Demon's Stella ~悪魔の彗星~   作:Hershel

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設定紹介


出撃任務について

ゲームでは日中戦からの夜戦と、一つの戦闘で昼夜戦闘してますが、この話の設定では
日中戦から夜戦へ・・・といったぶっつづけブラック戦闘は基本しません。
というか、ゲームではあーだけど実際やったらどえらいことだと思うんだ、うん。
基本は日中攻め込むか、夜に攻め込むかで変わる。
遠方への出撃には途中に駐屯地を作ることから始めたりと、事前準備などが欠かせない。
なので、普段の艦娘達は近海の警備や敵艦の迎撃に勤めている。

遠征任務について

遠征も出撃と同じではあるものの、予め作っておいた駐屯地を転々として遠方への遠征も
行える。近海の遠征ももちろん、遠征に関しては何日もかけて遠方へ資材確保に行ったり
もする。つまり、基本は遠方の駐屯地の資源を回収して行ってる形となっている。
もしくは無人島などで取れそうな資源を回収して、鎮守府へ資源として送っている。


第二十話 進水日

六月十日(水)午前八時。

俺は朝食を済ませ、軍服に着替えて準備をしている。

 

「進水式かぁ~。楽しみよね、池宮さん!」

「せやなぁ。進水式ってのは俺も見たこと無いからなぁ」

 

軍服の上着に袖を通し、鑑越しに顔と髪の毛を整えていく。夕張も浴場で服を着替え

歯を磨いて軽い薄化粧をしている。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

「六月十日、午前十時に、私の初進水が行われます」

 

「よかったら・・・来てください」

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

俺は先日、彼女に言われたことを思い出した。そう、今日は駆逐艦《弥生》の進水日。

仕事があってもなんとか時間を作って行ってやろうとは思っていたが、まさか

憲兵全員が集まって進水式を見守ることになるとは思っても見なかった。

俺もこういう事態は初めてだから、憲兵一同出頭するなんて考えもしていなかったのだ。

夕張は艦娘だが、今は俺と行動してるため、特別に憲兵と同じように出頭できることに

なった。

 

「というか、お前は艦娘なんやから海の上行けばええのに」

「う~ん、艤装の整備もしてるから今すぐ海に出ても大丈夫だとは思うけど・・・」

 

そう言っては少し考えるようにして上を向く。そして、そうね・・・と言って

 

「今は、私も憲兵だから?」

「何やそれ」

 

俺はそんなへんな答えを聞いてはくすくすと笑っている。それに釣られて夕張も

くすくすと笑っていた。

 

「ほな、いこか」

「うん!」

 

準備が出来た俺達は、武器を背負い、部屋から出た。

と、とっさに気になって、俺は隣の部屋をノックしてみる。

 

「おーい、飯田ぁ!!そろそろ行くで!!」

「ちょっと池宮さん、叩きすぎ!」

 

ドンドンと強く扉を叩く俺。その姿を見て近くを通っていた憲兵達が引き目を向けてくる。

その視線を感じると、なんとか夕張はその状況を収めようとした。

 

「・・・おらんな」

「もうちょっと静かにノックしてよ・・・」

 

夕張が大きくため息をつく。悪い、と言わんばかりに俺は舌を出してみる。

 

「全ッ然可愛くない」

「俺も自分でやってキモイと思ったわ」

 

ハハッ、と俺は笑い飛ばす。もう、と少し怒って夕張は先走る。

俺はその後姿を早足で追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

午後九時。艦娘が発着する港には、鎮守府内殆どの憲兵が集まっていた。

前には上官が立っており、いつも以上に気が立っている。

 

「大事な進水式やからな。いつも以上に怖い顔してるで、上官」

「そんなこと言ってると、また目を付けられるわよ?」

 

そう俺と夕張はひそひそと話している。そして、上官が大声を上げる。

 

「池宮広樹!!!」

 

俺の名前が呼ばれた。俺、何か悪いことしたか・・・?

 

「今日めでたく進水される駆逐艦《弥生》殿からのご指名だ。お前には特等席を

用意している」

「へ?」

 

特等席?弥生が用意してくれたのか?そう言われて俺は夕張と目を合わせる。彼女も

首を傾げている。

 

「はい、すいません上官」

「なんだ?」

 

上官は低い声で短く返答してくる。

 

「夕張も一緒に、その特等席に行ってもいいっすか?」

 

俺は夕張を指差してそう言う。上官は少し考えてから口を開く。

 

「いいだろう。二人共、前に出て来い」

 

俺と夕張は頷く。憲兵達に道を譲ってもらい、俺と夕張は憲兵達の最前列に立つ。

 

「進水式は十時からだ。九時半までは自由に行動して構わんが、それまでには今の位置

に立っておくようにな!」

「「「はいっ!!」」」

 

憲兵揃って敬礼する。一応憲兵も立派な軍隊だし、こういうのはしっかりしてる。

暫くすると憲兵は散らばり、思い思いの短い休息を取っている。

俺と夕張は、特にすることもなかったのでその場で留まっている。

その場に留まった憲兵数人が集まり、雑談が始まる。

 

「艦娘の進水式か~。久しくこういう行事無かったんだろ?楽しみだな!」

「お前は仕事しなくていいのが楽で嬉しいんだろ」

「失敬な!俺がいつ仕事サボってるって言った!」

「今ボロでたじゃん」

 

俺や夕張も含めた憲兵達がわいわい話している。そして、その話の矢先は俺に飛んで来る。

 

「そういや、池宮憲兵は今日初進水する艦娘と何かあったのか?」

 

一人の憲兵がそう訪ねてくる。

 

「まぁ・・・なぁ。ちょっとだけやで?」

「ちょっとやそっとで特等席用意してもらえるものかねぇ」

「怪しいなぁ・・・!」

 

憲兵達が疑いの目で俺を見つめてくる。やめろ、そんな目で俺を見るな。

 

「夕張ぃ・・・」

 

俺は夕張に助けを求めるが、

 

「ん~、私もあの子と池宮さんの関係知らないからなぁ」

 

フォローするにも俺と弥生の話題がなさすぎて正直な言葉を発する。

 

「やっぱり怪しいな!こんちくしょう!」

 

憲兵達は俺のことをぱちぱち叩いてくる。痛くは無いのだが、彼らの思いがひしひしと

伝わってくる。

 

「っと、そろそろ時間なんじゃないか?」

 

一人の憲兵が腕につけた時計を見つめてそう言い放つと、俺達はこくりと頷いて

配置に付く。徐々に解散した憲兵達も集まってきて、朝方の時と同じように整列していた。

上官が戻ってきて、また先ほどと同じような状態になった。

 

「では、これより駆逐艦《弥生》の進水式を行う!憲兵諸君も敬意を込めてこの式に

臨むように!」

「「「「ハイッ!!!」」」」

 

その場に憲兵全員の声が響き渡ると、静寂が走る。

そして、海の波の音が少しずつ際立ってくる。波も白波を立てて、普段とは違った

姿を見せる。そして、左方から水上を走る人影がゆっくりと近づいてくる。

 

「お、アレやな」

 

俺はその姿を捉え、ただじっと見つめていた。影は実態となっていき、淡い紫の髪

が潮風に靡いているその姿と、戦うために作られた象徴である艤装が、太陽の光を反射し

輝きを放っている。

俺らのいる場所まで弥生は走ってくると、一旦止まる。その後ろには同じぐらいの背丈の

艦娘が二人。・・・あれ?

 

「あ、あの子・・・」

 

夕張だけ後ろについてきた艦娘の一人に見覚えがあった。

 

「あ、そっか。あの子も睦月型だったんだ」

 

一人納得。その姿を見て俺は疑問を抱く。夕張が見ているのは、眼鏡をかけた艦娘

今話すと上官に後で何言われるかわからないので、後で聞いてみよう。

そして、弥生は艤装に付けられている小さなマイクを通して、挨拶をする。

 

「駆逐艦、《弥生》・・・です。本日六月十日付けで、ここに進水いたしました。」

 

小さな声ではあるが、俺らの近くに設置されている拡声器のお陰で聞き取ることが出来た。

 

「精一杯がんばります・・・。どうぞ、よろしく」

 

そう言い切ると、艤装の金属が擦り切れる音とともに、彼女は頭を下げる。

その姿を見て、俺達は敬意を込め、揃って敬礼をする。俺や夕張も例外ではない。

そして、弥生は頭を上げては、俺のことを見つめてきた。首だけで軽く会釈している。

さすがに返さないわけにはいかないので、俺も軽く首で頷いた。

仕草が通い合ったことを確認したら、弥生と付き添いの艦娘はその場から離れていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、意外とあっけなかったな」

「まぁ、俺らは憲兵やしあくまで挨拶だけ、ってことやろ」

 

進水式は終了していないものの、憲兵達の必要な場面はもう終わってしまった。

実際、艦娘には殆ど触れない俺らだから、この程度だってのは想定内ではあったが。

 

「でも、昼からは普通に仕事があるんだぞ」

「わかっとるわ、そっちも頑張りや」

「おう。夕張ちゃんも頑張ってね」

「はい、ありがとうございます!」

 

一緒に行動していた憲兵と別れ、俺と夕張は一旦寮の部屋に戻る。

現在午前十一時。昼の仕事までにはまだ時間がある。

 

「なぁなぁ」

「ん?」

 

俺は夕張に先ほどの疑問をぶつけてみようと思った。

 

「夕張さ、弥生とはちゃう方の艦娘見て何か言ってたやん?」

 

その発言を聞くと、夕張はあー、と言わんばかりに首を縦に振る。

 

「うん、一月前ぐらいに少し話したことある子でね」

 

何故か腕を組んで縦に首を小さく振りながら話す夕張。思い出して自分なりに確認

しながら話しているのだろうか。まぁよく分からん。

 

「何か、夜中にお仕事してるような真面目な子だったわよ」

「へぇ」

 

真面目そう、ねぇ。俺にはそう見えなかったけどな。

 

「まぁそれだけの関係よ。顔見知りって程度かな」

「そっか」

 

そう言うと夕張は部屋の片づけをしだす。昼はお金ももったいないし、俺は部屋で食べる

と言ったら、夕張も便乗してきた。幸い食材は飯田からもらったものがまだ残っていた

ため、二人分の昼食程度なら作れそうだ。

今日は進水式。あの糞餓鬼は忙しいから来れないだろうし本当に余分に作らなくても

よさそうだ。

軽い掃除が終わると、直ぐに調理にかかった。

とりあえずきのこのソテーと白飯、ほうれん草の味噌汁でこの昼を乗り越えることにする。

 

「うん、おいしい!」

 

見てくれは悪いけど、味だけは自信がある。こう美味い美味いと食べてくれると

作り甲斐があるよな。

 

「やろ?」

「池宮さん、調理師免許とか取ればよかったのに」

「あほ、基本的には自分にしか俺は作らへんねん」

 

そういって白飯とソテーのしめじを一緒に口に入れてはよく噛んで食べている。

全部食べきると、俺はちゃぶ台をしまい、夕張は皿洗いをする。

二手に分かれてサクッと終わらせると、装備を整えて部屋を後にする。

 

 

 

 

 

午後一時。午後の仕事は、進水式の警備だった。

だが、夕張はこの日は艦娘として行動してほしい、ということだったらしく、別行動になった。

 

「久々の艤装なんだけど、整備できてるのかな・・・」

「親方がそこらへんはしっかりやってるやろ」

「そうね。それじゃ、久々に海に行ってくる」

「おう、気ぃつけてな」

 

俺は夕張の肩を軽く叩いて手を振る。夕張も肩を叩かれて勢いづいたのか、引き締まった顔

をして、手を振り返してくれた。

 

「さて、俺も行くか」

 

二人は背を向け合い、互いの仕事へ向かっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「といっても、何を警備すればええんやろな」

 

とりあえず進水式の警備ということだが、今は鎮守府にある大ホールでお偉いさんの

ありがたい言葉をいただいている最中だ。見たところ弥生は一番目立つ段の上に居る。

うわぁ、俺だったら緊張して何も話せないだろうな。

とりあえず俺は、異常が無いかを見ながら、眠たい進水式を乗り過ごすのだった。

 

式が終わったら、入り口からどんどん人が退場してくる。

俺は退場する人を見ては怪しい人がいないかを一応確認する。

だが、こんな公の場に怪しい奴なんて居るはずも無く、ずっと敬礼しているだけの

お人形プレイをしていることとなった。

そう、俺はずっと固まっていると、左腕を誰かに突かれる。

 

「・・・つんつん」

「んぉ?」

 

俺はその感覚に気づき、その現況を見つめる。

 

「どうも」

「よぉ、主役さん」

 

主役と言われてはうつむく。照れてるのかな。分からんけど。

 

「お仕事、ですか?」

「せや、警備してるねん。変な奴がお前の進水式をぶっ壊さんようにな」

 

そう言うと、弥生は小声でありがとう、と感謝の気持ちを述べる。

ええよええよ、と俺は言わんばかりにけらけら笑う。

 

「この後」

 

弥生がそう言って、俺のことを見上げる。

俺はその言葉を聞いて、彼女の瞳を見つめる。

 

「この後、初出撃です。睦月型のみんなと、近海にいる敵艦を殲滅しに行きます」

「そっか」

 

聞いた話では、敵艦、つまり深海凄艦は結構近くに潜んでるらしい。

近ければ近いほど弱いと聞くが、実際どうなんだろうな。

 

「気張ってきぃや」

「・・・はい」

 

そう俺が言うと、弥生はその場を去ろうとした。

 

「あ、ちょっと待っとき」

「?」

 

俺は慌てて弥生を止める。大ホール前にある自動販売機に貨幣を入れ、炭酸入り栄養ドリンク

を買って、それを弥生に渡す。

 

「景気づけや。飲んで行き」

 

それを受け取ると、瓶の冷たい感触と、茶色い瓶の中に揺らめく液体を見て

弥生はそれをぎゅっと抱きしめる。

 

「ありがとう、ございます」

 

そう言って、頭を下げては駆け足で行ってしまう。

 

「怪我だけはせんようになー!!」

 

背中を向けている彼女に、俺は大きな声でそう言う。彼女は振り返ることなく

俺の視界から消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりに海の上だと、少し緊張するなぁ・・・」

 

私は、艤装を装備し、数ヶ月ぶりに海の上にいた。隣には私が見知った姿も。

 

「貴女は地上での活動が地に足が着いてるから」

「あはは・・・あの人と一緒にいると海には無縁ですからね」

 

加賀さんは励ましているのか貶しているのかよく分からない台詞を吐いてくる。

私は軽く笑い飛ばしては海の先を見つめていた。

 

「そう硬くなることは無いさ。今回はあの子の初出撃を見守るだけだからね」

「そうですよね、うん」

 

日向さんにそう励まされるも、やはりどこかぎこちない。

艤装の整備に関しては、驚くぐらい丁寧にされていた。正直、昔以上に使いやすいかも。

装備に関しては特に変更されたものはないものの、昔の感覚を取り戻すのもそれほど

時間もかからなかった。あとは気持ちの問題。

 

「そろそろ来るぞ」

 

そう日向さんが言うと、私は背筋を伸ばして敬礼をする。

 

「まだ早いわ」

 

加賀さんがそう釘付ける。私はびくっと身体を跳ねる。その姿を見て、二人はくすくすと

笑っていた。もー、二人とも余裕なんだから!

 

そう会話している内に、港から出撃ののろしが上がる。

掛け声とともに、艦娘達は出撃していく。

 

「望月、出撃だよー」

 

先陣を切ったのは、私が顔見知りである望月ちゃん。軽快な動きで、作戦海域まで

艤装の主砲を構えて走っていく。

 

「皐月、出るよ!」

 

もう一人の艦娘、後ろ髪がツインテールで金髪の艦娘。元気よく海の上を走っていく。

 

「弥生、出撃です」

 

そう宣言すると、弥生ちゃんも海の向こうへと向かうべく、主砲を構え走っていく。

その姿を、私達は静かに見守っていた。

 

「それで、私達は特に何もすることはないんですか?」

「そうだね。凱旋を見届けるだけかな」

 

日向は海の向こうを見つめながらそう言う。加賀さんは靡く髪を整えている。

私も潮風に煽られた髪を整えながら、ただ静かに海の向こうを見つめていた。

 

 

 

 

 

午後三時。警備の仕事が終わって早上がりになった。

特にやることも無く寮の部屋に戻ろうとしていた。だが、その帰路にとある人とぶつかる。

 

「うおっ!」

「あっ!す、すいません!」

 

黒髪のロングヘヤーの眼鏡をかけた女性。軍服を着ているということは、事務員では

なさそうだ。この子も艦娘なのかな?

とりあえずぶつかった衝撃で落とした資料らしき紙を、俺は拾い上げる。

あれ、これって・・・深海凄艦のリスト・・・か?

ヲ級・・・リ級・・・ハ級・・・へ級・・・なんじゃこれ。

とりあえずよくわからないので返しておく。

 

「落としたで」

「あ、ありがとうございます」

 

それを受け取って、クリアファイルに慌てて彼女は入れる。

 

「なんでそんなに慌ててるんや」

 

慌てる理由が検討つかないため、何気なく聞いてみる。

 

「い、いえ。憲兵の貴方には関係ないことですから・・・」

 

ということは、艦娘か提督、そこいらの関係の話で慌ててるって事か。

それなら俺が聞いても意味無いか。

 

「では、失礼します!」

 

彼女は慌てて頭を下げて、駆け足でその場を後にする。

 

「・・・でも、微妙に気になるな」

 

急いで立ち去る姿を見送りながらそんなことを呟いていた。

だが、俺は何となく感じていた。多分嫌な予感がする。

 

「・・・・・・」

 

俺は腕を組んで考え事をする。だが、今は考えてても仕方ないか。

 

「寮に戻るかぁ」

 

俺は頭を掻いて、憲兵寮へと足を進めていった。

 

 

 

 

俺は部屋に戻ると、とりあえず夕飯のご飯を炊いて、ぼーっとしていた。

なんか、久々だなぁ、こんなにぼーっとできるのは。このまま寝てやりたい。

でも、急に仕事が来るかもしれないしな。

なんでもないことを考えていると、ずっとなり続けている受話器の音が耳に入ってくる。

俺の部屋のではない。隣の部屋、飯田憲兵の部屋のだ。

あいつ、留守なのか?いてそうだけど。

 

「確認してみるか」

 

俺はその場から立ち上がり、隣の部屋のドアノブを回す。

 

「あ、開いてる」

 

グッ、と押してそのまま扉が動く感覚に少々驚きながらも扉を開けて中に入る。

 

「おーい、おらんのかー?」

 

俺は消してあった電気をつけて、飯田の部屋に入る。中は綺麗に整頓されていて、無駄なもの

もない。漫画が大量にあるのと、自分の趣味の品が綺麗に飾られている。

そして、その隅にある、ライトがちかちかと光る受話器。

その存在に気づいたぐらいから、受話器の音が止む。

 

「ただいま、留守にしております。発信音の後に・・・」

 

お約束の留守番電話の台詞が流れる。デフォルトのままだな。俺はこういうのは

自分の声を入れて満足してしまうタイプだ。そんなどうでもいいことを考えていると

先ほど聞いた声が耳に入ってくる。

 

「大淀です。あちらの方が繋がらなかったので、こちらに連絡させていただきます」

 

あれ?この声、さっきぶつかった子?大淀、っていうのか。

聞いた感じだとやっぱり艦娘っぽいな。そして、大淀からの言葉が続く。

 

「緊急入電です。

鎮守府近海に出撃した望月、皐月、弥生が航空母艦ヲ級率いる敵機動部隊と接触。

現状としては、駆逐艦望月が中破、皐月が小破。近海域に出現しない深海凄艦との

接触のため、緊急事態と認定します。至急こちらに連絡、指示をください!」

 

・・・は?何であいつのところにこんな連絡が来るんだ?

こいつは憲兵だろ?何でこんな重要な話がこいつの元に飛んでくるんだ?

・・・でも、緊急事態と聞いたら、よく分からないがヤバイってことだよな。

とりあえず、俺は夕張と連絡を取ることにした。幸い、あいつには小型無線機を

持たせているから、近くの海程度なら問題なく通信できるはずだ。

小型無線機の発信サインである電子音が数秒流れた後、無線機から夕張の声が聞こえる。

 

「ん、池宮さん。どうしたの?」

「夕張、今何処におるんや」

 

俺は低く、鋭い声で尋ねる。

 

「今は、鎮守府の目の前の海の上だけど・・・」

 

そう言いながら身体は鎮守府の方に向ける。隣にいた加賀と日向は通話している夕張を

見ている。

 

「俺にはよく分からんが緊急事態や。とりあえずどんな感じか説明する。

多分艦娘のお前なら分かるはずや」

「う、うん・・・」

 

艦娘の私なら、という言葉を聞いて、夕張は神経を尖らせる。嫌な予感がめぐってきた。

 

「緊急入電。鎮守府近海に出撃した望月、皐月、弥生がヲ級っつぅ敵と接触したらしいわ」

「ヲ、ヲ級!!?」

 

夕張はその言葉を聞いて声を荒げた。夕張の言葉を聞いて加賀と日向も顔を険しくする。

 

「現在、味方艦娘の中では望月が中破、皐月が小破らしい。どの程度か俺には分からんが」

 

俺は、とりあえず電話の声の通りの話を大まかに説明していく。

艦娘である夕張はそれだけである程度の状況を把握したようだ。

 

「まずいわね・・・」

「やっぱりか?」

「うん、多分かなりまずい」

 

夕張は身体を震わせている。その姿を見て、加賀は夕張の背中を軽くさする。

その気遣いに夕張は感謝し、笑顔を見せる。

 

「判断はお前に任せるわ。俺はよく分からんしな」

 

俺はそう言うと、夕張は即答で答える。

 

「もちろん、救出に行きます」

「そか。やけど、無理したらあかんで」

「はい!」

 

勢いのある返事を聞いて、俺はもう一つ尋ねる。

 

「他に誰かおるんか?」

 

もし、他に艦娘がいるのなら、そいつらにも手伝ってほしいからな。

夕張一人だけでは少々不安だ。

 

「ちょっと待って、今スピーカーモードにするから」

 

夕張は、無線機の小さなボタンを押す。外に取り付けられたスピーカーから

俺の声が響く。そして、音の感知もよくなったので、加賀が口を開く。

 

「私達がいます」

「おぉ、加賀と日向かいな」

「私達も、夕張と一緒に向かいます。航空母艦が相手と考えたら、軽巡一隻では少々

物足りないでしょうから」

「航空母艦と航空戦艦が加われば、間違いなく負けないとは思うわ!」

 

そう夕張は言ってガッツポーズをした。その姿を見て、日向はくすくすと笑っている。

 

「そっか。分かった。皆気ぃつけてな!」

「はい!!」

 

その声とともに、三人は弥生たちのいる海域へと走る。

 

「あ、無線は一旦切りますね。必要なときにまたかけてください!」

 

その台詞を言い終わると、無線を一旦切る。無線を切るのは敵に位置を感知されないため。

空母が敵にいるとしたら、偵察機に電波を感知されてしまう可能性も否定できない。

なので、必要以上に無線機は使わないらしい。

 

「飯田にも連絡せんとな」

 

俺はスマートフォンを取り出して、飯田に電話をかける。だが、予想通り出ない。

 

「何しとんねん、あいつ」

 

俺は少し苛立ちながら、外に出る。

 

「あいつにも力借りるか」

 

俺はとある人物のことが脳裏に浮かび、そいつがいそうな場所に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

執務棟。小室提督の執務室に行って見たものの、留守だった。というか、執務棟自体が

もぬけの空といった感じだった。他に行く場所と言えば何処なんだろうな。

そう考えていると、一人の憲兵が歩いてきた。

 

「あっ、池宮憲兵じゃない」

 

女性憲兵がこちらの姿を見ては、手を振ってきた。

 

「どうしたの、こんなところで」

 

そう尋ねて、俺は駄目元で聞き込んでみる。

 

「ここらへんの提督って、何処に行ったんや?」

 

そう俺が尋ねると、なーんだ、そんなことか。といった顔でこちらを見つめてくる。

 

「ここの提督達は、小ホールのほうで進水式の祝賀会をやってるみたいよ。

今頃美味しい料理をたらふく食べながら、有意義な時を過ごしてるんでしょうね」

 

あはは、と少し顔をひきつっている女性憲兵。小ホールか!

 

「悪い、ありがとな!」

「あ、ちょっと!池宮憲兵!」

 

女性憲兵は俺を呼び止めるも止まらず、俺は小ホールへ駆け足で向かう。

小ホールの前に行くと、扉の奥からざわざわとした声が聞こえる。

俺は、深呼吸をして、その扉を開ける。

扉が開くと、中の人の視線は、俺に向いてくる。その中には見慣れた姿をするものもいた。

 

「し、師匠!?」

 

そう小室は小さく声を荒げた。その声を聞き取って、その声の発生源まで大またで

歩いていく。小室の後ろ襟をつまみ上げ、

 

「少々借りていきます!」

 

俺は敬礼し、その小ホールを後にする。異質な空気が小ホールを包んでいたが、今は

そんなこと気にしている暇は無い。

 

「ど、どうしたんですか、師匠」

 

あまりにも強引な連れ出し方だったので小室も戸惑っている。

そして、俺は自分の耳元にある小型無線機を小室に渡した。

 

「これは・・・?」

 

首を傾げる小室。俺は提督の彼なら一瞬で分かるであろう、その用件を話す。

 

「緊急入電。望月含む艦娘三隻がヲ級率いる敵艦隊と接触。現在望月中破、皐月小破」

「??!!」

 

小室の顔色は一瞬で変わった。彼はその言葉でその意味、重みを一瞬で理解した。

 

「・・・師匠、この通信はどちらに繋がってるんですか?」

「夕張や。加賀と日向と一緒にあいつらのとこ向かってる」

 

二人もいたのか、と少し驚いた顔をしたものの、直ぐに真剣な表情に戻る。

 

「そうですか・・・何処で手に入れた情報か分からないですが、迅速な対応感謝します」

 

そう言って小室は素早く敬礼をし、無線機を繋ぐ。先ほどより早く繋がった。

 

「はい、こちら夕張」

「こちら小室だ。無事か、夕張」

「こ、小室提督!?」

 

夕張はその声の主を聞いて少し声を荒げる。小室提督からの電通ということで、急いで

スピーカーモードにする。

 

「スピーカーモードにしました!加賀さんや日向さんにも聞こえますよ!」

「そうか、感謝する」

 

そう言う小室は立て続けに言葉を放つ。

 

「事情は師匠から聞いた。加賀、艦載機を先導させてくれ。敵戦力は把握できている。

偵察機は大丈夫だ」

「了解」

 

艤装用の矢を弓で放つ。それは宙で小さな航空機となり、目的の海域まで一直線に

飛んでいく。

 

「師匠、後はおいらに任せてください」

「おう、頼むで」

 

小室は力強く頷き、その場を後にした。

 

 

 

 

 

「失礼する!駆逐艦望月率いる艦隊の状況を!」

 

おいらは鎮守府にある艦娘の海域での情報等を管理する、情報司令室に来た。

その声に、中で情報処理をしていた艦娘、《大淀》は驚いた。

 

「こ、小室提督!?どうして・・・今は祝賀会のはずじゃ」

「ししょ・・・とある人物からの情報で、現在の状況を聞いた。

だが、大まかにしか聞いていない。状況は?」

 

おいらは、大淀が座る大きなモニターの傍まで向かう。大淀は処理をしながら

口頭で説明していく。

 

「現在、望月率いる艦隊が戦闘中の敵艦隊ですが、空母ヲ級一隻、重巡リ級一隻

軽巡へ級二隻、駆逐艦ハ級二隻です」

「駆逐艦三隻では厳しすぎる戦況だな」

 

おいらは腕を組んでモニターを見つめる。そのモニターは味方艦と敵艦の情報を大まかに

リストされるもの。

 

「ですが、鎮守府から新たに三隻の艦娘が感知されているんです。これは・・・」

 

謎の反応に頭を抱える大淀。

 

「正規空母《加賀》、航空戦艦《日向》、それと、軽巡洋艦《夕張》の三隻だ。

彼女達には先導して救援に向かってもらった」

 

その言葉を聞いて、少し笑みを浮かべる大淀。

 

「そうですか。迅速な対応、感謝します」

「何・・・私より、友人に感謝したいぐらいだ」

 

あぁ、師匠のことを友人というのは少し心が痛い・・・!

 

「ふふっ、そうですね」

 

先ほど強張っていた大淀の顔が少しだけ笑う。余裕が出来たのだろうか。

 

「艦載機も先に飛ばしておいた。この速度なら間に合うだろう」

 

夕張たちを示すモニターの動く点を一点に見つめるおいら。

 

「いや、間に合わせて見せるさ。彼女達ならな」

 

拳を強く握り締める。おいらは彼女達を信じて、後は待つしかないんだ。

 

「っ!!」

 

大淀は思わず声を漏らす。その声においらも嫌な予感が走る。

 

「駆逐艦《弥生》、大破!敵艦載機の攻撃直撃!!」

「何ッ!?」

 

おいらはその情報を聞いて慌てる。直撃大破・・・次攻撃を受けたら確実に轟沈だぞ!

 

「このままでは・・・」

 

大淀は助けを求めるようにこちらのことを見つめてくる。

 

「信じるんだ、彼女達を・・・!」

 

だが、おいらたちにはどうすることも出来ない。

頼む、皆。彼女達をどうか静めないでくれ。おいらはそう願うしかできなかった。




初海戦。です!たぶんきっと美味く書けないです・・・。
やっと試験終わりました。再試験がまた待っていますが、胃が痛くなる思いでがんばりたいと思います・・・。
ちょっと今回は雑かもしれません・・・。

42お気に入りありがとうございます!!感想など待ってます!!

8/4 修正しました。日にち間違えてました・・・。
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