Demon's Stella ~悪魔の彗星~ 作:Hershel
風見鈴(かざみ りん)
性別:女 年齢:19歳 身長:156cm 体重:45kg
舞鶴鎮守府に所属する女性提督。堀本提督とは同期で、よく一緒にいる。
茶髪のショートヘヤー、紫のカチューシャをつけている快活娘。
勉学は中の下ではあるものの、艦娘とのコミュニケーション力は相当なもので、
意思疎通の達人と言われるほど。
戦艦《榛名》を旗艦とした少数艦隊を所持している。
堀本提督と一緒に、飯田憲兵と何か協力関係を結んでいるが、今のところ詳細は不明。
性格は非常に活発で好奇心旺盛な元気っ子。
気になったことはどんどん聞いていくタイプで、知り尽くすまで頭から離れない。
だが、二日経ったら忘れている。
人にあだ名をつけるのがすきで、必ず『ちゃん』付けをする。
『りんちゃん』と呼ばれたいため、いろいろな人にそう呼んでと言っている。
部下である榛名にすらそう呼んでと言っているが、真面目な榛名にはできないようだ。
静まり返る夜。鎮守府に置かれた外灯の光が窓から差し込んでくる。
午後十一時。
仕事の時間だ。実に一週間ぶりである。
いつも通りの私服。やっぱり軍服よりこっちのほうが動きやすい。
ネックレスとかつけても誰からも文句言われないしな。
だが、このファッションを見てくれるのは魔物なんだけど。
いつもだったらこのまま一人で出て行くのだが、今日から違う。
「準備できたか?」
俺は彼女に振り返る。緑のリボンで髪をくくって、下は明るい青のジーンズ、上は白いTシャツに
灰色のパーカー。とりあえず、俺の持ってる服で女の子が着てもおかしくないものをチョイスした。
さすがにスウェットで外歩かせるのはかわいそうだったし、臭い軍服を着せるのもどうかと思ったからだ。
夕張の軍服は洗濯機にかけて、部屋干ししている。
「うん。ばっちり!」
OKサインを出す夕張。俺は壁にかけた蛇矛を背負い、部屋を出る。
そして、いつも通りに隣の部屋に耳を済ませる。
「何してるの・・・?」
「起きてるか確認」
部屋の中からはがやがやと音が聞こえる。まだ起きてるなこりゃ。
「この部屋って・・・」
「飯田やな。まーた夜更かししとるわ」
「あはは、朝早いのにね」
この感じはうらやましい。俺だったら確実に寝坊する。
そんなこと考えている内に気づかれたらまずい。俺はさっさと出る。
「まぁ、ばれてるんだけどな」
部屋の中にいた飯田はぼそりと呟く。
「夕張ちゃんも連れて行ったか。無理しねぇといいんだけどな」
ノートパソコンを寝転がりながら叩いている飯田。
その画面には・・・暗号のような文字が。
「ふむふむ、あいつも順調か。あいつらの動向も何となく見えてきた」
画面の暗号を見てはうんうんと頷く飯田。そして、取り付けたマイクのスイッチを入れて・・・
「そっちはどうだ?望月」
「お前さんが一週間も休みやがったせいで、被害拡大なんじゃぞ!
今日はたっぷり働いてもらうからな!!」
無線機越しに大声で叫ぶ親方。
「わかっとるわ!!やからそんな大声ださんでええ!!」
「あはは・・・」
無線を装備していない夕張にですら聞こえる大きな声に思わず苦笑い。
俺達は東舞鶴医誠会病院のある七条通りの裏通りを歩いている。
昼間は桜が散る景色のいいスポットであるが、夜になると魔物がよくうろつく危険スポット。
病院の近くに屯っているってのが性質が悪い。緊急病棟は開いているものの、そこまで連れて行くのが普通の人では一苦労である。
「ん~、んなぼこぼこ魔物出てこんか・・・」
「出ないに越したことはないと思うんだけど」
暇そうに俺は槍をぶんぶん振り回している。その姿を見て夕張は苦笑し、突っ込む。
だが、そういう会話もつかの間。傍に流れている河から物音が聞こえる。
水しぶきの音と共に飛び上がってくる二つの影。
それは俺の歩く道の前に立ちふさがる。外灯に照らし出されるその姿は
魚の鱗に包まれたような、人型魔物だ。手には三叉の槍を所持している。
「《サハギン》じゃ!!」
無線から声が飛び出てくる。
「主に河に潜む魚人の魔物じゃ。槍による攻撃や水鉄砲、水の魔導術に注意じゃ!」
「こいつ、魔導術使うんかい!」
俺は槍を構える。夕張は戦えないため、後ろに下がって戦う様子を見守る。
一体は俺に突撃してき、もう一体は遠距離での水鉄砲攻撃で応戦する。
「魔物のくせにめんどくさいなぁ!」
水鉄砲を槍で弾き、近接戦を仕掛ける魔物に応戦する俺。
槍捌きに関しては、魔物なんかに負けるか。
一方的に近接戦を制覇していく俺。
「雑魚いんじゃ、魚ァ!!」
蛇矛を上に振り上げる。相手の持っていた三叉の槍を宙に打ち上げ、河に落ちる。
「もらったァ!!」
渾身の一突き。惜しくも魔物にかわされ、そのまま後退される。
「チッ、素早いやっちゃな」
俺は再度槍を構え、様子を見る。少しおかしい。
空気の流れが変わったのを悟る。これは・・・もしかして。
「魔導術か!」
後ろを見る。そこには両手を握って無事を祈る夕張の姿。
この術を避けたら多分、夕張はただではすまない。
だが、別々の場所にいる魔物二体の詠唱を妨げるのには少々骨が折れる。
しかも、多分だが、詠唱時間の短い下級魔導術だ。一体相手にしてる間に夕張が狙われたら
それこそまずい。・・・なら。
左手からほとばしる雷光。俺も魔導術で対抗する。
その姿を夕張も見つめる。
「雷光我が手中に収めん!!」
握りつぶすと、蛇矛に雷光が宿る。
その瞬間に、魔物たちの詠唱が終わり、空間で形成された水の刃が襲い掛かる。
俺は宙をなぞるように指を動かす。
そして、完成したら手を突き出し・・・
「方陣展開!!スルポール!!」
突き出した手から広がる魔法陣。それは雷光を纏った障壁となる。
雷光の壁は水の刃を弾き飛ばし、無効化した。
水属性の力は、雷属性の力に弱い。それを利用した防御用の魔導術だ。
「す、すごい・・・」
夕張は見とれる。未知の力を見せ付けられて、ただ呆然としているしかなかった。
そして、流れるように攻撃に移り、俺は槍を上空に投げる。
そのまま魔物のいる中央に刺さり、地面に雷光が走る。
そして、短い詠唱を済ませ、俺は目を見開き
「懺悔せーや!ルインズスパーク!!!」
人差し指と親指を突き出した右手を振り下ろす。
槍を中心に雷玉が具現し、雷撃がサークル状にほとばしる。
雷が魔物を襲い、焼き焦がす。しばらくしない内に魔物は力尽き、倒れる。
刺した槍を拾い上げて、背に仕舞う。
魔物は溶けて跡形も無く消えると、戦利品である鱗を落とす。
「お、ラッキーや!これは親方に渡せるもんやな」
そういって上機嫌で鱗を拾い上げる。
だが、もう一体の魔物から得たものには、俺の顔が歪む。
「・・・・・・・・・」
今流行の、怪人ウォッチの時計のおもちゃ。これが魔物から出てきたということは・・・
「池宮さん・・・これって・・・」
覗き込んできた夕張も、そのおもちゃを見て深刻そうな顔つきになる。
俺はそれを背につけたミニポーチに入れる。
「いくで、まだ夜は終わっとらん」
「・・・うん」
そうだ、事件は俺が処理した場所以外でも起こっている。こういうことがあってもおかしくは無い。
だが、やはりこのようなものを見ても、いい気分になるはずがない。
寧ろ・・・自分の無力さに腹が立つ。
「うわあああああああああああ!!!!」
静かな夜に響き渡る男の子の叫び声。俺は背筋に悪寒が走る。
地を蹴り、全速力で声の元へかける。
たどり着いた場所には、尻餅を付いている小学生ぐらいの少年一人。
それを追い詰めるのは・・・全長2メートルほどの中型魔物。
黄色い鱗を纏い、頭には立派な角が生え、二足歩行で歩いている。
「あれは・・・!!」
「こ、《コモドドラゴン》じゃ!!!」
無線越しの親方の声。こ、こんな街の近隣にドラゴンなんて出るのかよ!!
コモドドラゴンはドラゴンの子供ではあるものの、立派なドラゴン。
戦闘力は他の魔物と比べてもかなり高い。
さらに口から火を吐くことも出来、固体によるが、魔導術も多用するらしい。
俺はすぐさま、ポーチから二本の棒を取り出し、それ同士を取り付ける。
片方には小さな刃が付いている。投槍用の槍だ。
持ち運びに便利なように二等分し、しかも短めになっているが、投げる分には問題ない。
俺はそれをすぐさまコモドドラゴンに投げる。
「でりゃああああああ!!!」
唸り声と共に放たれる槍は、一直線に魔物の頭を貫く。
悲鳴のように吼える魔物。そして、視線は少年から俺に向き換わる。
「こっちじゃ魔物!俺が相手したるわ!」
蛇矛を構える俺。その姿を見て魔物は突進してくる。
「夕張!!あの餓鬼頼むわ!!」
「う、うん!」
突進を俺は蛇矛で受け止める。その間に夕張は回りこんでそこから動けない少年の元へ行く。
「大丈夫!?怪我はない?」
「あぁ・・・あぁ・・・」
少年は上の空。そして、夕張の後ろをずっと指刺している。
「後ろ・・・?」
夕張が振り返ると、その先には・・・
頭・・・いや、首から血を流す子供の姿。服装からして、女の子である。
頭部は何処にも見当たらない。夕張は俺と戦っている魔物の姿を再確認する。
口元を見てみると・・・赤い鮮血が確認できる。
「っ・・・・・・」
言葉が出ない。悲鳴すらも。間に合わなかったんだ。
死人が出てしまったんだ。夕張は歯を食いしばり、拳を握り締めている。
だが、視線をそらすと、未だに上の空で震えている少年の姿。
「・・・辛かったね・・・」
夕張は優しく、そっと抱きしめる。
だが、少年から返事が返ってくることは無かった。
「さすがドラゴンやな!なんつぅパワーやねん!!」
俺は蛇矛を振り回し、魔物に着々とダメージを与えている。
だが、魔物も反撃を繰り返し、そのパワーに押され気味である。
ずっと受け流していてはいつか持たなくなる。
「なら・・・これならどうや!」
俺は魔物の攻撃を跳躍で避け、そのまま相手の目を槍で貫く。
刺した場所から液体が噴出し、魔物は痛みで疼く目を押さえて苦しみもがいている。
俺は着地したらすぐに魔導術の詠唱を開始する。
左手の手中にどこからともなく風が巻き起こり、集まりきると手を掲げる。
「風よ・・・我が力となれ!!」
風を握りつぶすと、矛先に風が纏い付く。地との距離が近い矛先からあふれ出る風は
砂を吹き飛ばし、小さな小さな嵐を巻き起こしている。
「また、違う魔導術・・・!」
雷以外の魔導術を見た夕張は、興味深そうに俺を見つめる。
しかし、上の空の少年をしっかり抱きしめている。少しでも安心するように。
自分に出来ることは、これしかないから。この先は、彼があの魔物をどうにかしてから。
夕張はそう思っていた。
「風や。サクサクいくで」
俺は頭上で蛇矛を振り回す。そして風は自らの身体に纏い、俺の身体能力を高める。
地を蹴ると、いつもより速い速度で駆け抜ける。
そして、勢いよく魔物の腹を突き破る。
風を纏った蛇矛は一直線に目標に向かって貫いた。
ギャオオオオオオオオ!!!!!
魔物は悲鳴を上げる。刺されながらも暴れている。
俺は蛇矛に必死にしがみつくが、振り落とされ、蛇矛と手が離れ、吹き飛ばされる。
すぐに俺は起き上がり、魔物の様子を伺う。
「チッ、なんつぅ馬鹿力やねん!」
俺は血が滲んだ唾を吐き、右手に風を纏う。
「狂乱壮麗残響絶風・・・!!」
少し長めの詠唱。敵は子供でもドラゴン。生半可な攻撃は通らない。
なら、ちょいと痛いの食らってもらわなきゃな!
幸い片目の視力は失い、今腹を貫かれて上手く身動きが取れていない。
でかいのぶちかますには今がチャンスだ!
「切り裂いたるでええええ!!!」
風を纏った手を突き出す。
魔物の周りに二つの風の刃が魔物に目掛けて交差する。
その軌道上に無数の風の刃が発生し、魔物を襲った。
攻撃を受けて魔物は倒れる。魔物は土属性であったため、風属性の魔導術は効果的だったようだ。
俺は魔物に近づいて槍を引き抜く。が、その瞬間に魔物の目が見開き、俺に襲い掛かってきた。
「うおっ!!」
俺は間一髪でその攻撃を避け、留めの一撃に蛇矛で脳天を貫いた。
ギャアアアアアアアアア!!!!!
悲鳴を上げ、魔物は力尽きた。今度は完全に抵抗の術をなくしたようだ。
そのまま溶けて跡形も無く消える。
そして、そこから出てきたものは・・・
「・・・・・・」
俺はそれを拾い上げる。小さい黄色のカチューシャ。俺の頭にも入らないほど小さい子供サイズ
である。それを見て、俺は首が飛んだ人だったものに目をやる。
傍まで歩く。そして、俺は祈るようにして目を瞑った。
数十秒後目を開け、俺はスマホを取り出す。
110番。こういうことは警察に頼むほうがいい。
警察は魔物討伐が出来るわけでもないが、拳銃を所持しているため、一般人以上には
戦闘力がある。夜間でも活動できる力はある程度持っているため、夜間の通報でも対応してくれる。
電話はすぐに応答してくれ、現状を説明する。
「もしもし、魔物被害にあった死体を確認しました。
遺体は10歳前後の女の子、死因は斬首。場所は東舞鶴医誠会病院付近の通りです」
「名前は?」
「池宮広樹です。到着次第、誘導させていただきます」
俺は電話をすぐに済ませると、警察の到着を待った。
また魔物が襲ってきたら危ないし、警戒は怠らずに神経を尖らせている。
数分後、サイレンが鳴ったパトカーと救急車が到着する。
精神的に病んでいる少年のためにも一応俺が呼んでおいた。
「お疲れ様です。貴方が池宮さんですか?」
警官は背に背負った槍を気にしながら尋ねる。手には拳銃を潜めているため
少々警戒しているようだ。
「はい、そうです。一応、こういうものでして」
俺は舞鶴鎮守府に所属する憲兵であることを照明する手帳を警官に見せる。
それを見て目を見開く警官。
「これはこれは・・・鎮守府所属の憲兵でしたか。ご苦労様です」
警官は敬礼する。俺も敬礼を返す。
救急車からは少年の下へ走ってくる救急隊。
「お疲れ様です・・・!」
夕張は救急隊に軽く頭を下げる。救急隊のメンバーも頭を下げて口を開く。
「彼がその少年ですね。お預かりします」
そう言って少年に近づく救急隊。だが、夕張から離れようとしない。
「ほ~ら、大丈夫だよ、坊主。もう安心だからな」
だが、離れない。夕張も行かなきゃと言ってあげるも聞いてくれない。
「う~ん、困ったなぁ・・・」
夕張が少年の頭を撫でてあげていると、一台の車が止まる。
そこから出てきたのは、中年の細身の男性と女性。
「こうちゃん!こうちゃん!」
この少年の親のようだ。声を聞いた少年はその先に振り返る。
「お母さん・・・おかあさあああん!!!」
母の姿を見た少年の顔は涙で溢れる。そのまま夕張の傍から離れ、母に抱きついた。
「うわああああああん!!!!!」
「よしよし・・・こわかったね、こうちゃん。もう大丈夫だからね・・・」
優しく撫でてあげる母。その姿を見て夕張は少し安心した。
「お疲れ様。ここからは私達に任せて」
「はい、お願いします」
夕張の背をぽんと叩く救急隊。それに答えるかのようにぺこりと頭を下げる夕張。
そして、視線は遺体のほうに向く。
俺はその場で警官と話を続けていた。
「・・・なるほど、魔物事件ですか」
「あぁ。子供のドラゴンが現れたんや。そいつの口から血痕が見えたから
多分食われたんやと思います」
「そうですか・・・」
警官は隅々までメモを取っている。俺は遺体にビニールシートをかける姿を見送る。
彼女はどうなるのだろうか。このまま誰にも見られないまま葬式を挙げられて埋葬されるのか。
もしくは遺体を親が引き取り、ひっそり葬式を挙げるのか。
そんなことばかり考えていた。そして、ミニポーチに入った時計のことも思い出す。
確実に・・・あの魔物に誰かが食われている。しかも子供だ。
夜の街は危ないというのは、どの家庭でもそう仕付けられているはずだ。
だが、事件は耐えない。それを最小限に防ぐのが俺の役割。
一週間も活動してなければ、事件は増えるわけだ。
自分の無力さを痛感する。あの時魔導術を上手く扱えていたら、夕張も助けることができたし
魔物討伐の仕事も休まずに続けられた。
まだまだだ。こんなんじゃ、何も守れないよな・・・あの時みたいに。
「ご協力ありがとうございました。後は私達にお任せください」
「よろしくお願いします」
俺は敬礼する。警官も敬礼を返してくれる。
そして、そこを後にし、夕張のところへ戻る。
「お待たせ」
「ううん、大丈夫」
夕張は立ち上がる。辺りは警官たちで埋め尽くされ、防具を身に纏った警官によって囲まれている。
魔物対策なのだろう。これだけ守っていれば、たいていの魔物は対処できそうだ。
「俺の出番はないな」
そう言い残して俺と夕張はそこから立ち去ろうとする。だが、一台の車が到着して
俺達はそちらに目を向けた。
「りかちゃん!!りかちゃんはどこ・・・りかちゃん!!!」
「??!!」
車からは一人の貴婦人。血相を変え、慌てて我が子を探す。
だが、彼女が探しているものは何処にも見つからなかった。最後に目に留まったのが・・・
青いビニールシートに浮き出たシルエットだった。
警官に呼び止められる。
「奥さん!これ以上は」
「五月蝿い!どきなさいよ!!」
警官を振り払う女性。そして、勢いよくビニールシートをはがす。
底に広がったのは・・・首から上が無くなり、血があふれ出している・・・
愛する娘の姿だった。
「あぁ・・・あぁ・・・!!!ああああああああああああぁぁぁぁぁああああ!!!!」
絶叫。響き渡る。女性は泣き崩れ、絶望の顔でわめく。
その姿をただ、俺は見ているしかなかった。動けない。金縛りにあったかのようだ。
「池宮・・・さん・・・?」
俺の様子がおかしいことに気がつき、声をかける。だが、俺は反応しない。
今、頭によぎる。これは・・・俺の・・・
「・・・て・・・は・・・く・・・わ・・・を・・・」
「あぁ・・・うわああああああ!!!」
剣を振りかぶる。輝く太陽の下で、鮮血の大地で、二人は剣を交えている。
少年は少女に向かって剣を振りかざす。それをたやすく跳ね除ける少女。
そして、死んだ魚の目をした少女は、こう呟いている・・・。
「わたしを・・・ころして・・・」
「・・・さ・・・さん・・・池宮さん!!」
「・・・っ!!!」
俺は意識を取り戻す。あぁ、思い出したくも無かったものが脳裏に広がる。
あの子とその母を見ていて、まさかこんなところで思い出すなんてな。
正直、吐き気がやばい。
「どうしたの?顔色悪いよ・・・」
「・・・大丈夫や、すまんな夕張」
強気で言い張る。正直な話大丈夫ではないのだが。
そして、視線の先には泣き崩れた女性が、辺りを見渡している。
俺の視線に気がついたのか、目が合うと俺に近づいてくる。
俺の目の前まで大またで歩いてきて、目を真っ赤にして問い詰めてくる。
「貴方、こんな夜に何をしていたのですか・・・?」
単刀直入。確かに、夜遅く、魔物が出るこの街でうろうろしているなんてチンピラと
怖いもの知らずの餓鬼だけだ。
俺は餓鬼って年でもないし、チンピラでもない。しかも背中に蛇矛なんて背負ってたら
チンピラの域を超えている。
「舞鶴鎮守府所属の憲兵です」
手帳を女性に見せる。それを見て彼女は声を震わせる。
「娘は・・・娘は何処にいるのでしょうか・・・」
俯き涙を流す女性。俺と夕張は言葉が出なかった。
返答が帰ってこないと悟ると、怒りがこみ上げてきて、女性は俺の頬に力いっぱい叩いた。
それを見て夕張は目を見開いて驚く。
「この・・・人殺し!!!!!どうして娘を・・・どうして娘を・・・!
どうして・・・見殺しにしたのよおおおおお!!!!」
何度も、何度も叩かれる。でも、俺は抵抗もできず、ただ叩かれているだけだった。
言葉も出ない。何もしてやれないし、何もすることはできない。
その姿を見ていた夕張は止めに入る。
「ちょっと・・・!もうそのくらいに・・・」
「夕張ィィ!!」
俺は声を張る。余計なことをするな、といわんばかりに俺は声の威圧だけで夕張を圧す。
その声を聞いて夕張と女性は身体を震わせる。
俺は歯を食いしばる。そして、女性に勢いよく頭を下げる。
「・・・申し訳ありませんでした・・・」
謝ることしかできなかった。俺が何かを語ることで、彼女を生き返らせることができるなら
そうする。だが、そんな神様じみたこと、俺には出来ない。
魔導術でも不可能だ。死者をよみがえらせることなんて、御伽噺での奇跡でしかない。
誠意を込めて謝る俺を見て、女性は崩れ落ちる。
「あぁ・・・りか・・・りかぁ・・・」
あふれ出る涙。俺は頭を下げ続けた。
少しすると近くにいた警官が私に話しかけてくれる。
「ここは私達に任せて、君は彼を連れて鎮守府に戻りなさい」
警官が気を使ってくれた。
「池宮憲兵、見たところ体調が優れなさそうだ、すぐ戻って休ませてあげるといい。
それに、魔物との戦いで疲れているだろう」
確かにそうだ。彼は二体の魔物と対峙してすぐに、ドラゴンと戦っている。
しかも一人でだ。疲労はかなりのものだろう。
私も、戦えたら・・・つくづくそう思う。
「そうですね、そうさせてもらいます」
「お気をつけて」
警官の敬礼に私も敬礼を返す。そして、帰路につく。
意識が半分以上飛んでいる池宮さんの手を取って、私は誘導する。
結局鎮守府に戻るまで、池宮さんの意識は朦朧としていた。
午前1時半。
憲兵寮に戻ると、池宮さんは服も着替えずにすぐに布団に倒れこむ。
「やっぱり、疲れていたのね」
倒れこんだ池宮さんに上布団をかけてあげる。快眠とはいかず、目はまだ開いたままである。
「まぁ・・・無理もないか」
今日の出来事は濃すぎた。池宮さんも一生懸命頑張ったはず。はずなのに、怨まれた。
誰も悪くない。悪くないはずなのに、池宮さんは罪悪感を背負っていくんだ。
「おおおおおい、聞こえるかあああ!??」
「ひぃ!」
地面に転がり落ちた無線機から声が聞こえる。
倒れこんだときに外れ、部屋の床に放り出されている。
私は耳に取り付け応答する。
「は、はい!聞こえます!」
はきはきと答える私。透き通った綺麗な声が聞こえてきて親方が驚く。
「うおおっ!広樹、お前綺麗になりおって!!」
「違います!池宮さんにお世話になってる軽巡洋艦 夕張です!」
「おぉ!広樹のとこに来たっつぅ別嬪さんかぁ!!」
もう、そんな冗談今言ってる場合じゃないでしょ!
「悪いけど、君にはサハギンの戦利品持ってきてほしいのじゃ!」
「は、はぁ・・・」
私は池宮さんのポーチからサハギンの鱗を取り出す。
他にはコケが生えた怪人ウォッチの時計に、血で赤く染まったカチューシャ。
それらはそのままにして封をする。
部屋を出て工廠を尋ねる。
私が工廠に来るのは、艤装を調整してもらったとき以来だ。
作業をしている中年の男に話しかけられる。
「おぉ、譲ちゃん艦娘かい?夜遅くに珍しいのぅ」
鉄を叩いていた手を止めてこちらに顔を向けてくれる。
「えっと、私、親方さんに用があって・・・」
「親方に・・・ということは、譲ちゃんが広樹のとこにいったっつぅ艦娘か」
「は、はい!」
中年の男は私の全体を見渡してくる。なんか少し恥ずかしいな。
い、いやらしい目で見てないよね・・・?
「なかなかの別嬪さんじゃ!広樹め、うらやましいのう!」
「あはは・・・」
私は思わず苦笑する。別嬪さんではないと思うんだけどなぁ。
「親方なら二階じゃ。小さいおっちゃんが親方だから、見間違うなよ」
「はい、ありがとうございます」
そう言うと私は頭を下げて二階に向かう。
突き当たりの扉をあけると、奥で小さなおっちゃんが鉄を見ては小分けしている。
「あ・・・あの・・・」
私は恐る恐る声をかける。
小さいおっちゃん・・・親方は振り返って声を上げる。
「おぉ!よく来た夕張よ!!」
「ひえぇ!」
小さい身体からは信じられないほどの大音量。
私は驚いて仰け反ってしまう。
「そんなに驚くこともなかろうに!!わっはっはっは!!!」
豪快に笑う親方。小さい以外はなんか親方っぽい人だなぁ。
「それじゃ、あれを見せてくれ」
「はい、これです」
私はサハギンの鱗を親方に渡す。
「ほうほう、上等なもんじゃ。今日はドラゴンも退治したし、報酬は弾むぞ!」
子袋を私に渡す。それを空けてみると・・・
「・・・3000円ですか・・・」
「何や、文句あるんか?」
「いえ、あんなに命がけで戦ってくれたのに、これっぽっちなんて・・・」
「わしかて金で溢れてるわけじゃないんじゃ。これぐらいで許しておくれ」
「う、う~ん・・・」
納得いかないが、とりあえず受け取ることにした。
そして、私は憲兵寮に戻ろうと部屋を出ようとしたとき・・・
「おい、夕張」
「はい?」
呼び止められて私は振り返る。
親方は真剣な顔になり、私に話しかける。
「お前さん、池宮の過去のことは知っておるか?」
「過去・・・?」
池宮さん、過去に何かあったの・・・?私は疑問が浮かぶ。
写真から見たら、お父さんにお母さん、それにお姉さんがいる・・・ってことぐらいしか
わからないけど。それ以上のことがあるのかな。
「お父さんとお母さん・・・それに、お姉さんがいるのは知っています」
私がそう言うと、親方は頷く。
「そうか・・・なら、まだ話しておらんようじゃな」
「えっ」
私は親方の言葉に引っかかる。池宮さんは、何かを隠しているのだろうか。
でも、今は問い詰めるべきなのかな。家族写真を池宮さんに見せたとき
あの時感じた何か・・・それと関係しているのかな。
「いずれ・・・話してくれるといいの」
いずれ・・・か。何があったんだろう。あの時呆けていたのと関係があるなら・・・
いい話ではなさそう・・・だよね。
「それと・・・」
「はい?」
もう一つ、といわんばかりに、親方は口を開く。
「あいつに言っておいてくれ。お前は、《完璧なんかじゃない》・・・とな」
「あっ・・・」
親方も、池宮さんが落ち込んでいることを悟っていたのだろう。自分のせいで
あのような事件が起こったのではないかと、責めていることを分かっていたのだ。
私は静かに頷く。うん、私の意志も込めて、明日言っておこう。
「ほれ、もう夜も遅い。そろそろ帰るといい」
親方さんは追い払うかのように手を払う。
私はクスッと笑ってお辞儀をする。
「はい、おやすみなさい」
部屋を出て、工廠を後にする。
帰路についていると、一人の艦娘と遭遇する。
「あっ・・・」
見たことも無い艦娘。身長は私より一回り小さく、茶髪のロングヘヤーに癖毛が目立つ
眼鏡をかけた艦娘。
こちらの姿を捉えると、気力なく手を振ってくる。
「どうもーこんばんわ」
「こんばんわ」
向こうが挨拶してくるのでこちらも挨拶する。
「軍服じゃないっぽいけど、君も艦娘?」
「そうよ。貴方もそうっぽいね」
「そだねー。望月っていうんだー」
かなり気が抜けた声で話しかける。
なんというか・・・ちょっと癒される・・・かも。
「私、夕張。よろしくね」
「よろしくー」
軽い握手を交わす。望月ちゃんはこんな夜遅くに何をしてるんだろう。
「望月ちゃん、夜遅いしそろそろ寝たほうがいいんじゃないかな?」
私は素直に思ったことを話す。そう言うと望月はえー、といった表情をする。
「んー、今は仕事中なんだよねー」
「そ、そうなの!?」
こんな夜中に仕事をする艦娘もいるんだ・・・深海凄艦の夜の奇襲の警戒でもしてるのかな。
でも、そんなのこんな小さな子にやらせるのかな・・・?多分駆逐艦っぽいし。
「そうそう。だから、まだ寝たらだめなんだ」
「そ、そっか・・・」
う~ん、これ以上聞き出すと変な感じになりそうだ。
おとなしく退散しておこう。
「それじゃ、私は帰るから、お仕事頑張ってね」
「あいよー。お疲れ様ー」
そう言って手を振ってくれる。私も手を振り返す。
だが、そのとき望月は呼び止める。
「ちょっと夕張さん、そっち憲兵寮なんだけど・・・」
普通艦娘は艦娘用の寮が存在し、そこに寝泊りするのが普通だ。だが、憲兵寮なんて艦娘が
入ることすら上辺では禁止されている場所。
そんなところに向かうのに疑問が浮かぶのは当然だ。
「えーっと・・・いろいろ事情があってね」
言葉を詰まらせながら私は振り絞る。
「今は、池宮広樹憲兵と一緒に働いて・・・一緒に寝てるんだ」
「おぉー」
興味深そうに望月が見つめてくる。
「まさかの艦娘が憲兵にスキャンダルってー?あついなぁー」
「そ、そんなのじゃないって!!」
声を荒げて断固否定する。こ、これで変な噂流れたりしないよね・・・?
「なーんだ、違うのか。つまんないなぁ」
望月がつまらなさそうに頬を膨らませる。人の人生で面白がらないでほしいなぁ・・・。
「それじゃ、そろそろ仕事に戻るからー。じゃねー」
手をふらふらと振ってその場から去っていく望月。
私はその場で少し立ち止まって思いに耽った。
「望月ちゃん・・・不思議な子だったな」
そう思いながら憲兵寮に私は帰っていった。
「夕張、不思議な子だったねー。確かに変わった子だったよ」
執務棟の裏側の路地。ノートパソコンのキーボードを高速で叩く望月。
その隣には・・・
「だろ?池宮の野郎はその二周り以上は変わった奴だけどな」
飯田憲兵だった。望月となれなれしく話す姿は、今回が初めてではなさそうだ。
「なんというか・・・凸凹コンビなんだねー」
「それがいいんだよ。二人合わされば綺麗に重なるからな」
ははっと笑う飯田。その姿を見てくすくす笑う望月。
パソコンの画面に入電が入る。それを見て望月は顔をしかめる。
「三日月、皐月から入電だよー。向こうで動きがあったみたい」
その内容を読み上げていく望月。それを聞きながら険しい表情に変わっていく飯田。
「三日月の件はあの新入りたちに頑張ってもらうとして・・・問題はもう片方か」
腕を組んで考える動作をする飯田。
そして、暫くして口を開く。
「やっぱり・・・あいつには・・・」
一呼吸おく。そして・・・
「《提督》になってもらわないとな」
その言葉と共に、風が撒き起こる。望月の髪がなびく。
眼鏡が少しずれて整えると、飯田を見つめる望月。
「おぉ。気合入ってるね・・・《飯田提督》。」
「まぁ・・・な」
憲兵服はボタンが開いている。その中には・・・白銀の衣装である・・・
提督の軍服が着こなされているのが見えた。
ご閲覧ありがとうございます!無事10話に到達しました!
ここで補足です。地の文で一人称が「私」に変わると、夕張視点になっています。
この話は基本は池宮視点でありますが、時々夕張視点になります。
それぞれの視点での感性の違いを楽しんでくれたらありがたいです。
全然艦これしてないですね、ほんとにw
まだまだ序盤ですが、応援のほどよろしくお願いします。