テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
そう、彼女はアルス達が過去へ行った時最初に出会った笛吹きの少女だった。赤い髪を揺らし、元気いっぱいのお転婆娘だった。皆によくしてもらい、アルスとルーシェには特に懐いていた。
「本当にクラリスちゃんなの!?」
ルーシェがクラリスの手をとり見つめた。
「ああ、勿論だとも。オレンジのルーシェお姉ちゃん。弟の事、本当に感謝している」
ルーシェは感動して言葉にできずただただ驚いた。
「そ、そんなっ、まさか、こ、こんな事が…!」
ノインがモノクルを持った手をカタカタと震わせて言った。
「あ、ノインおじいちゃん、ぎっくり腰は治ったの?」
クラリスはからかうようにしてノインの腰をバシンと叩いた。
「失礼な!?僕はまだ21歳ですよ!?相変わらず口達者ですね!」
ノインはキィキィ文句を言って反論した。他人の目から見れば彼は老けて見えるがまだ21歳という若さなのだ。
「はははっ、だってプチ騎馬戦で腰痛めてたじゃないか!」
クラリスが笑って言う。そう、アルスがミーレス輸送機の修理をしていた頃仲間達はと言うとロイやクラリスと思う存分遊んであげたのだ。プチ騎馬戦とはラオ、フィル、ノイン、クラリスでやった遊びでノインは終盤それでぎっくり腰になり、泣く泣くルーシェに治してもらったという苦い思い出がある。
「えぇいそれでもおじいちゃんはない!!断じて!前みたいにノイ兄と呼びなさい!」
「はいはい、そっちも相変わらずだなぁノイ兄。そうゆうの、ロリコンって言うんだよ」
クラリスは呆れて言った。ノイ兄、ノインがじきじきに呼べとクラリスに指定した呼び名だ。ラオもラオ兄と呼ばれていた。他の人もそれぞれの呼び名が色々あった。それらはクラリスの気分次第で変わったが。
「クラリス、今更分かりきったことだろう。ノインはロリコンだ」
フィルはうんうんと頷いて言った。ノインがロリコンなのは皆承知の事実だ。
「ク、クラリス…」
アルスは目を伏せて言った。アルスはクラリスの父親が戦死すると分かっていてそれを伝えなかった。真実をクラリスは知らないとは言ってもアルスにとって、気まずい以外の何者でもなかった。だが、クラリスはそうでもなかったようだ。
「青の、そしてチョコレートのアルス兄ちゃん、本当に久しぶり。ずっと、ずっと貴方に会いたかったんだ」
「えっ…?」
クラリスはアルスの両手を握って言った。アルスが予想した展開とは大きく異なり、目が点になる。彼女は顔を赤くして目を逸らして言った。
「だって、アルス兄ちゃんは私の命の恩人であり、そしては────」
「おーい姉ちゃーん!!!」
クラリスが言おうとした言葉を大きく遮り、先程の青年の声が聞こえた。クラリスのこめかみがピクリと動き、空気を読まないその声のする方向へ仕方なく顔を向けた。
「アルス!ルーシェ!ノインにフィル!」
「ルーシェ!!無事だったのね!」
「皆ー!ダイジョウブだったー?」
そしてその赤髪青年と共にガット、カヤ、ラオもこちらへやって来た。ルーシェが顔をほころばせてカヤに駆け寄った。
「皆!無事だったの!?」
「それはこっちのセリフよもう!いきなり飛び出してくんだもの!」
「ご、ごめんねカヤ…つい」
ルーシェとカヤが仲むつまじく手を握り言った。ガットもアルス達の元へたどり着き、壁に手をあてやれやれとうなだれる。
「はぁ、ったくロダリアのヤロー、マ〜ジで裏切りやがったのか…」
「どうも、そうっぽいネ…」
走ってきて疲れたのか2人はそのまま壁に背を預けて寄りかかった。
「あ?つーか、その美人の姉ちゃんは誰だ?」
ガットはクラリスの存在に気づき指をさした。クラリスはニッと笑った。
「ガト兄、ナンパは上手くいってるのかい?」
「あ?ナンパどころか最近大体辛い目にしかあってねぇ……、って」
ガットはつい自然に受け流しながら答えたが、途中でハッとし彼女を指さした。
「お前その呼び方……!」
「首もげのラオ兄も、また折り紙教えてよ?」
クラリスは自分の首を手で斬るようにジェスチャーして言った。
「あー!!君!!もしかして!」
「クラリス………なのか!?」
ラオとガットがほぼ同時に気づいた。そしてラオはロイへと顔を向けた。
「って事はこっちはやっぱりロイだネ!?」
「せいかーい、っていうかぁ、今更気づいたんですかぁ?もっと早く気づいて欲しかったっスよ」
不満げに頬を膨らませてロイは言った。
「あー!!えっ嘘!あのロイ君!?」
ルーシェもロイの顔を見て言った。
「さっきぶりですルーシェさん!!俺、原因不明だった病の事、本当に感動してるんです!正直あんま覚えてないけど!」
「本当に正直だな…」
アルスも彼がロイだと気づいた。彼はどうやら明るい青年になったようだ。
「っていうか色々ツッコみたいんですけど。どうして皆あれから20年もたってるのに全く歳をとってないんですか?」
「お、そうだロイ。それは私も疑問に思ってたところだ。最も根本的な事を聞くのを忘れていた」
クラリスがそういえば、と手を叩いて言う。
「あー、そ、それは…」
ルーシェが言いづらそうに目をそらした。そして偶然にも目を逸らした先のセーレル広場の先、ロピアス人と目が合った。
「あっ!」
「あっ…」
ロピアス人は驚き、ルーシェに指をさす。
「い、いたぞ!!皆こっちだ!!」
「っ!まずい!?気づかれた」
アルスもそのロピアス人を見て言った。
「ぅおっと、のんびりし過ぎたようだな」
クラリスがそう言い、
「皆!こっちだ!あの隠れ家に行こう!」
と、背を向けて皆に呼びかけた。クラリスの言うあの隠れ家と言ったら、あそこしかない。
皆全力で走って例のゴミ箱前に来た。クラリスがそれをどかし、隠れ家への梯子を下ろす。それぞれ順番に降りていき、
「よし!皆いるな!?」
と、最後に梯子を降りてきたクラリスが言った。過去へ行った時、幼少のクラリスに案内された使われていなく、忘れ去られていた防空壕だ。20年たっても未だ健在らしいが、酷くカビくさく中も以前とはうってかわって荒れていた。
「うわぁ、久しぶりだなここー!」
ロイが感動したようにあたりを見回した。
「ロイ君、ここ知ってたの?」
「ええ、まぁ一応。最も、知ったのは皆さんと別れてからですけどね。姉ちゃんに教えてもらいました。でも来たのは本当に久しぶりですよ」
ルーシェに聞かれてロイは答えた。
「ゲホゲホッ、埃だらけだネ」
「長らく放置していたから、だいぶ劣化しているなやはり」
ラオとクラリスはあちこちに漂う埃を払う。
「居心地はかなり悪いが、許してくれ」
「いや、………大丈夫だ。またお前に助けられたな。ありがとうクラ……」
アルスはそう言いかけた途端酷い目眩に襲われた。
「っアルス兄ちゃん!」
フラッとそのまま倒れ、アルスはクラリスに支えらる。
「大丈夫か!?」
「……ッ、はっ……」
クラリスはハッとしてアルスの額に手を当てた。
「凄い熱だ!」
「アルス!」
ルーシェはすぐさま駆け寄り、アルスの容態を見る。
「アルスさん!大丈夫ですか!?姉ちゃん!手伝うよ!とりあえず綺麗な所に寝かそう!」
ロイが1人で支えているクラリスの手伝いに入り、アルスはロイに肩で支えられた。
「っそうだコイツ、大怪我したばっかなんだよ!」
「ったく!素直にルーシェの治療を受けないから!!」
ガットとカヤがアルスを心配そうに覗き込んだ。
「自力で治りかけているとはいえ、あれ程の重症だったんです。無理もありません」
「ふん、自業自得だ」
ノインの発言にフィルが鼻を鳴らして言う。
「フィル、言っておくけど君もさっき過呼吸起こしてたんだからね?」
「わ、分かっている…、迷惑をかけたなノイン、すまなかった」
2人のやりとりをよそに、アルスは床に寝かされた。
「アルス、しっかりして…!」
ルーシェは泣きそうになりながらアルスに付き添った。
「ロイ!何かかけるものを!」
「あ、う、うん!」
クラリスに言われたロイはリュックの中からコンパクトに折りたたまれた毛布を取り出すと広げてアルスにかけてやった。きっと大量出血したしで血も足りていないのだろう。貧血と熱が同時に発生したようなものだ。アルスは苦しそうに息をしながら目を閉じ、意識を失っていった。ロイはそのただ事ではないアルスの容態を見て、
「ねぇ、一体何があったの?それに大怪我って…」
と、率直に聞いた。
「そうだ。それにさっき聞きそびれた。どうして君達は全く歳をとっていない?私達が最後に会ったのは20年前だぞ?私なんてもう27歳だ」
「俺ももう25歳だよ〜」
クラリスとロイが続けざまに言う。7歳だった少女、5歳だった少年は今や立派な大人に成長しているのだ。
「あぁ、そうだな、話さなきゃなんねぇな…。助けてもらっといて、話さないのはアレだよな」
ガットがしぶしぶと思い口を開いた。
「そんな壮絶な事になってたのか…!」
クラリスとロイは今までのあらましを全てガットから聞いた。
「っていうか、俺!新聞見た時疑問に思ってたんだよ!女王と握手してた人、かなりアルスさんに似てたんだもん!」
「あぁ…、と、言うことは、アルス兄ちゃんは、っと、こう呼ぶのは失礼なのだろう。この御方はスヴィエートのアルエンス陛下で間違いないのだな…」
クラリスは寝ているアルスの顔を一瞥して、言い直した。
「というか、凄い体験だね。まさか時を越えて未来から来るなんて」
「私達がどんなに探しても見つからなかった訳がようやく分かったよ」
ロイとクラリスがうんうんと頷いて言った。そこにラオが割り込んだ。皆の中心に立って、神妙な面持ちで言う。
「ねぇ皆、あのね、僕ネ」
「何よいきなり。どうかしたの?」
いつもと雰囲気が違うラオにカヤは思わずそう声をかける
「記憶が戻ったんだ」
「マジかよ!?」
「ええっ!」
「っていうかいきなり!?」
「このタイミングで!?」
ガットとカヤ、フィルとノインが驚いて声をあげた。カヤ、ノインはラオの事情は仲間達から既に聞いている。墓から蘇った非現実な出会いだった事、そして記憶が無いこと。それを知らないクラリスは
「ラオ兄、記憶喪失だったのか?」
と、目を丸くしてたずねる。
「うん、そうだヨ。2人は知らなくて当然だよネ、ボクが仲間になったのはネ…」
ラオはクラリスとロイに自分の事を説明した。
「何だか、にわかには信じられないな」
「それも不思議な事だけど、やっぱりあの話の後じゃ何でも信じられるよ俺」
そしてラオは続けて言う。
「うん、それでネ。とりあえず皆に記憶が戻ったって事だけでも報告しておこうと思って。この状況、先いつまた話せるか分からないし、タイミングまた失っちゃいそうだと思って」
「ちょ、ちょっと待って?その無くなった記憶の部分は話してくれないわけ?」
カヤが慌てて言った。
「ううん、勿論話すヨ。でも、この話を一番聞いて欲しい人は、アルスなんだ」
ラオは寝ているアルスの方を見てそう呟く。
「というと?」
「ほら、フレーリットも言っていたでしょ?僕がサイラスっていう、アルスにとっての祖父を殺したって」
「え、ええ、そうでしたね。フレーリットさんの父親、でしたよね?」
ノインの問いに、ラオは頷く。
「そう、でもそれには本当に話すと長くて深い事情があるんだ。殺したって言うのも、違う。あれは免罪なんだヨ、信じてもらえないかもしれないけど…!」
「ちょ、ちょっと待った」
ガットがそこで制止をかけた。
「信じるか信じないかは今はその記憶云々の話を聞いていないからよそにおいておいて。じゃあお前はどうしてその、生きているんだ?」
そして最も根本的な事を聞いた。
「仮に今まで生きていたとしても、お前の見た目からして、そうだとは考えにくい。それにお前は墓から蘇った訳だしな。一応死んでいたのかもしれない。そうだとしたら、どうやって、何でお前は生き返ったんだ?それは記憶とは違って分かってないのか?思い出せねぇのか?」
その質問に、ラオは首を振って答える。
「それは……ボクにも分からないんだ…」
「分からないって……!」
「ホントなんだ、でも、記憶の事はアルスが目覚めたら必ず話す!約束するヨ!皆、今まで隠しててごめんネ!」
ラオは頭を下げて謝った。
「ボクにも、色々と整理がつかなくて…!でも、記憶が戻ったのは過去のスヴィエートへ行って、そこで初めてフレーリットと接触した時だヨ。城内侵入中に想定外な事が起こって、彼に見つかって戦闘状態になったんだ」
「前に話してた札で話を聞き出した時のくだりか?」
フィルが聞いた。
「ウン…で、ネ。彼は本当に強くて、追い詰められて首を絞められた。その時、いきなり凄い光がフレーリットとボクの間に生まれて、両者それに吹き飛ばされた」
「凄い光?」
「フィルも前見たことあるヨ。ほら、ベクターっていう槍使いに襲われた時、ボクがアルスを助けた時のあの光」
「おぉ、あれか!」
フィルは思い出したように手を叩いた。
「あの光と同じようなことが起こって、更に凄い力で吹き飛ばされた。で、その瞬間、失ってた記憶のすべてが戻ったんだ」
「ラ、ラオさん。僕が部屋を見守ってた中、そんなことが中で起こってたんですね」
ノインは苦笑いして言った。
「ウン、あの時の凄い音ってのも、両者が吹き飛ばされた時の音だヨ」
「なるほど…」
「それで、隙が出来たフレーリットに札を使って聞き出すことができたんだ」
ノインはそれを聞いて納得した。
「へぇ…、城チームでラオはそんな大変な目にあってたのね…」
カヤがご愁傷様、と肩をすくめる。
「ま、いいわ。とりあえずその話の続きはアルスが目覚めるまで待ちましょ」
「そうだな。事実アルスがリーダーのようなもんだし、アイツがダウンしてちゃ迂闊に移動も出来ねぇ」
ガットとカヤそう言い、アルスの所へ行く。すぐ側にはルーシェが彼の手を握り、顔を青くして見つめている。
「おいルーシェ、あんま無理すんなよ」
「ガット…」
声をかけられたルーシェはゆっくりと振り向いた。今アルスの怪我はルーシェの治療によって完治していた。しかし、熱は下がっていない。彼の体調はまだ全く優れないはずだ。
「やっぱ、お前の治癒術はすげぇよ。俺のなんて、何かに遮られるようにして効かなかったんだ」
ガットはアルスの刺された傷を見て言った。カヤもそれに続けてあの時見た光景を思い出しながら言った。
「スミラの肩の傷もあっという間に治ってたけど、それとやっぱ似てない?親子だからなのかなぁ…?」
(これってもしかして特殊な遺伝か何か…?)
と、カヤが顎に手を当てて考え込む。ルーシェはハッと何かを思い出した。
「ねぇガット、カヤ」
そして真剣な顔で2人に呼びかける。
「あん?」
「どうしたの?」
「私ね、前にもこれ、不思議に思った事があるの。アルスと初めて出会った時も、彼は血まみれでいつ死ぬか分からない瀕死状態だった。後で聞いてみたら、あのベクターって人に刺客として命を狙われて、槍で刺されたんだって。それでオーフェングライスの噴水前に倒れてた所を私が見つけた」
「お?おう。で?」
いきなりなんだ、と思いながらもガットは受け答える。
「その後私の治療もあって彼はすぐに回復した」
「へぇ、そうだったのか。でもそれが何だ?」
「それだけじゃないの。またベクターに襲われた後、アルスは気絶して船室に寝かされてたよね?」
「あぁ、確かそうだったな。その後天気が激変したんだったな」
ガットはその時のことを思い出した。
「私その時、アルスが頬を擦りむいてたのを思い出して、治しに行ったの」
「アタシそこらへんいなかったから知らないわ」
カヤが言った。
「へぇ。あ、そういやルーシェは既に部屋にいたもんな」
「うん、でもアルスの頬に擦り傷はなかった」
「え?へ、へぇ。そうだったの、か?」
いまいち話が飲み込めないガットにカヤがフォローを入れた。
「待って、それってつまり…」
「うん、多分……、アルスが無意識に自力で再生させたんだと思う…」
「っなるほど!似たような事が前にも起きてたんだな!?」
ガットはようやく納得して言った。ルーシェはあの時気のせいか、見間違えたんだという事で納得したが、ようやく合点がいった。これで間違いない。ルーシェは確信して言った。
「きっと、アルスには再生能力があるんだよ…、あのスミラさんと同じ……」
「そうよ!きっとそうに違いないよ!」
カヤもそう確信しルーシェに賛同する。
「はぁーん、なーるほど……ケッ、でも皮肉なもんだな」
ガットが寝ているアルスを見て言う。
「死んでもおかしくない状況にコイツは多々遭いながら、それでも尚、再生能力というもののおかげで生きてこれた」
ルーシェも、ガットが言おうとしていた事に気づきアルスを見つめた。
「コイツが恨み、憎み、殺したい程嫌ってた、裏切り者スミラという……母の血によって、な」
「そう…だね…」
ルーシェが静かに頷いた。殺したい程、その通りだ。過去へ行ったとき、アルスはスミラを殺そうとした。ガットが軌道をずらさなければ確実に彼女の頭を撃ち抜いていた。
アルスは、母親であるスミラを本当に憎んでいた。スヴィエートは昔から裏切り者という立場の者に滅法厳しい。裏切りという行為は万死に値するのだ。当然、その裏切り者の息子であるのだからそのようなレッテルは貼られてきたのだろう。フレーリットというスヴィエートの英雄である父の影に隠れてはいたが、紛れもない事実だった。フレーリットを殺したのは、スミラなのだ。
「だってそうだろ?」
ガットは続けた。
「あの治り方、スミラのと酷似してる。俺は僅かに、しかも遠目にしか見れなかったが、アレはほぼ同じだと見て間違いねぇ」
「スミラの肩の傷口から、エヴィが溢れるようにして出てきて、自力で再生してたわね」
カヤが補足した。
「あぁそうだ。アルスもまさにそうだった。傷口から変な光ってるエヴィが生み出されてた」
「そう、だったんだ。私そこらへんはクロノスに入られてたから、覚えてないんだ…」
ルーシェが頬を掻きながら言った。
「その時はフレーリットが何かしたんだと思った。でも、その直後に傷が再生しだしたんだ。俺はもう、訳がわから無さすぎて、そんで信じられない出来事に驚きすぎて見てる事しか出来なかった」
「でも治癒術って、ルーシェのは効くのよね?」
カヤはルーシェの右手を掴んで言った。
「何かルーシェのとも関係してるんじゃないの?現に、ルーシェがクロノスに操られてた時にフレーリットが攻撃したあの氷の術、ルーシェは消しちゃったじゃない?」
「そういや!精霊のイフリートの時も似たような事が起きてたよな!?」
ガットはあの時のことを思い出した。自分がイフリートに触ったら熱くてたまらなかったのに、ルーシェは全く平気だったのだ。
「っ!そういえば!クロノスもあの力はやはりセルシウスの力だとかどうとか言ってた!セルシウスって精霊だよね?イフリートが存在するんだったら、セルシウスだって絶対いるはずだよ!」
ルーシェは意識を乗っ取られる前に、クロノスが言っていた事を思い出して言った。
そして、ルーシェはあの時の事も思い出した。全て無意識だったが、クロノスとの戦闘の時、そしてジュベールの術の時もそうだ。
(全部、何か攻撃されたモノに対してそれを私は無効化してた………?)
ルーシェは心の中で思った。
「もしかして、これらって断片的ではあるけど、きっと繋げれば共通点があって、何か重要な事が隠されてんじゃ─────」
ドォン!!
と、上から響く音に、カヤの声は中断された。上からパラパラと埃や土くずが落ちてくる。
「っ何!?今の!?」
「上からだ!」
ガットがそう言った直後、女の声が次に聞こえた。
「そこに居るのは分かっています!大人しく出てきなさい!」
ロダリアの声ではなかった。それは、何かまた他の女の声であった。