Demon's Stella ~悪魔の彗星~ 作:Hershel
親方(おやかた)
年齢:不詳 性別:おっちゃん 身長:34cm 体重:4242g
舞鶴鎮守府に所属する工廠の最高責任者。通称《小さいおっちゃん》。
裏では夜の魔物討伐の際の依頼や任務を管理し、遂行した者への配当を担当している。
池宮とは魔物討伐の関係で深く関わっており、自作の無線機や投影機を使って
池宮をサポートしている。
性格は非常に豪胆。池宮以上に砕けた性格で、些細なことを気にしない性格。
老人言葉を多用し、年季を感じさせるが、年齢は不詳。
誰とでも接することができ、工廠の従業員や一部の艦娘達から厚い信頼を得ている。
自分の体長ほどのある金槌で鉄を叩いたり、物を修理したりする。
力だけ見ると、人間以上に強い。
第十二話 力
「ふあぁ・・・」
俺は大きなあくびをする。その隣で目を擦りながら海岸沿いに座っている夕張。
五月十八日(月)午前五時。今、先ほど日が昇ったほどの時間である。
俺は鎮守府の港沖で、竿を持って釣りをしていた。
昨晩の魔物討伐の際にもらった資金が、思っていたよりも少なくて、金が底を尽きそうなのだ。
というわけで、節約の一種で釣りをしているわけだ。
たまーにイカとか食べられるものが釣れる。正直なところだと大浦半島辺りまで出て
釣りスポットを探すのが一番なんだが、足が無い。
昔はバイクに乗っていたんだが、今は持っていないんだよな。
それに、夕張といきなりタンデムってのも彼女もちょっと辛いだろうしな。
というか大浦半島に行く橋の突風で死ぬ。
そう自分なりのあるあるを考えている俺だが、一考に釣れない。
「夕張、部屋で寝ててもええんやで?」
目を擦っている夕張を気遣って俺は言う。
「ううん、一人でいるのも暇だし、私もここにいるから」
眠たそうにしているが、首を横に振る。俺もこれ以上言うのは野暮と思い、海を見つめた。
「釣れへんなぁ」
「そうね・・・」
ぼーっと水平線を眺めている。大浦半島やらの島々の間から見える水平線。艦娘達は
ここから海域に突入して、戦っているんだな。
「おっ」
俺は何かに気がつく。残念ながら釣竿からではないが。
水平線から四つほどの人影が。水上を歩くようにして進む姿・・・艦娘だ。
「あっ、遠征から帰ってきたのかな?」
夕張がそう言ってその人影を見ている。俺もぼーっとその大きくなっていく影を見つめていた。
そして、向こうも俺達の姿を認知できるようになったのか、手を大きく振ってくれた。
「あー、こういうときはどっちしたらええんやろ・・・」
俺は手を振るか、敬礼をするか迷っている。夕張はその言葉を聞いて口を開く。
「手を振ったらいいんじゃないかな。こんな朝だし、堅苦しいのはなしってことで!」
「せやな」
俺と夕張は影に向かって手を振った。そうすると向こうもそれを確認したのか、一旦手を潜め
進行方向を変更した。艦娘用の港沖に停泊するのだろう。
「元気そうやったな、あの子ら」
「そうね。遠征、上手くいったのかな」
ぱっと見た感じ、負傷したような様子ではなかった。小室から聞いた話だと、遠征
というのは基本的には《深海凄艦》と戦うことは避け、艤装作成や運用のための
資材を集めに行くらしい。
地上で集められるものにも限界があるからな。といっても、海の先から搾取してくるってのも
何か変な話だけどな。
六時半になっても一考に状況は変わらず・・・
「あかん、釣れへん!」
俺はちょっとむしゃくしゃして釣り糸を垂らした竿をぶんぶん振り回す。
夕張が落ち着いてと俺を止めにかかろうとしてきたときに、俺は一つ違和感に気づく。
「あれ・・・?」
竿を引き上げようとすると、引っ張られるかのように戻される。
魚が釣れたのかな、と思ったが違う。引き上げなければどうということはないということは
生き物ではない。だが、岩場に引っかかったような感じでもない。これは・・・
「ゴミが引っかかったか」
俺は大きなため息。とりあえず諦めるようにしてリールを撒いていく。
「食べられるゴミだったらいいね」
「んなわけないやろ」
冗談を言ってくすくす笑っている夕張に、俺はため息交じりに返す。
マジで金が無くなったら飯田に食わせてもらおう、そうしよう。
と、考えている内に引っかかったものが引き上げられた。
海の苔がへばりついて緑色に染まった・・・鉄の塊である。
「なんや・・・これ・・・」
鉄材といった資源でもない。なんというか、何かの形はしているのは分かる。
全長は・・・1メートルあるぐらいの程度か。
加工済みのものだ。だが、苔のせいもあってか形の把握が若干しづらい。
「なんだろうね、これ」
夕張もその物体をつんつんと指で突く。釣り糸に垂らされた物体はぶらぶらと動いている。
「う~ん、資材になればここの支援にもなるんかな」
俺は物体から針を外し、釣り道具を片付ける。
「バケツ持つよ」
「センキュ」
魚を入れる予定だった青いバケツを、夕張が持ってくれる。
「うっし、今日はここら辺で切り上げるか。これを親方に預けて飯や!」
「は~い」
俺は釣り道具を寮に戻してから、工廠へ向かうことにした。
「おぉ、広樹に夕張ちゃんか」
工廠に入ると、すぐに作業をしていた男性に話しかけられる。
「お仕事お疲れ様です!」
「あぁあぁ、そんな堅苦しいことはいいよ」
びしっと敬礼をする夕張を見て笑う男性。夕張は少し恥ずかしそうに俯く。
お前朝は堅苦しくしなくていいってさっき言ってたじゃねぇか。
「親方は二階なんか?」
「おぉ、そうだ。いつものところにいるぞ」
ありがとう、の意味を込めて手を軽く振る俺。夕張も一緒に手を振って俺の後についてくる。
二階の部屋の扉を開けると、すぐにいつも通りの声が聞こえる。
「おぉ!ひろ」
「はいはい、分かったから叫ばんといてや」
俺は親方の声を遮るかのように被せていく。親方は仕方ないなと言わんばかりに頭を掻く。
「どうしたんじゃ、こんな朝早くから」
「こんなん釣れたんやけど・・・」
俺は苔の付いた物体を、親方に渡す。親方はそれをまじまじと見つめている。
「ほほう・・・興味深いものを拾ってきたのう」
親方は嘗め回すかのように何度も何度もその物体を見ている。
「もしかして・・・」
親方は何かを思ったかのように本棚を漁り始めた。ぽんぽんと本と埃が舞う。
俺達は咳をしながらも、親方は止まることなく漁っている。
やがて見つけたら、その本を天に掲げた。
「あったぞおおお!!」
「うるせぇ!!」
親方は大声で笑い出す。俺は頭が痛くて手を当てた。
「これじゃ」
俺達にその本を見せてくる。これって・・・!
「最終幻想物語じゃねぇか!」
「あー!これ知ってるよ!確かゲームにもなってる御伽噺だよね?」
夕張が目を輝かせている。確かに俺も知っている。
物語はいくつかに分けられていて、今は14つあるんだっけ。
親方が持っているのは、13の話だ。
「それと何の関係があるん?」
俺は疑問の直球でぶつけてみる。親方はよくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに
腕を組んで胸を突き出している。
「ふぉっふぉっふぉ・・・実はの・・・」
親方は溜めに溜めて口を開く。
「その物体の正体は・・・《デュアルウェポン》じゃ!!」
「はぁ!!??」
俺はまったく予想していなかった返答に驚きを隠せなかった。
デュアルウェポンというと、最終幻想物語13の話の主人公である女剣士が使う
変形型の剣だ。小説内ではその異様な戦闘スタイルには驚かされた。が、現実には不可能だろうな
とずっと思っていた。そんな現実離れした品がこれ・・・だと?
「嘘だ~」
俺は棒読みで返す。全く信用しなかった。
だが、親方の目はまだ輝いている。
「いや、わしの目に狂いはないんじゃ!これは間違いなくデュアルウェポンじゃ!」
確信したかのような大声。俺はまだ信用できない。
だが、次の言葉で俺は耳を疑う。
「実はの、最終幻想物語は、御伽噺ではないのじゃ」
「まじで!?」
俺は驚きを隠せなかった。こんな常識はずれな話が・・・昔実際にあったというのか?
「一部は・・・じゃがな。三国志でも三国志演義とかあるじゃろ?それと同じ感じじゃ」
「んじゃ・・・ちゃんとしたものが本当の話ってのがあるっていうんか・・?」
なんというか・・・すごく現実離れした感じだった。
いや、俺の魔導術も現実離れしているが、それ以上のものだ。
島が空に浮いていたりとか、人型兵器がいたりとか、なんかいろいろぶっ飛んでいる。
そんなものがもしこの世に存在していたとしたら・・・
「こえぇ・・・」
俺は身体を震わせた。そんな時代に生まれなくてよかった、と身を案じている。
まぁ、今の世の中もかなり危険だけどな。
「それで、そのデュアルウェポンは復元できるの?」
夕張はつんつんとデュアルウェポンを突く。親方は鼻息を荒くした。
「わからん!!じゃが、努力はしてみようかのう」
ドヤ顔で答える。そこ別にドヤ顔する場所じゃないからな。
「苔を取って磨くぐらいならできるじゃろう。今日の夜までには仕上げておく。
また討伐出発前にでも尋ねてきてくれ」
「おっけー」
俺はそう言っては部屋を後にする。しかし、夕張は親方のほうへ振り返って立ち止まる。
その姿を見て、親方は首を傾げる。
「おう、どうした?」
親方は立ち止まる夕張に尋ねる。夕張は正気に戻ったかのようにハッと目を見開く。
「す、すいません!お邪魔しました~!」
急いで出て行く夕張。後ろから駆け足で来た夕張に俺はちょっとだけ不思議に思っていた。
俺達の今日の仕事は、提督の監視だ。俺がいつも主にやっていたこと。
不当な提督を摘発し、拘束して処分する。まぁ、直接処分するのはまた違う部署なんだがな。
だが、制圧する際にはある程度の行動は許されている。これで「傷つけたらいけないよ」
とか言われたらもうどうしようもないからな。
この仕事の日だけは、堂々と執務棟に入ることができる。普段入っていたのは夜の討伐の
際に谷岡提督に呼ばれたときぐらいだ。
そう考えて俺は執務棟に入った。秘書艦であると思われる艦娘が数人廊下を出歩いている。
執務棟は六階建て。三階が谷岡提督の部屋であるが、何故彼の部屋を最上階にしなかったのか。
まぁ、どうでもいいんだけどな。
ということを考えながら俺はいつも通り仕事をこなす。といっても
うろうろうろついているだけだけどな。
だが、艦娘が隣にいるだけでいつもと違う感じがするよなぁ。
なんか、皆の目も少し変わっている気がする。
「ん、どうしたの?」
俺は自然と夕張に目をやっていた。それに気づいたのか夕張が俺に尋ねてくる。
「あ、いや、何でもないで」
「そう?」
そう言うと視線を外す夕張。俺も仕事だし、集中することにする。
・・・て・・・し・・・!
「ん?」
俺は耳を澄ませる。何かが聞こえる。
「どうしたの?」
「静かに」
俺は夕張に静かにするように促す。夕張もそれを理解して静かに頷く。
そして、壁際に耳を当てる俺。
「いやっ!やめてください、提督!」
「五月蝿い!これは・・・上官命令だぞ・・・!」
う~ん、これは一応摘発対象だな。艦娘との恋愛は、基本的にはOKとしているんだが
強姦などの性的暴行に値するものは、鎮守府内では厳罰に対処できる。
そして、今やってる仕事中は、憲兵であっても強行捜索が認められている。
「これって・・・もしかして」
「仕事やな。ついてき」
俺は壁をたどって部屋のドアを探る。聞こえる場所を頼りに扉を摘発していく。
やがて、一つの扉の前に立つ。
「ここやな」
予想通り提督の執務室である。まぁ、鍵はかかってるだろうし強行突破だ。
俺は念のため、制圧用に槍を構え、扉を蹴り飛ばす。
ドンッ!!!
扉だったものは吹き飛び、中にいた提督の足元付近まで吹き飛ばされる。
「ヒィッ!!な、なんだ!?」
その提督は驚いたのか、こちらに振り向く。その後ろでは、銀髪で片目が隠れている艦娘が
胸をさらけ出している状態で仰向けになっていた。
「悪いけど、お宅の提督さん、拘束させてもらうで」
「えっ・・・」
倒れていた艦娘が目を見開いている。
「夕張、あの子頼むわ」
「うん」
俺は相手の提督に歩みを進める。提督は引き下がっていく。
「な、なんだ・・・来るな!私は提督だぞ!」
またこれだ。本当に決まり文句だよな、「私は提督だぞ」って。
「提督やからって何やねん。だから何でもしてええんか?」
「艦娘は私の所持品だ、何をしても構わないだろ!」
あーあ、こういう奴か。本当に、こんな奴が提督になってるんだな。
「大丈夫?」
そのころ夕張は艦娘の傍まで寄って、別れ際に俺から渡されたタオルを彼女に被せる。
「はい・・・」
艦娘は俯いている。どのような感情を抱いているのか、夕張にも分からない。
「どんな事情があるのか知らないけど、とりあえず落ち着いて話すためだから・・・ね」
「はい、分かっています」
夕張は艦娘を宥め続けていた。
「何をしても構わん、なぁ」
俺は左拳を握り締めながら、相手の喉元に矛先を向ける。
「ヒィ!!」
壁まで追い詰められた提督は、壁と一体化するようにへばりつく。しかし、矛先との距離は
一考に縮まらない。
「クソッ!俺を拘束して・・・谷岡提督が黙っていると思うのか・・・?」
あぁ、なるほど。そっち側の提督なのか。まぁ、俺からしたらそんなのどうでもいいんだけど。
「やから何やねん。そんな言い訳で見逃すと思っとったんか」
俺は相手の首元のすぐ横の壁に、蛇矛を突き刺す。その瞬間
提督は気絶して、地面に倒れこんだ。
「・・・んじゃ、持ってくか。夕張、彼女も一応連れてきてや」
「うん」
夕張は、立てる?と小声で言って、艦娘を立たせる。
俺は銀髪の艦娘に向かって一言言う。
「すまんな、いろいろ」
いろいろな意味を込めてそれを言い放つ。彼女がどういう捕らえ方をしているのか分からない
が、静かに頷いていた。
「分かりました。身柄はこちらでお預かりします」
「よろしくお願いします」
敬礼を交わして、地下の牢屋の見張りである憲兵に、提督の身柄を渡す。
銀髪の艦娘の身柄は、とりあえず俺達が預かることにした。
いつもなら結構ギクシャクしていたのだが、今回は夕張がいることでかなり楽になっている。
とりあえず憲兵寮の俺の部屋で、いろいろ話を聞くことにした。
ちゃぶ台には、客人用の湯飲みに、熱い緑茶を入れている。
「ふぅん・・・浜風ちゃんって言うんだね」
夕張より少々小さい背で、かなり豊満なものを持っている銀髪の艦娘は、浜風というらしい。
内気な性格と思っていたが、別にそこまでではないらしい。
まぁ、強姦でもされていたとしたら、内気になるのも仕方ないか。
俺は自分の湯飲みに入った茶を飲みながら話を聞く。
「はい・・・。助けてくれてありがとうございます」
「えっと・・・彼、浜風ちゃんの提督は、貴女をどうしようとしてたのかな?」
そう夕張が尋ねると、浜風は言葉を詰まらせる。
夕張が少し慌てていると、俺が口を挟む。
「まぁ、無理に喋らんでええよ。ほら、茶でも飲み」
「あの・・・」
「大丈夫やって、ちゃんと綺麗に洗ってるから。
口元のとこをぺろぺろ舐めたりもしてないから安心しとき」
俺が冗談がましいことを一言言った。夕張は少し引いていた。
だが、浜風はその台詞を聞くと、くすくすと笑い出した。
「ふふっ・・・あはははっ!」
腹を抱えて笑っている。少し気が楽になってくれるといいけど。
「あははっ・・・へ、変な人ですね、貴方・・・あははっ」
まだ笑いが止まらないらしい。そこまで面白かったのか?この子のつぼがよく分からん。
「はい、少し楽になりました。ありがとう・・・」
「そっか」
俺がニシシと笑う。夕張はその姿を見て驚きと共に、感心していた。
浜風が茶に口をつけると、顔がほころぶ。
「おいしいです」
「やろ?」
他愛もない会話を続けていた。あえて俺は本題に戻さない。
自然に、無理のない時に話してもらうのが彼女のためでもあるだろうから。
そうして、時が流れていくと、そのときが訪れる。
「・・・提督は、少し女癖の悪い人でした」
浜風が口を開いた。
「今日は、私の役だったんです。他の子たちも、同じような仕打ちを受けていました」
声を少し震わせている浜風。夕張がゆっくり背中をさすっている。
「他の憲兵さんにも多分、聞こえていたと思います。ですが、裏にいる谷岡提督の
存在を恐れてか、介入してこなかったんです」
「まぁ、それが現実なんやな」
実際そうだ。最高権力を持つ提督、谷岡礼司を恐れる憲兵は、腐るほどいるのが現状だ。
俺みたいな怖いもの知らずも中にはいるが、非常に少数。
その少数人がこの仕事に付かない限りは、拘束することなんてままならない。
「で、でも、貴方は大丈夫なんですか!?提督を拘束したとすると、あの派閥が黙って・・・」
「あー、うん。多分大丈夫ちゃうかな?」
俺は適当なことを言って頭を掻く。それを不思議そうに見ている浜風。
浜風は、思い出したかのように口を開く。
「・・・そういや、艦娘と一緒に行動する憲兵がいるって、最近聞きました。
もしかして、貴方が・・・」
艦娘にも噂が広がっているのか。まぁ、艦娘と一緒に行動するような憲兵なんて
どっかの糞餓鬼も至上初って言ってたしな。
「たぶんせやな。池宮広樹って言うんや」
「池宮憲兵・・・ですか」
考えるような仕草をする浜風。何を考えているのだろうか。というか俺みたいなの見て
考えるようなことなんてあるのか?
「えっと・・・もっと怖い人だと思っていました。聞いた話ですが、谷岡派の
幹部級であった小室提督とその艦娘の正規空母、航空戦艦の二方を生身の身体で倒したとか」
「まぁ、間違ってはないな」
俺は鼻息を荒くしてドヤ顔をする。別に褒められてないよ、と言わんばかりに軽い
突っ込みを夕張が入れる。そのやり取りを見ていて少し浜風が笑った気がした。
「っていうかあの糞餓鬼幹部級やったんか」
俺はそんなどうでもいいことに驚いていた。
「おっと、もうこんな時間か」
いつの間にか正午になっていた。飯作ってねぇ!というか食材も・・・
と思いながら、冷蔵庫を開けると、卵2個に、昨日のあまりもののご飯と、なけなしの野菜。
後は味噌やわかめなど長期保存が利くもののみ。
「はぁ・・・」
思わずため息をこぼす。買い物に行くにしても今からだと午後の仕事もあるしな・・・。
「飯、食っていくか?」
「い、いいんですか?」
「食べる当てがあるんやったら、そっち行ってもええけど」
浜風は遠慮しがちではあるものの、俯きながら答える。
「・・・お願いします」
「ほい、軽いもんやけど我慢してなー」
俺はとりあえずなけなしの野菜を、塩昆布と一緒につけて、簡単な浅漬けにする。
蓋のあるビンにきゅうり、にんじん、白菜を入れてその中に男の感で塩昆布を入れる。
そして!
「夕張、ふっといて」
人に振らせる。夕張は少し不満そうな表情をしながらビンを上下に振り出す。
「池宮さんがやればよかったじゃん」
「俺は料理で急がしいんや!」
そういいながら俺はせかせかと調理器具をそろえていっていく。
野菜の中にうもれていたカニカマをひきちぎって、しめじと葱と一緒に和える。
水分を飛ばすため、一度軽く炒める。そして、その炒めた後のところに油を多めに
しいて、卵を焼き上げる。端っこから焼きあがってくるから、端っこが固まらないように
入念に混ぜていく。
ある程度焼けたと思ったら、そこに和えた物と中華調味料を入れる。一気に和えて・・・
「俺特性のカニタマやな」
皿に乗せる。半熟で出来たカニタマからは湯気が出ている。
冷凍ご飯をレンジで温めて、茶碗に盛って、夕張が懸命に振ってくれた浅漬けを小皿に入れる。
「すごいですね・・・池宮憲兵」
浜風は感心している。
「私も料理は結構するんですけど、男の人がこんな手の込んだ料理をするなんて
始めて見ました!」
「そうかいな。別にそんなに手はこんでへんけどな」
たぶん、俺ちょっとにやけてる。あまりこうやって褒められることはないからな。
「そうなのよね~、この人って、意外と何でも出来ちゃうのよ」
「すごいです!夕張さんがこの人について行ってるのも納得です」
「あはは・・・」
夕張は苦笑している。まぁ、こいつが俺について行ってきてるのにはいろいろあるからな。
「んじゃ、手を合わせて~」
俺と夕張は手を合わせる。浜風も一拍遅くに手を合わせて・・・
「いただきます」
「いただきま~す」
感謝の気持ちを込めて、一口目を各自頬張る。
「おいしい・・・おいしいです!」
最初にカニタマを食べた浜風は、頬を少し赤らめ、目を輝かせている。
見てくれは悪いけど、味には自信あるからな。
「そっか」
俺もカニタマとご飯を一緒に食べながら、浅漬けを頬張っている。
だが、浅漬けの減りが異常に早い。なぜかというと・・・
「おいしい~♪」
意外にも夕張がそれにはまっていたからだ。これから浅漬けを振るの任せられそうだ。
浜風も浅漬けを美味しいと言ってくれている。簡単なものだから真似してみてと
俺は、軽く作り方を教えておいた。
浜風から礼をされると、少し俺も照れ笑いした。
そうやって食事を済ませようとしていたら、部屋の扉が開く。
「師匠~!!こんにちわっす!!」
甲高い声が耳に響く。糞餓鬼・・・小室だ。振り返ってみると、今日は日向もいるな。
3人が遠慮なく狭い部屋に入ってくる。
「もう遠慮の欠片もないな」
「ふふっ、君もまんざらじゃないだろ?」
「何がやねん」
日向がくすりと笑いながら返事をする。その後続くように加賀も入ってきてくる。
そして艦娘二人は、いつもならいない存在に目を向ける。
「あら」
加賀が第一声を上げる。その声を聞くと、慌てて浜風が頭を下げる。
「そんな畏まらないで。私達のほうが客なんだから」
「は、はい」
緊張の糸がほぐれない浜風は、少し固まっている。
「彼女は?」
「浜風ちゃんです。今日の仕事は」
「あぁ、そういうことか。理解した」
日向はこくりと頷く。夕張は首を傾げている。
「あ、あれ?分かるんですか?」
「提督が、池宮憲兵の予定を全て把握してるようで、そこから予測しました」
加賀が無表情でそう発言する。
全て把握って・・・こ、怖い・・・。夕張は少し身震いした。
「師匠~!おいらも師匠の手料理食べたいっす~!!」
「うっせ!お前歯に食べかす付いてるやんけ!」
「師匠の料理なら、ご飯何倍でもいけるっす~!!」
小室は相変わらず俺にくっついてくる。熱いんだよ!クーラーないんだぞこの部屋!
横目で見ていた夕張が笑っている。
「ほんと、小室提督も相変わらずですね~」
「えっ?」
夕張の発言に、浜風が驚き思わず声を漏らす。
「どうしたの?」
夕張が心配そうに浜風を見つめる。
「えっと、小室提督って・・・あのこの前の演習事件の・・・」
「あ・・・」
夕張が思い出したかのように声を出す。
そうか、浜風ちゃんはは小室提督がどのような人なのか知らなかったのか。
と思っては何とか空気を取り戻そうと、夕張はあたふたし始める。
その姿を俺は横目で見ていたが、今までくっついていた小室が俺から離れ、浜風に
目を向けて口を開く。
「・・・君の言うとおり、私が小室純提督だ」
口調が変わった。こいつの真面目モードだ。ギャップがすごいが、こいつなりに真面目に
やっているようだし、俺は黙っていることにした。
「あの、貴方は池宮提督と対峙していたと聞いたのですが・・・何故・・・」
浜風が少しためらいながらも、小室に尋ねる。小室は自然と口角が上がる。
「池宮憲兵は、私達の恩人なんだ」
そう言って加賀と日向のほうに向いて頷く。彼女達もそれに続いて頷く。
「私は、自分の重荷であったものを軽くしてくれました。この人には、とても感謝しています」
「そうだな、提督も、昔のように明るくなってくれたし」
加賀と日向が浜風の目を見て話す。それを聞いて、少し浜風は驚いた表情をしている。
「池宮憲兵も、許してくれたかは分からないけど・・・。でも、私は彼のことを心から
尊敬することにした。だから・・・」
一旦俯いて、顔を上げたら万遍の笑みで俺のほうに向いてくる。
「師匠って呼ばせてもらってるっす師匠~!!」
「どわあああ!!くっ付くな!くっ付くなや~!!」
俺は小室の頭を叩く。だが中々離れてくれない。もう尊敬とか言うレベルじゃねぇよこれ!
「・・・ふふっ」
「おいおい、笑っとらんと助けてくれや~!」
浜風は吹いてしまう。申し訳ないと思いつつも笑い続けている。
あぁ、この人は何て・・・変な人なんだ、と。心の中で思い続けていた。
「あ、そういや餓鬼」
俺が思い出したかのように小室に向かって尋ねる。
「なんっすか?」
「お前、この後予定は?」
「ん~、出撃予定もないっすから、書類整理っすね。正直暇っす!」
書類整理が暇な仕事に入るかは知らないが、特に込んだ仕事はないようだ。
「それじゃ、悪いけど、ちょっと頼まれてくれへんか?」
「頼み事っすか!?はいっす!師匠の言うことなら何でもするっす!」
「何でもするってのはさすがに困るけどな・・・それはだな・・・」
俺は淡々とその内容について説明していく。
「なるほどっす。確かにこいつは谷岡派の人間っすね。それなら何とかできるかも
知れないっす」
「ん、頼むで」
そう言って、俺は食事後の片付けに入る。浜風と夕張も一緒に、さらに加賀と日向まで
手伝ってくれたお陰で、かなり早くに終わった。
「んじゃ、俺これから仕事あるから」
「午後は憲兵演習っすね!頑張ってっす!」
「おう、んじゃ、行くか。浜風、お前はどうする?」
浜風は少し考えている。執務室に戻るという手もあるだろうが・・・。
「そうですね。とりあえず、自分の艦隊の皆が遠征から戻るまでは
一緒にいてもいいですか?」
「了解。夕張もええな?」
「もちろん」
俺達は頷くと、部屋を後にする。憲兵寮出口で俺と小室は別れる。
俺が見えなくなるまで手を振り続けるのか、ずっとこっちを向いて手を振っている。
加賀と日向よ、もう少し落ち着くように教育してやれ。
そんな感じに思っていると、演武場に到着する。
「よく来たな、池宮」
鞭を腰に身につけた上官が、俺の前に立つ。俺と夕張は敬礼する。一拍遅れて浜風も敬礼。
上官が俺、夕張、浜風に向けて敬礼すると、口を開ける。
「夕張君の話は聞いているが、その子は?」
浜風を見つめると、上官の年季を感じる視線を感じたのか、浜風は畏まって挨拶をする。
「はっ。陽炎型駆逐艦 《浜風》です。諸事情により、今は池宮憲兵と行動を共ににする者です」
はきはきと挨拶をすます。ご苦労様の意味を込めて上官が敬礼する。
そして、上官は俺に近づいて耳元で囁く。
「今日は《当たった》か」
「そうっすね。ドンピシャっす」
当たった・・・というのは、拘束したということを指している。
上官も、谷岡派だからといって拘束しないといったそこらへんの憲兵とは違い
間違っていれば正そうとする、義の心を持っている人だ。
そういう意味で、俺はこの午前の仕事には結構な信頼を受けている。
「覚悟は出来ているか?池宮憲兵。あの事件以来、お前の評価はかなり変わっている」
「・・・・・・」
そう、俺を恐れているものが以前より格段に増えてしまった。
そのことを聞いて、夕張は俯く。彼女を安心させようと、俺は頭を軽く叩いてやる。
「あっ」
夕張は思わず声を漏らす。
「気にすんなって。俺が好きでやったことやし」
そう言って、俺は上官を通り過ぎ、憲兵の皆がいるところに行き、整列した。
視線が痛いが、そんなこと気にしていたらこの先やっていけなさそうだ。
夕張と浜風は、上官などが待機する待機スペースにいる。
「それでは、午後の演習を始める!いつも通り、二人一組ペアで組んで
武力を競ってもらう!」
上官の声で、ペア組が始まる。今日は自由にペアを組んでいいようだ。
見渡してみると、飯田の野郎はいないようだ。
あいつがいてくれたら、ちょっとは楽だったのにな。
とりあえずペアを探さないといけない。だが、俺がペア探しに視線を泳がしていると、
「ッ!」
目をそらす。よほど俺と組みたくないのだろうな。
また、あの力を出したらどうなるか、それを皆は恐れている。
だが、組めないとなるとどうするんだよ、と思う。
そう考えていると、後ろから声がした。
「あのっ!」
俺は慌てて振り向く。後ろを振り向くと、俺より一回り大きいが、細身の男だった。
背中に背負っている獲物は、銃剣だ。いまどき珍しい武器を背負ってるな。
俺が言えたもんじゃないけど。
「ぼ、僕、井上って言います!池宮憲兵!僕とペアを組んでくれませんか!?」
井上と言う憲兵が勢いよく頭を下げる。だが、その頭は俺の頭に直撃した。
「いでぇぇえ!」
「ご、ごめんなさい!」
すぐさま離れて頭を下げる。何だこいつ、変な奴だ。
「お、おい井上、悪いことは言わんからそいつと組むのだけは・・・」
他の憲兵が、今すぐ考え直せと促している。
でも、井上は曲げなかった。
「いや、僕、この人と組んでみたいんだ。この人は、確かに人を超越した力を
持っているけど、それを使いこなして戦っていたんだ。自分なりに制御して。
そういう力って、今の現状を大きく変えることができそうじゃないか。
そのヒントが、この人からならもらえるかなって・・・」
真面目なんだな、こいつ。頭をさすりながら俺は感心して井上を見つめている。
「知らねぇぞ」
憲兵は立ち去る。そして、また俺のほうに振り返ってくる井上。
「ど、どうですか?」
井上は少し腰を低くして話す。俺は特に考えるまでもなく即決した。
「ええで」
「あ、ありがとうございます!」
また頭を下げて、直撃する。もう声も出ない。なんかコントみたいになってきたぞ。
ということで、俺は今日は銃剣を背負ったノッポ、井上とペアを組むことになった。
「次!池宮対井上!」
上官に呼ばれて、俺は演武場に上がる。その姿を、たくさんの憲兵が見ていた。
待機スペースでは、小さく手を振っている夕張と、頷いている浜風。
俺は彼女達に軽く手を振ってあげた。
今まではざわざわしていた会場が、急に静かになる。そして、井上も上がってきた。
「よ、よろしくお願いします」
「よろしくな」
試合前の握手。それを交わすと、戦闘位置につく。
相手は銃剣。それをある程度使いこなしているなら遠距離戦は断然不利だ。
近距離となると、剣の残撃が飛んでくるから、ここはなんとかして中距離に持っていきたい。
そう考えて、俺は蛇矛を構える。井上も銃剣を構えた。
沈黙を打ち破るかのように、上官の声が響き渡る。
「始めッ!!」
「いくでぇ!!」
俺は思いっきり地を蹴り、相手の懐まで走り出す。近づかせまいと井上は銃撃で応戦する。
それを何とかかわしながら、中距離まで詰めていく。
「とりあえず、その銃邪魔やな!」
銃に狙って槍を突く。井上は紙一重でかわす。
そして、井上は、服の袖から、何かを取り出した。それを、俺の足元に転がす。
「ッ!!!」
その正体を見た瞬間に俺は目を見開いて、後退する。手榴弾だ。
それは俺が後退した直後に、小爆発を起こす。
周りの憲兵達は驚いている。
「井上って・・・あんなアクティブな奴だっけか・・・」
普段はこういった戦い方をしないような言い方。いや
今までそういう戦い方をしなかったのか。
憲兵程度の相手では、このような戦い方をしなくても、演習として成り立ってしまう。
だが、今の俺なら、現場での戦いにもっとも近い戦闘スタイルで戦うことができる。
他の憲兵と違って、自分でも言うのはあれだが、俺は戦闘力に関しては
ここではトップクラスだ。いや、トップだろう、しかもダントツで。
そういった相手だからこそ、井上は俺を選んだのか。
自分の持つ全ての力を、見出すために。
「手榴弾持ってるってことは、他にも何か持ってそうやな」
俺は煙が納まるのを待つ。だが、その瞬間も許されないようで、煙の中から銃弾が飛んでくる。
相手の気配を把握しながら俺は銃弾をかわしている。
「池宮憲兵!!」
煙の中から大きな声が聞こえてくる。井上の声だ。
「あのときの力、使ってください!僕、貴方の力を見たいんです!
貴方の力を味わって、僕の力を見定めたいんです!!」
誠意のある声が煙の中で響き渡る。その誠意を俺は受け取ることにする。
「ええんか?ほんとに」
「はい、お願いします!」
その言葉を聞き、俺は立ち止まる。左手の手中で風が巻き起こる。
「風よ、我が力となれ!」
風の力を解放し、演武場に突風が巻き起こる。爆風を飛ばし、視界が明るくなった。
槍の矛先には、巻き上がる風を纏っている。
「それが・・・貴方の《力》ですか」
銃剣を構えなおす井上。そして、口を開く。
「ですが、この状況、どう動きますか?」
そう言うと井上は視線を落とす。俺も釣られるかのように視線を落とすと、
一面に小型地雷爆弾が敷き詰められていた。
「うわぁ・・・」
俺は思わず声を漏らす。そして、銃口をこちらに向けてくる。
「これなら、簡単にはこちらに来れませんよね?」
「・・・せやな」
俺は左手に力を集中させて、メキメキと音を立てる。手中には、茶色の光が宿されている。
その光を、周り皆が注目して見ている。
「優しき大地の加護よ!」
その光を握りつぶすと、俺の身体に、茶色い闘気が纏った。
そして、宙に魔法陣を描く。
「方陣展開!テッルス!」
左手で魔法陣を突き上げ、その魔法陣から溢れる魔力を身に纏う。そのまま俺は、地雷の
海の中に突撃する。
「なっ!!」
井上は驚きを隠せず呆然と立ちすくむ。そして、地雷の足元を踏むと、爆発を起こす。
次々と爆発が起きていく。爆発が起きているということは、地雷の海を歩いているのだ。
その姿が、井上や他の憲兵達にとっては異様な光景だった。
そして、俺は井上への攻撃範囲に入って、喉元に矛先を持っていく。
煙が晴れると、武器を落とし、喉元に刃を向けられている井上の姿と、それを逃がしは
しないといった目で睨みつける俺の姿が映った。
「勝負あり!」
上官の声が演武場に響き渡る。俺は槍を納める。それと同時に、井上は崩れ落ちる。
荒い呼吸をしている。そんな井上に、俺は手を差し伸べる。
「ナイスファイトや。ちょっとやばかったで」
手を払われる覚悟もしていた。実際、人間とは思えないようなことを目の前でしでかしたのだ。
だが、井上の目は俺から離れず、そのまま手を握る。
握られた手を引っ張り上げ、俺は井上を立ち上がらせる。俺の身長が足りないせいで
井上はほぼ中腰だけど。
「貴方の《力》、見せていただきました。ありがとうございました」
「俺も、いい経験やった」
再度握手。周りの憲兵達は静まり返っている。が、一人の憲兵が声を上げる。
「よくやったぞ!」
そして拍手。その拍手は一人、二人と増えていく。
やがて、殆どの憲兵が拍手していた。その光景を見て、井上は照れていた。
「勇気ある憲兵に、皆心を打たれたようやな」
「いえ、そんな・・・貴方のお陰ですよ」
井上は首を横に振る。
「僕、やっぱり貴方は皆が言うような怖い人ではないと思います。
だから、どうか以前と同じく、胸を張ってここの《憲兵》であると言って下さい」
殆どの奴らは、俺のことを化け物じみたような目で見てくる。だが、こういう人もいるんだな。
昨日のかばってくれた憲兵もそうだけど、俺はどんな力を持っていても
「ただの《憲兵》」なんだな。
「あぁ、ありがとな」
力を振るったのもあるが、井上のお陰で気が楽になった。
演武場を降りた俺の顔は、きっと清清しいいい顔をしていたと思う。
「次!」
俺の戦闘が終わっても、ノンストップで演習は続いた。俺は他の憲兵と混じって、
ただの憲兵として、試合を観戦し、応援したり拍手したりした。
午後五時。演習は終了し、殆どの憲兵が引き払っていた。
待機スペースにいた夕張と浜風が駆け寄ってきた。
「お疲れ様~、池宮さん」
「お疲れ様です」
夕張がスポーツドリンクを持ってきてくれた。上官からの差し入れのようだ。
気が利くね、上官!俺はそれを一気に全部飲み干す。
「あ~!少しずつ飲もうよ!」
「ええねんええねん。一気飲みが一番美味い」
ぷはぁと空気を抜くようにして飲み干すと、近くのゴミ箱にボトルを捨て
俺はとりあえず憲兵寮に戻ることにした。
「やっぱりすごいね、あの力」
「驚きました・・・あのような力が、池宮憲兵には備わっているのですね」
夕張と浜風は、俺の力について突っ込んでくる。
「ちょいと特殊な奴やけどな。《エンチャントルーン》って言うねん」
「えんちゃんと・・・るーん?」
夕張が首をかしげながら、片言で言う。
「《魔導術》の一種や。あ、魔導術っていうのは、御伽噺とかでいう《魔法》とかと
同じや思ってええで」
「魔法が使えるんですね!」
浜風は目をきらきらさせている。
「といっても、訓練さえすれば誰でも使えるねんで」
「えっ、そうなの?」
夕張が驚く。
「生命には、それぞれに《潜在属性》というものがあるんや。元素属性である
火、氷、風、土、雷、水、光、闇。どれかの属性を必ず所持してるんや。
今はちょいと確認できひんけど、また暇があったら見たるわ」
「うわぁ、ほんとに!?」
夕張が嬉しそうに身体を揺らし始める。浜風も少し興味を持っているようだ。
「その中でもエンチャントルーンはちょっと特殊なんやけどな。
まぁ、そんな感じやな。詳しい話はまたしたるわ」
そう言っている内に憲兵寮に到着する。
「そういや、まだ浜風と同僚の艦娘は帰ってきとらんのか?」
「はい。夜遅い時間の帰投になりますので、まだ時間は・・・」
俺は腕を組んで少し考える。
「そうやな、夕張。浜風と一緒に先に部屋に戻っててくれ」
「えっ、あ、うん」
意外な返答にちょっと驚く夕張は、浜風を連れて憲兵寮の中に入っていく。
その姿を見て、俺は牢屋へつながる階段のある場所まで行く。
入り口には、日向が立っている。
「来たか」
日向は俺の姿を見て口が開く。
「どうや?」
「まだ認めていないようだ。全く、素直に認めてくれたほうがこちらも楽なのだがな」
俺は昼間に、拘束した提督を尋問してくれと、小室に頼んだ。
14歳の餓鬼にさせるのは申し訳ない気がしたんだが、こういう尋問は、同じ提督が
やったほうが説得力があるだろう。
しかも、あいつ俺の言うことなら喜んでしてくれるからお願いしやすい。
でも、頼りすぎないようにはしないとな。
「そっか。んじゃ俺も入るわ」
「あぁ」
日向が横に退くと、俺は階段を下りていく。だんだん声が聞こえてきてくる。
降りきったら、一つの牢屋の前で椅子を持って座っている小室と加賀の姿があった。
「よっ、お疲れ」
「あ、師匠!」
小室の顔がぱーっと明るくなる。加賀も軽く会釈する。
牢屋の中にいるのは、朝方捕まえた、浜風の提督。全く反省する様子もない。顔に出ている。
「あのなぁ、無理のある艦娘のおさわりは禁じてるって言ってるやろ?」
「フン、俺の艦娘だ。俺が何をしたって関係ないだろ」
本当に反省してないな。艦娘を私物化してるって主張するし、これはどうしようもないな。
「貴方は、本当に艦娘が自分の《物》だと思っているのですか?」
「あぁ、もちろんだとも」
「艦娘は兵器だ。兵器は持ち主に有無を言わずに従うのが普通だろ?
女の子の身体をしているから、性処理の玩具にしたって何の問題もあるまい」
「貴様・・・!」
加賀が歯を食いしばって拳を握り締める。小室も言い返せない。
性処理玩具とまでは言わないが、以前は小室もこの提督が言うように、艦娘を物扱いに
していたからだ。
俺は、沈黙を破るかのように口を開く。
「あのさぁ、性処理なんて自分でしとけや」
「えっ」
「えぇえええ!?」
加賀があまりにも予想していなかった言葉が飛び出したことに驚きを隠せず
小室は吹き出していた。
相手の提督もぽかーんと口をあけている。まぁ、これが俺の本性なんだ。許せ。
「俺はなぁ!この男臭い中で、一筋の光を見出す!いや、見出そうとして!
いつか可愛い女の子とハネムーンセックス!を楽しめると思って!そう信じて!
一人寂しくゴミ箱を妊娠させてきたわけだよ!!」
熱く語る俺だが、内容が下劣すぎる。だが、止まらなかった。
加賀は少し呆れていて、小室と牢屋の提督は開いた口が閉じない。
「そういう人間もおるんや!確かにうらやましい!俺みたいな毎日しこって悲しく
男だらけの生活を送ってる俺からしたら、艦娘を犯すなんてなんてうらやましい生活や!」
「池宮・・・憲兵・・・」
加賀は思わずため息をこぼす。だが、俺はその後一呼吸置く。
「やけどな」
俺は真顔になる。声も鋭く低い声になり、小室の口も塞がって俺を見つめる。
「羨ましいと思っても、やったあかんことやって、俺はちゃんと分かっとる。
自分の性欲よりも、相手の気持ちのほうが大事やからな。
浜風だって、兵器かもしれへんけど、心を持つ女の子なんや。
せっかくお前を思ってくれる心を持ってるってのに、お前はそれを踏みにじったんやで」
「・・・・・・」
相手は黙っている。少しは言葉が届いたのだろうか。
「まぁ、お前のことなんか、俺には関係ないんやけどな」
そう言って、俺はその場から立ち去ろうとする。
「悪いけど小室、後頼むわ」
「了解っす!」
小室は敬礼する。俺は軽く手を振って階段を上っていった。
残された人達での会話が続く。
「小室提督」
「何ですか?」
声質が変わる。それに若干驚く牢屋の提督だが、話を続ける。
「お前は、元はあいつと対峙していたのだろう?何故今は《師匠》などと呼んでいる」
当たり前の疑問だ。多分小室も何人かには言われたような質問。
自信を持って、胸を張って答える。
「師匠だからさ」
「そうか」
牢屋の提督も何かを察したのか、それ以上聞かなかった。
階段を上りきると、相変わらず入り口で立っている日向。
上りきると日向に声をかけられる。
「お疲れ様」
「どうも」
俺が日向の横を通り過ぎると、不意に日向が口を開く。
「ずいぶん熱く語っていたな、性処理のことで」
「ブーーッ!!」
俺は思わず吹き出す。
「聞こえてたんか!」
「あぁ、一部の提督や憲兵、艦娘達も聞いていたぞ」
「まじでええええ!!??」
俺は目を見開き、大声で叫び、そして崩れ落ちる。
「聞こえへんと思って本音ぼろぼろ出したのに・・・婿に行かれへん・・・」
「大丈夫だ、ちゃんと弁解しておいたから」
「日向ぁ・・・お前は天使か・・・」
俺は日向から神々しい光が差し伸べられているような感じがした。しかし
「全く持ってその通りだが、普段は隠しているだけだ、と」
「日向ぁあああああ!!!」
全く弁解になってねぇえええええ!!!
一人の航空戦艦の名前を叫ぶ俺の声が、鎮守府に響き渡っていた。
滅茶苦茶長くなってしまいました。特に内容も濃くなく薄くなく。
主人公のお下劣っぷりがふんだんに散りばめられてきました。義理堅い子なので
性欲に塗れた下劣なサルを見るような目で見てあげてください。
はまかぜちゃんのきょうぶそうこうのおやまさんにおれの41せんちほうをそうてんしたい。