Demon's Stella ~悪魔の彗星~ 作:Hershel
弥生
性別:女性 身長:138cm 体重:33kg
舞鶴鎮守府に所属する駆逐艦の艦娘。別の艦隊に配属されていたものの、初進水の戦闘での
出来事をきっかけに、夕張と同じように池宮憲兵の元に配属された。
建造されたばかりの艦娘であり、海戦の錬度は非常に低いが、飲み込みは早く、伸び代が見える。
睦月型の駆逐艦ということだけあって、駆逐艦の中でも非常に幼い見た目をしている。
口数が少なく、感情を表に出さない。が、内心は何か思っていることもあるようで顔ではなく
仕草に現れることがある。
建造したてということで生まれたてであり、見た目以上に好奇心は旺盛。何事も経験して
みたいと持論を持っている。
好きなものは炭酸飲料とラーメン。彼女が『艦娘』ではなく『人』として食した初めて
の食べ物と飲み物であり、彼女自身も非常に気に入った。
地上では魔導術の適正が高く、導力の循環が良好。故に刻印が刻まれた魔導杖を扱って
魔導術を駆使して戦うスタイルを取っている。自分の潜在属性の氷の魔導術はもちろん
刻印の力を駆使して他の属性の魔導術も放つことも出来る。が、回復術は扱えない。
その分近接戦闘は苦手のようで、運動神経もそこまで良くは無い。
第二十六話 予感
六月二十九日(月)正午。
俺は午前の仕事を終えて、憲兵仲間と一緒に食堂に来ていた。夕張と弥生は今日は浜風達に
誘われて甘味亭に行っているようだ。俺も誘われたんだけど・・・流石に艦娘や提督しか居
ない場所にただの憲兵が入るっていうのは・・・飯が喉に通らない気がする。
というわけで、今日は小室達も仕事で忙しいらしく、久しぶりに憲兵だけで食事というわけだ。
「いやー、何か久しぶりだね~夕張ちゃん達が居ないのって」
「何時もいたもんな~。今日は違う所で食べてくるって?」
女性憲兵と男性憲兵が向かいの俺にスプーンや箸を指して話してくる。俺は頼んだカツとじ
丼を勢い良く口に運びながらこくこくと頷く。だが、箸やスプーンで人を指すな。
「んぐ・・・。今日は友達の艦娘と食べてくるんやて」
「そっかぁ。何だか居ないと寂しいなぁ」
女性憲兵は俺から視線を外して遠くを見つめている。
「お前気に入ってたもんな、弥生」
女性憲兵は弥生がこの食堂に来た時から、人が変わったかのように彼女に付きまとうように
なっていた。最初なんて話すときは何故か赤ちゃん言葉で子をあやすように話していた。
とにかく、こいつは小さい女の子が好きなんだろう。百合信者でロリコン、百合コンか。
ニックネーム百合コン女は俺が弥生、と言葉を放つだけで目を輝かせている。
「そうッ!そうよ!弥生ちゃん・・・私の前に舞い降りた天使・・・!!」
グッ、と自分の両手を握り、祈るように天を仰ぎだす。その様子を面白可笑しく男性憲兵
はけらけらと笑っている。
「まーた始まったな。新垣憲兵の小さい子発作」
「なんやねんそれ」
百合コン女、新垣憲兵はその言葉に耳を傾けず、なにやらぶつぶつ呟いている。
これは聞かないほうがよさそうだ。
「止めたれや、昔からの間柄やろ?佐久憲兵」
「昔からだから、止められないんだよ」
男性憲兵、佐久憲兵は分かったかのような顔つきで小さく溜息を零す。俺は新垣憲兵の
小言を背景音楽に、カツとじ丼を頬張っていった。
「おい、聞いたかよ。例の事件」
俺達が食事を終え、皿を返却口に返した後、お茶やコーヒーを飲んでいる所に後ろから
声が聞こえてきた。俺は新垣憲兵と佐久憲兵と他愛も無い話をしながら後ろの話を盗み
聞きすることにする。
「あぁ、聞いた聞いた。外で最近良くある人がいなくなる事件だろ?」
人がいなくなる事件?神隠しか何かでも起こっているのか?
「そうだっけ?俺は女の子に連れ去られるって聞いたぞ」
女の子に連れ去られるだと!?うらやましい・・じゃない。
「なんだそれ。そんなことあるのか・・・?」
「あるんだって。だから気をつけろよな、お前も」
「馬鹿、大丈夫だってそんなの。俺みたいな男にそんなドラマみたいな出来事・・・」
俺も少し気になっていた。いや、そういう卑しい意味じゃなくてだ。
まぁ、頭の隅にこの話は置いておこう。
午後十一時。俺は夜の仕事のために起床した。夕張と弥生はまだ起きていない。
「・・・今日は起こさんとこか」
あえて起こさなかった。何時も夜に起きてもらって悪いと思っているのも半分あるが、
気になることもある。
「昼間の話、一応少し調べてみたいし」
今日は小室の所の艦娘も忙しいらしいから俺一人での仕事。まぁたまにはいいだろう。
少女二人の寝息と寝顔を見ては小さく微笑んでは念のため書置きを置き、装備を整えて
静かに部屋を出た。何時も通り薄暗い廊下であるが、夏に入ると言うのに今日は一段と
冷えていた気がした。
「ん?」
憲兵寮から出て、門に向かっていると艦娘寮の入り口の前でそわそわとする艦娘が一人。
こんな夜中に何しているのだろう、と思って少し近寄って声をかけてみることに。
「どしたん?ええ子はもう寝る時間ちゃうか?」
金髪の髪に細いリボンを前髪にくくりつけた艦娘。俺は今は私服と言うこともあって
フランクに声をかけてみた。
「ッ!!な、何・・・?」
彼女は少し警戒心を強めているのか、身を少し俺から遠ざける。
「夜は鎮守府の中や言うても全く安全ってわけやないし、はよ部屋戻っとき」
警戒されているし、これ以上話すのはあまり良くなさそうだ。
「・・・・・・」
少し黙っては小さく溜息。
「・・・そうするっぽい」
俯いたまま彼女は寮の中に戻っていった。
「どうしたんやろな」
かなり落ち込んでいた。何か事情があるのかもしれないが、今の俺には彼女の悩みの相談
に乗れる状況ではなかった。
「なんや、今日は広樹だけか」
無線機越しに親方の声が聞こえる。
「ぐっすりと寝とったからな。起こすのも悪いな~って思ってや」
魔物を倒し、背に蛇矛をしまう。今は何時もと同じ、魔物討伐を行っている。
だが、俺は少しだけ違う所にも神経を尖らせていた。
「・・・・・・」
当りを見渡す。八島商店街の奥から吹いてくる風の音がかすかに響き渡る。
その静寂を破るかのように何処からか悲鳴が聞こえてきた。
うわぁぁあああああああ!!!!
俺はその声が聞こえてきた方角へ駆ける。開けた通りに出ると、逃げる男性に、それを
追いかける影。その姿は暗闇に隠れて良く見えない。
「魔物か?」
俺は蛇矛を構え、男性の下へ駆ける。影が何かしらの行動を取った瞬間、俺は男性を庇う
かのように前へ飛び込み、蛇矛を盾に身構える。
「ヒッ!!??」
男性は急に前に現れた俺の影に驚いてしまい尻餅をついてしまう。その様子を確認する
間もなく、影が攻撃を繰り出してきた。
「コロ・・・ス・・・」
その声と共に、金属が擦れるような音が聞こえてきた。俺はその音を聞いてぴくり、と震えた。
ズドォォン!!!
魔導術の詠唱や導力の動きも感じ取れなかった。それに、一瞬で感じた音の響き。
これは・・・
「祖は元の起源、水よ包め清め!」
俺は即座に左手を開き、水のエンチャントルーンを唱える。掌からは水の球が形成され
それらは俺の身体を包むようにして流れていく。
「方陣展開!《ウンダ》!!」
掛け声と共に、左手を突き出しエンチャントルーンによる防御方陣を展開する。
間一髪で間に合い、影の攻撃を受け止める。水の方陣のお陰で傷もかなり浅く済み、
庇った男性は無傷で無事だった。だが、あまりの出来事に気絶しているようだ。
影はその場で動くことなく、ただ呼吸のような音が聞こえてくるのみ。
俺は体勢を整え、その影を睨む。影はこちらに近づこうとしたのか、地を踏みしめる音
が聞こえてきた。
だが、直ぐにその音は止まり、影からはうめき声が聞こえてきた。
「ウウッ・・・ウググッ・・・ウガァァァアアアッッ!!!!」
何かに苦しんでいる、断末魔に近い叫び声。俺はその様子をその場でじっと見つめていた。
「チ・・・チガ・・・ッ・・・!!」
影は数秒間うめき声を上げた。だが、少しすれば静まり返っていた。
「・・・・・・」
俺はあえて何も言わずにその場をやり過ごす。影のほうも一度こちらを見るような仕草
を見せる。その仕草の後に、影は飛び去り、その場から消えていった。
「何やったんや、あれ・・・」
俺は謎の影の存在が気になりつつも、後ろで気絶していた男性に声をかけた。
「大丈夫かいな、兄ちゃん」
ペシペシと頬を叩いて起こしてやる。兄ちゃんはゆっくりと目を開ける。
「あ、あれ・・・俺、生きてる?」
「生きとるで。死にかけやったけどな」
俺は苦笑しながらもそう言葉をかける。兄ちゃんは自分の手で顔を覆っては深呼吸を
数回行った。
「た、助かったんだ・・・よかった・・・」
兄ちゃんはぐったりと脱力した。俺は少しだけ兄ちゃんを楽にさせてあげて、魔物の気配
を感じないことを確認してから、少しだけ話をすることにした。
「なぁ、兄ちゃん。聞きたいことがあるんやけど・・・」
俺はそう、兄ちゃんに声をかけた。何でも言ってよ、といわんばかりにウンウンと頷く。
「さっき、何に襲われてたん?」
それを言うと、兄ちゃんはものすごく言いづらそうな顔つきになる。
「あぁ、ごめん。流石に言いづらいよな」
俺がそう申し訳なさそうに話しかけると
「いや、話すよ。助けてくれたお礼だし、君、あの子に対抗できるぐらい強いし」
あの子・・・?あの子って言ったよな、兄ちゃん。
「うん、俺を襲ってきたのは・・・女の子『だった』んだ」
女の子!!昼間の話と関連性があるかも!俺はそう思っては兄ちゃんの話に耳を傾ける。
あれ、だった・・・ってどういうことだ?
「『だった』って、どういうことや?」
俺はそう疑問を率直に尋ねる。
「言葉通りさ。駅前で一人ぼーっと佇んでいる女の子がいてさ。危ないから家に
帰るんだよ、って声をかけたんだ」
駅前で一人で・・・。って、兄ちゃんもはやく家に帰ってろよ。
「でも、ぶつぶつと独り言を唱えた後、急に血相を変えて襲い掛かってきたんだ」
独り言・・・?若干気になるけど、ぶつぶつってことは詳しくは聞こえなかったんだな。
「でも、女の子が襲い掛かってきてもたいしたこと無いやろ?」
俺は率直な返答をする。実際そうだ。兄ちゃんは俺より身長は高い、いわば普通の青年。
女の子、と彼が呼ぶような人間に力で負けるはずはないからだ。
「うん、普通なら・・・ね」
普通なら・・・か。まぁ、この先は何となく予想できた。
「普通じゃなかったんだ。顔は何かに蝕まれていたような見た目で、腕も何だか・・・
《悪魔》みたいなおぞましいものに変わって・・・」
悪魔みたいな・・・。影としてしか見えなかったけど、あの影は人型の化け物だったって
ことか?
「・・・それからずっと逃げ回っていて、この有様だよ」
兄ちゃんはそういい終えると、深く溜息を零した。
「もう、夜に自販機には行かないことにするよ」
「当たり前や」
自販機に行く為に外に出たのかよ!お願いだから日が暮れる前に買っておいてくれ。
俺は兄ちゃんの調子が落ち着いた後、家まで送り届けた。彼の家族からは感謝されては
礼をしたいと言われるも、気持ちだけ受け取っておいた。
正直、早く家に帰って抜いて寝たいし。あ、夕張らがいるから出来ないんだった・・・。
と、くだらないことを考えながら俺は帰路についていた。
「えらい目にあったのう」
六月三十日(火)午前二時。舞鶴鎮守府工廠。
親方と俺は報酬の換算をしながら影の話になっていった。
「なんや、女の子の姿をした化け物がうろついてるって話やな」
俺はそう何気なく答えていると、親方は考え込んでいる。
「どしたん?」
俺はそう尋ねると、親方は俺の近くまで歩いてきては小さく息を吸う。
「一つだけ確信できることはあるわい」
親方はそう言って、少し間を置いて話す。
「その影、重機を使っとるわい。しかも、うちの艤装と酷似したものをな」
俺はその言葉を聞いて驚きつつも、少し納得した。確かに影から聞こえた音には少し
聞きなれた感じはあった。あの金属の擦れる音は、艤装が標準を定めるときの音。
爆撃のような巨大な音は砲撃に近い音だった。
「それやったら・・・」
俺はその答えとなる言葉を突きつけようとするが、親方は制止する。
「じゃけど、それだけじゃないんじゃ」
まだ足りない、と言わんばかりに親方は首を振る。椅子から机に飛び移り、窓から夜の
海を眺めだす。
「これはわしの・・・予感じゃ」
親方はこくこくと頷いている。だが、何時も以上に声のトーンは低く妙に真剣だ。
「良くないことが起こる・・・予感、じゃな」
そう親方が口ずさむと俺は親方を見つめ、納得できないような顔つきになっていた。
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今回は次の話を進める際のステップ、というお話です。艦娘成分は少し少なめなのはご容赦ください。憲兵友達の二名の名前は当時全く付ける予定がなかったのですが、男性憲兵女性憲兵では収集しづらいのもありますし、あえて苗字だけつけることにしました。百合コン女とそのおまけ男くんの活躍にも期待・・・?