テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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赤髪姉弟

「裏切り者?おかしな事を言いますわね?」

 

「っ何?」

 

ロダリアは口を歪ませて笑った。

 

「私を裏切り者と呼ぶなら、貴方のもう1人のお仲間、ラオはどうなんです?」

 

「っ!?そ、それは!?」

 

目を泳がせたアルスを見てロダリアはまくしたてるように早口で言う。

 

「ラオは貴方の祖父であったサイラスという人物を殺した。フレーリットが言っていたではありませんか?過去に行って、何も成果が無かったなんて事はありえません。この衝撃的な事実が判明したのですから、ね?」

 

「そ、それ、はっ、で、でもっ……!?」

 

過去から戻り、まだ状況の整理がついていなかったアルスを追い詰めるように、ロダリアはその話題を蒸し返した。アルスの後ろにいたラオはそれ聞き、慌てて前へ出て強く講義した。

 

「違うんだヨアルス!ボクはサイラスを殺してなんかない!後で事情は必ず説明する!あれはフレーリットの誤解なん────」

 

「今の彼に、何を言っても無駄ですわ。愚かなアルエンス。フフフ、ホホホ、オーッホホホホッ!!」

 

ラオの言葉を遮るようにロダリアは被せて言った。アルスを見下ろし、冷たい目で彼を見つめる。

 

ロダリアの言う通りだった。アルスは下を俯き、混乱したように首を振っている。そして、今アルスの耳に誰の声も響かない。ロダリアは扇子で口を押さえ、今まで見たことない笑い方をしている。それは、フィルでさえ見たことがなかった。フィルは胸を押さえた。

 

「う、うそ、嘘だ…、し、師匠っ……!ホントに、裏切ったなんて……!ぅっ、あっはっ、ハァッ!はっ!ハァっー!」

 

そしてフィルは膝をつき、胸を押さえつけて苦しみ出した。

 

「フィルっ!どうしたの!?」

 

隣にいたノインは彼女がおかしいと分かり、すぐさましゃがんで様子を伺った。

 

「あ゛、はぁっ、うあ゛っ、はぁっ!ハァ!ハァ!ハァ、はっ!」

 

「っ、大変だ!過呼吸を起こしてる!」

 

極度の不安と緊張、そしてストレスに押しつぶされたフィルは過呼吸を起こした。呼吸を荒げ、目に涙が浮かぶ。

 

「はぁっ、ハァ!!あ゛、ハァッ、の、ノイッ、ンッ!」

 

「と、とにかくここを離れよう!」

 

ノインはフィルを抱き抱えた。

 

「どいて下さい!緊急なんです!子供が過呼吸を起こしてるんです!」

 

「う、あ゛、はっ、ノイッ、ン!」

 

「喋っちゃダメだフィル!どいてっ!お願い通してください!そこを通してっ!」

 

ノインはフィルを連れ人混みをどうにかして掻き分け、セーレル広場の後方へと走っていった。

 

 

 

「さて、茶番はそろそろ終わりですわ。さぁ皆さん!アルエンス陛下を捕まえるのです!!」

 

ロダリアは扇子を折りたたみ、そしてアルスを指した。

 

「まず漆黒の翼の俺が行こうではないか!!」

 

ジュベールが先頭をきり、ステージの上から光術を唱え始めた。

 

「絡めとれ光の鎖、彼の者を拘束せよ!」

 

アルスの地面に光術陣が展開された。

 

「ッ!?」

 

アルスはそこで初めて自分の置かれている状況に気づいた。周りは殺気溢れたロピアス人しかいない。そしてジュベールが叫ぶ。

 

「ソリッドコントラクション!」

 

「っしまっ……!」

 

光術が発動し、光の鎖がしなり、アルスを捕らえようと向かってきた。アルスは対処しきれなかった。もうだめだ、そう思った時、

 

「アルスッ!」

 

人混みを掻き分け、ルーシェは横から飛び込んだ。

 

「おいルーシェ!?」

 

ガットの声が聞こえる。でも、迷ってなんかいられない。ルーシェはアルスの前に立ち、光の鎖に向かい手をかざした。

 

「ッ!!」

 

咄嗟の判断だった。しかし、上手くいったようだ。ルーシェは胸をなでおろした。

 

「な、何…だと…!?」

 

ジュベールはその光景に目を疑った。自身の術、光の鎖がまるで吸収されるようにルーシェの手に消えていったのだ。

 

「アルス!逃げなきゃ!!」

 

「ルーシェ……!」

 

ルーシェはアルスの手を引き、走った。しかし、ハッとしたジュベールが叫んだ。

 

「に、逃がすな!その娘ごと捕まえろ!邪魔する者はロピアスの敵だ!容赦するな!我々も行くぞ!」

 

「おおおおお!!」

 

ステージ上にいた他の漆黒の翼のメンバーも動員し始めた。セーレル広場は人で溢れかえっている。

 

「逃がすか!!」

 

「死神の息子を捕まえろ!」

 

そして軍人も一般人も混ざり合い、2人を取り囲みじりじりと詰め寄っていった。

 

「っ、どうしよ……!」

 

ルーシェは行く手を遮られ立ち止まった。

 

「何か、何か逃げる方法はっ!あぁ、アルス、どうすればっ!?」

 

「………くそッ!!」

 

ルーシェはアルスを見た。しかし、彼の様子からして何かアイディアがあるとは到底思えない。

 

「アルス!ルーシェ!」

 

ラオが身を乗り出して2人の名を呼ぶ。

 

「邪魔をするな!」

 

「っどいてヨもうっ!」

 

2人に助太刀しようと走るが、漆黒の翼に遮られてしまった。ラオの少し後方にいたガット、カヤも同様だった。カヤが緊迫した声色でガットにたずねた。

 

「ガット!2人は今どうなってるのよっ!?」

 

「分かんねぇ!今かろうじてラオが見える!」

 

「ごめん!どいて!前へいかせてっ!」

 

カヤとガットは人混みを掻き分け前へ進もうとしたが、なかなか進めない。

 

「おい!!頼むどいてくれ!連れがいるんだ!」

 

「背の高いアンタなら見えるでしょっ!?ルーシェ!ルーシェッ!!」

 

「っ、人が多すぎて、わっかんね、って、見えた!あっちだ!ラオよりもう少し先だ!」

 

「通してってば!!!」

 

「おい!どけっ!!通してくれっ!」

 

「アルスッ!ルーシェッ!!」

 

なんとか2人は進んでいき、そこでラオの手招きが見え、声も聞こえた。

 

「2人共!こっちだヨ!2人は囲まれてる!」

 

そしてラオと合流した2人だったが、依然として前方は漆黒の翼のメンバーに塞がれている。

 

「おいそこをどけ!!」

 

「絶対に邪魔させるな!通すんじゃない!」

 

「あぁもう邪魔っ!」

 

「脳筋!早くしないと2人がっ!!」

 

「んなの分かってるよ!!」

 

カヤ、ラオ、ガットの間に緊迫した空気が流れた。このままでは本当に2人が捕まってしまう!

 

 

 

一般人の男性が口々に言った。

 

「もう逃げ場はないぞ!!」

 

「この卑怯で外道なスヴィエートめ!」

 

「っ、くっ、どうすれば!」

 

アルスは拳銃を手にかけた。

 

「ど、どいてください!貴方達は騙されてます!」

 

ルーシェは必死に話をしようと持ちかけるが、

 

「聞く耳を持つな!その女もきっとスヴィエート人だ!!」

 

と、軍人が叫び無に終わる。

 

「ロピアスから出ていけー!!」

 

「っダメだ、こんな状況じゃ……!」

 

拳銃は取り出せなかった。一般人も多く混じっているこの中で発泡して当たったりでもしたら、それこそ負の連鎖が続きロダリア達の思うつぼだ。うまいものだ、民衆を味方につけて、自分が手を出せないと分かっていてその隙をついて漆黒の翼が自分を捕らえるつもりだ。

 

2人はまさに四面楚歌。周りは殺気立ったロピアス人しかいない。一体どうすれば、と思っていた矢先、

 

「どいたどいた〜!ほらそこ通して!」

 

「なっ、何だお前はっ!?」

 

軽快なノリでスケッチブックを抱えた青年が人混みを押し分けている。押し退けられた男の文句がアルスにの耳に入った。

 

「………?」

 

何かが起こっている。アルスは首をかしげて依然として目の前の人混みを見つめた。

 

「はいはい、ちょっ〜と失っ礼〜!」

 

「すまない、どいてくれないか?」

 

今度は女の声も聞こえた。そして赤い髪が2つ見える。

 

「よ〜、こらっ、しょっ!と!!」

 

そして人混みが一筋割れたかと思うと、赤い髪の若い青年がよろけながら2人の前へ出てきた。

 

「いたいた〜!ここだよ姉ちゃん!」

 

この場に釣り合わない暢気な雰囲気を醸し出す青年は2人を指さしてそう言った。

 

「なっ、誰だ?」

 

「君は……?」

 

「失礼しますよ、アルスさん、ルーシェさん!」

 

青年はそう言いながら、自分の両耳に何か詰めると、今度は2人の両耳にも何かを詰め始めた。

 

「な、何するんだっ!というかどうして俺のその名前と彼女の名前を…!」

 

「いいからいいから!!」

 

アルスをなだめ、ルーシェの耳にもそれを入れ始めた。

 

「何これ?」

 

ルーシェは耳に入れらたそれを指でつついた。青年はスケッチブックを広げ、そのページを見せびらかした。そこには、

 

『合図するまでその耳栓は絶対に外さないで下さい』

 

と、書かれていた。

 

「……えっ、と?」

 

「………耳栓?どうゆうことだ?」

 

『耳栓はしっかりとつけて、どうか言う通りに』

 

青年は説明している暇はない、と判断し早々とペンで書き加えた。2人の頭には疑問符しか浮かばないが、とりあえず流れに任せ青年の言う通りにすると意思を伝えるため、コクリ頷いた。

 

「うし!姉ちゃん!オッケー!」

 

「よし来た!私も今行く!」

 

青年は指で丸を作り、まだ人混みの中にいた赤髪の女性に合図を送った。彼女も耳栓をしており、言葉は聞こえないだろうが、2人は硬い絆で結ばれているようにアイコンタクトを取り合った。

 

そして赤髪の女性が人混みを掻き分け、アルスとルーシェの前へやって来た。

 

「貴方はっ…?」

 

アルスはそう言ったが、彼女の顔は見れなかった。

 

「いくぞロイ!!」

 

「思いっきしやっちゃって〜!」

 

赤髪の彼女がリコーダーを取り出して構えた。

 

「いつもの3倍増しだ!」

 

「……?一体何をなさるつ……!?」

 

ロダリアの声を遮り、彼女は言った。

 

「ドローエント・エンデ !!」

 

そして息を深く吸い、思いっきりそのリコーダーを吹いた。アルスとルーシェはびりびりと音波が自身の体に伝わるのが分かった。

 

「っ!?」

 

ロダリアは思わず耳を塞いだ。地を這うような、それでいて空にも響くような、形容し難い音波が彼女のリコーダーから発せられている。周りにいたロピアス人も苦痛の表情を浮かべ、耳を塞いだ。

 

「っぐあっ!?」

 

「何だっ!この音はっ!?」

 

「うぅっ、頭が、割れそうだ!」

 

皆耳を塞ぎ、目を瞑りそれに耐えた。

 

「ちょっと!?何なのよこれっ!?」

 

「うがっ!?んだこりゃっ!?」

 

「ギャー!耳が!!おかしくなる!」

 

後方にいた3人もその音にたまらず耳を塞ぐ。

 

「今だ!」

 

赤髪の女性はリコーダーから口を離し、耳栓を抜いた。そしてアルスの手を引く。

 

「こっちだ!」

 

「うわっ!」

 

「きゃあっ!」

 

アルスと手をつないでいるルーシェも自動的に彼女に引かれて行く。彼女は隙ができた人混みを無理矢理掻き分け、走り出した。そして、リコーダーぶんぶんと振り、青年に言った。

 

「ロイ!そっちは任せたぞ!」

 

「オッケー姉ちゃん!任せて!」

 

彼の返事を確認し、女性は一気に駆け出しあっという間にあの人混みから脱出した。

 

「もう耳栓はとっていいぞ!」

 

女性は走りながら一瞬振り返り、両耳を指でつついた。

 

「っ?お前……?」

 

アルスはその顔を見て、首をかしげた。

 

 

 

一方ロイは素早く1枚服を脱ぎ、フローブを身にまといフードを深くかぶり顔を隠した。姉に任された仕事をするのだ。人混みを少し掻き分け、ラオ、ガット、カヤのいる3人の元へ駆け寄った。そしてスケッチブックを広げ、走り書きする。

 

『アルスさんとルーシェさんはこっちです』

 

「あぁ?誰だテメー!?」

 

耳を塞ぎ、イライラした様子でガットは大声で言った。

 

「ロイです!!ほらこの顔!ちょっとでも覚えてませんか!?」

 

「え?アレ?君、どこかで見覚えが…?」

 

フードをとった彼の顔をラオはその薄目で確認した。どこかで見覚えがある。

 

「もう大丈夫ですよ!!!とにかく!こっちです!俺についてきてください!!」

 

青年は耳を塞いでいる皆に聞こえるように大声でそう言うとセーレル広場の後方へと駆け出した。

 

「はぁ!?いきなりんな事言われてもっ!?」

 

「ガット、とにかく行こうヨ!!この人なんか見覚えある!大丈夫な気がするヨ!」

 

「マ、マジかよっ!?」

 

「えぇぃ!と、とにかくついて行きましょ!」

 

 

 

アルス、ルーシェ、赤髪の女性は無我夢中で走りセーレル広場のかなり後方まで来た。そして女性は裏路地の入口付近にいたある2人を見つけ、アルスとルーシェを誘導した。その2人とは、

 

「はっ、ハァッ!はぁーっ!はっ!」

 

「あぁっ、フィル、し、しっかりして!僕は一体どうすれば!」

 

フィルとノインだった。フィルは依然として過呼吸が続き、しゃがんで胸を押さえつけている。ノインはそんな様子を見ながらオロオロと背中をさすっていた。

 

「っフィルちゃん!とうしたの!?」

 

フィルの様子を見たルーシェは驚いた。

 

「ルーシェ!!フィルが、過呼吸を起こして!早く治してあげてください!」

 

「過呼吸だと!?」

 

「大変!!」

 

アルスとルーシェがフィルに駆け寄った。そしてルーシェがフィルに手をかざそうとする。

 

「駄目だ!治癒術で過呼吸は治らない!」

 

それを見ていた赤髪の女性はルーシェの前へ割り込んで言った。

 

「えっ?貴方どうして私が……」

 

治癒術を使える事を知っているのか、そうルーシェは言いかけた。赤髪の女性はフィルの胸と背中に手を当てた。

 

「ゆっくり息を吐くんだ、ゆっくり、そう」

 

「はっ、ハァッ!はぁーっ!はぁー!」

 

フィルはコクコクと頷き、指示通りにした。

 

「落ち着いて、焦らないで。ゆっくり呼吸を整えるんだ」

 

女性は手馴れた様子で優しく声をかけ、背中をさする。

 

「はぁーっ、はぁっ………!はぁ、はぁ、はぁっ……、あ、はぁ、おぉ………」

 

フィルは少し呼吸が整った。もう大丈夫のようだ。

 

「ふぅ…」

 

女性はフィルが落ち着いたと判断し、手を離して立ち上がり息をついた。

 

「お、お前は一体…?」

 

「昔よく、体の弱い弟にこうしてやったんだ。昔と言っても、もう20年も前になるけど」

 

フィルはその女性の顔を見ようと上を見上げた。

 

「だいぶ落ち着いたようだな小生お姉ちゃん」

 

その女性は笑ってそう言った。

 

「っ!あっ!お前!」

 

「あ、気づいた?ほら、私さ」

 

女性は自分の顔をさして無邪気に笑い皆を見る。フィルは気づいた。

 

「っ!お前その呼び方!というか、その顔、その赤い髪!」

 

アルスも気づき、最初の違和感が何だったのか、それが全てが繋がった。

 

「久しぶりだねぇ?アルス兄ちゃん?」

 

女性はそう言いいたずらっぽい笑顔で、アルスに顔をグイッと近づけた。

 

「っち、近い!」

 

アルスは思わず赤面し、一方下がる。

 

「あははっ、ごめんごめん。やっと再会を果たせたと感極まって興奮してつい、ね」

 

「嘘!?」

 

ルーシェも目を見開き口を抑えた。開いた口が塞がらない。

 

「ま、まさか!」

 

ノインもモノクルをかけ直して彼女の顔を凝視した。

 

まだあどけなくそして幼かった彼女の可愛い顔の面影を少し残しつつ、それは大人の美人な顔へと成長していた。いたずらそうに笑う無邪気な笑顔は変わらない。その特徴的な赤い髪の彼女は───

 

「そう、私はクラリス。クラリス・レガートだ」




ロダリアと入れ替わるように仲間になるのがクラリスです。しかし、ロダリアとは戦闘スタイルも全く違っています(  ̄▽ ̄)

次の話でクラリスの設定集あるんでよかったらどうぞ。
クラリスとは過去編からの再会ですね。ロイも生きています。ルーシェが治さなかったら死んでいましたけど。

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