Demon's Stella ~悪魔の彗星~   作:Hershel

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設定紹介


魔物避け

種類として灯り、煙などの手段がある。これらは魔物を近づけさせない力を持ち
力のないものの自衛として重宝する。が、かなり高価で、一部のお金持ちしか有してない。
鎮守府の門には、魔物避けの外灯が取り付けられており、それがあるおかげで
夜になっても魔物が鎮守府に寄ってこない。ちなみに鎮守府の魔物避け外灯は国から提供
されている。実際に買えば計り知れないほど高いらしい。


静かな月は闇に混じりて
第十八話 教科書通りに


真っ暗。

何も見えない。

あの後、どうなったんだろう。

 

思えば不思議なことがたくさん起こった。

目を開ければ

見知らぬ光景

見知らぬ世界

見知らぬ女性

そして

何故か私に向かって

激励をしてくれて

魔物にがむしゃらに立ち向かった気がする。

 

今何時なんだろう。

今何処に居るんだろう。

いや、もしかしたらこの世に居ないことも。

目を開けようかな。

目を開けたら一気に現実が広がる。

でも、まだ少しこの

幻想の世界にいてても・・・いいかな・・・。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「起きろやゴルァァァアアアアアア!!!」

 

「わぁぁぁあああああああっ!!!」

 

私は飛び起きた。今の怒鳴り声・・・池宮さんの声で目もぱっちり開く。

少し混乱しながらも、私は辺りを見渡す。

ここは・・・鎮守府の治療室だ。

時計は・・・午前7時半。日にちは・・・六月六日(土)。

あ、丸一日寝ていたんだ。

少しだけぼーっとしていたら、横から人影が飛び込んできた。

 

「夕張さん!よかった!目が覚めたんですね!!」

 

身体を寄せ付けてくる少女。あ、この髪の毛は・・・

 

「は、浜風ちゃん・・・」

 

ちょっと苦しい。でも、すごく心配をかけていたようだ。

なんだか少し申し訳ない気持ちが積もってくる。

 

「よかったです・・・昨日ずっと目が覚めなかったので・・・」

「こいつ、ずっとお前のこと見てくれてたんやで?」

 

池宮さんが前に出てきた。

 

「い、いえ・・・私は今は艦娘として活動していないので手が空いてるので。

それに、雪風ちゃんが戻ってきてくれたのは、夕張さんたちのお陰ですし・・・

これぐらいはしないと」

 

浜風ちゃんは胸に手を当ててそう語る。ちょっと気分がいいわね。

 

「身体自体はもう大丈夫や。起きれば動いてもいいらしいで」

 

そう池宮さんから言われると、腕を振り回してみる。

本当だ、なんともない。出血していた箇所も殆ど治っている。

包帯が巻かれているものの、無理をしなければ傷口が開くことはなさそうだ。

 

「今日はお前の仕事は休みや。休みの日は好きなように過ごしたらええわ」

 

そう言って池宮さんは出て行った。

あ、そういえば・・・

 

「何で池宮さん、今日この時間に怒鳴ったんだろ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午前九時。仕事が始まる前、俺は一つの噂話を耳にした。

 

「なぁなぁ池宮、知ってるか?」

「何がやねん」

 

仕事は鎮守府内の巡回。主に外回りだ。

配属が一緒になった憲兵との会話でそう切り出される。

 

「今日、新しい艦娘が着任するらしいぞ」

「へぇ」

 

新しい着任か。どうせ、違う鎮守府からの配属だろ。

そういう話は縁がなかったころから割りと聞くことが多かったから別に驚きもしない。

 

「だがな、今回は一味違うぜ」

 

隣の憲兵が誇らしげに言う。お前が誇るな。

 

「なんと!新しい艦娘が《建造》されるそうだ!!」

「・・・ま・・・」

 

俺はその言葉を聞いて口を大きく開く。そして

 

「まじでえええええええ!!!!???」

 

つい大声を上げてしまう。周りは俺のほうに見向き、隣の憲兵は耳を塞いで縮こまる。

小声で小言が聞こえてきた気がするが別に俺は気にしない。

 

「ってあれ!?確か親方から聞いた話じゃ・・・」

 

暫くは資材の関係で建造は出来ないって聞いてたのに、たった一ヶ月で建造が

出来るほどの大量の資材が確保できたってことか?

まぁ、そこらへんは俺も素人だし、どうこう言える立場ではないけどな。

 

「後で問い詰めなあかんな・・・」

「何ぶつぶつ言ってるんだ?」

 

 

 

 

午前十時。辺りの空気が変わった。

 

「ん?」

「何や何や」

 

俺達は巡回中に立ち止まった。少し先から見えるのは、白銀の軍服を身に纏った

男達。察するに、この鎮守府の上層部の提督達ってところか。

その提督達数人に囲まれた、軍服姿の少女。

彼女は淡い紫の髪、小さな身体に、三日月の髪留めをつけて、何故かへそが出ている。

不思議な雰囲気を出す少女であり、その雰囲気に隣の憲兵は魅了され

敬礼をしながら固まっていた。

だが、普通の憲兵なら艦娘は雲の上の存在のようだから、これが普通の反応なのかな。

ここの規則に習って、俺も彼らに敬礼をする。先頭に居た中年の提督が満足そうに

首を縦に振っていた。

そして、少女は、こちらを通るときに一言呟いた。

 

「あ、気を使わないでくれていい・・・です」

 

表情は一つも変えず、そう言ってそのまま提督達と一緒に執務棟の中に入っていった。

 

「・・・なんだ、あいつ」

 

えらく低姿勢な艦娘だったな。ああいうのは初めてだ。

 

 

 

 

正午。昼食時間だ。配属が一緒だった憲兵と二人隣同士で昼食を食べている。

 

「それにしてもよ、あの子が新しい艦娘かぁ。なんかやけに小さい子だったな」

「駆逐艦やろな。軍艦にいくつか種類あるのは知ってると思うけど、その中

駆逐艦の艦娘は、見た目犯罪臭がするんやで」

「たしかに、アレは犯罪だな」

 

真面目なのか不真面目なのか分からないような内容の話をしている俺達。

そこに、向かいの席に二人腰掛けてきた。

 

「知りたいっすか?知りたいっすか!!??」

 

いつも通りのテンションで絡んでくるこの糞餓鬼・・・小室提督。

と、隣にいるのは・・・

 

「どうも、池宮憲兵」

 

加賀さんだ。おいおい、艦娘が憲兵食堂に来るってどういう風の吹き回しだ。

だからいつも以上に辺りが静まってるってことか。

この糞餓鬼が来るのはもう皆慣れちまったけど、さすがに艦娘が来るのは少々堪えるだろうな。

 

「あのな、お前らさすがに艦娘連れてくるのはやな」

「ちゃんと許可はもらったっす!」

「んなこと言っとるんちゃうわボケ」

 

俺は小室の頭を引っぱたく。ぐはぁ!と吐血するような勢いでリアクションする。

こいつなんでそんなにオーバーなんだよ。

 

「すみません。日向が今日はどうしても一人で食べたい、と仰るので」

「何やねん、他にお前友達おらんのかいな」

「いません」

 

きっぱり言われた。俺の表情がどんよりと歪む。そう言われるとちょっと俺も返答し辛い。

 

「なので、今回はここで食事を取らせていただきます」

「あー、はいはい。好きにせぇや」

 

俺はもう諦め口調でその場を乗り切る。そして、隣で固まっている憲兵の背中を叩く。

 

「いでっ!」

「うどん伸びるで」

 

そう言って俺は目の前にある親子丼に手を付け始めた。隣の憲兵は慌てるように

うどんを勢いよく流し込むようにして食べる。

 

小室達も料理を席まで持ってくると、俺は話を再開した。

 

「んで、教えてくれや。新しい艦娘のこと」

 

小室はカレーをすくい上げ、口を運んで飲み込むと、待ってました!というような

表情をしてこちらを見てきた。

 

「提督、ルーが頬についていますよ」

 

隣にいた加賀さんが自前のナプキンで小室の頬についた汚れをふき取る。ほんとに餓鬼だな。

 

「ありがとう、加賀さん」

 

そう言われると、加賀さんはこくりと頷いていた。

そして、小室は話を再開する。

 

「本日午前九時二十八分、我が舞鶴鎮守府に新しく建造され、着任した艦娘は、

睦月型駆逐艦 三番艦の《弥生(やよい)》っす」

 

弥生・・・か。睦月型ねぇ。とか言われてもあまりピンと来ないけど。

とりあえず分かったのは、あの子の名前が弥生、っていうことだけだ。

 

「んで?後は何か情報はないんかいな」

「もちろんあるんっすけど・・・」

 

小室は言葉を濁らせる。隣にいた加賀さんが変わりに口を開く。

 

「彼女が配属された艦隊なのですが・・・幾分謎の多い提督でして」

「というと・・・?」

 

俺が少しだけ机を乗り上げて加賀さんの話を聞く。

 

「どの艦隊に配属されたのか、分からない状況なんです。運用方針も公表されておらず

どうしたいのかも私達にも分からないんです」

「というか、配属先の提督の名前が、黒く塗りつぶされてるんっすよね。

多分上層部の方でしか知られていないらしいっす。知り合いの提督にも聞いたんっす

けど・・・全員はずれだったっす」

 

へぇ・・・。つまり、新しく配属された場所は、この鎮守府でも謎の多い提督で

その使い道もまるで分かっていない。謎の多い艦娘だ。

 

「ごっそさん」

「あ、俺もごちそうさん」

 

俺と隣の憲兵は食べ終わり、立ち上がる。

 

「俺らは仕事もあるしもう行くけど、あんま目立ちすぎんといてや」

「わかってるっす!仕事がんばれっす!」

 

立ち上がって手をぶんぶん振ってくる小室。

もう目立ってるからこれ以上言っても無駄な気がするけどな。

 

「な、なんか冷たい艦娘だったな。あの子とも知り合いなのか?」

「せやな。ぶん殴った艦娘の一人や」

「あ、マジか」

 

あんなに綺麗な人を!と言ったような顔で俺のことを睨んできている気がしたが

気にしない方向で行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったぁぁああ!!」

 

午後六時。夕暮れになる頃、今日の仕事はこれで終了だ。

他の憲兵とは別れ、俺は帰り際に工廠を訪ねた。

 

「おぉ、広樹か」

 

工廠で働く中年のおっさんに話しかけられる。何やら忙しそうにしている。

 

「艤装の整備かいな」

「そうだ。今日新しい艦娘が着任しただろ?艤装の方も抜かりなく点検をな」

 

ということは、これは弥生の艤装ってことか。ということは・・・

 

「・・・・・・」

 

工廠のコンテナの物陰から顔だけ覗かせている少女が一人。

朝見かけた姿だ。やっぱり自分の艤装点検には顔を出しているか。

 

「えっと・・・」

「悪いな、今は勤務外やから敬礼とかせーへんねん」

「そう、ですか」

 

無表情でそう言う。何だろう、ちょっと怒らせちゃったのかな。

 

「んじゃ、俺は親方に用あるから」

「おう、親方は上にいるぞ」

「センキュ」

 

俺はおっさんに軽く手を振って、隠れている弥生にも手を振った。

彼女はこちらを見つめ、こくんと頷いていた。

 

 

 

 

 

 

「親方ァァァァアアアア!!」

「なんじゃぁぁぁああああ!!!」

 

小さな部屋に大きな声が響き渡る。多分工廠中に響いてるんじゃないかな。

 

 

 

 

「ヒッ」

「あぁ、気にしないで、いつものことだから」

 

弥生はその怒鳴り声に驚き悲鳴を上げていた。

 

 

 

 

 

「んだよ!暫くは艦娘の建造は無いって聞いてたのに!」

 

俺は疑問を直球でぶつけた。いつも通り怒鳴られると構えていたが、親方は渋い顔をしていた。

 

「それがじゃの・・・」

 

少し言いづらそうに口をもごもごさせている。

 

「何やねん、んな言いづらいことなんかいな」

 

そう俺が煽っていると、親方は口を開く。

 

「急にじゃな、大量の資材が届いたんじゃ。しかも、三日にかけてな」

「ふむ」

 

大量の資材な。最近資材が潤ったって話は聞いたけど、それは結構前の話にもなるな。

その程度では驚かない。だが、何故こんなにも早く建造が終わり、真新しい艦娘が

着任したのか。ということだ。

 

「さらに、彼女も届いた。しかも建造途中でじゃ」

「建造途中やて!?」

 

な、なんじゃそりゃ!そんなの聞いたこと無いぞ・・・。

というか、建造途中の艦娘って、どんな感じで送られて来るんだ・・・。

 

「うむ、送り先は横須賀になっておったが、そんなものが送られてくるなんぞ

わしも聞いておらんかったんじゃ」

 

横須賀鎮守府からか。横須賀は関東地方にある神奈川県の横須賀にある鎮守府だ。

規模だけで言えば舞鶴より巨大らしく、向こうにもたくさんの艦娘や提督達が居るらしい。

だが、横須賀で建造していたであろう艦娘を、何故こっちに送る必要があったのか。

いや、そうじゃなくて・・・。

 

「どうやって、そういう方向に持っていったんか・・・」

「それなんじゃが」

 

どうやら、親方は思い当たる節があるようだ。

 

「弥生の配属先の提督・・・あの謎の提督が手を回したようなんじゃ」

「は?」

 

まじかよ、そんなでっけぇこと出来る提督がいるってのか。

そんなことできそうなのって、谷岡提督ぐらいだと思ってたけど、他にもいるんだな。

できるならその謎の提督ってやつの顔を拝んでみたい。

 

「こちらの戦力アップも考えてのこともあるじゃろうがな。

まぁ十中八九、この大量の資材も奴の仕業じゃろ」

 

そんな力を持ってるような奴なら、どうして表部隊で活動をしないんだろうな。

裏で活動する必要性か何かがあるんだろうか。

・・・ということを、今考えても仕方ないか。

 

「とりあえず、俺の疑問はある程度解消したわ」

「そりゃよかったのう」

 

がっはっは、と親方は高らかに笑う。

 

「んじゃ、夜の仕事もあるし、俺そろそろ寝るわ」

「おう、ゆっくり休むがいい」

 

俺はそう言って、工廠を後にする。1階に下りて出て行こうとしていたときも

物陰に隠れていた弥生が、俺のことを見ていた気がする。

・・・あれ?なんかこの台詞変人っぽくないか?いや、ナルシストっぽいかも・・・。

今日の反省点だ。後で一杯このことについて考えることにして。

と、どうでもいいことを考えていると、俺の方に向かって駆け足で寄ってくる人がいた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・池宮憲兵!池宮憲兵!!」

 

息を荒げて、その場で呼吸を整える男。この人は・・・

 

「警備員の兄ちゃんやないか」

 

そう、いつも夜の仕事で門の警備をしている警備員の人だ。

この人達はここの人間ではなく、国から派遣されている人間であるが、俺とも

分け隔てなく接してくれている。

と、そういう概要は置いておいて、俺はどうした、と尋ねる。

 

「そ、それが・・・」

 

警備員は大きく深呼吸をする。そして、口を開け

 

「鎮守府前に、魔物が攻め込んできてるんだ」

「は!!??」

 

予想外の言葉が出て来た。魔物が現れた?鎮守府の入り口には、魔物避け用の外灯が設置

されているはず。アレがあれば魔物はこの近辺に近寄ることが出来ないはず。

 

「外灯が何者かによって壊されていたんだ。私達はその異変に気づいて

外灯の修理を外部に依頼しようとしたんだが・・・」

「修理が終わる前に、魔物が攻め込んできた、ってわけや」

 

俺は腕を組んで仁王立ちする。しかし、不可解なこともある。

 

「まだ夕方やんけ。こんな時間に魔物が活発になっとるなんて・・・」

 

それが不思議で堪らなかった。日中は人里には来ない魔物。だが、夕方といえども

まだ日中。それが気にかかって堪らなかった。が、今は現状を何とかしないと。

 

「兄ちゃんは鎮守府内の人間、艦娘の安全確保頼むわ。執務棟でも寮でも何でもいいから

危険やからって一旦出られへんようにしたってくれ」

「分かった!」

「俺はすぐ現場向かうわ!頼んだで!」

「気をつけてくれよ!」

 

俺はそう話を進めると、蛇矛を構え、走って門へ急ぐ。

途中で夕張が軍服のまま、デュアルウェポンを構えてながら走ってる

姿が見えた。夕張は俺の姿を見てこちらに振り向く。

 

「池宮さん!!」

「夕張!」

「騒ぎが起こってたので駆けつけたんだけど・・・これは・・・」

 

夕張はよく状況を把握できていないが、鎮守府の空気の代わり具合で

その事態の深刻さを感じ取っていた。

 

「浜風ちゃんには池宮さんの部屋に待機してもらってます。

さっきまでは一緒にいたのですが、連れてくると危険なので」

「賢明な判断や」

 

少し夕張が照れていて、全速力で門まで走り抜ける。

俺たちが丁度正門が見え、到着しかけたとき・・・・

 

 

    ドンガラガッシャァァァン!!

 

 

門が破壊された。数十匹の魔物の群れが、飢えを示すように唾液を垂れ流しながら

ゆっくりとこちら側へ寄ってくる。

 

「なんやこれ!めっちゃ多いやんけ!!」

「この前の狼型魔物や魚型魔物・・・ミニドラゴンもいる!」

 

そう、群れは種族が統率できていない。不可解な点だ。

魔物と言っても今の論の結果としては、生き物としての知能を有している。

別の種族とは群れて行動することは稀で、ましてやこのような大群で行動するなんて

言語道断。この現象、今考えられる答えとしては、実に不可解すぎる。

 

「やけど、やるしかないで」

「二人でいけるのかな・・・」

「やるしかないんや、気合いれーや、夕張!」

「はい!」

 

俺は蛇矛を構える。夕張も武器を剣に変形させ、構える。

その構えを見た瞬間、第一波の魔物が襲いかかってくる。

 

「燃えよ、我が闘士!!」

 

俺はエンチャントルーン:イグニスを発動する。炎の力を宿し、矛先に陽炎を宿す。

槍を一振りすると、その軌道に沿って、炎が巻き起こり、近づいてきた魔物を焼き尽くしていく。

 

「群れ相手にするんは得意やで!」

 

炎の魔導術も駆使しながら、確実に魔物の群れを削っていく。

夕張の方も5体ほどの魔物が一斉に襲い掛かってくる。

そして、彼女は目を瞑る。神経を研ぎ澄ましている。

魔物の爪が彼女に襲い掛かる・・・そのとき。

 

    シュッ・・・

 

魔物の爪は空を切る。夕張は消えた。

魔物たちは彼女を見失ったことで周囲を見渡している。

そうしているうちに、稲妻が地を走る。走った軌道に沿って斬撃が繰り出され

魔物の肉を高速で引き裂いていく。

そして、全ての魔物を捕らえると、彼女は姿を現わす。

剣を素振りすると、襲い掛かってきた魔物は、血しぶきを上げ、跡形も無く消えていった。

 

「秘剣・《雷洸斬(らいこうざん)》!」

 

彼女は自己流の剣技を編み出していた。あの事件から、彼女の能力は向上しており

剣技にも磨きがかかったようだ。今日の休みの時間を剣に使っていたんだろうな。

夕張は一呼吸置く。そして、また魔物の群れを睨む。

 

「やるやんけ、夕張」

「うん・・・でも、まだあんなに」

 

魔物の群れは衰えない。どんどんと鎮守府の内部へ侵入しようとしてくる。

さすがにこれ全部を相手にしているとキリがない。

 

「でも、倒れたら鎮守府がどうなるかわからんで・・・」

「そうね・・・」

 

そう少し弱気になっている中、俺と夕張の間を、一本の矢が飛んで来る。

その矢は魔物の群れに着弾すると、小爆発を起こす。爆発に巻き込まれた魔物は

跡形も無く消えていった。

 

「お、頼もしい助っ人の登場やな」

「加賀さん!!」

 

後方やら矢を放ったのは、加賀さんだった。白兵戦用の弓を背負って

駆けつけてきてくれたようだ。

 

「後ろからの支援はお任せください」

「頼むわ!」

 

俺は今度は自分から魔物の群れに突撃する。飛び上がって魔物の群れに槍を突き刺す。

その周りに爆炎が巻き起こり、魔物を一掃していく。

 

「一装填・雷鳴!」

 

夕張は銃に切り替え、雷の魔導術を組み込んだ銃弾を放ち、落雷で魔物を消し飛ばしていく。

地道にではあるものの、確実に魔物の数が減っていく。

そう順調に事が進んでいく・・・そうなるはずだったが。

 

「半分ぐらい倒したんちゃうか?」

「もう一息ですね」

「よぉし、このまま一気に・・・」

 

と、夕張が一喝しようとしたとき・・・。

 

「・・・・・・」

 

門近くの側道から、一人の艦娘が現れた。あの子は・・・

 

「は!?弥生!!??」

「なっ!!」

 

俺と加賀さんは驚きのあまり叫んでしまう。夕張も驚いていたが、頭の上に

はてなマークを浮かべているような表情だ。

 

「あいつ、何してるねん!!おい!!弥生!!!」

 

弥生と魔物の距離はごくわずか。

俺は急いで彼女の元に駆け寄る。だが、魔物たちも弥生の姿を見て襲い掛かろうとする。

距離としては確実に魔物のほうが近い。

 

「駄目・・・弓じゃ間に合わないっ!!」

「池宮さん!!!」

 

俺は死ぬ気で走り出す。エンチャントルーンの切り替えも走りながら行う。

 

「風よ、我が力となれ!!」

 

風のエンチャントルーン:フラブラを発動し、一気に移動速度を上げる。

人型魔物が弥生の目の前にまで来る。そして、獲物である武器を振り上げる。

弥生は、その姿をじーっと見つめている。表情を何一つ変えずに。

 

「・・・・・・」

 

そして、武器を振り下ろす魔物。

 

「っ!!」

 

夕張と加賀さんは目を瞑って祈るようにする。

そして、俺は・・・

 

「っ・・・んのおおおおおっ!!!」

 

何とか間に合った。彼女をすぐに抱きかかえ、そのまま滑りながらこけていく。

魔物の獲物は空を切り、地を砕く。

煙が巻き起こる中、俺と弥生は咳き込んでいる。

だが、魔物の追撃は終わらない。次の攻撃が飛んでこようとしてくる。

なんとか立ち上がって避けようとするが、間に合わない。

俺は弥生を庇うようにして抱き寄せた。

 

    ズドォォオオオオオン!!!

 

そうしていると、魔物は謎の爆撃によって粉々に砕かれた。

爆風で煙も晴れ、弾道を辿っていくと、見知った姿がなにやら大きなものを背負っている

姿が見えた。

 

「遅れたね」

「はぁぁ・・・」

 

日向だ。彼女が背負っているのは・・・自分の体長を超えるような巨大な

ロケットランチャーだ。その豪快な姿を見て、夕張は口を大きく開いて見つめている。

加賀さんもかなり驚いているようで、汗が流れている。

 

「だいぶ減らしてくれたみたいだね。前は私に任せてくれ」

「えっ?」

 

夕張が声を漏らしていると、日向は巨大なロケットランチャーを背負いながら前へ走り出す。

それを見て魔物の群れが日向に向かって駆け出す。それを迎え撃つかのように、

 

「はぁぁああああっ!!!」

 

ロケットランチャーを豪快に振り回した。鈍い音が魔物の数だけ響き

地面に叩きつけられた魔物達は地面に消えていった。

 

「む、無茶苦茶ね・・・」

「ま、あの子らしいと言えばあの子らしいけど」

 

夕張は驚きを隠せず、加賀さんはなんとなく納得しているようだ。

 

「さて、日向ばっかり目立たせては駄目よ。私達も」

「そ、そうですね!」

 

夕張と加賀さんは武器を構え、遠距離から応戦していく。日向の参戦により

魔物の群れの勢いはどんどん衰えていった。

 

 

 

 

 

彼女達が魔物の処理をしている間、俺と弥生は何とか工廠の近くまで逃げてきた。

 

「ここまで来れば安全やな」

 

そう言って俺は汗をぬぐう。擦り傷がいくつかあるが、その程度なら気にしない。

弥生の外傷を確認して、その後に俺は怒鳴る。

 

「このアホタレェェエエ!!何ちょろちょろ外出とるんや!!」

 

弥生はその言葉に怯まずに無表情を保っている。

 

「・・・・・・」

 

言葉も何も返ってこない。こいつ・・・何も分かっていないのか?

 

「お前な、あのままやと魔物に殺されてたんやぞ?

もう一生歩くこともでけへんかったんやぞ?

こうやって話すこともでけへんかったんやぞ?

世界を見ることもでけへんかったんやぞ?

人に触れて、生きてるって感じることもでけへんかったんやぞ!?」

 

弥生は黙りとおしている。表情は微動だにしない。

 

「正直、お前のことはよくわからん。無表情で、何考えてるのかもわからん。

しかも返事すらしてくれへんし。典型的なコミュ障や」

 

腕を組んで言葉を並べていって発言していく。感情的に話しているため、

表情もかなり硬くなっている気がする。

 

「やけどな」

 

俺は、しゃがんで弥生と視線を合わせる。そして、彼女の肩をグッと力を込めて掴む。

 

「そんなお前でも、大切な命やねん。もっと、大事にするってことが、考えられへんかな」

 

彼女の目を真っ直ぐ見る。だが、彼女の目は・・・虚ろだった。

 

「・・・使い捨てですから」

「は?」

 

そして、その虚ろな目をした艦娘からは、乾いた言葉が飛んできた。

俺は何を言っているんだ、というような顔をする。今、何言った?

 

「私は・・・使い捨てです、から」

 

ぼそっ、と呟いて、目をそらした。使い捨てだと・・・。そんな言葉が・・・どうして。

 

「おい」

「・・・?」

 

弥生がまたこちらを向いてくる。そして俺は、

 

    ムニィィイッ

 

「ふがほがぁ」

 

弥生の頬をつねった。なんとなくむかついたんでいろいろなところに引き伸ばしてやった。

ある程度楽しんだら、ぱちん、と手放した。

不快なのだろうか、少しむくれている気がした。

 

「悪い口にはお仕置きや」

「・・・・・・」

 

俺のことを睨む弥生。そして、俺は言葉を続ける。

 

「使い捨てってほんま笑われへん冗談やな。どうやったらそういう考えが出たか

わからんけど、それは間違ってるな」

 

俺は、彼女の顔を掴んで、こっちに目を向けさせる。

 

「ええか?俺は池宮広樹。憲兵やってるんや」

「憲兵・・・?」

 

こいつ、憲兵を知らないのか。

 

「あー・・・この鎮守府の平和を守る・・・一般兵士やな」

「なんか、微妙に格好悪いです・・・」

 

まぁ実際はそんなかっこいい仕事でもないからこの反応が妥当なんだがな。

 

「んで、ちょっと訳有りで、今一人の艦娘と一緒に活動してるんや」

「えっ?」

 

弥生はその言葉を聞いて驚いた。

 

「驚いたやろ?せやろな」

「艦娘は・・・提督の下、日ノ本の国のために力を奮い、貢献する・・・」

「せやな。普通はそうや」

 

その考えは正しい。教科書通りの答えといったところだ。

 

「やけどな」

 

俺はそういうことじゃないと言わんばかりに言葉を続ける。

 

「でも、あの子は艦娘やけど、俺と同じ道を歩むことを選んだんや。

艦娘としての生を生きながら、俺と同じように鎮守府の安全を守る仕事をしてるんや」

「・・・・・・」

 

弥生は深く考えている。

 

「分からんか。教科書には載ってない内容やからな」

「・・・・・・はい」

 

弥生は俺に顔を掴まれながらも頷く。

 

「だからな、俺が言いたいことは・・・」

 

う~ん、と明後日の方向を向いて考える。そして、結論を出す。

 

「教科書の模範解答で、物事を捉えてたら、損やで」

 

そういって、弥生の頭をわしゃわしゃと撫でる。少し乱暴なためか、弥生の頭が少し

揺れている。

弥生は撫でる手を押さえつけている。離してほしいのかしててほしいのかわからないが。

 

「俺はな、艦娘も同じ命やから、生きててほしいねん」

「・・・・・・」

 

俺のことを見つめる弥生。その弥生を見て、軽く頭を叩く。

 

「あっ」

 

思わず声を漏らす弥生。そして、彼女を引きつれ、俺は工廠を訪ねる。

 

「弥生ちゃん!よかった、無事だったんだね!」

 

工廠のおっさんがすぐに出迎えてくれた。

 

「・・・ごめんなさい」

 

弥生はそのまま謝った。だが、おっさんは笑顔を絶やさなかった。

 

「いいんだよ、君が無事でよかった」

 

もうここは大丈夫だろ。俺はその場から離れる。

 

「あっ・・・!」

 

弥生は俺を呼び止めるように声を上げる。俺は一度止まり、振り返る。

 

「え、えっと・・・」

 

弥生は口をもごもごしている。頭をフル回転させているのか、頭を抱えている。

そして、答えが出たようで口を開いた。

 

「い、池宮憲兵・・・さん」

「ん?」

 

俺は言葉を待った。

 

「ま・・・また・・・」

 

言葉が詰まっている、あと一息だ。数秒後に、空気が変わる。

 

「また・・・お話して、ください」

 

顔が少し火照っている。初めて彼女が表情を見せた瞬間だった。

俺はその表情を見て、内心満足していた。

 

「おう、またな」

 

俺はもう振り返らず、駆け足で門まで走っていった。

弥生はその姿を、工廠の中からずっと見続けていた。

 

 

 

 

 

 

門へ戻ると、魔物たちは全て討伐されていた。

 

「すまんな、日向。ほんま助かったわ」

 

俺は日向の下へ駆けつけた。日向は汗を拭き、軽く微笑んでいる。

 

「いや、君の役に立てたようなら何よりだよ」

 

そして、次に目をやったのは、背負っている巨大な武器だ。

 

「・・・で、なんやそれ」

「ロケットランチャーだ」

「分かっとるわ」

 

俺が突っ込む。だが、それは何処で手に入れたんだということだ。

 

「親方が私のためにひそかに作ってくれていたようだ。砲弾が装填可能で

艤装と違って燃料を必要としないため、非常にエコ設計というわけだ」

 

少し楽しそうに武器の説明をしている日向。

 

「打撃での攻撃も考えたため、先端には硬度の高い鉱石を使用しているらしい。

お陰で、近接戦でも立ち回れる」

「いや、そんなクソでかい武器を振り回すってほんまどないなってんねん」

 

俺は日向が恐ろしい女だと、改めて認識した。

 

「だが、難点としては少々重い」

「少々じゃねぇだろ」

 

殆ど鉄の塊を片手で持ち上げているが、絶対に重い。俺ですらもてるかどうかも怪しい。

イグニスを使えばいけるかもな。

 

「あと、加賀さんもセンキュ」

「お気になさらず。これも私の意志ですから」

 

加賀さんもずっと戦っていてくれたようだ。後方支援だったため、傷は一つもなかった。

 

「夕張も、ありがとな」

「えへへっ、どういたしまして」

 

少し照れながら武器を収納する夕張。そして、魔物避けである外灯を俺は見る。

 

「これが壊れてるんやな」

「誰か日中に壊したのでしょうか」

「わからんけど、とりあえず修理やな」

「修理は業者さんか何かに頼むんじゃないの?」

「せやな、俺らがやることはなさそうや」

 

そう思い、俺達は外灯が直るまで門の警備にあたった。幸いあれ以上に魔物が

現れることは無く、ギリギリ日没までに外灯が修理された。

 

 

 

 

今回はいろいろ日没にあったため、夜の仕事を休むことにし、長い睡眠に入った。

俺と夕張は疲れていたのか、戻ってきたら布団だけしき、すぐに就寝した。

睡魔が襲ってきて、俺達を夢の世界へいざなっていった。




10000文字また超えました。弥生ちゃんの話はもうちょっと続くんじゃよ。
試験期間に入りますんでもう少ししたらさらにペース落ちると思います。ご了承ください。

お気に入り36件ありがとうございました!感想などございましたらどしどしどうぞ!!

6/30 一部修正しました。大変ご迷惑をおかけしました。
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