テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜   作:平泉

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オリガ

あぁ、意識が遠のいていく。

 

クラリスの赤い髪が顔に触れたのを最後に、視界は闇へと落ちていった。

 

そして、目が覚めた時、自分はまた別の場所に居た。そこはスヴィエートだった。スヴィエートの広場だ。よく皇帝が民に向かって演説をする場所。そして、大勢の人に囲まれていた。全部スヴィエート人だ。その人達が口々に言った。

 

「やめちまえ!!」

 

「この役立たずめ!」

 

「お飾り皇帝!」

 

「私の妻と娘を返してくれ!!」

 

「そうだそうだ!治癒術師が大量に虐殺されたんだぞ!」

 

「あの条約は何だ!?俺達に、死ねって言ってるのか!?」

 

アルスは愕然とした。こんなにも憎しみに溢れた目で見られるとは。まるでさっきのあのロピアスの人達の時のようだ。アルスの横から、ある1人の男が通った。アルスと同じ、コバルトブルーの髪色の男だった。その髪は後ろで短く結び、瞳の色は青。そして顔は酷くやつれ気味であった。少なくとも、アルスより歳上なのは確実だろう。その男が、民衆に向かって頭を下げた。

 

「本当に、本当に申し訳ない!でも、こうするしかなかったんだ!これ以上戦争を続ければスヴィエートは滅びる!」

 

男は悲痛な声で、真摯に謝った。しかし、民衆はブーイングの嵐になる。

 

「だから黙ってロピアスの言いなりになれって言うのか!」

 

「今はそうすべきなのだ!!分かってくれ!」

 

アルスは静かにその光景を眺めていた。この先どうなる、それだけが気になった。

 

「ふざけるな!!死んでいった国民は生贄か!?」

 

「そ、そんなつもりで言ってるんじゃ…!」

 

「この売国奴!!」

 

男に一斉に物が投げられた。ゴミや紙くずが大ブーイングの中飛び交う。

 

「っつ!」

 

投げられた石が、男の顔に命中する。男は目をつぶり、顔を押さえた。

 

「父上!」

 

「父上!」

 

男によく似た2人の子供が心配そうに駆け寄った。2人ともまた、アルスと同じ髪の色だ。

 

(2人は息子だろうか……?)

 

アルスはそう予想した。2人は父親を庇うようにその場から離れさせる。

 

「何故、何故分かってくれない……、私は、私はただこれ以上民を苦しませたくないだけだ…!」

 

男のその青い瞳から涙がこぼれた。しかしお構いなしに、追い討ちのするように物は投げられとどまることなく罵倒もヒートアップしていった。

 

「スヴィエートの恥め!」

 

「ライナントなんて屑よ!屑!」

 

「死ね!!死んじまえ!! 」

 

ライナント、そう呼ばれた彼。

 

「ライナント…!?」

 

アルスは自分の家系図を思い出した。よく覚えさせられたものだ。確か彼は、

 

「この人、俺の曾祖父だ!」

 

かなり時代は遡る。アルスの父がフレーリット。フレーリットの父がサイラス。そしてサイラスの父がこのライナントだ。アルスは彼の直系の曾孫にあたる。

 

「って事は、これはかなり昔の記憶……?なのか?そうだとすると、あの子供2人は恐らく息子で、長男サイラスと、次男のツァーゼル……?」

 

見てきた夢の中、時代はバラバラだが過去の事だとはアルスにも既に分かったいた。以前見た夢が父と母の事だった。しかし今度は曾祖父ときた。

 

「一体いつからこの記憶の夢は来てるんだ?どうして、俺はこんなものを見るんだ?」

 

幼い頃はこんなもの見なかった。本当に、最近になってからだ。特に20歳になる頃、そしてなってからもこうして頻繁に見る。アルスが立ち尽くしていると、場面が勝手に変わった。

 

 

 

「……?」

 

アルスは辺りを見回した。ここは恐らくスヴィエート城だ。そして、やつれ、弱りきったライナントがベットに横たわり、その横の少年に静かに語りかけていた。まだ少しあどけない。恐らく10代半ばだろう。

 

「サイラス…、私はもうダメだ」

 

「父上…!」

 

サイラス、アルスの祖父だ。まだ少年の彼は涙を流して父に泣きついた。

 

「何故お前をここに呼んだのか、それはね…」

 

ライナントがサイラスの頭を撫でた。

 

「お前に、私の全てを授けるためだ……!」

 

「え?すべ……て?」

 

サイラスは困惑した表情で見つめた。そしてライナントが手に力を込めた。次の瞬間サイラスは悲鳴をあげた。

 

「うっ!?うわぁああああぁあぁあ!?」

 

ライナントはありったけの力を使い、息子サイラスにエヴィを注ぎ込んだ。頭を撫でていた手が光り、サイラスにそれが吸収されていく。サイラスの頭に鋭い痛みが走った。

 

「頼む、民を、導いてくれ……!平和な世界、そして、精霊と、共…存……」

 

「何を、父上!やめて下さい!あ、ぁあああぁあああ!?」

 

サイラスは必死にその手を振り払おうとした。しかし、断固としてライナントは離さなかった。

 

「一族の、悲願……、セルシウスの監視などではなく……、解……放……!」

 

「うっ、がっ、あぁあああああ!?」

 

サイラスはあまりの激痛に仰け反り、涙が溢れ、口からは涎が落ちる。サイラスは父が何を言っているか、全く聞こえなかった。ただただこの痛みが早く終われ、とひたすら願う。

 

「一体何をしているんだ…!?」

 

アルスはその光景を見ていることしか出来ない。干渉する事が出来ないのだ。

 

「っ、ぐぁあぁああ!!!」

 

「平和な世界……を、頼んだ、ぞ……!!」

 

ライナントの手から光が弾けとんだ。それは見た事ある、既視感のあるものだった。

 

(俺とラオの間にできた光とほぼ一緒だ!)

 

その光と共にサイラスは仰向けに倒れた。ライナントの手はだらんとベットの外に落ちた。彼は目をつぶり、絶命していた。

 

「っ父上!?何がっ、………っ!?」

 

バンッ!とドアが激しい音を立てて開いた。少年は目の前の光景に目を見張った。

 

「兄上!?父上!?」

 

その少年はツァーゼルだろう。彼はまず倒れていた兄サイラスに駆け寄った。

 

「兄上!!一体何がっ……!?」

 

ツァーゼルがそう言いかけた途端、絶句した。父、兄、そして自分と皆同じだった青色の瞳。しかし、虚ろに目を開けるサイラスの瞳は銀色に光っていた。アルスもそれを見て驚いた。自分と、そして父とそれは全く同じものだった。

 

「銀色の瞳…!?」

 

アルスがそう呟くと、視界がそのまま真っ黒になっていった。

 

 

 

ドォン!という耳障りなその爆音で目が覚めた。

 

(今の夢、そして今の音は……!?)

 

「っ何!?今の!?」

 

「上からだ!」

 

すぐ側からカヤとガットの声が聞こえる。

 

「そこに居るのは分かっています!大人しく出てきなさい!」

 

篭って少し聞こえにくいが、女の声だ。しかし、ロダリアではない。初めて聞く。衝撃で埃や土くずが崩れ落ちて来た。

 

「ッ!」

 

ルーシェはそれがアルスにかからないように自分の体で覆い、身を呈して守った。アルスの薄目にそれが見えた。

 

(ルーシェ…、君は……)

 

アラスは虚ろにそれを見つめる。見れば、自分の左手はルーシェに握られている。きっとずっと傍にいてくれたのだろう。そして、既にフレーリットから刺された傷は完治していた。

 

ロイの慌てた声が聞こえる。

 

「そんな馬鹿な!?ここを知ってるのは俺と姉ちゃんと、せいぜい皆だけだ!」

 

「っ、まさか見られたのか!?いや、でもここに入る前、周りに誰もいない事はちゃんと確認した!」

 

クラリスが言った。この隠れ家へ来る前、入念に周囲を警戒した筈なのに、何故?

 

「っ、し、師匠だ……!」

 

フィルが青ざめた顔で言う。

 

「っそうか!ロダリアなら、この場所を知っていて当然だ!」

 

ノインが上を見上げて声を張り上げて言いった。

 

「どうすんだ!逃げ場がねぇ!」

 

「ロダリアの奴!教えたのね!?」

 

アルスの傍に座っていたガットとカヤが立ち上がり、愚痴を零す。

 

「クラリス!?何か手はないの!?他の出口とか!」

 

「っ無茶言うなラオ兄!ただでさえここも狭いのに、他の出口なんてないよ!」

 

見つかった、そう緊迫した空気が暗い防空壕の中に流れた。

 

ドォン!!

 

「うおっ!?」

 

「ッロイ!」

 

さっきより大きい爆発音がまた響く。バランスを崩したロイはクラリスに支えられた。

 

「聞こえないのか!?なら居ないと判断して、生き埋めにする!いいのか!」

 

そしてまたあの女の声が聞こえた。さっきと違い、口調が荒い。アルスは意識がまだ朦朧とする中、ルーシェの体に寄りかかりつつ、起き上がった。

 

「ッアルス!?起きてた……、ってまだダメだよ!」

 

ルーシェは無理に立とうとするアルスを慌てて押さえた。

 

「っ……、このまま、ここに……いたら、皆本当に生き埋めにされてしまう…!」

 

アルスはふらりと、ルーシェに支えられながら立ち上がった。

 

「ありがとうルーシェ…」

 

「っえ…?」

 

ルーシェはごく普通にアルスにお礼を言われた事に逆に不自然に感じた。

 

「怪我、治してくれたんだろう…?」

 

「う、うん……」

 

「変な意地張って、さっさと治して貰えばよかったものの。その結果がこのザマだ。自分が情けないよ…、ゴホッ、ゲホッ!」

 

アルスは痰が詰まり、苦しそうに咳をした。

 

「と、とりあえず……、っここから出よう。ここにいると危険……だ…!ゲホッ!ゲホッ!」

 

「アルス!」

 

アルスはそのままよろけ、ルーシェにかろうじて支えられた。

 

「おいおい、ひでぇ姿だな大将さんよ」

 

ガットがルーシェ1人では、と判断しすぐさまフォローに入った。

 

「っ、すまない……」

 

アルスがそう言った直後、また外で、威嚇するように爆発音が響く。

 

「次で最後よ!出てこなければ、ここを破壊する!」

 

アルスは決心を固めて言った。

 

「皆、一旦ここを出よう!」

 

 

 

アルス達は地上に出た。細い路地、ボディーガードと思われる2人の屈強な男性に付き添われ、その女が1番最初に目に入った。

 

「やっぱりここにいた。ロダリアの言っていた通りね」

 

淡く、黄緑色の髪の毛、黒い瞳、凛として勝気そうな顔つき。シワが所々あり、年齢はいっているが綺麗な貴婦人、といったところか。

 

「っ、貴方は…?」

 

ガットとルーシェに支えられ、アルスは酷い疲労感に押しつぶされそうになりながらも彼女を見た。

 

「私はリザーガの幹部の1人、オリガ」

 

「オリ……ガ……?」

 

そしてそのオリガという女性の足元からレインコートを着た男の子が顔をのぞかせた。

 

「あ!さっきの!」

 

ルーシェがそう言った。ロダリアと共に教会を後にした、エーテル、と呼ばれた少年だ。

 

「………」

 

その少年に感情は一切無かった。その瞳には何も写っていない。オリガが冷めたトーンで言う。

 

「思いのほか邪魔者が多いわ。エーテル、排除を」

 

「ハイ」

 

エーテルは傘を取り出した。そして次の瞬間、傘の先端の石突きから光が発射された。

 

「っうわぁっ!?」

 

それはロイの体に真正面から当たり、ロイは吹き飛ばされた。クラリスはすぐさま振り返った。

 

「ロイ!!がっ!?」

 

後ろに飛ばされたロイに駆け寄ろうとしたが、またエーテルの傘から光のような弾が発射された。

 

「あの傘から強力な光術を発生させてる!」

 

ノインが気づき、そういった時は遅かった。

 

「わぁ!?」

 

「ノイっ!ぐへっ!?」

 

「ノイン!フィル!っきゃあ!?」

 

「うわぁっ!」

 

ノイン、フィル、カヤ、ラオと次々に撃たれていき、エーテルの光術の餌食になった。

 

「っやめろ!!」

 

アルスが叫んだ。しかし、今自分を支えているガットも一緒だ。迂闊に動けない。傘の照準がガットに合わせられた。

 

「オ、オイちょ、やめっ、おわっ!?」

 

「ガット!!」

 

ガットも吹き飛ばされ、アルスは何とかルーシェに支えられて立っている。

 

「み、皆!!」

 

ルーシェが悲痛な声で叫んだ。次の瞬間、傘のアルスに照準が向けられた。

 

「っやらせない!」

 

「ッルーシェ!」

 

ルーシェが前に出て両手を広げ、咄嗟にアルスを庇う。

 

「エーテル!その娘に光術は効きません」

 

「承知シテオリマス」

 

オリガがその時言った。エーテルはコクンと頷くと傘の柄を抜き、鋭い剣を取り出した。そしてダッと彼女に向かって走り出した。

 

「っえ……?」

 

「ッルーシェあぶな──────」

 

アルスの声と同時に刹那、ルーシェの体を斜めにエーテルが斬り裂いた。真っ赤な血が切れ目に沿って吹き出す。

 

「っぁ……!」

 

ルーシェはそのまま、声も出せずに仰向けに倒れた。エーテルは剣から血を払うと、パチン、と納刀する。

 

「ッルーシェ!?ルーシェ!!!」

 

アルスは倒れてくる彼女をしゃがんで受け止めた。彼女の顔に、飛び散った血が付着する。ルーシェの目は光を失い、アルスをただただ見つめた。

 

「私の目的はアルエンス、貴方よ」

 

冷徹な声でオリガが言う。そしてゆっくりとアルスに近づいた。

 

「フン。本当に、若い頃のあの人そっくりね」

 

オリガはアルスの顎を持ち上げ、笑った。

 

「っ!お前!?」

 

アルスが涙を流し、睨みつけると仲間の、ノインの悲鳴があがった。

 

「うぁあっ!?」

 

ボディガードの1人が彼の腕を締めあげている。そして、ボキッと嫌な音が響いた。

 

「っぐぁぁぁあ!!!」

 

「っや、やめろ!!」

 

アルスは見ていられず叫ぶ。

 

「あぁ、可哀想に?骨、いっちゃったかもね?」

 

オリガはフッと笑い、アルスの顎を向かせてその光景をわざと見せつけた。ルーシェは浅い息を吐き、自分を抱えるアルスを見つめる。頬に雫が垂れた。それはアルスの涙だった。

 

「アル……ス……」

 

「る、ルーシェ!」

 

ルーシェがなんとか無事だとアルスが安堵したのも束の間、次はカヤの悲鳴が聞こえた。

 

「ぎゃあぁぁあっ!?」

 

男がカヤをの背中を踏みつけている。ミシミシと音がなり、カヤは絶叫した。

 

「やめろ!!やめてくれ!!頼む!やめてくれ!!」

 

アルスは懇願するように叫んだ。しかし、その願いを嘲笑うがごとく、オリガは笑って言う。

 

「やめるわけにはいかない、お前の心を十分に折ってから連れて来いとの命令なんですもの」

 

オリガが顎で指図すると男達はクラリスとフィルの足を折り曲げ始めた。

 

「っうあぁああ!?」

 

「うぎゃあああああああ!!!」

 

「やめろー!!!」

 

2人の断末魔が同時に響いた。アルスはルーシェをそっと下ろし、オリガの手を振り払うと拳銃を取り出した。

 

「どうした?それで私達に抵抗できると……」

 

オリガはそう言いかけたが、止まった。アルスは自分のこめかみに拳銃を突きつけたのだ。

 

「っ、これ以上仲間に手を出すなら、俺は引き金を引いて自害する!!」

 

「……そうきたか」

 

オリガは口元を歪めて笑った。

 

「俺を連れて行くのが目的なんだろう!?俺が死ねば、お前達は困る筈だ!」

 

アルスの手は震えていた。これは賭けだ。しかし、これ以上仲間が傷ついているのをただ見るのはとても耐えられない。

 

「流石あの人の子、よく頭が回る。状況が分かっているようね」

 

オリガは男達に合図を送った。クラリスとフィルはなんとか解放された。

 

「では、エーテル!」

 

エーテルが反応し、アルスの背後に回った。そして彼の頭に向けて光術を発動させた。

 

「っぐっ!?」

 

アルスはそのまま倒れ、男2人に抱えられた。

 

「行くわよ 」

 

オリガのその声を最後に、アルスの意識はまた落ちていった。


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