テイルズオブフェイティア〜宿命を運命へと変えていくRPG〜 作:平泉
ボディガードの大男達が、アルスを抱えアイコンタクトを取り合い、コクンと頷くと路地裏から連れ出した。
「行くわよ」
オリガはそう一言言うと、エーテルにまた指示を加えた。
「エーテル、まだ生きている者達を処分しなさい」
「ハイ」
エーテルが傘を振りかざし、術を発動させようとした。
「っやめろこのガキ!」
「っ!?」
そこに起き上がったロイが飛びついた。エーテルを持ち上げ羽交い締めにする。
「っハナセ!」
エーテルはジタバタと暴れた。
「これ以上、皆に……!手を出させるか!」
ロイも負けじとそれを押さえつけた。
「邪魔ヲスルナ!!」
エーテルはそう言うと自分の体にビリビリと電流を流し始めた。
「うぎゃぁぁっ!?ぬぉおおおおなんのこれしきー!!」
ロイはたまらず悲鳴をあげたが、それでもエーテルを離さなかった。
「ロイ!」
そこに起き上がったラオが応援する。
「ラオさん!」
「離れて!」
ラオはクナイを投げた。エーテルの傘を持つ右手に赤い札が付いているクナイが刺さる。ロイは言う通りにエーテルをパッと離し、すかさず避難した。
次の瞬間ボッ!と音がしてエーテルの右手が炎上した。持っている傘が落ちる。
「っ今だ!」
ロイは素早くその傘を拾い上げ攻撃の手段を奪った。地面にガシャンと落ちたエーテルはヨロヨロと立ち上がり左手を突き出し言う。
「ソレヲカエセ!!」
「皆の仇だ!えぇーと……、これだ!」
ロイは傘の柄についている適当なボタンを押した。すると傘がバッと開き、ミサイルが放たれた。
「うおっ!?」
ロイはその反動で数歩下がった。ミサイルはエーテルに向かって一点集中に発射された。
「──────ッ!」
ドドドドッ!と音がして、エーテルから煙が上がる。
「や、やった、のか……?」
ロイが傘を下ろし、ハァハァと荒い呼吸をしながら見つめた。煙が晴れ、エーテルはプスプスと音を立てて倒れていた。
「よくやった、ロイ!お前は男だ!」
ガットも撃たれた箇所を自分で治癒しながら立ち上がった。
「ガ、ガット、さん、無事でよかった…」
安堵した表情でロイはガットを見つめた。
「ロイ、君のお陰だヨ!本当にありがとう」
「いえ、俺なんて!」
ロイは首も手もブンブンと振って否定した。
「しょっぱなから吹っ飛ばされて、その後は皆さんがあんな目にあってるのを、ガタガタ震えてて、俺に来ませんようにって、祈ってたただのヘタレ野郎です…」
「それでも、君は最後にやってくれたじゃない!」
「おう、かっこよかったぜ。このガキ!って言ってたの聞こえたけど、俺からしちゃお前と会った時は5歳のガキだったから、なんか笑っちまったぜ。感慨深かったけどな」
ラオに頭を撫でられ、ガットにポン、と肩に手を置かれて褒められる。ロイは照れて顔を赤らめた。
「っお、俺の事はいいんです!早く、皆さんの治療を!!」
「あぁ!おいとりあえず、重傷のルーシェからだ!あとの2人は皆の容態を確認しろ!」
「は、はいっ!」
ロイはルーシェの元へ素早く駆け寄った。ガットの言っていた通りひどい傷である。
「うぅ、これはひど過ぎる……!容赦なしだ…!」
しかし、突如傷からまばゆい光が漏れだした。
「な、何だ!?」
ロイは目を疑った。斬り裂かれた傷の部分が煙を発しながら再生していっているではないか。
「………ぇ?な、なにこれ?どうなってんの……!?」
ロイはその場に立ち尽くした。何が何だからわからない。
「っ!?おいっ!ちょっとどけ!」
後ろにいたガットが素早くロイをどかせた。ガットはルーシェのその様子を見るやいやな、驚愕した。
「間違いねぇ、アルスと全く同じ傷の治り方だ…!」
だがガットは疑問に思った。こんな力があったら以前ガラサリ火山でカヤにナイフで斬りつけられた時に治せたのではないのか、と。
「一体全体どうなってやがる…?アルスに次いでルーシェまで変な力が解放されたのか……!?それとも大怪我じゃないと発動しないのか……?あぁ、もうっ、分かんねぇッ!とりあえず!ルーシェがこの状態なら以前のアルスん時と同じくしばらくは俺の治癒術が効かねぇ筈だ!悪ぃルーシェ、お前は後回しにすんぜ!」
ガットはもう何が何だか分からなくなったが、これだけは分かる。今の彼女に治癒術をかけても無駄だ。以前のアルスと同じなのだ。
「おいラオ!他に重傷な奴はっ!?」
彼らの事態は切迫していた──────。
「うぐ……なんとか動きます……」
ノインは折れた腕をガットに治療してもらい、腕の動きの様子を確かめた。少し動かしづらい。
「はぁ…、し、師匠……、何で、やっぱり場所を教えたのか……!くぅっ!そのせいでルーシェが、皆がっ……!」
「死ぬかと思ったよ……、助かった、ガト兄……、ありがとう。だが、走ることは難しそうだ…」
フィルとクラリスは折られた足をさすった。しかしまだ違和感を感じざる負えない。フィルは人一倍ルーシェに懐いていた。無理もない。
「ぅぅぅああぁぁぁ、あんにゃろぅぅ!乙女の背中を容赦なく思いっきり踏んづけよって……!っでいだだだだ!もう少ししゃがんで立ってガット!」
「お、おう、すまねぇ」
カヤに関しては背骨を折られるというルーシェの次に重傷だ。ガットに肩をかしてもらいなんとか立ち上がる。彼の決死の治癒術のおかげで皆なんとか動けるまでに回復した。
「よ、よかった……ぜ、皆……大事なくて……ぐ、はぁ……、はぁ……」
ガットは己が出せる最大限のエヴィを酷使し、治療にあたった。皆が回復した頃には疲労困憊だった。だがしかし今の状況は非常に良くない。ルーシェは依然として意識不明の重態。傷は自力で治りつつあるが、意識が戻らないのだ。ガットの治癒術も、もう限界だ。これ以上は今は使えない。唯一動けるラオは意識のないルーシェを横抱きにしている。
まさに満身創痍。今、まともに動けるのが非戦闘員のロイだけだ。
「ロイ、お前、どっか助けを呼んできてくれねぇか…?あと休む場所を見つけてくれ…。勿論、俺らに危害を加えないような奴を」
「わ、分かったよガト兄!!待ってて!!すぐ戻ってくるからさ!!」
ガットの頼みにロイは力強くうなずき、裏路地を駆け足で出て行った。
「こ、これからどうするべきなのボク達…はは…、なんかもう…やばいネ」
ラオはこの状況に絶望しか感じなかった。逆に今の状況で何が出来るというのだ。彼は?アルスは?
リーダー格だった彼を失い、治癒術師2人は治癒術が使えない。ノインは腕がまだ本調子ではない。詠唱は出来るものの、術を発動する媒体であるキューが上手く扱えなければ術が発動しない。
フィルは戦意喪失、クラリスとカヤは走れない。ラオもルーシェを抱えている為動きが制限される。これ程に絶望的な状況に、ラオはから笑いしかできなかった。
しかしその状況に追い打ちをかけるように、その人物は再び姿を現した。
「まぁまぁ皆さん、無様ですわねぇ」
コツコツと靴音をたてながら近づいてくる影。扇子で口元を隠すその仕草。その声、その黒髪。
「ッ、ロダリア………!!」
ガットはこれでもかという程彼女を睨みつけた。
「やっぱり……!アンタだったのね!ここの場所をオリガとか言う奴に教えたのはっ!?」
カヤが責め立てるように言う。
「御名答。その赤髪。まさかとは思いましたが、そのまさかとは。フフッ、面白いですわねぇ。過去に出会った泣き虫少女がこれ程までに頼もしく成長しているとは」
小馬鹿にしたように鼻で笑い、ロダリアはクラリスを見つめた。
「ロダリア、貴方ッ…!リザーガだったのか……!」
「クスッ。感動の再会、というやつですか?アルスに恩返しをしたつもりですか?おやぁ?おかしいですわね?その割にはアルスの姿が見えません。彼はどこです?あぁ、貴方の王子様は既にさらわれてしまいましたか」
「くっ、黙れッ!!」
「どの口が言ってますか!!」
クラリスとノインが大きな声で言った。挑発し、憎たらしく煽るロダリアは普段より一層輝いている。
「全く、そこのガラクタが正常に働かなかったようで」
ロダリアは冷たい視線で倒れているエーテルを見た。そこにゆらり……、とエーテルの前に人影が立った。揺れた瞳、震えた声でかつての師を呼ぶ。
「師匠………。いや、ロダリア…!」
「…………フィル」
フィルは糸を取り出し、エヴィ糸と連結させ、いつでも動かせるように戦闘態勢に入った。だが、鼻がツンとした。それでも涙声になりながら訴えた。
「何故……、何故……!?いや、最初からか!?答えろ!答えてくれ!!疑いだしたら止まらない!あの日、ハイルカーク鉄道爆破事件があった日!貴方はどこに出かけていた!?サーカス団に泥棒が入った時だって、侵入され物色されたのは貴方の部屋だった!その泥棒を差し向けたのはきっとカイラ店長だ!今思えばおかしいと思ったんだ!アルス達は自信を持って最初から漆黒の黒を疑って来ていた。そう、カイラ店長が犯人は漆黒の黒にいると確信していたから!そしてノインは貴方の監視をするために旅に着いてきたと言っていた!」
「…………」
ロダリアは黙って無表情で聞いていた。
「最初から、最初から全部、全部全部全部全部全部全部全部演技だったのか!?サーカス団漆黒の翼は何だったんだ!?小生の居場所だったあそこは!?小生にとって家族だった皆は!?ずっと小生を騙し続けて、小生はそれに気付かず生きてきたのか!?
だったら、だったら今までの小生は何だったんだぁっ!?」
フィルは涙をボロボロと流し泣き叫んだ。
「そんなの、決まってますわ」
しかし返答は至極冷たい声色で、シンプル。
「ただの私の暇つぶし。面白い人形、ですわ」
「…………ッ!?」
自分の存在価値が、音を立てて崩れていく。フィルは涙が止まった。
「面白ければ、良い。ただそれだけですわ」
それだけ言うと、ロダリアは球体のカプセルを取り出した。そしてガスマスクをかぶった。
「な、何を……!?」
「おやすみなさい?」
黒いドレスを翻し、彼女の後ろ姿を見たのが最後。カプセルから煙が吹き出し、あっという間に充満した。
「っ、まさか毒ガス……!?」
「うっ、ゲホッ!ゲホッ!」
「な、何だ、これ……、畜生、体が……痺れ……」
「ダメ、体が、動かない、もう、ムリ……」
その場にいた全員が、バタバタと倒れて行った。
「フィル……………」
地に伏した少女を見て、ロダリアは静かにただそれだけ呟いた。
「早く早く!!こっちだ!早く来てくれよ!!!」
「分かってるよ!団長の頼みなら聞くしかねぇだろ!」
「着いたッ!!」
自分の楽団の仲間を引き連れ、先程の路地裏に戻ってきたロイ。しかし、そこには─────、
「なっ、アレッ!?誰もいないっ!?」
そこはもぬけの殻だった。