テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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裏切り者

外へ出ると、過去初めて行った時のより悲惨な光景が飛び込んできた。皆、目の前の光景に目を疑った。

 

「誰か、助けてくれ、手を貸してくれ、頼む……!足が折れてて、歩けねぇんだっ……!」

 

「早く瓦礫をどかして!大勢の人が生き埋めになってるのよっ!」

 

「お母さん!お母さんどこっ!?ぅあわぁああああん!!」

 

「軍は!?ロピアス軍は何をしているんだこんな時に!どこに派遣されているんだ!?俺ら国民を守るのが軍の勤めだろ!」

 

「………ッ何だ…、これは………!?」

 

アルスはガットに肩で支えられながら震える声で言った。

 

遠くで燃え上がる火柱、崩れ落ちた建物。あちこちに転がっている人、パニックになり逃げ惑う人々。足の骨が折れて歩けなくなっている男性、頭から血を流しながらも、瓦礫に埋まる人を必死に助ける女性、母を求めて泣き叫ぶ少年。これがあの栄えていたハイルカークなのだろうか?

 

「ねぇチョット!一体何が起こってるの!?」

 

ラオは大聖堂へ避難してくる一般人の男性を捕まえて聞いた。

 

「テロだよ!テロ!いきなり色んな建物が爆発したんだ!あの鉄道爆破事件の時みたいに!」

 

男性は早口に言った。次の瞬間、またドォォン!と爆破音が聞こえた。男性は悲鳴をあげた。

 

「テロ……!?」

 

「ああそうだ!漆黒の翼による、爆破テロだよ!!!」

 

フィルは持っていた杖をカシャン、と地面に落とした。呆然としている中男性が横を通り抜け聖堂へ向かって走っていった。

 

「漆黒………の、翼………!?」

 

フィルはうつむいて目を泳がせた。嫌な予感はしていた。大聖堂でロダリアがあのような行動をとった時から。いや、それ以前に前サーカス団に泥棒が入った時もそうだ。何も盗まれなかったのではなく、盗まれたのはきっと何かの情報だったのだ。そして、その後巡り合わせるようにアルス達と出会った。その時のアルス達の目的は、鉄道爆破事件を調べることだった。

 

フィルは口の中がカラカラになった。全てが繋がったような気がした。このような最悪な形で。

 

「漆黒の翼って、確かロピアスで有名なサーカス団だったわよね?」

 

カヤが言った。ルーシェは頷いた。

 

「うん。フィルちゃんは、そのサーカス団の大トリをつとめてた……」

 

ルーシェに続けるようにしてノインが、

 

「ええ、そして……ロダリアが幹部として所属していた組織でもある……!」

 

と言い、くそっ、と地面を蹴った。

 

「カイラ店長の予想は当たっていたようですね………。店長に言われて、監視していたとは言え、まさかあんなタイミングでやられるとは思いませんでしたよ!過去から帰ってきてゴタゴタしていたとはいえ、僕が油断したせいだ…!彼女が、ロダリアがこれの首謀者に違いない!」

 

「う、嘘だ……、しょ、小生の、小生の家だったんだぞ……!?サーカス団漆黒の翼は!小生の帰る所だった!!それが、それがテロ組織……!?この状況を作り上げたのが、漆黒の翼……!?」

 

「フィルもさっき見ただろう!?ロダリアとあのエーテルと呼ばれる少年が共謀して、この爆破テロを引き起こしたんだ!」

 

ノインはフィルの肩を掴んで言い聞かせるように言ったが彼女は振り払うように下がり叫んだ。

 

「う、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!」

 

フィルは首を激しく振って否定した。

 

「そんなのっ!!そんなの小生は認めない!認めてやるものかっ!!だって、皆、仲良く、家族のように暮らしていたのにっ…………!」

 

フィルが現実を受け止めきれないでいた時、突然セーレル広場の方向から花火のようなものがあがった。

 

「あれは、あれはっ……!漆黒の翼が使っていた打ち上げ用の花火……!!」

 

フィルがひきつった声で言った。まさしく、そう。漆黒の翼である線がいよいよ高まってきたのだ。いや、もうこれは確実と言ってもいいだろう。

 

「とにかく、あっちにロダリアがいるかもしれないヨ!行ってみようヨ!!」

 

ラオの言葉に皆賛同し、広場へと急いだ。その後方、丁度駅から出てきた2人の赤髪の男女がいた。赤髪の青年は外の様子に気づくと慌てて様子で隣の女性に話しかけた。

 

「おわっ!?何だよこれっ!?楽団の収入も安定して、やーっと治った鉄道でここまで来れたと思ったら、なんか大変な事になってんぞ姉ちゃんっ!?」

 

「なぁロイ、あの人達の後ろ姿…、なんか見覚えないか?」

 

彼女はアルス達を指さした。しかし、ロイが見た時その姿は人混みに隠れてしまい確認できなかった。

 

「え?どれ?なんか皆パニックになってごった返してて誰が誰だか分かんないよ。つーか、どうするコレ?まぁ姉ちゃんなら迷わずここはやっぱ救助活動に協力する……ってオイ姉ちゃん!?どこ行くんだよ!?」

 

ロイは広場へ走り出した姉を追いかけた。

 

 

 

セーレル広場では、大勢の人が集まって混雑していた。一般人、ロピアス兵、そして広場の中央、ステージの上には奇抜な格好の集団がいた。

 

「何だ、あいつら……?」

 

アルスが言った。それらはピエロの格好をしたり、仮面をかぶったり、メイクで顔が判別出来ない人がほとんどだった。ロピアス兵が怒鳴りその集団を止めに入ろうとしている。

 

「捕まえろ!そいつらがテロを引き起こした集団だ!!」

 

「静まり給え、ロピアスの兵よ」

 

「なっ……!?体が動かないっ!?」

 

突然、そう声を響かせて言い、手をあげてロピアス兵を制止させた男がいた。特殊な光術を使っているのだろう。ロピアス兵は身動きが取れなくなった。

 

その集団の中央の人混みが割れて、1人の仮面をかぶった男が出てきた。彼はまた、ある光術を使って全体に響き渡るように、声を拡張させて叫んだ。

 

「我々!!漆黒の翼!もとい!国際テロ組織リザーガは!!ロピアスとスヴィエートとの和平など!決して認めない!!」

 

「あの声は、司会のジュベール!?それにリザーガって……!?漆黒の翼は、小生の家が、国際っ、テロ組織……!?」

 

アルス、ガット、ルーシェもその声には聞き覚えがあった。サーカスを見に行ったとき、司会者をしていた男だ。フィルは絶望し、頭を抱えた。無理もない。自分の帰る場所、家の正体はリザーガという国際テロ組織だったのだ。

 

リザーガ、アジェスに行った時初めて聞いた組織の名前だった。そいつらの目的は一貫している。戦争を起こす、これに尽きる。しかし、ここまでするとは三国を敵に回していると言ってもいい。彼らの目的は一体何なのだろうか?

 

「そしてこの平和条約という、ふざけた条約!!」

 

仮面の男はロピアスで発行されている新聞の一面を見せびらかした。以前発行されたものだ。その一面に掲載されている写真は、アルスがレガルトとしっかりと握手を交わした時だった。そう、まさに、一時的ではあるが事実上スヴィエートとロピアスの間に平和条約が結ばれた時のだ。

 

「長年争い続けてきたスヴィエートと和平を結ぶなど、我々ロピアスにとって屈辱にも近い!そうは思わないか!ロピアス兵よ!?」

 

その呼びかけにロピアス兵は困惑した。

 

「た、確かに、今まで仮想敵国はずっとスヴィエートだった……」

 

「ロピアスの敵といえば、スヴィエートだ…!」

 

ざわざわとよどみ始めたロピアス兵。仮面の男、ジュベールは演説を続けた。

 

「宿敵として争ってきたスヴィエートのお情けと憐れみをもってして!このふざけた条約は無理やり通された!!」

 

「そんな馬鹿な!レガルト女王が握手しているじゃないか!」

 

「そうだそうだ!!レガルト女王は今後のロピアスを思って、あの決断をなされたのだ!!」

 

一般人の男達が叫んだ。ジュベールは首を振った。

 

「女王は、我々ロピアスの民に、今後の生活の安定を約束された!そう!長年続いた悪天候を改善すると!」

 

「そ、そうだ!女王はそう言ってた!スヴィエートと協力してこの問題を改善していくと!」

 

「そうらしいなぁ!?だが、ハイドディレからこんな情報が手に入ったぞ!?」

 

ジュベールは嘲笑った。そして、後ろからある人物のを手で招いた。その人物は、扇子を広げて上品な笑みを浮かべてていた。そして帽子をくい、と直した。フィルはその姿を見て、静かに呟いた。

 

「──────し、師匠…………」

 

目の前が真っ暗になった。その人物は、紛れもなくロダリアだった。

 

「こんにちは皆さん。私は、漆黒の翼のプロデューサーという仮面と共に、王立情報期間ハイドディレの諜報員としても暗躍していましたわ」

 

ざわざわと一般人も、ロピアス兵も困惑した。

 

「そしてある時、悲しい事にこんな情報を手に入れてしまったのです。まずは、何故栄華を極めたロピアスがここまで落ちぶれてしまったのか、その理由をお話いたしましょう」

 

ロダリアはわざとらしく肩をすくめた。

 

「そう、前スヴィエート皇帝であるフレーリット……。彼は、この国にとって、まさに死神、疫病神ですわ。そして更に悲しい事に、この悪天候の原因を作り出したのは、他でもない、その死神フレーリットだったのです!!彼はロピアスの恵まれた天候を妬み、その恩恵を奪い取りましたわ」

 

「な、何だと!?」

 

「それは本当なのかっ!?」

 

「し、しかし!先の大戦、20年前からロピアスが衰退している事は確かだ!」

 

「天候だってそうよ!アルモネ島を取られて、私達ロピアスがスヴィエートなんかに大敗してから、この国はおかしくなってるのよ!!」

 

「当時のスヴィエート皇帝フレーリットは、圧倒的な指導力で軍事を牛耳ってた!」

 

「アイツが今言った通り奴が何かしたに違いない!!きっとそうだ!」

 

大衆が大きくざわついた。しかし、アルスは納得できない。一体何を血迷った事を言っている?今まで何を見てきたのだ彼女は?確かにスヴィエートにマクスウェルの霊勢があるとは判明したが、フレーリットが掌握していたわけではなかった。

 

彼女の言っていることは、全くの虚言だ。

 

「何言ってるんだロダリア!?お前は今まで何を見てきたんだ!」

 

「おいアルス!?」

 

アルスはガットの肩を振り払い、前へ出た。ロダリアはそれを一瞥し、口角をあげて笑った。

 

「そう、そして!あろうことか、いいえ?こんな事があってよろしいのでしょうか?そこのフレーリットの息子、現皇帝、アルエンスこそが!このふざけた平和条約を提案した張本人なのですわ!」

 

ロダリアは目の前のアルスを指さした。大衆の注目が一気にアルスに集まった。ジュベールがロダリアに続いた。

 

「だから言っただろう!お情けと憐れみだと!!ロピアスを馬鹿にするのも大概にして欲しいものだ!?何故なら彼は、まるであてつけのようにロピアスに恩を売っているのだから!これはスヴィエートによる余興にも近い自作自演だ!!」

 

「ど、どうゆうことだ!?」

 

大衆の中から一人が叫んだ。ジュベールは答える。

 

「ロピアスが困っている原因を作り上げたのは、さっき説明したとおり他でもないスヴィエート…。それを一緒に協力して解決するなどと、女王は言っていた。しかしそれはうまいこと口車に騙されただけだ!掌で転がされていると言っているのだ!女王はまだ若い。仕方のない事かもしれない。しかし、スヴィエートの、あの死神フレーリットのような外道なやり方は、しっかりと息子にも受け継がれているのだ!協力するなど、民にかこつける都合の良い口実に過ぎない。手段もない、後戻りもできない、ロピアスはスヴィエートに頼るしかない!そう、スヴィエートがやろうとしている事はきっとこうだ!ロピアスの困っている事を、スヴィエートなら簡単に助けてやれる。だから今のところ緩和しておいてあげるけど、この先の恩返しはよろしく頼むよ、とな!!」

 

「ッデタラメだ!?おかしいだろ!?レガルトに聞けば分かる!奴の言ってることは全部デタラメだ!騙されるな!」

 

アルスは叫び、周りを見回した。しかし、味方になってくれそうなロピアス人は誰一人いなかった。

 

自作自演。つまりそうゆうことだ。スヴィエートが作り上げたロピアスの改善不可能な不幸を、恩着せがましく、スヴィエートが解決してあげますよ。今はスターナー条約を緩和してあげるけれど、その後の報酬はよろしく頼みますよ、とそう彼は言いたいのだ。

 

勿論、こんな事はアルスは微塵にも思っていない。純粋に平和を望んでいるのだ。ジュベールは声を荒らげて続けた。

 

「我々は訴え続ける!この腐れ、狂ったロピアスの政策が変わらない限り!!このテロは続くのだ!!分かってくれロピアスの民よ!!これは、平和ボケした同胞に対する鼓舞だ!!目を覚ますのだ!!我々の敵は何だ!?」

 

あるロピアス兵が答えた。

 

「スヴィエートだ!!」

 

「死神フレーリットの息子だ!!」

 

「そうだとも!!!そこのアルエンスだ!!よくもぬけぬけと現れたものだ!!さぁ!!どうする同胞達よ!?彼という、ロピアスの不幸因子を取り除かなければ、テロは続くだろう!落ちぶれた政府への悲痛な訴えとしてな!!」

 

ジュベールが叫んだ。大衆は暗示にかかったように付和雷同していった。

 

「そうか、そうだったのか……!」

 

「全部スヴィエートが悪いんだ!!」

 

「死神の息子め!!ロピアスの毒だ!」

 

ロダリアはほくそ笑んだ。群衆とは、愚かなものだ。思考が単純になり、暗示にかかりやすくなる。そう、今となってはロピアス兵は、当初の目的だったテロ組織漆黒の翼、もといリザーガを捕まえるという事が、今の状況を作り上げた人物としてあげられたアルスを捕まえる、という事にすり変わろうとしている。

 

アルスはロダリアを睨み、反論した。

 

「ふ、ふざけるな!?何を言っている!?そんなの!貴様らのエゴに過ぎない!!言ってる事がむちゃくちゃだ!ロダリアの言っている事は全て嘘─────」

 

「皆さん!!宿敵スヴィエート人などに、耳を傾けてはいけませんわ!!ましてや死神フレーリットの息子ですわよ!?彼が言っている事こそ、嘘にまみれた外道なのです!私達を信じてください!私達は、何かおかしな事を言っていますかっ!?」

 

ロダリアはかぶせるようにしてアルスの声を遮った。

 

「ッ、ロ、ロダリアさんっ……?」

 

冗談だろ、とアルスは呆気にとられ思わず顔がひきつり、笑ってしまった。そして次に、ふつふつと怒りが湧いてきた。仲間だと思っていたのに、あっという間にこんな形で裏切られた。

 

そう、今、これだけは分かる。アルスはついにそれを言葉に紡ぎ、叫び、糾弾した。

 

「──────この、裏切り者!!!」




テイルズ恒例の仲間裏切りイベント

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