Demon's Stella ~悪魔の彗星~ 作:Hershel
夕張(ゆうばり)
性別:女 身長:158cm 体重:49kg
軽巡洋艦。舞鶴鎮守府所属の氷室提督の艦隊へ着任した新米艦娘。
初めての舞鶴鎮守府で執務室がどこにあるか迷ってしまい、何故か池宮の憲兵寮の部屋の前に
高熱を出して座り込んでいた。
性格は他人には艦娘らしい誠実な性格。
身内には大らかで少々大雑把なところも目立つ。
普段は敬語を使うのがあまり得意では無いらしく、普段は無理に喋ろうとしない。
忠誠心が強く、信頼した人への信頼は厚い。
夜更かしをするタイプで、仕事以外ではいろいろなテレビ番組に没頭している。
人間の間で流行っているゲームやアニメにも精通している現代っ子。
窓の隙間から風が吹く。
鳥のさえずりが聞こえ、月光が窓越しに輝いて少々眩しい。
夜だ。
「んっ・・・」
俺は布団からゆっくり起きた。
夜だ。俺のもう一つの顔である、魔物討伐の時間だ。
寝巻きから普通の外出用の服に着替えた。
隣部屋の飯田も電気が消えているため、寝ているのだろう。
もしかしたらライトをつけて漫画を読んでる可能性もあるけど。
だが、まだいける!
俺はテレビをつけた。そして下に備え付けられているゲーム機の電源をつける。
「このゲーム中々終わらんねんなぁ」
コントローラーを手に、テレビゲームを始めだした。
ゲーム雑誌でも1ヶ月だけ2ページほどしか載らないようなマイナーなゲーム。
俺はそういう隠れた名作を探してプレイするのが大好きだ。
ビッグタイトルや雑誌やホームページなどで過剰に宣伝されて認知度が高いゲームなんて
ゲーマーなら誰もがやっている。そんな模範解答に沿ってプレイするのが半強制的な
ゲームなんて俺はお断りなのだ。
リアルタイムの出来事を短文で呟くSNSサイト、『トゥイッター』でも、そういった類のゲームは
すぐに誰かがネタバレを流して面白さが減少するしな。
こういったゲームをこっそりすることが楽しい。
あぁ、でもちょっとこの楽しさを誰かと共有したい。
そう思いながら俺はプレイ時間59:32というセーブデータを読み込んで、ゲームを進めていった。
「うお、ここはこういう展開になるんか!面白いなぁ」
今やっているゲームは、王道ストーリーを売りにしているRPGゲーム。
主人公はただの村人だったが、ヒロインである女の子に導かれて、世界の悪に立ち向かうっていう
なんともいえない王道すぎる話だ。それがレトロチックで面白い。
だが、ここ最近のRPGはビッグタイトル以外は売り上げが低迷状態。
スマートフォンが普及して、何でもかんでもRPGってつけてるつまらないスマホゲーが増えすぎて
呆れている人が増えているからだろうか。
正直そういったスマホゲーにRPGとかつけるのはやめてほしいものだ。
「何でこんな頭の中で愚痴ってんねん、俺」
電気も付けずに暗闇の中、テレビの明かりだけでゲームをプレイするこの時間。
これがこの舞鶴鎮守府で一番の楽しみである。
・・・良い子のみんなはテレビを見るときは、部屋を明るくして離れて見てね。
そうやってること小一時間。
午後11時。
仕事の時間になったので、ゲームを終了しテレビも消した。
一部の憲兵は消灯時間で、俺の回りの奴らも殆ど就寝している。
夜間に巡回してる憲兵達は、懐中電灯を持って外を徘徊する姿が窓越しから見える。
正門は国の公務員である警備員が配備されているが、中に関してはその人らの
管轄外だから、憲兵でないと活動できない。
そういう規則が決まってるんだけど、国が絡んでるだけあってここの重要さが見えてくるよな。
俺は壁にかけた槍を背に背負い、部屋を出た。
他の憲兵達を起こさないようにそーっと。
飯田の部屋にこっそり耳を済ませたら、ざわざわと人が喋る声。
テレビでも見ているのだろう。あまり夜更かししすぎるなよ。
俺が言えた事でもないが。
前回は谷岡提督の所に報告しに行ったけど、今回はその必要は無い。
この前の魔物討伐は、谷岡提督自身からの要請もあってのものだからだ。
谷岡提督も、俺が魔物討伐に一役買っていることは最近までは知らなかったらしい。
いや、正直ばれないようにしてたんだけど、段々この鎮守府にもそういう噂が流れていった。
誰がやっているとまではばれていないのが幸いか。
特にばれてもデメリットは無い気もするけど、メリットも無いからばれないに越したことは無い、うん。
そう頭の中でいろいろ考えながら正門へ向かって歩いていると・・・
一人の艦娘の姿が見えた。
「あれ、あいつ・・・」
俺がその影に気がつくと、相手も気がついた。
青をモチーフにした弓道着に月光に照らし出された黒髪サイドテール、昼間見た顔だ。
「こんばんは、池宮憲兵・・・でしたね」
よっ、と俺は軽く返事をした。
加賀だ。確か小室提督の所の艦娘だっけか。夜だからか、昼間より一層大人びて見える。
こういう女性も魅力的だなぁ。
艤装はしてないものの、背中には弓と矢を背負っている。
「夜は物騒なので」
背中を気にしていたことを悟られた。う~ん、侮れない。
でも艦娘がこんな夜中をうろつくのは珍しい。
俺も夜の巡回を何度かしたことあったが、艦娘は艦娘の寮に戻っているころだ。
艦娘とはいえ、夜の徘徊は危険なので極力憲兵が見つけ次第連れ戻すことになっているが。
「やな。でも、何かあるんか」
「そうですね、何かある、と言えば何かありますね」
一呼吸置くと加賀は話す。
「夕張が、外の買出しから帰ってこないのです」
加賀は少し心配そうな顔をする。俺からは暗くてよく見えないが、雰囲気だけで何となく分かる。
「夕方から帰ってこーへんのか?」
「いえ、提督が夜に買出しに行けないから、夕張にお使いを頼んだようです」
「あんのクソ餓鬼・・・」
艦娘とはいえ、夜の街は危険。多分、あの提督も分かっているはずだ。
「私がいない間に、夕張に頼んだようです。彼女、この街について殆ど知らないから・・・」
「買出しっていってもさ、すぐにいるようなもんでもあったんか?」
「ポップコーンが無くなったから買って来い・・・だそうです」
「ほんま餓鬼やな」
俺は軽く呆れた。ポップコーンぐらい朝まで我慢できないのか。
良い子は早く寝るってのはあながち間違いじゃないな。
夜はまだまだ長い。帰ってこなければこないほど夜は深くなり、魔物は活発化する。
できればさっさと見つけたい。加賀はそう思っているのだろう。
「艦娘やからって、夜の陸上は無謀ちゃうか?」
俺は真顔で話す。命が関わっているならあまりへらへらしていられない。
「そうですね。でも、心配ですから」
加賀は胸に手を当ててゆっくり話す。
「いきなり配属されて、自分は何をすればいいのか分からず、言われるがままに買出しを
頼まれ、魔物の巣窟である夜の街に彼女は駆り出されました。もし、このことで彼女の身に
何かあったら、艦娘として先輩である私にも責任があります」
向こうも真剣だ。顔があまり見えなくても、声質から誠意が伝わる。
「もちろん、提督の我侭も原因ではありますが、止められなかった私にも原因はあります」
そして黒髪が垂れ下がるのが見えた。
「『あの状態』の提督を放置してしまったのが・・・」
加賀は下げた腕の拳をきりきりと握り締める。
かなり力が入っており、手のひらは赤く染まっていた。
『あの状態』・・・少し気になる言葉を聞いたが、今その意味を聞く時では無さそうだ。
俺は軽く加賀の肩を叩いた。俺より身長が高いからちょっと無理があるけど。
「んじゃ、後は俺に任せとき、女性に危ない目には遭わせられへんからな」
そう言って彼女の元から離れ、また正門へ向かって歩き出した。
彼女は驚きの表情を浮かべて慌てて呼び止めた。
「ま、待ってください!こんな夜中に何処へ行こうと言うのですか!?」
加賀は声を荒げた。加賀もこの夜の恐ろしさを知っている。
自分で外に行くのは怖かったが、恐怖心を感じない人を送り出すことはもっと怖かったからだ。
「街。やることがあんねん」
「魔物が出るんですよ?やることなんて朝にやれば」
「夜にしかできひんねや」
そう言って俺は背中から槍を取り出しては頭上で振り回し、右腕で槍を巻きつけるかの
ようにして構えた。腰を低く構え、即座に動けるように軽く足踏みをしている。
これが俺の戦闘スタイル。両手で構えるのも考えてたけど、突きに特化してしまうから俺には合わなかった。
その矛先は月光に照らし出されて輝きを放っている。
「・・・・・・」
加賀は驚いた。ただの憲兵がここまで大きな槍を軽々と扱えるはずが無い。
その構えから放たれる闘気、加賀にもそれを感じることはできた。
「貴方は・・・一体・・・」
そう加賀が言うと、俺は決め台詞かのように答える。
「《ただの》憲兵や」
そう言って軽く手を振った。鎮守府内の外灯に照らされていてその姿は加賀からも良く見えた。
「夕張のことは任せとき、ちゃんと見つけてくるわ」
そういい残して俺は正門から鎮守府を後にした。
「・・・あの人が本当に・・・そうでしたか」
加賀は考え込む動作をした後に小室提督の執務室へと足を進めた。
「期待以上の方でしたね。あの方なら・・・もしかすると・・・」
「そんな遠くに行ってないと思うねんけどなぁ」
俺は東舞鶴駅に来ていた。魔物が発生するようになってから、公園の外灯は付いているものの
この時間でも駅の中は真っ暗だ。
駅前には大手家電製品量販店、少し南下していくと
大型ショッピングモールもある。七条通りに出るとコンビニもたくさんある。
ポップコーンといった類のお菓子を買うならこのあたりだろう。
人が多く集まる場所でもあり、明るい外灯もあることから、ここら辺での魔物の事件の
発生報告は少ない。が、油断はできない。夜の街はいつでも死と隣り合わせという
心構えが重要なのだ。
辺りを見渡していると、公園の中で人影が見えた。
男4人ほどに囲まれた女性が一人。
外灯のおかげでよく見える。あの銀髪のポニーテール・・・
「なんかめんどいことになっとるやんけ」
俺は頭を掻きながらそこへ向かった。向こうも気がついてこっちを睨み付けてきた。
不良たちの前に俺は立つ。その中の一人が俺に向かって口を開く。
「誰?お前」
ガムをくちゃくちゃ噛む音が静かな公園に響き渡る。もう少し静かに噛めないのか。
ピンクと茶色のメッシュヘヤーの男、鼻にピアスの男、金髪男、刺繍が施された学ラン男がいる。
これは明らかにまともな奴ではないな。若干センス古いのがちょっと面白い。
「よっ」
俺は男達の隙間から女性を覗き込むようにして見た。
やはり夕張だった。不良に絡まれてるのは予想外だったけど、魔物に食われていたよりましだ。
「あ、貴方は・・・」
「んだよ、こいつの連れか?」
男の一人、メッシュ野郎がこちらに顔を近づけてきた。やっぱりガムは噛んでる。
くちゃくちゃとガムを噛む音が近いせいでよく聞こえる。
「そんなもん。こいつの門限過ぎとるから、迎えに来たったんや」
特に動じることも無く俺は話す。メッシュ野郎は顔の距離を変えずに口を開く。
「悪いな、餓鬼。この子は俺らと今から楽しく遊ぶんだよ」
「坊主はさっさと帰ってクソして寝とけって」
けらけらと不良達は笑い出す。俺、身長のせいで餓鬼だの坊主だの子供だのよく言われるけど
立派な23歳なんだよなぁ。ちょっとコンプレックス。
「んっと、悪いけどそういうわけにはいかんねん」
俺は引き下がることなく話し続ける。
「兄ちゃんらも知ってるやろ?魔物が現れる話。ここらへんは比較的明るいから大丈夫やー
っていう風潮が、兄ちゃんらにはあるっぽいけど、そういうわけでもないねんで」
不良相手に正論言ってもなぁって思う俺だが、今はそれぐらいしか台詞が浮かんでこない。
基本的には穏便に事を進めたい。俺は上手いこと丸めようと尽力する。
「やからなぁ、今日は帰ってくれへんかな?ナンパなら昼でも出来るやろ?」
軽く笑っては相手を和ませながら話を進めようとする。
しかし、不良達は引き下がる様子も無く、鼻ピアスがこっちに来て胸倉を掴んできた。
「舐めんな糞餓鬼。お前の優しい注意なんてされんでも分かってる」
「あんま俺らに絡んでくるんだったら・・・分かってるか?」
面倒臭い展開になってきた。これだから話が聞けない不良は。
とりあえず正当防衛になるまでは手を出さない。これに尽きる。
正当防衛として理解されるという意味で殴られないといけないとか、ほんとおかしな法律だと思う。
まぁそれ以外にどうしろと言われるとどうしようもないけど。
「その子も帰らなきゃならないんやって。お願いやって」
でも俺は引き下がらない。穏便に。穏便に事を進めていく。
が、やっぱり無理があった。
「うっせぇ!しつこいんだよ餓鬼!」
メッシュ野郎が俺の顔面目掛けて拳を突いてきた。
特に俺は避けずに当たった。目だけは避けたかったので少しだけ首をずらした。
「い、池宮さん!」
夕張は思わず叫んだ。女の人がこんなに心配そうに自分の名前を呼んでくれる・・・悪くない。
俺は思わずにやけてしまった。
「こいつ・・・まだ余裕か。もう一発・・・」
メッシュ野郎がもう一発と振りかぶってきた。
もう殴られたので正当防衛だ。さすがに人に槍は振れないけど。
俺はすかさず胸倉を掴んでいた鼻ピアス男の急所を膝で思いっきり蹴り上げた。
「ぐおッ!!!・・・うおおおおッ!!」
ビンゴ!鼻ピアスはその場で蹲った。俺は自由を取り戻すと、メッシュ野郎のパンチを
受け流し、腕を掴んで背負い投げ、そのまま地面に叩き付けた。
こういう技術は力が無くても出来る。受け流しさえ上手くいけば相手の力を利用してなせる技だ。
「ッ・・・てぇ・・・!!」
地面の石ころに頭が当たったのか、メッシュ野郎は転がり落ちたところで頭を抱えて起き上がらない。
血は出ていない。痛みだけだから時期に良くなるだろう。
「この糞餓鬼ィ!!」
金髪と学ランもこちらに向かってきた。その奥ではまだ心配そうに両手を握り締めている夕張。
なんかヒロインを守る学園漫画っぽいぞ。俺は少しテンションが上がっていた。
二流不良の鑑と言わんばかりに単調なパンチ。確かに威力はすごいが、受け流しの格好の的だ。
今回は背負い投げではなく足払いで尻をつかせた。逆にこういう単純な技のほうが
返って精神面に来る。金髪は少しの間尻餅をつき呆けている。
学ランは額に汗を浮かべていた。少し物怖じしている。こいつが一番下っ端・・・なのか。
そう思っていたら少し引き下がって夕張の両手首を掴んでこちらに向けてきた。
「きゃっ!」
突然のことに夕張は悲鳴を上げた。そして学ランはポケットから携帯用のサバイバルナイフ
を取り出した。それを夕張の首筋にまで持っていく。
「魔物が出てきたときに使おうと思ってたが・・・へへへ」
「ひっ・・・」
夕張は怯えた。艦娘とは言え、ナイフで喉を貫かれたら無事ではいられない。
俺はさすがにそこまでするとは思ってもいなかった為、少し感情的になった。
「おい、自分、何してるかわかっとんのか?」
少し低いトーンで俺は学ランに言う。
学ランは不気味に笑いながらナイフを持つ手をぶるぶると震わせている。
「近づくなよ・・・こいつがどうなってもいいのかよ・・・」
今にも夕張の喉を傷つけそうだ。俺は目を鋭くさせて学ランを睨んだ。
「い、いやぁ・・・」
夕張は涙声で嘆いた。さすがにここまでされると喧嘩程度で収まるものじゃない。
俺は意を決した。背中にある槍に手を伸ばす。
「・・・ん?お前、背中に何か背負ってるのか?」
学ランは背中に背負ったものを見た。よく見えていないのか目を細めている。
「さすがに刃物はあかんやろ?やからさ」
背中の槍を握り締めると、即座に石突を相手に向けるようにして振り上げた。
その軌道は学ランの手の甲を捉え、赤く染め上げて、握り締めていたナイフは宙に舞った。
そのまま石突を先に学ランの腹部を勢いよく突いた。
学ランの手から夕張の腕は開放され、口から体液を垂れ流しながら
1メートルほど吹き飛ばされて立ち上がらなくなった。
俺は一段落だと言わんばかりに吐息をついた。
そして、槍を背にしまい夕張の下へ向かった。
「大丈夫か?」
俺がいつも通りにニタァと笑うと、夕張は安心したのか、気が抜けてその場に座り込んだ。
彼女の目線に合わせるかのように、俺も座り込んだ。
「気抜けたか?怖かったやろ?もう大丈夫や」
頭をなでてあげた。女性特有の甘いシャンプーの香りが広がる。
あまり経験したことのないこの感じ、いい、すごくいいぞ!
こんなことを考えられるってことは、まだまだ余裕あるな、俺。
「え・・・えっと・・・その・・・うっ・・・ひっく・・・」
夕張は涙目になっている。手で顔を隠して見られないようにしているが、少々顔が赤く見える。
俺は夕張が落ち着くまでなでてあげた。手のひらから、雫がぽたぽたと落ちるのが見えた。
5分ほどすると、夕張はもう大丈夫と言わんばかりに立ち上がった。
それと同時に俺も立ち上がる。手元の腕時計では、時刻は午前0時2分。日は跨いでいる。
「もう1時間過ぎたんか」
俺は素直な感想を漏らした。夕張も時計を覗き込んでる。
そうだね、と言う様にこちらを向いて頷いてくる。
無事夕張を保護できたので、帰路につこうとしていたら、後ろからザッと砂の音が聞こえた。
不良達が立ち上がっていた。
「おい、餓鬼。よくもやってくれたな」
「次はこうはいかんぞ・・・」
不良達は拳を鳴らして戦う意志を見せている。
正直俺はもう喧嘩はしたくないんだけどな、夕張もいるし。
めんどくさいけど俺はファイティングポーズを取ることにした。
が、急に学ランの顔が血の気が引いたかのように青ざめて後ずさりしだした。
その後、金髪、鼻ピアス、メッシュ野郎の顔色も変わり、続いて後ずさりした。
「?どうしたん?俺の顔になんかついてるか?」
俺は首を傾げて不良達に尋ねた。しかし不良達は歯をカチカチと鳴らし、声にならない
小さな悲鳴を上げていた。
そして・・・俺も気がついた。頭の上に覆いかぶさった大きな影。
熱い吐息が背に触れる。
夕張と俺はその背後を振り向くと・・・そこには。
「ッ・・・!!!」
俺はすかさず夕張を突き飛ばした。夕張は突き飛ばされて地面に転がった。
突然の出来事に夕張は理解できずにその場から動かなかった。
そして俺は・・・
ドガッ!!!
後ろの存在が振り下ろした巨大な棍棒が頭にヒットして、体ごと叩きつけられた。
俺は流血、頭から首筋まで紅い血が川のように流れていく。
「い・・・いやぁああああ!!!」
その光景を見た夕張は思わず悲鳴を上げた。不良達も今までにない命の危険を感じて
悲鳴を上げて一目散に逃げだした。
グオオオオオオオアアア!!!
雄たけびを上げる。二足歩行で頭は鬼のような形相をしている、棍棒を担いだ存在。
意識が朦朧としている中、不安定ながらも立ち上がり、俺はその存在を睨んだ。
ジジジ・・・ジジジ・・・
耳元からノイズが聞こえる。鎮守府から出るときに付けている小型無線機の音だ。
ノイズ音が2秒ほど続くと聞きなれた声が聞こえてくる。
「おい!!生きてるかぁ広樹ィ!!」
工廠のちっちゃいおっさん・・・親方だ。魔物討伐の際は常時親方と連絡が取れるように
小型無線機を取り付けて討伐に向かっている。
必要なときに連絡を取り合う程度ではあるが、この無線で親方が魔物の情報などを提供してくれて
効率的な討伐に一役買っている。
「世界回ってるわ・・・」
「おいおい、大丈夫じゃなさそうじゃな!!」
「親方の元気な声だけが救いやわ」
余裕ぶってるが正直やばい。頭がくらくらする。血も止まらない。
不意打ちとまではいかなかったが、夕張が傍にいたため、彼女の身を守ることを最優先
にした結果、相手の攻撃を諸に食らってしまった。
「見えとるぞ見えとるぞ・・・あれは人型魔物《グール》じゃな」
小型無線機には、小さいもののカメラも搭載されている。俺と同じ目線で親方もその現場を
見ることが出来る。
さすがに声や音は俺の声しか聞こえないが。
「あのどでかい棍棒から振り下ろされる攻撃には要注意じゃ!!」
「もう食らってるんやけど・・・」
出血場所に手を当てて血を止めようとするが一考に収まらない。
そう言ってる間にも、グールは雄たけびを上げてこちらに向かって突進してくる。
俺は意識が不安定ながらもかわした。パワーはあるようだが動きはのろまなようだ。
「攻撃は痛いけど、遅いからなんとかなりそうや」
血の滲んだ唾を吐く。よく分からないけどこの動作をしたら少し集中力が上がる。
ゲームとかアニメとかでやってるのも、こういうことなのかもしれない。
俺は槍を構えて、踏み込んで一気に魔物の懐に入った。
「そこやァ!!」
槍を握った右腕を突き出し、魔物の腹を貫いた。
魔物は悲鳴を上げて暴れだす。俺は槍を引き抜いて後退した。
「効いてるな。いい調子や」
構えは解かずに相手の様子を見る。
痛みに耐えられず暴れている相手の隙を伺い、俺はまた地を蹴った。
今度は跳躍。飛び上がって相手の頭上に目掛けて槍を突く。
また命中。動きは鈍いお陰で攻撃がよく当たる。
蛇矛特有の波打つ矛先が、魔物の肉塊に食いついて離さない。
刃が魔物に進入するにつれて、その痛みは増大していく。
我ながらえげつない武器だ。
奥まで一気に頭部を貫いたら、勢いよく引き抜く。
そして俺はそのまま宙に舞うと、落ち際に空中で回転しながら矛先で魔物の背中を切り上げた。
ダメ押しの攻撃で魔物は断末魔と共にその場で崩れ落ちた。
公園には巨大な肉塊にそこから流れる紅い液体。
異様な匂いを放ちつつも、消化されるかのような音と共に地面に吸われる様にして消えていく。
俺は着地したときの反動で意識が朦朧とし、その場に倒れこんだ。
戦闘中は固まっていた夕張も、すぐに俺の下に駆けつけてくれた。
「しっかり!しっかりしてください!池宮さん!!」
優しく顔を撫でながら夕張は俺の名前を呼ぶ。このまま気を失っている振りをするのも
よさそうだが、ちょっと悪趣味だ。
「・・・大丈夫やて、ちょっと掠っただけや」
力のない笑みを浮かべては上半身だけを起こす。
「ちょっと!まだ起き上がっては・・・!」
夕張が無理に動かせないようにと俺の身体を支える。
でもここで留まっていたらまた魔物に襲われるかもしれない。
「ありがとな。でも、このまま寝てたらそれこそさっきのみたいに食われるわ」
俺は起き上がる。少しふらつきながらも歩くことはできそうだ。
夕張はふらふらと歩く俺を支えてくれた。
「センキュ」
俺はその一言を言うと、夕張と一緒に鎮守府へと足を進めた。
帰路では両者とも一言も話さなかった。
夕張は俺のことを気遣ってのこともあり、今起きた現実に驚きを隠せないこともある。
俺は喋るだけで意識が薄れていくのを畏れていたからだ。
鎮守府の正門まで戻ると、警備員は心配そうな目で敬礼してきた。
夕張が変わりに敬礼をしてくれる。しっかりしてるんだな。
警備員はあくまで国の人間であるため、俺達のことに直接干渉することはできない。
だから、無事で何よりの意味を示す敬礼で敬意を示す程度しかできないのだ。
門を潜ると一人の艦娘が走って駆け寄ってきた。加賀だ。
「ッ!!」
地面に垂れ落ちる鮮血を見ては加賀は口を押さえる。
夕張は加賀を真剣な眼差しで見つめては頷く。
動揺を隠せない加賀だが、状況はある程度把握し、次の行動に移る。
「とりあえずこっちよ。今は緊急事態だし、仕方がないわ」
加賀は自分の寮の部屋へ夕張と俺を誘導した。
廊下に血痕がぽたぽたと落ちるのも気にせず、夕張と俺は加賀の部屋に入った。
俺はすぐにベッドに寝かせられ、加賀は応急処置用の包帯とガーゼで止血を行った。
夕張は氷水で冷やされたタオルを持ってきて、俺の首に緩く巻いてくれた。
「軽い応急処置よ。この程度では治らないだろうから、朝には街の病院へ行ってもらうことになるわね」
治療室は艦娘専用の治療室で、普通の人間は受けることができない。
提督にまでなると受けることができるらしいが、憲兵にはその権利はないのだ。
俺は寝転がりながら加賀へ顔を向けて頷く。
「ありがとな」
「いいえ、これぐらいのことはさせて頂戴」
「そっか」
俺は短い返事のみで会話を進めた。自分の身を案じてのことだ。
そして、その視線は夕張に向けた。
「夕張も、ありがとな」
「えっ・・・」
なぜ感謝されるのかと言わんばかりの驚いた顔をする夕張。
その後すぐにぶんぶんと勢いよく首を横に振る
「い、いえ!助けていただいたのは私です!それに・・・私のせいで、池宮さんがこんな・・・」
夕張は俯いた。また少し涙声になっている。
俺は手を伸ばして彼女の銀髪を撫でた。
「あっ・・・」
夕張は顔を上げた。少し目と顔が赤い。帰路でも少し泣いていたのかも知れない。
顔が赤いのは照れているからかな。
「怪我したんは、俺がまだ弱いからや。そんな弱い俺を、負ぶってまで連れ帰ってきてくれて
ありがとな。それ以上もそれ以下も無いねん」
いつも通りの笑い方。ニタァと笑うと夕張も思わず口角が上がった。
「素敵な・・・笑顔ですね」
「よく言われるねん」
隣にいる加賀も呆れながら・・・小さく微笑んでいた。
ドンッ!!!!
扉が勢いよく開く。廊下の光が部屋に差し込んできて、小さな影が映った。
「・・・おい、加賀」
低いトーンで話す影。白い正装に包まれた小柄な少年。
小室提督だ。額には血管が浮かび、苛立ちを隠せていない。
「何故憲兵風情と一緒にいやがる」
「こ・・・これは・・・」
加賀は言葉が出てこない。どのような言葉が出ても押しつぶされそうだからだ。
そう濁しているとすぐに小室提督は話を続ける。
「そうか・・・この憲兵が無断で入り込んだ・・・ということだな」
小室提督は口角を上げた。
夕張は反論しようとする。
「違います、小室提督!彼は買出しに行っていて、事件に巻き込まれた私を・・・」
「五月蝿い!貴様は黙ってろ!!」
その小さな身体からは想像もできない大きな声でその場を制した。
親方ほどではないけどな・・・。
「おい、貴様」
これは俺に向けてだろう。俺は上半身を起き上がらせて小室提督を睨む。
「池宮憲兵、今起き上がっては・・・」
「加賀ァ!!!」
加賀はびくっと身体を震わせた。それから次の言葉が吐き出せずに俯く。
「夕張は怪我した俺をここまで運んできてくれた。加賀さんは俺が怪我してるのを見て
応急処置をしてくれた。それだけや。なんも疚しい事は無い」
俺はあったことを話す。あくまで夕張や加賀へデメリットがないように。
小室提督は歯軋りをしては口を開く。
「出て行け。貴様のような下郎、我が艦娘達に触れるどころか会話すら許さん」
俺は二人を交互に見た。二人とも俯いている。これは言い返せそうにも無いな。
「ありがとな」
二人にもう一度小声で礼を言って俺は加賀の部屋を出た。
「それとだ」
小室提督はこちらを振り返る。
「廊下の血痕、綺麗に掃除しておけ。他の艦娘に見られては変な噂も立つ。
それに、お前みたいな奴の体液が付いているだけでも反吐が出る」
ずいぶんないいようだな、と思いつつも俺は放り投げられた濡れ雑巾を手にとって廊下を
拭いていく。振り返るとまた小室提督が怒鳴っている姿が見えた。
「馬鹿者!あのような奴の手伝いなぞする必要はない!!」
あぁ、俺のこと心配してくれて雑巾がけやってくれようとしたんだな。
気持ちだけ受け取っておこう。ほんと感謝だな。
そう思って俺は出口に向かって血痕をふき取りながら寮に戻った。
「ふぅ」
午前2時。俺はやっとの思いで部屋に戻った。
加賀の応急処置のお陰で意識は少し楽になり、血も止まった。
痛みはあるものの意識は殆ど回復している。
「これなら・・・何とかなりそうやな」
俺は精神を集中し、ぶつぶつと呟く。
「快方の光よ宿れ・・・」
傷口に手を当てる。呟き終わると手の先が光り、その光りは傷口を照らし、みるみると
治していく。数十秒後には傷跡は殆ど無くなっていた。
これは俗に言う《マジック》みたいなものだ。俺もあまり詳しいことは知らない。
頑張れば才能のある人は使えるものだ。俺も昔とある人に教えてもらった。
包帯を外して俺は布団に寝転がった。
疲れていたためすぐに眠りにつくことができた。
今日はなかなか濃い夜だった。
人型魔物《グール》・・・俺も見たことの無い種類だった。
しかも駅前であんな凶暴な魔物が現れるなんて。
この様子じゃ他のところも危ないかもな。
これからは視野を広げて討伐範囲を広げたほうがいいかもしれない。
それに、小室提督。なかなか曲者だ。
谷岡提督の野望精神も相当なものだが、あそこまでオープンに野望むき出しにしている
小室提督も相当だ。明日いろいろ調べてみるか。
そう思いながらも俺は意識が飛んでいくのを感じながら、安らぎの一時を迎えた。
タイトルがなかなか思い浮かばないですね。
文章もそうですがタイトルを書く力も身につけたいですね。
お気に入りありがとうございます。これからも駄文ではありますがちまちま更新できるように頑張ります。