Demon's Stella ~悪魔の彗星~ 作:Hershel
《
魔導術の力を増大させる魔法陣のようなもの。人の身体に刻むものもあれば、魔法の触媒
に刻むものまで様々である。
基本的には手書き・・・というか人の手で刻印は刻まれ、その刻印の内容に沿った魔導術が
効率的に発動される。別に刻印が無くても魔導術は扱うことができるが
剣などで戦わずに魔法に集中する人であれば、刻印を扱えるようになっていたほうが
確実に強くなれる。刻印を刻むには、少し専門の知識と魔導術が必要であるが、
刻印を刻むだけなら特に特別なものを必要とせず、工具用の精密ナイフや、刺青などでも
刻むことはできる。
六月十七日(水)深夜一時。
「ギャオオオオ・・・・」
俺の刺突が紅い竜の姿をした魔物の身体を貫き、溶ける様に消えていく。
剣を構えた夕張も胸をなでおろす。そして、戦利品の鱗と共に、見覚えの無い物も落ちる。
「なんじゃこりゃ」
俺はその物・・・大きなビー玉、水晶のような真紅の球を拾い上げてはじっと見つめてみる。
夕張も隣に寄ってきてそれを一緒に見る。
「なんだろうね、これ」
「わからんなぁ。帰ったら親方に見せてみるか」
「そうね。まだ依頼の魔物全部片付けてないし、もう少し頑張ろ!」
やな、と言って俺は頷く。振り返った先には、電灯に薄く照らされた魔物の姿が目に入る。
その姿を見ては俺達は武器を構え、交戦を始めた。
「ふむ・・・」
深夜二時。俺は鎮守府に帰投した。夕張には部屋で留守番している弥生のこともあり
先に部屋に戻ってもらっていた。そして、俺は紅い竜から手に入れた真紅の球を
親方に見せていた。親方は数十分ほど黙り込んではその物について心当たりがあるか
調べていた。そして、でた結論が・・・。
「ん~、多分なんじゃが・・・」
少し言葉の出が悪い親方。もったいぶるなよ、と俺はせかしてみる。
「いやのう、わしも初めてみるから確信は無いんじゃ」
「へぇ」
親方が初めて見る物か。親方は艦娘の艤装の整備もそうだけど、地上の魔物と戦うために
必要である、武器や防具に関しての知識もある。この球だと何か防具についている装飾
とかに使うような・・・宝石の類だと思ってたんだが。
そう考えていると、親方が口を開く。
「これはのう、魔導術の《触媒》じゃの」
触媒・・・!それは、魔導術の効果を高める外的因子の一つ。
薬のように作用時間などの縛りがなく、壊れない限り半永久的に導力を供給できる
ものだ。だが、そのままだと多分使うにはかなりの技量がいるんだろうけど・・・。
「それも・・・中々の純度を保っておるのう」
それをまじまじと見ている親方。・・・ん、待てよ。触媒・・・?
俺は、頭の隅に眠っている記憶の片鱗を思い出す。
――――――――――――――――――――――――――――
「広樹。こいつはねえ、魔導術の効果を高める呪印、《
「ルーン・・・っすか?」
小さな明かりに照らされた部屋で、かすかに見える血の様に紅いロングヘアの女性がそう
楽しそうに話している。肌蹴た肩には何やら文字・模様などが複雑に刻み込まれている。
「そうさ。こいつは、あたしの炎の魔導術の力をさらに高めてくれるものさ」
そう言って、女性は指先から火柱を起こしてみせる。その火柱は天井ギリギリまで燃え
上がり、小さいものの大きな力を感じる業火であった。
「刻印を刻むには、ある程度の魔導術の知識と技量が必要なんだが・・・
まぁ、アンタがあたしの所で一ヶ月ほど真面目にやってれば出来るようになるんじゃ
ないかい?」
「ほ、ほんとっすか!?」
俺は思い切って女性の前に乗り出す。それを押し返すかのように女性は腕を出す。
「だー、もう!そんな乗り出すんじゃないよ」
小さなため息を女性は突くと、そのまま寝室へ言ってしまう。明かりが灯されていない
場所まで行くと、暗闇から声だけが聞こえてくる。
「興味があるなら、明日そこの本棚にある本でも読んどくんだね」
そう言って、あくび交じりに女性は消えていった。俺は明日とも言わず、その言葉を
聞いた瞬間、普段なら読みもしない分厚い本を、熱心に読んだ気がする。
――――――――――――――――――――――――――――
「あの本に書かれた・・・」
俺はそう、独り言を呟く。その言葉に、親方は首を傾げていた。
そして、親方の前に乗り出す俺。
「それ、俺にくれへんか!?」
真紅の球を指差す俺。今の俺の目には、その球しか目に見えていなかった。
「なんじゃ、いきなり?」
「頼むって!何やったら今日の報酬なしでもええから!!」
俺はそう言って土下座した。普通の人よりは土下座している回数は多いものの、俺の土下座
もそう安いものではない。親方は慌てて触媒を差し出してくれた。
「わ、分かったわい!あと、お前が手に入れた戦利品じゃ、別に報酬をなしにしたりはせん」
「お、親方ぁ~!」
俺は小さな身体の親方に抱きついた。親方は嫌そうに手に持っていた小さな金槌を振り回し
もがいている。皆が眠りについている中、俺達二人は鎮守府で一つ明かりがともった部屋
で騒ぎ倒していた。
翌日午後二時。俺は憲兵であるものの、艦娘を配下に置くという異例の立場であるが故
午後は艦娘の訓練に当てられていた。正直本当に異例の待遇であるものの
仕事しなくていいのは楽だ、と俺は心の中で切実に思っていた。
「ライトニングボルトッ!!」
夕張の掌から放たれる雷球。訓練用のかかしくんに当たると、電球が弾けて電撃が迸る。
術後にはかかしくんからは煙が炊かれていた。
「どうよ、池宮さん!」
「悪くないねんけど、それやったら魔導弾でええよな?」
そう言われると夕張は うっ、と言ったような図星を突かれた顔になる。
「け、剣の時でけん制ぐらいには使えるんじゃない?詠唱も早いし」
「せやな。そういう風に使っていったらええ感じかもな」
ほっ、と一安心する夕張。俺はこうやってたまに意地悪をするように相手のことを否定
している。だが、それは意地悪で言っていることではない。
無駄な魔導術は、精神的にもあまり良くない。魔導術を使っていると精神に影響があり
もし使いすぎてしまうと、意識が途切れ気絶してしまうことがある。
そういうことが起こらないように教育するのも、俺の仕事だからな。
「どや、弥生」
隣で魔導術の詠唱をしている弥生。えい、と小さな声で、掌からは氷の礫が放たれる。
それはかかしくんへ命中するものの、小石を当てられた程度しか傷が付いていない。
「まだ・・・だめ、です」
「氷が出せるようになっただけで大進歩やと思うで?」
「あ、でも」
思い出したかのように、弥生は目を瞑り詠唱を始める。さっきより少し長い詠唱だ。
詠唱を終えた瞬間、弥生は目を見開き
「氷刃、貫け・・・です!」
そう唱えた瞬間
ズズズズ・・・・ズドンッ!!!!
かかしくんの足元から巨大な氷の柱が現れた。先が鋭利な氷の柱は
かかしくんを貫き、大きな風穴を開け柱の先に留まっている。
俺はその魔導術を見てはおー!と感動のあまり大きな拍手をする。その隣で見ていた
夕張は口を大きく開けて唖然としている。
「どう、ですか?」
こちらに向いて、首を傾げてくる弥生。俺は拳を握り締め親指をグッと立て
「小便ちびりそうや」
「ん」
こくりと頷くと、俺と同じように親指を立てる弥生。
「いやいや、小便ちびりそうってそんな下品な表現しないでよ!」
慌てて夕張が思わず突っ込む。そして続けざまに
「っていうか、これだけ魔導術って差が出ちゃうの!?私あんなすごいの撃てないよ・・・?」
「でも、夕張さんには剣がある、です」
「そ、そうだけど~・・・」
少し夕張はしょぼくれている。夕張は、魔導術のセンスは悪くない。
夕張の魔導術は詠唱が速く、かなりの速度で放つことができる。だがその分魔導術の
威力は少し弱い。属性鑑定でも分かっていたところだが、ここまで実力差を
見せ付けられると、落ち込むのも無理はないかもしれないが・・・。
だが、俺がそれ以上に気にしているのは
「何で光の魔導術は使われへんねんやろな」
そう、夕張は属性鑑定で光属性を持つことが分かったのだが、光属性の魔導術を
使うことが出来ない。理屈上では出来るはずなのだが未だに使えた試しがない。
「う~ん、想像力が足りないのかな」
夕張がそう悩んでいる。いや、雷の魔導術が使える時点で想像力は足りているはず。
何かがきっと邪魔をしている。それが何かは、今その場では分からなかった。
翌日午後八時。憲兵としての仕事は終わり、食事を終えた俺達は、後片付けを終え次第
夜の仕事のために就寝態勢を取った。
が、俺は布団をかけず、部屋から出て行こうとする。
「池宮さん?」
「どこ、行くんですか?」
艦娘二人に経緯を尋ねられる。俺は振り返って
「悪いな、ちょっと今日は親方の所に用があるねん」
「そうなの?」
俺は頷く。
「あ、あと今日は魔物退治、俺行かれへんから」
「えぇ~!?」
その言葉を聞いて夕張が拒絶の声を上げる。
「大丈夫やて、ちゃんと加賀さんと日向に声かけて手伝ってもらうように頼んだから」
「いや、そういう問題じゃなくって!ちょっと、池宮さん!!」
布団の中から手を伸ばす夕張。その姿を見て、俺は扉を閉める。
「ど、どういうことなんだろ・・・」
今まで夜の仕事をさぼったことのない池宮さんが・・・。そう夕張は頭の中で考えている。
「もう、いい!寝るよ、弥生ちゃん!」
「あ、はい。おやすみなさい」
扉に伸ばしていた手は、部屋の明かりのスイッチに標的を変え、電気を消して二人は
就寝する。最初の頃はむかむかしていた夕張だったが、数分すると小さな寝息を立てて
眠っていた。
「よっ」
俺は、親方の所へ来た。親方もこちらの姿に気づく。そして、その隣にあった真紅の球
を投げ飛ばしてくる。
「ほれ」
「センキュ」
俺はその真紅の球の細部まで舐め回すように見つめる。
「工具はそこにあるわい、普通の工具でええんじゃろ?」
「おう、ありがとな」
そう言われ、親方の指差す机の上にあった工具箱を開ける。うん、これだけあれば大丈夫だ。
俺は机の近くにあった椅子に腰掛け、工具箱から精密ナイフを取り出す。
そして、ポケットから俺はメモのようなものを取り出す。そこには文字と模様が複雑に
絡み合った絵があった。
「なんじゃこれは」
親方が興味深そうに覗き込んでくる。
「《刻印》や」
「刻印じゃと!?お前、そんなもんが刻めるのか!?」
その言葉を聞いて親方は腰を抜かしてしまう。俺はその姿を見てげらげらと笑う。
笑い終えると口を開く。
「昔ちょっとこーゆーのかじってたんや」
そう言って、俺は開始点を決めて、メモに書かれていったように模様、文字を刻んでいく。
あくまで慎重に、精密に集中して刻む。その真剣な眼差しに、親方もちょっかいを
かけられなくなり、自分の仕事に集中しだした。
――――――――――――――――――――――――――――
「ぐっ・・・うっ・・・ああああああああああっ!!!」
部屋には炎のような、氷のような、はたまた雷のような何者か知れぬ異様な現象に
包まれている。そこの中心では苦痛のあまりに叫んでいる者が一人。
「あんた・・・一体何したんだいッ!!!」
真紅の髪の女性は、自分の腕から展開されている炎の壁でその不可思議な現象から身を守り
ながらそのものに近づいている。
「ああっ・・・っ・・・!!!!」
者は吐血した。普通の人間では信じられないほどの量を。だが、者が衰弱しようと、
この現象は止まることはなかった。
「ったく!!世話のかかる餓鬼だねぇ!!」
女性は壁の展開を止め、腕から炎の槍を放ち、現象を吹き飛ばして彼の元へ向かう一つの
道を作った。
「なんだい、こんなのあたしも見たこと無いよ・・・!!」
女性は嫌な予感がした。出来れば、その予感が的中しないことを信じて。
全速力でその者の元へ向かい。癒しの炎を纏った腕で、地に縛られた者の腕を開放した。
開放した瞬間、また吐血をすると、現象は止まり、者は倒れた。白目を向いており
完全に放心状態だ。出血も尋常じゃない。すぐに手当てをしないと命も危ない。
と、そう思っていたが、女性は彼の破けた服を見て目を疑った。
「嘘・・・だろ・・・」
あまりの予想していなかった出来事。いや、考えられる最悪の出来事が起こっていた。
多分それは、考えたくも無くて頭の隅の隅に置いていたものだろう。
女性はがむしゃらに者の服を破り捨てた。そうすると現れてきたのは・・・。
「何してんだい・・・アンタァアアアアア!!!!!」
――――――――――――――――――――――――――――
・・・・・・・・・・・・
思い出したくも無かった。けど、これは確かに覚えのある過去なんだ。
「まさか、《アレ》がここで役に立つなんてなぁ・・・」
皮肉だ、と小さく呟いては、俺はまたナイフを持つ手を進めていった。
午後十一時、東舞鶴駅前。人型魔物オーガが暴れまわっている情報が入ってきたため、
私と加賀さん、日向さんの三人で討伐に向かった。弥生ちゃんは・・・やっぱりまだ
お留守番してもらうことにした。
東舞鶴駅前はかなり開けていることもあり、標的の魔物は直ぐに見つかった。
「いた」
日向さんは目標を捕らえると武器のロケットランチャーを構える。
「どうする、先手を打つか?」
「・・・そうですね、お願いします。日向さん」
私の指示に、日向さんは頷く。トリガーを引くと、大きな爆音と共にミサイルが放たれる。
それは一直線に魔物の元に向かっていく。魔物は爆音でミサイルの存在に気がつくが
情景反射よりミサイルの速度のほうが勝っており、直撃する。
一撃死ではなかったものの、ダメージは確実に与えた。その隙を逃さないと、私は
一気に間合いを詰める。
「痺れなさいッ!!」
電撃を纏った剣撃は、魔物の分厚い肉を切り裂き、切り口から血と火花が迸る。
一瞬電撃によって硬直した魔物だったが、痛みのあまり暴れだす。
私は一旦距離を取る。私が安全な場所まで下がった瞬間、後ろから矢が放たれる。
その矢は魔物に着弾した瞬間、小爆発を起こす。魔物は肉塊と化して地面に飛び散り
戦利品である牙だけ残し残りは地面に消えていった。
「あはは・・・相変わらずすごい威力・・・」
「褒めても何も出ないわよ、夕張」
矢を放った本人、加賀さんはそう言って弓を背にしまう。私はは戦利品が落ちている
場所まで赴き、それを拾い上げる。
「牙かー。う~ん、たまにオーガの装飾品が落ちるらしいんだけどなぁ」
ちょっと残念だな。やっぱりいい戦利品のほうがお金もらえるからね。その分池宮さんも
ちょっとは金銭的に楽できるだろうし。
と考えているとき、加賀さんが私に尋ねてきた。
「ずっと思っていたのだけれど、どうして今日は池宮憲兵がいないのかしら」
「そうだね。私もずっと気になっていた」
日向さんも同意するように頷いている。
「正直、私も分からないんです。急に今日は行かないとか言い出して・・・」
「そう、なんですか」
加賀さんは意外だ、という表情をしている。
「でも、池宮さんのことですからサボってはいない・・・と思います」
そう私は言うけど、本当に何してるんだろ・・・。
魔物を倒しているとき以外は、そんなことをずっと思っていた。
戻ってきました!はい。どうもどうも。試験は散々でした。
今回は少しずつ魔導術に触れていきたいと思います。俺の思うぼくのかんこれわーるどが
どんどん展開していきますので、皆さん温かい目で見てあげてください。
この前のコメントしてくださった方ありがとうございました!いただいた意見の箇所は修正させてもらいました。こういったコメントはとてもありがたいので、もし何か気づかれたことがありましたら皆様どんどんお寄せください!!!