Demon's Stella ~悪魔の彗星~ 作:Hershel
八島商店街
東舞鶴にある昔ながらの商店街。実際に存在する商店街でもある。
古風の商店がたくさん立ち並び、日中はそれなりの人手でにぎわっている。
軍関係者の人間も普通に出歩いており、店によってはお得意様のところもあるようだ。
人間に紛れて艦娘が歩いていることもあるとか。
駅前の大型ショッピングモールに客を取られてしまったが、何とか打開策がないかと
委員会が頭をひねらせている。
時々商店街でイベントがあり、美人が多いという理由で稀に艦娘が駆り出されることも。
商店街に並ぶ店の一つが池宮提督の祖母の家でもある。
「ガッハッハッハッハ!」
「もー、笑い事じゃないですよー!」
午後九時。日も暮れ、弓道場が閉まると、加賀さんと別れて私は工廠を訪ねていた。
留守にしていた親方さんも流石に戻ってきていて、武器の点検をしてもらっているのだが・・・
「まさか、親方さんの調整ミスだったなんて・・・」
私は思わず声を漏らして顔に手を当てる。
「じゃがこのお陰で銃の練習も出来たじゃろ?結果オーライじゃ!!」
「うまく纏めようとしないでください!」
豪快に笑いながら、武器を調整する親方さんに、私は少し声を荒げた。
まぁ、確かに親方さんが調整ミスミスしてくれたおかげで、加賀さんに
弓の心得を教えてもらったわけだけど・・・。
「んー、調整は完璧じゃと思ったんじゃがなぁ」
親方さんはコンコンと武器を叩く。そして刃を研ぎ、布で拭きあげると
部屋の灯を受け、輝く刃が姿を現す。
「ほれ、完了じゃ」
拭き取った後に布を巻きつけ、それを私に投げ渡す。
私はそれを受け取ると、布を解き、感覚を確認する。
「刃の根元あたりにトリガーを作っておいた。そこを引けば銃になる」
親方さんは小さな身体を目一杯使って、トリガーの位置を示す。
私はそれを見つけると、クイッと引いてみる。
そうすると、金属の擦れる音と共に、1秒ほどで銃に変化した。
「うん、これなら大丈夫そう」
「銃から剣に戻すときは、引き金を逆に引けばいいぞ」
「了解です!」
言われた通りに引き金を逆に引くと、剣の状態に戻った。
「うん、だいたい掴んできた」
感覚を掴むと、武器は腰に取り付けた投槍をしまう筒に入れた。
それを見た親方さんは
「そいつぁ、広樹の投槍の筒か」
「あ、はい」
親方さんは私の身につけてる筒を見て考え出す。
「応急処置といったような形じゃな。無いよりはマシじゃが」
「 そうですね・・・これちゃんと返さなきゃですし」
「その武器用の鞘みたいなのを作っておこう。型は取ってあるから新杯は無用じゃ」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
私は勢いよく頭を下げる。その姿を見て、親方さんは豪快に笑っていた。
「ふぅ・・・」
池宮さんの部屋に戻った。池宮さんは寝ているようだ。
部屋のど真ん中に置かれているちゃぶ台には、私の夕飯が置かれている。
「池宮さん、ほんと気がきくよね」
池宮さんの配慮に感謝しつつ、食べ物に口を運ぶ。少し冷たいが
味がしっかりしていて美味しい。
数分で食べ終わると、身体を洗い流し、着替えると、ちゃぶ台を直して
寝る体勢に入る。ひと時の休息だ。
でも、深夜跨ぐ前ぐらいに起きなきゃならないんだけどね。
剣を始めてから一度も起きれなくて手伝えてなかったから、今日ぐらいは起きなきゃ。
そう考えているうちに、意識は遠のいていく。
「・・・ん、んん〜」
午後十一時半。俺は何時もの夜の仕事のために身体を起こす。
隣に俺のと違う色の布団が敷いてある。
「あぁ、夕張帰ってきたんか」
俺は夕張の姿を確認すると、彼女が起きないようにそーっと着替えを始める。
だが、今日は彼女の意識が高いのか、布団がもぞもぞと動き出す。
「んん〜・・・」
目を擦りながら布団の中から姿をあらわす夕張。暗い部屋からも乱れた髪の毛が
微妙に見えている。
「おう、おはよ」
「おはよう、池宮さん。夜だけどね」
「なんや、寝ぼけてなかったか」
ヘラヘラと俺は笑い飛ばす。夕張は部屋の灯りを点け、大きく背伸びをする。
「電気付けるなら向こうで着替えや」
「ここで着替えてあげよっか?」
「あほか」
少しご機嫌そうな口調で、夕張は着替えを持って浴場に入っていく。
「なんや、えらいご機嫌やな」
俺は不思議に思いながら、私服に着替え、槍を背負う。
俺の着替えが終わってすぐに、夕張も私服に着替えて出てくる。
「お待たせ!」
元気よく出てきた夕張に、俺はデュアルウェポンを彼女に渡す。
夕張は感謝の気持ちを込めて軽く会釈した。
準備が完了し、扉を開けようとすると、
ドンドンドンドン!!
突然扉が荒っぽく叩かれる。俺と夕張は一瞬驚きつつも
「どうしたんや、俺は起きとるで」
扉の音が鳴り止むと、俺はゆっくり扉を開ける。
そこにいるのは、この前助けた艦娘、浜風と、見たことがない顔の男だった。
白銀の軍服、ここ所属の提督か。
「よ、よかった!まだいらしたんですね・・・」
少し慌てた様子の浜風。それ以上に隣の男は慌ててるが。
男の方は口をパクパクさせて上手く話せていない。
「あー・・・とりあえず上がれや」
「落ち着いて話をしなきゃね」
俺と夕張は、二人の客人を迎え入れる。
布団を端に寄せ、ちゃぶ台を起き、夕張はお茶を入れた。
「落ち着いたか?」
「んぐっ・・・ぷはぁ・・・す、すまない」
ぱっと見、三十路行ってるか行ってないかのおっさんのようだ。
浜風の提督は今牢屋の中のあいつだし、こいつとの関係はなんなんだ。
「何があったんや、話してみ。何で俺を訪ねたかわからんけど・・・」
一呼吸置くと、提督は口を開ける。
「私は、
まぁ、見たら分かるわな。沖園提督・・・ね。
「・・・私の艦隊に所属する艦娘、《雪風》がまだ戻ってきていないんだ」
あぁ、成る程な。夜までに帰ってくるように、とか少しは目を光らせておけ。
「浜風から聞いた。彼女は、雪風とも仲良くしてくれていてね。
この事を彼女に相談したら、君の元に連れて来てくれて・・・」
「すいません、頼れるのは貴方ぐらいしかいなくて・・・」
頭を下げる浜風。いいよいいよ、と夕張は彼女の身体を起こそうとする。
「今の時間やとら魔物も結構うろついてるやろうし、見つかったらやばいやろな」
だが、俺はその艦娘の見た目を知らない。とりあえず情報を聞き出すことに。
「どんな見た目や?艤装付けとるか?」
「いや、艤装は倉庫の中にあった。外出も軍服姿のままだ。
髪は茶色、白い服に、双眼鏡を持ってる子だ。」
「あ、私その子知ってるかも」
夕張はメモを取りながら思い出す仕草をし上を向く。
「んじゃ、夕張は分かるんやな」
「うん、ちゃんと覚えてるから任せて!」
そして続けさまに提督が言葉を続ける。
「それと、彼女はどうやら、人間の友達がいるらしい」
「ほぉ」
俺はその言葉を聞いて少し興味を持つ。
鎮守府では提督以外の人間は艦娘とコミュニケーションを
取ることも良しとされていない。だが、外で他の人間と触れあう
奴らもいるのかと、新たな考えが生み出された感覚だ。
「彼女の友達の話を時々聞いていたのだが、西舞鶴にいるらしい。
だから多分西舞鶴の方にいると思う」
「西かー」
俺は少々面倒臭そうに言葉を発する。その姿を見て夕張は苦笑する。
「あと、彼女の軍服にGPSを埋め込んでいる。だが、途中から
通信が切れているのだ」
俺はそれを見せてもらう。指している場所は、俺の見知った場所だ。
「文化公園やんけ」
なるほど、と、俺は頷く。
「知っているのか?」
「小さい頃何回か行ってるからなぁ。市民プールなんかもあるで」
「あっこには確かにでっかい公園があったわー。まぁまぁあっこで遊んだら
ガキは楽しいやろなぁ」
過去を振り返ってうんうんと頷く俺。
「情報はこれだけだ。すまない、どうか宜しく頼む」
提督と浜風が頭を下げる。俺は静かに頷くと、立ち上がる。
夕張も続いて立ち上がり、槍を背負う金属音が部屋に響いたと同時に、扉を開いた。
いつもより早足の足音が、憲兵領の廊下に響き渡っていた。
「あっ」
ふと浜風が言葉を漏らす。
「どうした?」
「池宮さん・・・鍵閉め忘れてる」
もう俺たちの姿は見えない。呼び止めることはできるか分からない。
「部屋で待っておきます?」
提督の顔を覗き込むように浜風が言うと、隣の部屋の扉が開く。
「あぁ〜、いいよそのままで。俺が見張っておくから」
部屋の中から飯田憲兵が出てきた。緩いスウェットを着こなして完全オフ姿だ。
「貴方は確か・・・飯田さん?」
「そ、覚えてくれてて嬉しいよ、浜風ちゃん」
飯田がはにかむと、提督の方を向き、少し声色を変える。
「部屋は私が見張っておくのでご安心を。色々思うことはあるとは思いますが
とりあえず今は、自分の部屋で落ち着いて帰りを待ってあげてください。」
そう飯田は言うと、提督は深呼吸をして一息ついてから口を開く。
「あぁ、そうだな。そうするよ」
少しだけ笑みを浮かべる。落ち着きを取り戻したようだ。
「ところで」
疑問に思ったのか、浜風が口を開く。
「何か理由を知ってそうなんですが・・・」
「よく聞こえるんだよ、壁薄いから」
へらへらと飯田は笑っている。浜風は驚きながらも少々引いている。
「そう、よく聞こえるんだよ」
意味ありげにその言葉を繰り返す。そして視線は窓の外に。
「今回はちょいと、試させてもらうぜ」
飯田は笑みを浮かべる。それを横目で見ていた浜風は、首を傾げた。
国道26号線。東舞鶴からは京都や敦賀の方へ行くことができる道。
今回は西舞鶴方面、つまり京都方面へ足を進めていく。
日中は沢山の自動車が行き交うが、魔物もが発生する夜は
昼の姿からは想像できないほど静かなものだ。
たまに車が流れてくるぐらいだ。
「こんな大通りでも魔物は出るからな」
「う、うん」
夕張は武器を構えながら歩いている。自分は俺より練度がないから
一層警戒心を持ってのことだろう。賢明な判断だと思う。
「ここを右や」
大きなファーストフード店と洋服店が並ぶ交差点を右に曲がり、坂道を登っていく。
外灯が少なくなり、辺りに暗闇が広がる。
「この辺や」
舞鶴文化公園。手軽に行ける大きめの公園だが、少し登っていかなければならない。
夏には市民プールが解放され、沢山の子連れで賑わう。
体育館施設もあり、地元のクラブチームなどがよく練習している。
「結構気配するな」
「やっぱり郊外だからかな?」
「せやろな、気抜くなや」
気配が濃くなったことを感じると、俺も蛇矛を構える。
坂道での戦いは難しいので、とりあえず平面地帯まで走る。
その地点に着くと、唸り声が聞こえてくる。
「ウルフじゃ、結構数がおるぞ!」
耳元に取り付けられた無線機から、親方の声が聞こえる。
夕張は頷く。俺も少し呼吸を整える。
足音が一つ聞こえた瞬間、闇の中から狼型魔物数匹が襲いかかってくる。
俺は直様蛇矛で薙ぎ払い、数匹を吹き飛ばした。戦い慣れていない夕張を
できるだけ前線に持って行きたくないので、積極的に前に出る。
「一匹一匹は雑魚い!適確に弱点を狙って仕留めるんや!」
「うん!」
夕張に動揺の声は無かった。意外にも落ち着いている。
「射抜く・・・射抜く!」
銃形態のデュアルウェポンを両手で構え、精神を研ぎ澄ませて銃弾を放つ。
見事に頭に命中し、魔物は一撃で倒れた。
「やった!」
初めて倒した魔物に手応えを感じた夕張は、思わず跳躍した。
「ドアホォ!まだ魔物はおるんや!油断すんなや!」
「はい!」
夕張は返事をすると、銃のトリガーを逆に引き、左手で剣を構える。
剣に関しては訓練を積んできたため、片手で扱えるほどにはなった。
相手が襲いかかってくると同時に、地面を蹴り、相手の攻撃を避ける。
こればかりは俺の見よう見まねらしく、完全には回避できなかったものの
直様切り替え、相手に踏み込んでいく。
「はああああっ!!」
斜めに一閃。斬撃は魔物の肉を切り裂き、血飛沫を吹かせる。
だが、倒れてはおらず、また襲いかかってくる。
「しぶといわね!」
夕張も応戦するが、それに気を取られ、横から別の魔物が襲いかかって来た。
とっさの判断で回避するがもう一体の魔物に吹き飛ばされる。
「キャッ!」
吹き飛ばされ蹲っていた所に魔物は上に跨ってくる。
口からは唾液が垂れ流しており、飢えを際立たせている。
「やばっ・・・!」
手が抑えられて武器が使えない。相手を目で睨みつけ、なんとか致命傷を免れようとする。
しかし、魔物が牙を剥く前に、俺の投げた投槍が魔物の腹を貫いた。
夕張は自由を取り戻し、直様立ち上がって交代し、銃で牽制した。
「あ、ありがとうございます!」
「敵は一体ちゃうんや!気をつけや!」
その言葉と同時に俺はまた魔物の群れに突撃する。夕張は
それを援護しながら、確実に魔物を無力化していった。
「ふぅ、一旦終了やな」
魔物の群れを討伐しきると、辺りに静寂が訪れる。
自分の傷を確認し、無傷だと分かると、次は座り込んだ夕張に目をやる。
「どっか怪我したか?」
俺は夕張を見ると、彼女は慌てて首を横に振る。
「う、ううん!大丈夫、問題ないわ」
慌てた様子を見て俺は少し怪しみ、無理やり腕を掴む。
「わっ!」
驚きつい声が漏れる夕張。俺は腕に異常が無いことを確認した後に、腹部を確認する。
服越しから、赤い滲みが見えた。それは今も広がっている。
「怪我しとるやんけ」
「こ、これぐらい大丈夫だって!」
あはは、と苦笑する夕張。俺はその姿を見てため息を付く。
「じっとしとき」
俺はそう言って眼を閉じる。その姿を不思議に思うも、夕張は動かずにその様子を見守る。
「快方の光よ宿れ」
俺はそう唱えると、掌から小さな光が放たれ、夕張の腹部に付いた赤い滲みを照らす。
数秒後には広がり続けていた赤い滲みは止まり、彼女の感じていた痛みは消えていた。
「え、ええっ!?」
夕張は先ほど以上に驚く。傷口が一瞬で塞がり、痛みまで消えたからだ。
「な、何?どうなってるの・・・?」
夕張がうろたえているところ、俺は口を挟む。
「これも魔導術や。支援術の一種で、治癒術やな」
掌を下げ、少し手首を曲げて柔軟する。ちょっと腕が吊りそうになるんだよな、これ。
「す、すごいわね・・・そんなのも使えるんだ」
「まぁ、治癒術は簡単なのしか使われへんねんけどな」
そういいながらもちょっと誇らしげの俺。今絶対変な顔してそう。
「あと、あくまで治癒術は外傷の治癒をするだけや。何でも治るって思ったらあかんで」
全部治るなら、前の糞餓鬼提督の時でも一瞬で回復してるだろうしな。
「んじゃ、そろそろ休憩は終わりや。いくで」
「うん」
俺と夕張は起き上がり、視線を文化公園の山に変える。
「真っ暗だね」
「やな。ほら、これ持っとき」
俺は懐にしまっていた懐中電灯を夕張に向かって投げる。夕張はそれをキャッチする。
「あ、懐中電灯ね」
「戦闘中ではあんま使われへんけど、雪風見つける時には役立つやろ」
「うん、そうね」
夕張は懐中電灯を握り締めて、先に進む。
「んじゃ、俺は左のほう行くわ。右の遊び場のほう頼むで」
「えっ、分かれるの!?」
夕張は一緒に行動するものと思っていたため思わず叫んでしまう。
「ここ結構広いんや。夕張も魔物と1対1なら戦えるっぽいし、今回の目的は
あくまで艦娘の保護や。今回だけは魔物討伐は二の次や。もしやばくなったら
無線使って助け呼べばええ。幸いGPSはつながるっぽいからすぐ駆けつけられるわ」
俺はそうだらだらと説明していたが、夕張は全て聞き入れ、最後に頷く。
「無理だけはしたあかんで。命は大事にせなあかんからな」
「うん、分かってる」
今度はゆっくり頷いている。無理しないといいんだけどな。
本当だったら付いていってあげたいんだが、今回に関しては艦娘の安否のほうが
重要だからな。それに、夕張もいい訓練にはなるだろ。幸いウルフ程度の魔物しか
いないっぽいからな。
「んじゃ、頑張れや」
俺は夕張の肩を軽く叩き、左の丘に向かって駆け出す。
「よし、雪風ちゃんを探さなきゃ」
夕張は拳を握り締め、懐中電灯のスイッチを入れて右の遊具がある広場へ上っていった。
「へぇ~、大きな遊具ね」
私は遊具広場まで上りきると、最初に現れた大きな遊具に眼をやった。
公園においてあるようないろいろな遊具が合体したようなもので、昼間なら子供達が
遊んでいる光景が思い浮かぶ。暗くてよく見えなかったけど、デザインも独特で
遠くからみるとちょっとアートっぽいかも。
「でも、ここなら駆逐艦の子は楽しく遊べそうかも・・・」
思わず笑みをこぼす私。いけないいけない、こんなところで油を売ってはいけない。
「探さなきゃ」
そう言って私は遊具の辺りを見渡す。中も探して、隠れていないかを確認する。
だが、探しても中には雪風らしき姿は見当たらなかった。
「う~ん、ここじゃ無いのかなぁ」
私は遊具の中で腕を組んで考えている。そうしていると、外から物音が聞こえてくる。
足音だ。足音のテンポは速く、走っている音に聞こえる。それに、その足音は一つじゃない。
私は武器を構え、遊具から身を乗り出す。視界に飛び込んできたのは、暗闇の中から
薄っすらと
見えた、人の子が逃げる姿と、それを追いかける狼の姿。
危機を感じた私は、とっさに銃を構え、後ろを追いかける狼目掛けて銃弾を放つ。
甲高い銃声が響き渡ると、見事に命中し狼は態勢を崩し倒れる。それに驚いた人影は
慌てて立ち止まる。私はその子と狼に挟まれるように割り込む。
剣の状態にし、相手の様子を伺う。
「下がってて!」
少し後ろを向いて人影に忠告する。それを聞いた人影は身体を小刻みに震わせている。
立っているのがやっとのようだ。
「ウルフ一匹、これならいける!」
狼が立ち上がった瞬間、私は狼目掛けて突進する。相手が態勢を整える前に、斬撃を見舞う。
裂かれた肉から鮮血が噴出し、狼は倒れ、ピクリとも動かなくなった。
そのまま狼の姿は泥のように地面に吸い込まれていき、跡形も無く消えていった。
私は一息つくと、武器はそのままにしてゆっくりと人影の元に駆けつける。
人影の姿は、小さな女の子。だが、残念ながら艦娘の雪風ではない。
普通の洋服を着た普通の女の子だった。
「君、大丈夫?」
私は少女の目線に合わせて話しかける。少女は涙ぐんでいるが、目を擦りながら
どうにか堪えて頷く。息が少し荒いが、狼から逃げていたんだからそれはそうだ。
「よく頑張ったね。もう安心して」
私はその少女を優しく抱きしめる。自分の服に涙が染み渡る。
怖いわよね。私でも武器が無かったら怖いもの。
「お姉ちゃん・・・」
「ん、何?」
優しく抱きしめながら、少女の話を聞く。
「あのね、友達がね、さっきまで一緒にいたのに居ないの」
「えっ!?」
私はその言葉に慌てる。さっきまで一緒にいたのにいない・・・?
それは非常にまずい気がする。もしかしたらウルフに襲われているかもしれない。
「怖いわんちゃんから逃げてるときにね、居なくなってたの・・・。
違うところに逃げたのかな・・・」
私は辺りを見渡す。近くには魔物の気配はない・・・気がする。人の気配も感じない。
自信はないけど・・・。
「そっか。お姉ちゃんはこれからその子たちを探しに行くね」
「うん」
「君は、とりあえず危ないからお姉ちゃんについてきて」
「わかった」
少女を離すと、私は立ち上がる。小さな人影は、私の背後にぴったりとくっつく。
武器をしっかりと構えながらも、前に進んでいく。
「あ、そうだ」
私は思い出して、無線機で池宮さんと連絡を取る。無線越しに池宮さんの声が聞こえてきた。
「お、見つかったか?」
「見つかってないけど、女の子を保護したの。その子、さっきまで友達とウルフから
逃げていたようだけど、逸れちゃったらしいの。もしかしたら、その友達が・・・」
「ありえるな・・・んじゃこっちは外れか。っし、そっち行くわ」
「お願い!」
短い会話を追え、私は公園の奥深くにさらに入っていく。
奥に行けば行くほど辺りはさらに暗くなっていく。
そして、とある場所まで歩いていくと、物音が聞こえてきた。草木の中に、何かがいる。
「・・・・・・」
私は武器を構える。様子を見るために、ある程度距離を開けて。
そして、その物音の正体が、草木の中から現れた。
「ぷはぁ!」
その中から現れたのは、白い軍服を着た、茶髪の女の子。胸には双眼鏡がかけられている。
この子が雪風ちゃんね。
「ゆ、雪風ちゃぁぁん!!!」
「みぃちゃぁぁん!!!」
二人は泣きながら抱き合った。双方ともやはり怖かったらしい。
私は少し安心し、安堵のため息をこぼす。武器は一度下ろし、顔も少し緩んでしまう。
だが、泣き声が大きすぎたのか、辺りの空気が変化する。
私はそれに気づき、再度武器を構える。
グルルルルルル・・・・・・
唸り声が聞こえる。さっき戦ったウルフとは違う。耳元に響き渡る重く鋭い声。
「・・・・・・」
私は唾を飲み込む。辺りを見渡す。何処に潜んでいる。
唸り声が聞こえると、少女二人も黙り込み、震えながら抱き合っている。
数秒後、その唸り声の姿が現れる。その姿は、暗闇からゆっくりとこちら側へ
歩いてきていた。
「ウルフ・・・いや、さっきのより大きい」
「ウルフリーダーじゃ・・・ここいらのウルフの統率者・・・といったところじゃな」
無線越しで親方さんが話す。確かにあの魔物が纏っている闘気、
さっきの魔物と比べ物にならない。
勝てるかわからない。でも・・・
多分。こいつからは逃げられない。そう感じた。
覚悟を決める。私は武器を銃に変え、引き金を引いた。
銃弾はかわされ、魔物は私に飛び掛ってくる。すぐに剣に切り替え、鋭い牙を剣で凌ぐ。
「ぐっ・・・こんのぉぉお・・・!」
一撃が重い。先ほどのウルフとは本当に桁違いだ。さすがリーダー格と言っていいだろう。
何とか攻撃をはじき返し、私は体制を整える。だが、この暗闇の中戦うこと自体が不利だ。
懐中電灯は使えない。雪風ちゃんたちに持ってもらうには精神的に辛いだろう。
そう考えていたら、無線機から声が飛んでくる。
「あ、その無線機、LEDライトが搭載済みじゃから有効に活躍させるんじゃぞ」
「って、ええええええ!!??」
私は驚いて思わず叫んでしまう。しまった!と周りに気を悟られてしまうんじゃないかと
口を慌てて塞ぐ。それらしいボタンがあり、それを押すと、耳元の無線機から管が伸び
光が照らし出される。中々明るく、魔物の姿をくっきりと映し出した。
ちょっと目元が眩しいけどね。
「でも、これなら戦えるわ!」
やる気が出てきた私は剣を構える。魔物のほうも攻撃態勢に入っている。
私は先に攻撃を仕掛けた。走りこんでの剣撃。しかしこれは回避されてしまう。
その回避した矢先に、魔物は私の腹に体当たりしてきた。
それを避けることはできず、私は思い切り喰らってしまう。
溝を入れられた私は、唾液を口から吐き出しながら吹き飛ばされてしまう。
「お、お姉ちゃん!」
少女達が声を上げる。その声は小刻みに震えている。
その声で魔物が少女のほうに向かうと思ったが、標的はずっと私だった。
魔物の中でもリーダーと言われるほどだから、そういった敵対する相手を見極める
知識と実力があるのだろう。それだけは助かる。
でも、そういう魔物だからこそ、逃げることは困難なんだけど。
「せめて、池宮さんが来るまで耐えなきゃ・・・!」
腹を摩りながら立ち上がる。魔物は手加減をしているのか油断をしているのか、
立ち上がるまで待ち続けていた。その行動に少し苛立ちを覚える私ではあるが、
感情を抑え、また突撃していく。
同じ剣撃。同じようにかわされたが、今度はそれだけではない。
即座に銃形態に切り替え、相手の着地位置に弾丸を放つ。
「くらいなさいッ!!」
鈍い銃声が響き渡り、魔物の足を喰らう。少しバランスを崩すも、すぐに立ち上がってきた。
「あ、あんまり効いてないわね・・・」
先ほどとの手ごたえが全く違う。やはりこいつは、今まで戦ってきたウルフなんかよりも
ずっと強い。そう考えている内に、今度は魔物側が攻撃を仕掛けてきた。
今まで静かだった場の空気が騒がしくなる。風の気が強くなり、
その風は私を包み込んでいく。
「これって・・・!」
気づいたときにはもう遅かった。風属性の魔導術。あの魔物は魔導術を使える魔物だった。
回避しようと踏み切ったが、その前に風は刃となり、私を何度も斬りつけた。
「ああああああっ!!!!」
痛みを伴う叫び声が響き渡る。
「あぁぁ・・・あぁぁ・・・!!」
その声、切り裂かれる姿を見て、少女達は震えた声を漏らして目をそらし縮こまる。
私は無数の傷を付けられ、力尽きてそのまま血を流して倒れる。
魔導術を防御もせずにまともに喰らってしまい、大きなダメージを受けてしまった。
「ぁ・・・・・・っ・・・・・・」
かろうじて声が出るも、言葉としては出ない。血は止まらないし立ち上がることもできない。
そうしているうちに、私へ向かって足音が近づいてくる。
このままではまずい。池宮さんが来るまででいいから、耐えなきゃ。
でも動かない。身体が言うことを効かない。動け・・・動け!何で動いてくれないのよ!!
そう心の中で感情的になっているところに、一つの小石が飛んできた。
それは魔物の頭に当たり、飛んできた方向へ眼を向けた。
「お、お姉ちゃんをいじめないで!」
少女達が投げた小石だ。その瞬間、魔物の標的は私から少女達に変わる。
駄目・・・そっちへ行かないで・・・相手は私・・・だから!
声に出そうとしても声が出ない。今の私には本当に力が残っていなかったから。
無残にも足跡が遠のいていく。その姿を見ることはできないが、少女達の下へ
近づいていることぐらいはわかった。
ここままじゃ・・・駄目だ・・・
私は何とか力を振り絞る。立ち上がろうとするが、身体が小刻みに震え、
血の流れを早くするだけ。そして、力を振り絞っていくうちに意識が遠のいていく。
駄目だ・・・ここで・・・寝ちゃ・・・
眼を開けると、白の世界が広がっていた。何もない真っ白な世界。
何故この世界に来たかは分からない。確か、私はあの後魔物にやられて・・・。
「し、死んじゃった・・・とか!?」
思わず慌ててしまう。
「ど、どうしよ・・・それじゃここは・・・天国!?」
想像をどんどん膨らませていく。だが、身体の感覚はあるし、黄泉の国に来た・・・
といった感覚は全くない。実際に行っても感覚とかはなさそうだけど・・・。
そう考えていると、よく見たら人影が見える。
茶髪でセミロングヘヤーのすらっとした女性。私に気がついたのか、
こちらを振り向いてくれた。何故だろう、何故か顔が見えない。
「あれ?お客さん?」
茶髪の女性はあれ~?といった疑問を浮かべた表情を浮かべる。
「こんなところにお客さん着ちゃうか~う~ん、何でだろうね」
不思議そうに私を見つめる茶髪の女性。いや、私も不思議に思ってるんだけどね。
「えっと、ここは何処ですか?」
「えっとねぇ・・・」
少し考える仕草をする。
「詳しくは話せないけど、ここは貴女のいるべき場所ではない所」
そう言って、次は声を鋭くして話を続ける。
「戻りなさい」
一言が重かった・・・戻る?戻るって一体・・・。
「戻って、ちゃんと守ってみなさい」
戻って・・・ちゃんと、守る・・・?雪風ちゃん達を・・・
「あの子なら、きっとそうしてるから」
あの子?あの子って一体・・・。
そう考えていると、私の身体全身に稲妻が走る。今までに感じたことのない感覚。
何・・・何なの、この感覚。
「貴女ならきっと、使いこなせるわ」
くすくすと、茶髪の女性が笑う。私が言葉をかけようとしたら、それを遮るかのように
「貴女の中に眠る雷の力が・・・ね」
「雷・・・」
そう言ってしまうと、茶髪の女性は、白の世界へと消えていった。
私は思わず手を見つめる。その手には紫色に光った電光が目に見える。
そして、私は再度眼を閉じる。あの子達が・・・待ってる・・・
バリバリバリィッ!!!!
血を流し、倒れていた私に一つの稲妻が落ちる。その稲妻は私を包み込み、力を与える。
その力で私は武器を握り締めてゆっくりと立ち上がり
少女達に近づいていく魔物を睨みつける。
視線を感じたのか、魔物もこちらの気配を察し、臨戦態勢に入る。
私はやり方を知っているかのように、流れるように武器を銃形態に変える。
そして、銃口を魔物の方に向ける。魔物は唸り声を上げて威嚇している。
だが、それ以上に私の鋭い目つきが、魔物の戦意を削っていた。
そして、一呼吸置き、静かに唱える。
「蒼き稲妻・・・我が名を持って歯向かいし者を貫け!」
そう唱えると、私の周りに雷光が走る。辺りの気は私の色に染まり、
完全にその場を支配していた。
周りに渦巻く雷光は、私の武器の銃口に集まっていき、小さな雷玉となる。
「唸れ・・・一装填・・・≪
装填された雷玉は魔物に向かって放たれ、着弾。
着弾すると、天から複数の稲妻が巨大な音と共に落ちてくる。
それらは魔物の身体を直接攻撃し、絶命させるほどの威力であった。
まともに稲妻を喰らってしまった魔物はそのまま倒れ、跡形もなく消えていった。
そして、魔物が消え、一時の静寂が訪れる。
周りの気が優しき風に戻った瞬間。
私は、再び倒れた。
「お、お姉ちゃん!!」
少女達は急いで駆け寄ってきた。でも、私にはその言葉に返事するほどの
気力は残ってはいなかった。
あぁ、今度こそ本当に駄目かも。そう思っていると・・・。
ガサッ・・・
また足音が近づいてきた。多分、3匹ほど。さすがにもう動けない。これはちょっとまずいな。
リーダー格は頑張って倒したのに、それだけじゃやっぱり駄目なんだね。
ごめんね、池宮さん。時間も稼げなくて。私、やっぱりまだまだだった。
そうやって眼を瞑る私。暗闇の時が訪れる。静かな静寂が私を包み込もうとしていた時・・・
「唸れ熱刃ッ!!オラアアアアアアア!!!!!」
その声と共に、私に近づいてくる魔物を全て焼き払う爆炎が放たれる。
魔物はそのまま焼き尽くされ跡形もなく消えていった。
爆炎が放たれた所には、池宮さんがいた。池宮さんは急いで私達の元に駆けつける。
「おい、夕張!しっかりせぇや!!」
傷だらけの私を、池宮さんは激しくゆする。しかし、傷を再確認すると、ゆすることをやめ
治癒術を唱えだす。半分ほどの傷はそれで回復したものの、池宮さんの治癒術では全快
することはままならなかったらしく、まだ出血は止まらない。
「チッ、アホォ!無茶しやがって!!」
そうやって私に向かって怒鳴ってくる。聞こえてるんだけど、返事する気力もないの、ごめんね。
池宮さんは怒鳴りながらも、服を脱ぎ、傷口に当てる。傷口が開かないように気をつけながら
私を負ぶった。そして、視線を少女達に変える。
「そっちが雪風やな?」
「う、うん・・・」
おどおどとしながら茶髪の少女、雪風が頷く。
「んじゃ、そっちの子が雪風のお友達ってことか」
「そ、そうだよ・・・」
こちらも少しおどおどとしている。池宮さんが怒鳴ったから怖がらせちゃったのかな。
「とりあえず、ここは危ないわ。とりあえず安全なとこまでいこか」
こっちや、と池宮さんが手招きをする。それに少女達もついていく。
公園を降り、国道26号線まで出てくると、来た道を戻っていった。
「あ、あの・・・」
「なんや?」
「家、近くなの・・・」
怖がりながらも俺の袖を引っ張りながら、人間の少女は細い路地を指差す。
「分かった。お母ちゃんが心配してるやろしな」
「ありがとう・・・」
泣くのを我慢しているのだろうか、少し涙声になっている。隣にいる雪風も若干涙ぐんでいる。
「これからは、夜遅くまで外出歩いたらあかんで」
「うん、うん・・・」
少女達は二度頷く。俺はそれ以上怒鳴らないことにした。
「みゆ!あぁ、みゆぅうう!!!!」
「おかあさああああん!!!」
人間の少女、みゆちゃんはお母さんと会えて安堵したのか、号泣しながらお母さんに抱きついた。
お母さんのほうも泣いており、力強く娘を抱いていた。
「怪我してないかい?何処も痛くないかい?」
「うん!大丈夫だよ!」
よかったよかった、と娘の背中を叩く。
そして、視線は俺に変わる。
「本当に・・・本当にありがとうございました!!」
過剰にお辞儀をしてくるお母さん。俺は首を振る。
「いえ、俺がみゆちゃんを助けたんちゃうんで」
「後ろにおる、寝取るお姉ちゃんが頑張ってくれたお陰です」
「えっと・・・」
「今はちょっと疲れて寝とるんです、すんません」
傷だらけでくたびれた夕張。幸い、といえばいいのか、外は暗くて彼女の
状態はよく見えなかった。
「いえ、でも、その子にもまたお礼がしたいので、住まいを教えてくれませんか?」
ポケットから携帯電話を取り出し、メモを取ろうとするお母さん。
俺は出来るだけ完結に説明しようとした。
「舞鶴鎮守府です」
とりあえずそれだけを言うと、お母さんは少し納得したような表情を浮かべた。
「鎮守府の方でしたか・・・」
「この子の名前は《夕張》。たぶん門の人にその名前と用件を言ったら来てくれると思うで」
必要最低限の情報だけ、お母さんに教える。それが良かったのか、お母さんも
考える時間は短かった。
「はい、ではまた改めてお伺いさせていただきますね」
また再度お辞儀をした。みゆちゃんも頭を下げている。
「んじゃ、おやすみなさい。みゆちゃんもおやすみ」
俺は軽く手を振る。みゆちゃんも無言で手を振ってくれた。雪風も小さく手を振っていた。
六月五日(金)深夜零時半。
舞鶴鎮守府に帰投した。警備兵に敬礼をし、中に入る。
とりあえず夕張の状態が気になるので、すぐに治療室へ連れて行った。
幸い艦娘も診ることの出来る医者は在室していたため、すぐに処置をしてもらった。
命に別状はなく、出血による貧血、打撲程度の怪我で済んだようだ。
艦娘といっても、女の子であるため、処置中は俺は外に出ていた。
そして、隣でずっと俺の服の袖を握り締めていた雪風に言葉をかける。
「提督の所に戻ろっか」
そう雪風に言う。表情は曇っているが、静かに頷いた。
「あの提督さん、すっげぇ心配しとったから、ちゃんと謝っとくんやで」
「・・・・・・」
雪風はまた静かに頷く。俺は執務棟にある、あの提督の部屋に向かった。
一応名前は聞いていたため、場所は把握できた。
「帰ってきたで~沖園提督~~」
俺は勢いよく扉を開ける。入るとずっと同じところを行き来していた。
落ち着きねぇな。よっぽど心配していたんだな。
そして、俺と雪風が入ってくると、表情が一気に変わる。
「ゆ、雪風・・・雪風なのか?」
「は、はい・・・ただいま、司令官・・・」
一時の静寂が訪れ、提督と雪風は同時に号泣しだした。
「「うわぁぁぁぁあああああん!!!」」
そして抱き合っていた。両方貯まっていたものが爆発したんだろう。
まぁ、よかったよかった。これもあの勇気ある女戦士のお陰ってか。
そして、いつの間にか俺の隣には浜風がいた。
俺のほうに身体を向け、深く礼をする。
「雪風ちゃんを助けてくれて・・・本当にありがとうございました」
心を込めた一言。その誠意は俺にも伝わってきた。
「ええよ、でもその言葉、夕張に伝えとき」
「夕張さん・・・にですか?」
浜風はそういや、夕張さんは?と小声で言う。
「あいつが身体張って守ったんや。お陰で身体はぼろぼろやけどな」
「えっ!?夕張さんが・・・!」
「す、すぐ診に行ってきます!!」
浜風は慌てて駆け出す。その後姿を見て俺はくすくすと笑った。
「真面目で心配性やなぁ、あの子も」
だが、自分のあのときの慌てっぷりを思い出す。そう考えると少し顔が赤くなる。
「まぁ、俺も人のことは言われへんか」
恥ずかしくなって頭を掻く。そこの二人はずっと泣いてるし、治療室に戻るか。
そろそろ治療も終わってるだろ。
でも・・・
「あの時の稲妻・・・雷の魔導術やった」
疑問だ。魔導術は確かに誰でも使えるが、特殊な訓練をしないと扱えないはずだ。
魔導術に関しては、まだ潜在属性についても彼女に話していない。
だが、確かに彼女は雷の魔導術を扱った。あのウルフのリーダーを一撃で倒せるような
強力な魔導術を。
「お陰で、あいつの身体ぼろぼろやけどな」
俺は思わずため息をこぼす。世の中には不思議なことが一杯だ。俺はそう、つくづく思った。
「帰ってきたっぽいよ~」
「おう、モニタリングお疲れ様」
池宮の部屋でノートパソコンのキーボードが叩かれる音が響いている。
それを操作しているのは、望月だ。そして、隣にいるのは飯田。
「地上での戦闘力は想像以上だね~、夕張さんもあれだけの戦闘力を持っていたなんて」
「あいつのスパルタは伊達じゃなかったってことだな」
げらげらと笑っている飯田。笑い声からはきついアルコール臭が放たれている。
「ちょっと酒臭いよ~」
「たまにはいいだろ、たまには~」
酒の瓶がちゃぶ台の上に大量に置かれている。結構な量を飲んでいるようだ。
「そういや、そろそろか?新しい艦娘が建造されるってのは」
「そうだね、たぶんうちの艦隊に配属になると思うよ」
艦娘の情報がリストアップされたファイルを望月は開き、それを見て呟いている。
「ここいらでそろそろ、あの谷岡の野郎に差をつけておかねぇとな」
不適な笑みを浮かべる飯田。新しく建造される艦娘と思われるデータには・・・
駆逐艦《弥生》の文字が書かれていた。
どうも、またスローペースです。ですが今回は約15000文字ほど書いたのでゆっくり楽しんでください。
個人的にはまだまだ全然進んでいません。このままだと400話ぐらいまでいっても終わらないんじゃないかなって思うほどです。
やっとのことで夕張が地上で戦えるようになりました。彼女の成長にもご期待ください。海上戦はもうちょっと待ってね。
お気に入り登録ありがとうございます!感想などもどんどん待っていますのでどしどしどうぞ!!どうでもいい話でも真面目に返事しますww