く話が耳に入ってこなかった。そうか、そうだったのか。聞き覚えのある声だと思ったらいつかのパレードの時に聞いた声だっだ。

 

彼の綺麗な銀の眼が私を捕らえた。

 

「ふっ!ぐふぅッ!」

 

ストローで飲んでいたミルクティーを思わず吹き出し、咳き込んだ。

 

「げほっ!ごほっ!ごほ!うっ、ごほ!」

 

目がばっちりと合ったのだ。何でここにいるって分かったんだろうか。そのとき私は一体どんな間抜けヅラだったか。

彼はウインクをしてきた。まるでアイコンタクトでやあ、また会ったね。とでも言っているよう。私以外の女声だったらキャーキャー言うんだろう。現に自分の周りの女性は自分にウインクされたときゃあきゃあ騒ぎ立て、黄色い悲鳴をあげている。だがスミラが感じた感想はただこれだけの、たった一言だった。

 

 

 

「うわ………キッモ……」




この話で出てくるアルスが本編で持っている懐中時計は1億7千万する、という事でした。

スミラはフレに対する第1も第2の印象も最悪でしたので割とひどいことしか言ってませんが、フレの方は花屋でしっかり恋に落ちています。

スミラ・フローレンス 花屋スタイル

【挿絵表示】

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