テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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幸せそう


スミラとフレーリット 自覚編

フレーリットは小さく聞こえた、彼女のお礼の言葉に、聞こえないふりをして、心の中で言った。

 

(どういたしまして、スミラ────)

 

 

 

(もう捻挫、大体治ってるのは秘密。だってまだこうしていたいから…………)

 

もうすぐだよ、と言われこの帰り道が伸びれば良いのに、とスミラは切なく思った。

 

 

 

なんとか家にたどり着くと、スミラは普通に歩き出し、フレーリットの腕から離れた。

 

「え、あれ?スミラ?荷物、どこ置けばいいの?」

 

「2階よ。1階はお店になってて、2階が私個人のお家なの」

 

フレーリットは彼女に連れられるまま、店の奥へと行き、階段を上がった。

 

(ん……?って事は彼女の家に上がれるって事?)

 

そう分かると妙な緊張感を覚えた。それを表に出さずに隠しつつ、一旦食物以外の買い物袋はリビングの机に置き、キッチンに向かった。

 

「ふぅ…疲れた~…」

 

「御苦労様。よく働いてくれたわね、期待以上だったわ」

 

「それはどうも…。というか、足は大丈夫なんですか?」

 

「へ?足?」

 

「さっき挫いたじゃないですか」

 

「あっ、ああ!あれね!大丈夫!多分もう大丈夫!」

 

「…また痩せ我慢?」

 

「ちっ違うわよ!本当に大丈夫なの!ほら!」

 

スミラはパンプスを脱ぐと足のハンカチを解いた。フレーリットはそれを見ると目を丸くした。先程の腫れが引いている。

 

「…!?治ってる…」

 

先程見た時の腫れは何だったのか。彼女の足は通常時そのものである。嘘だ、こんなの有り得ない。

 

「あ、ぁぁー、えっと貴方のお陰というべきかしら?」

 

「あれはあくまで応急措置だ。捻挫が短時間でこの回復はまずありえない……。一体どうなっているんだ……?」

 

フレーリットはしゃがんで、彼女のスカートを持ち上げ、生足をまじまじと見つめた。

 

「ちょっと!どこ見てんのよ変態!?」

 

「ぶっ!」

 

スミラはフレーリットの顔を踏み蹴飛ばした。盛大に尻餅をつきフレーリットは情けない格好で倒れ込んだ。

 

「もう!さっきもそうだけど、今度はレディのスカートめくるとかアンタ一体どういう神経してんのよ!」

 

「いや!だって!?あんなに最初は痛がってたじゃないか!おかしいだろ!」

 

「う、うぅうるさい!細かい事気にしないの!それからアンタはもう用済みなの!余計な事口にしないで!」

 

フレーリットは納得いかない、と言った顔でスミラを睨みつけたがこれ以上追求しても嫌われそうなだけなので今日の所は諦めることにした。

 

「まぁ今日はいいか……。で、えーと残りの荷物は……」

 

貯蔵庫に食物を閉まっているスミラを横目に、リビングに戻ったフレーリットはその他の荷物を手に取った。

 

「全部スミラの私物だし、部屋に運べばいっか」

 

適当にすぐ近くにあった、スミラの部屋と思われる部屋のドアに手をかけ開けようとした瞬間、

 

「何勝手に入ろうとしてんのよ!?」

 

「ぐふぅッ!?」

 

ガンッ!

 

背中を思いっきり蹴り飛ばされフレーリットは扉に顔面を叩きつけられた。

 

「乙女の部屋を無断で覗くとかホンットありえない!もう私がいいって言うまでリビングから1歩も動かないで!」

 

「痛い………」

 

思わず強打した額を押さえた。

 

「アンタがデリカシーのない事ばっかりするからでしょ!このデリカシー0男!」

 

フン!と腕を組みそっぽを向くスミラ。

 

(か、完全に嫌われた…………)

 

フレーリットはズーンとまた今の行動を悔いた。

 

「………ご……ごめん、殆ど僕は無自覚なんだ…。ずっと君を不快にさせてたら、謝るよ…」

 

「な、何よ?今度は妙にしおらしいじゃない?」

 

「このまま大人しく帰ればいいんでしょ……?だって、僕君の事怒らせてばかりじゃないか………」

 

「ちょっと、何いきなり?まだ帰れなんて一言も言ってないじゃない」

 

「僕もう疲れたし、お腹空いたしさっさと帰るよ、無神経な事ばっかりして……ごめん。じゃあね……」

 

明らかに落ち込み、しょんぼりしているフレーリットはそのまま階段を降りようとした。

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

スミラは慌ててフレーリットの腕を掴んで制した。

 

「え、何?」

 

振り返ったフレーリットに思わず緊張する。

 

「あ、あの。その…。私も言い過ぎたわ。ごめんなさい…。それと悪い所は、これから直していけばいいのよ。わ、私もすぐ貴方に手出しちゃって、悪かったわね…」

 

「スミラ……!」

 

フレーリットの思考は単純であり、あっという間に顔が明るくなった。

 

「えっと、で、続きなんだけど。お金の分は働いてもらったんだけど、足の捻挫の件は別で…」

 

「足…?で?」

 

「だ、だから!貴方にお礼がしたいの!」

 

「え…」

 

予想外過ぎて驚くしか出来なかった。フレーリットは真っ先に思いついたことを口にした。

 

「それって体でってこ…」

 

「だからもうアンタそういうっ……!?なんでそう言う事になるのよ!?」

 

「僕だって体で払ったじゃないか!」

 

「ご、誤解を招くような言い方しないで!?」

 

「じゃあ何お礼って?」

 

「えーと、ほ、ほら!もう5時じゃない?私お昼食べてないし、それにお腹空いているんでしょ?」

 

「うん……僕お昼食べてないし」

 

「ごはん、よかったら食べて行って?」

 

「え!?いいの!?」

 

「………ええ。それが”お礼”だもの」

 

 

 

買った食料のほとんどは貯蔵庫に入れ、使う分は持ってきた。エプロンを巻き終わり、スミラは考えた。

 

(さて、とりあえずお湯を沸かして肉を入れたけど……、そういえば彼、嫌いなものはあるのかしら……)

 

聞いてみよう、と思い振り返ろうとした瞬間、目の前に既に彼の姿があった。

 

「ねぇ」

 

「ひゃあぁっ!?」

 

思わず悲鳴をあげて後ずさった。

 

「何作るの?」

 

「もう!びっくりさせないでよ!」

 

「だって気になるじゃないか、それに、毒が入ってないかとかね」

 

「ど、毒なんて入れるわけないでしょ!?またもうっ、失礼ね!シチーを作るの!」

 

「シチー?あぁごめん冗談冗談。気を悪くさせたなら謝るよ。ただ僕の立場上、そうゆうのは気にしなきゃいけないんだ」

 

忘れていたが、彼はこの国の皇帝である。最上級の地位に君臨する者としては毒殺などはごく身近にあるものなのだろう。

 

(恥ずかしい……無神経なのは私の方じゃない……)

 

「あ…………、そっか。そうよね…、ごめんなさい…やっぱり迷惑だった?」

 

しゅん…、と下を向きがっかりした。良い計らいだと少しでも感じた自分が恥ずかしくなった。

 

「え?何で?迷惑なんて一言も言ってない。むしろ楽しみなんだけど。毒とか不味くなければ基本なんでも食べるし」

 

「ホ、ホントに?」

 

「うん」

 

スミラは安堵の表情を見せたかと思うと、またしかめっ面に戻した。

 

「そ、そう?大丈夫よ!毒なんて入れないわよ!というか持ってないし!」

 

「ねぇ、料理してるとこ見てていい?」

 

「え……、いいけど、私そんなに信用ない……?」

 

「違うよ、僕がただ見たいだけ。人が料理してる所なんて見たことないんだ」

 

「そうなの?」

 

「だから見てみたいなって」

 

「それで気が済むなら……まぁ、いいけど……」

 

 

 

────────ち、近い…。

お肉を煮込んでいる間に野菜の下ごしらえをし始めたスミラだが。

 

見学を許可したのは自分なので今更何も言えない、しかし物凄く彼はなんでも興味津々に見てくる。

 

「これ何?」

 

「ニンジン」

 

「へぇ~……、調理前のやつ初めて見た……その大きいやつは?」

 

「キャベツよ」

 

「へぇ~……!」

 

少年のように、キラキラした目で野菜を見つめる姿にスミラは少しほっこりした。物珍しいのか、新しい食材を出す度に何なのか聞いてくる。

 

「これは?」

 

「ジャガイモ、その隣のやつは玉ねぎ」

 

「うわぁ~面白い形してるねコレ!ジャガイモも玉ねぎも皮があるんだね!」

 

ニンジンの皮をピーラーで剥いている姿をまじまじと見られると気になって仕方がない。

 

「…………やってみる?」

 

「え!いいの!?」

 

「そんなに見られると…集中できないわ、一緒にやりましょ?」

 

「僕、料理なんて初めて」

 

ワクワクとスミラからニンジンとピーラーを受け取るとスミラの指導を受ける。

 

「左手でニンジン持って、右手にピーラー、野菜をスライドした方がよく剥けるから」

 

「ぉ、おお………」

 

初めての料理体験にフレーリットは物凄く感動した。

 

「そう、上手よ、出来てるじゃない。そのまま回して皮をどんどん剥いて」

 

「うん……………大丈夫!?これでできてる!?」

 

皮を落とす度に、大丈夫かと聞いてくる彼の姿に思わずスミラは────

 

「ふふっ、大丈夫よ、いちいち面白いわねぇ……」

 

(…わ、笑った………)

 

フレーリットは顔にカーッと熱が集まるのを感じ、思わず見とれてニンジンをシンクに落としてしまった。ゴンッ!という耳障りな音が響き、フレーリットの思考を一瞬で現実に引き戻す。

 

「きゃあ!ちょっと気をつけて!」

 

「ご、ごめんいやちょっと、手がその、滑ったというか………」

 

初めて素で自分に対して笑いかけてくれたスミラを見て動揺を隠しきれなかったフレーリットは自分がもう既に、どれだけこの女性に惚れ込んでいるのか自覚してしまうほどだった。

 

 

 

「さ、後はしばらく煮込むだけね」

 

「え~まだ出来ないの?」

 

「シチーは煮込み料理なの。でもその分体がとっても暖まるわよ?」

 

「ボルシチじゃなくて?」

 

「似てるけど違うわ、出来てからのお楽しみよ」

 

煮込んでいる間、結構暇だったので彼女のリビングにある本棚をなんとなく見ていた。彼女はキッチンの後片付けをしている。こればっかりはあんまりやりたくないし、でも何も手伝えることがなく邪魔だと怒られ暇を持て余している。

 

(ほとんどが花に関する本か…)

 

彼女らしいと言えばそうだが暇を潰せそうなモノはなさそうだな…。だが、エヴィ関係の本もちらほらあり、興味をそそった。彼女はきっと努力家なのだろう。エヴィの事を独学で学び、この花屋を作ったのだろう。キッチンをふと見れば、スープの味見をしている姿が見える。

 

(……………そういえばこの前母上と話した時も、結婚って急かされたなぁ)

 

 

 

数日前────

 

スミラと初めて出会った日、花束を母に渡すと物凄く喜ばれたはいいが、案の定見合いの話になった。ベットに腰掛けながら愛息子を見るフレーリットの母クリスティーナは息子と同じ紫紺の長い髪を梳きながらその話題を口にした。

 

「そういえばフレーリット、私がこの前差し上げた見合い写真集は見ましたか?」

 

「え?あぁアレ?えーと、燃やした」

 

フレーリットはそういえば貰ったな、と思い出す。使用人から受け取り、即刻暖炉の中の火に突っ込んだのを覚えている。

 

「燃やした!?」

 

「だって……別に興味無い…」

 

「貴方って子は……!貴方が興味なくても私は興味あるのよ!それ以前に貴方はもう25歳を過ぎてるのよ!?いつまでフラフラとしているつもりなの?」

 

「フラフラだなんて失礼な。母上、僕は立派に皇帝としての仕事の勤めを果たしているじゃないですか」

 

「フラフラしています!昔はあんなに浮ついた話ばかりだったというのに、今度結婚の適齢期となるとピタリとそういう話がなくなる…!?私は悲しいです!不安で仕方がないですわ…。貴方はこの国の皇帝で、跡継ぎを考えなければならないのですよ!?それが分かっているのですか?」

 

「そんな事言われても……。そりゃ若い頃は遊んでたかもしれないけど、誰だって大人になっていけば落ち着くのは当たりまえですよ」

 

フレーリットはタバコを吸いたい衝動をぐっと抑え、長くなるかな、と母をうんざりした目で見る。

 

「サーチスは?お仕事一緒にやっているのでしょう?」

 

「サーチス?彼女はただの部下ですよ。珍しくてしかも使える科学部門に突出してた人物が偶然サーチスという女性だっただけだ。彼女の才能に注目したわけで、目をかけている部下という立場。それ以上でも、それ以外でもない」

 

「ならいい人を探しなさい…!あの見合い写真集の女性達は私が選んだ物なのですよ!?」

 

「とは言われましても。1枚も見てないし。あー、でもなんとなくいい人は見つけ」

 

最後の方小さく呟いたフレーリットの声を、母は大きな声で遮った。

 

「全く貴方は!もういいです!私は寝ます!貴方と話していると頭が痛くなる!お見舞いの花どうもありがとう!」

 

クリスティーナは枕に頭を沈め、フレーリットとは反対側を向いてこれ以上の会話を拒否した。

 

「もう~、怒らないでくださいよ母上」

 

「知りません!」

 

拗ねた母に溜息をつき、また仕事に戻ったフレーリット。

 

 

 

自分で勝手に作った専用の喫煙室で、タバコに火をつけ一服。煙をハァーと吐くと、

 

「結婚ねぇ~………」

 

しばらく吸って味わいタバコを潰すと、もう1本取り出し火をつけた。

 

叔父をこの手で殺し今まで駆け抜けるように必死に仕事に己を捧げてきた。少しだけ自分の人生を振り返るが、そもそも、今まで知り合った女は厄介者ばかりだった。まともに人を本気で愛したことすらない。

 

(オリガも………ヴェロニカも……みんな僕を裏切った……。女がみんなそうだとは思いはしないし、サーチスが僕を裏切るとは思わないけど、彼女もただの部下としてしか、仕事仲間としてしか、見れない。

 

僕にとって、”愛”だの”恋”だの、よく分からないし、正直言ってどうでもいいんだ─────)

 

 

 

どうでもいいと思っていたはずモノを僅かにでも求めて、自分は今日スミラの元に来たのだ。時計を渡して、接点を残してまで会いに来たいと思った女性だ。

 

どうでも良くないモノが目と鼻の先にある。エプロンをはずし、鍋の蓋を取り皿に盛り付ける彼女をじっと見つめた。

 

─────彼女と共にいたい

─────彼女の笑顔が見たい

─────彼女に喜んでもらいたい

 

(あぁ………きっとこれが”恋”とか、”愛”、なんだろうな─────)

 

笑顔を見てドキッとしたり、抱きつかれてびっくりしたり、心配して急いで足を応急処置したり、怒られて落ち込むのも全部彼女の事が好きだからだ。

 

(スミラ…………僕、……)

 

 

 

「フレート!フレート!出来たわよ!ねぇ、フレートってば!」

 

「………へっ?」

 

「聞こえてる?」

 

いつのまにか彼女が目の前にいて、びっくりした。急いで持っていた本を戻し、何でもないふりをした。

 

「何の本読んでたの?」

 

「え、エヴィに関するやつ」

 

「ふーん、ほら運ぶの手伝って」

 

急いでキッチンに行き、料理を運ぶ。スープが盛り付けられている皿から湯気が美味しそうにあがり、とてもいい匂いがした。

 

「ふふ、貴方が切った野菜もしっかり入ってるわよ」

 

そういうとスミラはオレンジの野菜を指さした。ニンジンだ。

 

「美味しそう………」

 

思わずお腹の虫が鳴きそうなる。もうお腹ぺこぺこだ。

 

「キャベツがベースの野菜たっぷり栄養満点シチーよ。パンもあるから、それと一緒に」

 

スミラはとフレーリットはテーブルに料理を置くと食器を並べた。そして椅子に腰掛けると、一瞬沈黙が流れる。

 

「お先どうぞ?」

 

「い、いただきます…」

 

スープを掬い口に入れるとフレーリットは驚いた。本当に美味しいのだ。

 

「…美味しい!!」

 

「本当!?嬉しいわ、良かった!」

 

味付けは殆どスミラ担当であったため、彼女は顔をフッと綻ばせた。チラリと彼女の顔を盗み見たが満足そうに、笑顔でじーっと見つめられていたので恥ずかしくなり再びスープの方を見た。

 

彼女も食べ始め、野菜を頬張った。

 

「うん、上手く出来たわ、ニンジンも美味しいわよ」

 

「はは、ありがとう」

 

「はい、パン」

 

「ん、ありがと」

 

フレーリットは夢中でシチーとパンを食べた。いつもそれなりの物を城では食べているはずなのに、スミラの料理が今までで1番美味しく感じるのは何故だろうか?

 

「これ、今までで1番美味しいよ」

 

「えぇ?何よ?お上手ね?」

 

「ほんとだってば」

 

「ふふ、ありがと……。でも美味しそうに食べてくれると、こっちも嬉しくなるわね」

 

照れながらお礼を言い、スミラはまた笑った。

 

「ねぇスミラ、僕………その……君が……」

 

「何?」

 

フレーリットはまっすぐとスミラに見つめられ、恥ずかしくなって目をそらした。

 

「君が……………………じゃなくて君の、所に、またここに来てもいい?」

 

………まだ早いか、と思いフレーリットは慌てて言い換えた。スミラはキョトンとしてフレーリットを見つめた。

 

「また、花買いに来るから。今度は僕も勉強してくるから」

 

「あら嬉しい。花に興味持ったの?」

 

「うん」

 

(正確に言うと君に興味を持った、だけど)

 

「いいわよ、常連さんが増えるのは嬉しい事だわ。まぁ、皇帝のお仕事の息抜き程度になら、どうぞ」

 

「ありがとう、僕、君と出会えて良かったよ」

 

「庶民体験は楽しかった?全く、褒めても何も出ないわよ?」

 

「茶化さないでよ、本当だってば」

 

「はいはい、分かってるわよ………、あら貴方、パンの欠片が頬についてるわよ?」

 

「………んぐっ…ごめん」

 

フレーリットは顔を赤くし、どこ?と頬を触った。

 

「謝らなくていいわ、反対よ。じっとしてて」

 

スミラは机に手をつき、フレーリットの頬に手を伸ばした。

 

「はい、取れた」

 

ほんの小さな欠片だったが、スミラはそれをそのまま自分の口に入れると優しく微笑みかけた。

 

「皇帝様も、案外子供なのね」

 

「………っ………!」

 

悪戯が成功した子供みたいに無邪気に笑う彼女のその仕草に、ゴクリと息を呑んだ。そのままいてもたってもいられずコップの中の水を一気飲みする。

 

今まで付き合ってきた女性はそれなりにいたが、こんな感情は本当に人生初めてだ。

 

(もう彼女が好きで好きで堪らない────!!!)

 

こんな短期間でこれほどベタ惚れした自分を自嘲気味に笑うが、溢れる彼女への想いは抑えきれなかった。

 

微笑むスミラを見て、フレーリットは心の底から思った。

 

(あぁ、願わくば、結婚するならこの女性がいいな──────)

 

赤くなった顔を隠すように背け、水のお代わりをしにキッチンへ行くフレーリットだった。




「デザートにチョコクッキーもあるわよ」

「何それ?」

「はい、作り置きしてビンの中に保存してたんだったわ」

「………………!?何これ凄く美味しい!」

「良かった、紅茶入れてくるわね」

「何でこれだけなの!?僕もっと食べたい!」

「あらそんなに気に入ったの?また作ってあげるわよ…。ホント、フレートって子供みたいね…」

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