Demon's Stella ~悪魔の彗星~   作:Hershel

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キャラクター紹介

飯田武士(いいだ たけし)
性別:男 年齢:25歳 身長:181cm 体重:71kg

舞鶴鎮守府に所属する憲兵。池宮とは寮の部屋が隣で、毎朝コントをしあう仲。
茶髪で2ブロックヘヤー。
主に日中警備、不当な提督の監視を担当する。
腰には刀を身につけてはいるが、威嚇程度にしか扱えない。

他人に合わせることが得意で、会話の質やレベルを相手によって変える。
池宮とは気が合うようで、朝のコント以外でも日中警備や演習でも共に行動することが
多い。
多趣味であり、テレビ鑑賞やゲーム、漫画からモータースポーツや登山、海釣りなど
インドアからアウトドアまで完備している。
そのため夜更かしすることが多く、彼の部屋の電気が消えていても物音が聞こえてくる。

少しロリコン気質。艦娘の中では駆逐艦が好き。


第三話 旅へ向かってただひたすらに

    ジリリリリリリ・・・

 

午前6時半。

耳に障る金属音が部屋中に鳴り響く。

窓からはカーテンの隙間から朝日が差し込み、散らかった部屋や布団を照らし出す。

太陽の光の温かみを受けた布団から抜け出したくない。が、このまま身を任せてはまた深く堕ちてしまいそうだ。

俺は意を決して上半身を勢い良く起こした。

 

「とうっ!」

 

俺は、起き上がってはそのまま金属音を響かせていた目覚まし時計のボタンを押した。

金属音は鳴り止み、針が動く小さく素朴な音に変貌した。

視線を落とすと、紅く滲んだガーゼと包帯が目に入る。

俺は夜の出来事を思い出した。

 

「治したけど、念のためつけとくか」

 

俺は深夜、魔物との戦いで負傷した傷を、一種の《マジック》を使って治癒した。

完治・・・とまではいかないが、生活に支障がない程度には回復している。

加賀の迅速な応急処置がなければ成せなかったが。本当に感謝しないとな。

それで、俺は加賀に言われるがまま病院にいくべきなんだろうけど。

この《マジック》は、他の人には知られていない。

なんせ奇怪なものであり、恐怖の対象、もしくは憧れ、夢の対象になるかもしれない恐れがあるからだ。

素質さえあれば誰でもできるとは言え、特別な訓練が必要なのも確かだ。

簡単に習得できるとは言えない。だからこういうのはあまり世に出さないほうがいい。

というわけで、俺は未だに怪我してるよアピールをするがために、昨日の包帯を頭部に巻くことにした。

 

「なんか、ほんま病人みたいやな」

 

といっても、考えても見れば憲兵服は帽子までがセットなので、頭の包帯なんて見えないんだけど。

もしものときのためだ。保険とでも思っておこう。

 

「と、その前に飯や」

 

思い出したかのように食事の準備に入る。

昨晩はすぐに倒れこんだ為、炊飯器の電源は消えている。

冷蔵庫から冷ご飯を取り出し、中華鍋に油を引いてご飯を炒める。

チリチリと焦げる音が食欲をそそる。いったん器に戻してまた鍋に油を引く。

そしてまたご飯を戻す。これが二度痛めだ!さすが俺。

次はそこに解き卵を流し込み、葱を撒いて炒めては醤油、塩コショウ、かつおだしを入れる。

味付けは至ってシンプル。和風チャーハンの完成だ。

ただ、朝からチャーハンってのも中々重い気がするが、景気付けには・・・うん。

とりあえず器に入れ直しては取り出した蓮華で口の中に運ぶ。

 

「うめぇ!!」

 

自分の料理を自分で評価して、自分で賞賛する。

我ながらちょっと寂しい気もするがそんなの気にしてられない。

俺はさっさと腹に入れると、皿と鍋を洗った。

食事を済ませて即座に歯磨き、顔を洗っては包帯を巻く。

そして憲兵服に着替える。深緑の目立たない色合いに頭が平坦の帽子。

これが俺の日中のユニフォームだ。

準備完了!日中でも槍は背に背負う。憲兵の大半は日本刀を所持しているのだが、

制圧用の武器であれば特に指定はない。俺はそのままこの蛇矛を背負って活動している。

準備が完了すると、俺は部屋を出て鍵をかける。

そしてすぐ隣の部屋、飯田憲兵の部屋の扉を蹴り飛ばそうとした。

だが、その瞬間を飯田憲兵は察していたようで、俺が蹴り飛ばす瞬間に扉を開けた。

俺はそのまま勢いで部屋に転がり込んだ。廊下に落ちていたビール瓶が頭にヒットする。

 

「ってぇ!!!」

 

思わず叫んだ。俺は頭を抱える。怪我したままだったらやばかったな。

 

「やっぱりな」

 

手を腰に当てる長身の青年。飯田は俺を見下ろしては苦い表情を浮かべていた。

俺は軽い身のこなしで起き上がり、飯田を猫のように上目遣いで睨んだ。

 

「さすがに扉開けることはないやんけ!」

「建て付け悪くなるから蹴るな」

「様式美って奴やん、それぐらい許してぇな~」

 

下劣な笑みを俺は浮かべる。それを見て飯田は眉間にしわを寄せて俺の頭を拳で捻ってきた。

 

    ギリギリギリギリ・・・

 

脳内に響く痛みの音。俺は歯を食いしばって痛みに耐えている。

 

「イタイイタイ!悪かったって!悪かったあああ!!」

 

お慈悲をと言わんばかりに大声で謝罪する。飯田はため息をついては拳を放した。

 

「次からはもう少しゆっくり開けろよ」

「次は槍で貫いて開ける」

 

俺はその後すぐに来客用スリッパで頭を叩かれた。

 

 

 

 

 

 

「・・・を持って、正しき未来へ導くために・・・」

 

憲兵特有の朝の朝礼。眠い。非常に眠いが寝てしまうと上官からの鞭が飛んでくる。

俺は苦痛を味わうのを逃れようと、必死に睡魔に抵抗していた。

それを横目で面白そうに見ている飯田。こいつ夜更かしするくせに寝起き良すぎなんだよ。

 

「以上!解散!!」

 

 

 

 

「おわったでええええええ」

「お疲れ。今日は上官からの愛が飛んでこなかったな」

「おっぱいでかいお姉さんなら大歓迎なんやけどな」

「俺は小さいほうがいいかも」

 

下劣なコントをしだす俺と飯田。こんな話に乗ってくれる飯田も飯田だけど。

朝礼が終わり、それぞれの持ち場につく。

今日の仕事は、飯田と同じ持ち場だ。正午の昼食までは艦娘の寮の入り口の警備。

正直これには意味があるのかと思うが、上官曰く艦娘を不当に誘拐する輩への対策らしい。

昼間から堂々と誘拐なんてあるわけないだろ。馬鹿かよ。

そう雑談していると艦娘達が起きてくる時間だ。

ぞろぞろと寮から出て行く艦娘達。俺達は敬礼で送り出す。

 

「あんな小さな女の子達が、海の最前線で戦ってるなんてなぁ」

 

飯田は呟く。今出てきた駆逐艦達は、見た目は10歳程度の姿をした小女中の少女だ。

だが、彼女達も立派な艦娘で、海域で勢力を広げる《深海凄艦》と対峙している。

聞いた話ではあるが、砲撃の主力である《戦艦》や《重巡洋艦》が対処できないとされる

相手の《潜水艦》には、彼女達、駆逐艦の対潜装備が非常に役に立つそうだ。

人間も艦娘も見た目で判断しちゃならないということだ。

 

「せやな」

 

それしか言えなかった。俺達人間はそもそも海上で戦う術が極端に少ない。

船で戦っても、海上での圧倒的な機動力を誇る深海凄艦達には、正直成す術が無いからだ。

相手のような機動力と攻撃力を持つ艦娘でしか、対処することができないのだ。

いや、今の技術では艦娘以上の対策が取れないのも皮肉なものではあるが。

そう考えていると、一人の艦娘がこちらに顔を向けた。

 

「ちょっと」

 

一言言ってはこちらに近づいてきた。艦娘から憲兵に近づくことは非常に珍しいことであり

飯田は驚きを隠せずにいた。しかし、その艦娘は飯田ではなく、俺に近づいてきた。

 

「病院は、行ってきたのですか?」

 

加賀だ。艦娘の寮だし、彼女がここから出てきてもおかしくはない。彼女は小言で俺に話しかけてきた。

できれば放ってほしかったけど、意外とおせっかい焼きなのかもしれない。

でも、もしかしたら小室提督が見てるってこともあるんだから、もうちょっと警戒してくれ。

 

「まだ開いてないからなぁ。開いたら行く予定や」

 

俺は口からでまかせを言った。でも何となく顔で彼女にはばれている・・・様な気がする。

 

「・・・本当ですか?」

「本当やって」

 

加賀はしばらく黙り込んだ。そう沈黙の時間、見つめ合う二人の姿を見ている飯田は少し

声をかけるのをためらっていた。

その沈黙を破ったのは

 

「あら、加賀さん。どうかしましたか?」

 

一人の女性の声。赤い弓道着の装束をした清潔な黒髪のロングヘヤー。

加賀と同じような姿をしているということは、正規空母なのだろう。

 

「赤城さん・・・」

 

《赤城》と呼ばれる艦娘は俺の姿を見ては笑顔で応えてくれた。

よかった、優しそうな人だ。乳でかいし。

 

「加賀さんが憲兵さんとお話なんて珍しいですね」

「べ、別に・・・」

 

赤城は加賀の傍に近づいてくると加賀はそっぽ向いた。

顔を少しだけ赤らめている加賀からは、少々ではあるが大人の魅力が抜け、少女の雰囲気

を漂わせた。

 

「憲兵さんたち、今日もお仕事お疲れ様です。加賀さんがお世話になっているようですね」

 

丁寧な挨拶。ここまで礼儀を弁えている艦娘も珍しい。今まで艦娘にここまで丁寧に

話す事はなかったため、無性に違和感を覚える。

 

「いえ、加賀さんとはとある出来事で少しお世話になりました。寧ろ俺が感謝してるんです」

 

実際そうだ。向こうは夕張を助けてくれたことに感謝をしてるかもしれないが、俺が勝手に

やったことだし、その後処理に俺の怪我の手当てまでしてくれた。

あのいけ好かないクソ提督の部下ってのだけは気に食わないが、感謝はしている。

 

「そうですか。では、これからも加賀さんと仲良くしてあげてくださいね。

彼女、艦娘の中でも少しとんがっていまして、あまり話し相手がいないのです」

 

くすくすと赤城は笑う。その発言を良しとしないのか加賀が振り返って

 

「ちょっ・・・赤城さん!」

 

言葉は詰まってしまうが、赤城は察して謝罪の意味も込めて首を傾げる。

 

「ふふっ、ごめんなさい」

 

赤城と加賀か。仲がいいなぁ。スタイルも抜群だし。

俺はその二人の兄弟のような会話に癒されつつも、自分の仕事に戻ることにする。

 

「っと、そろそろ執務室に向かわれてはいかがですか?」

「そうですね。あ、あとそこまで固くならなくて大丈夫ですよ。加賀さんと喋っている感じで

結構ですから」

「んじゃそうさせてもらうわ」

 

いつもの関西弁で話しなおす。丁寧に話されると俺まで丁寧になっちゃうんだよな。

 

「頑張れよ」

 

加賀に敬礼すると彼女も敬礼した。やらされる敬礼にはあまりいい気分にはならないが

こういうのはは清清しくていいものだ。

こうして堂々と艦娘と話す俺を見て、やっと飯田が口を開く。

 

「お、お前・・・いつの間に艦娘と仲良くなったんだよ・・・」

 

尊敬、とは少し違うがそういった眼差しで俺を見つめてくる。

不思議に思うのは無理はない。ここの憲兵は基本艦娘との意図的な接触は禁止されている。

話すことですら言語道断というのに、俺は艦娘とただ話すだけでなく、タメの仲。

堂々と話していた時は全く気にしていなかったが、これって結構なことなんだろう。

 

「まぁあれや、いろいろ・・・な」

「いろいろってなんだよおおおおお」

 

飯田は俺の胸倉を掴んではぶんぶん前後に揺さぶった。

俺の視界は空から地面へと往復している。

でもこれ以上何か話してしまうとぼろが出てしまいそうなので、黙秘を貫き通した。

 

「あっ」

 

扉から現れた少女は、帽子越しから見える見覚えがある姿を見て思わず声を漏らした。

夕張だ。俺を見つけては早足で駆け寄ってきては心配そうに見つめてきた。

 

「おはようございます!あ、あの!お怪我は大丈夫ですか!?」

 

大きな声で挨拶したかと思ったら、容体まで音量を変えずに尋ねてきた。

その声で一部の艦娘、憲兵が振り向いてきた。俺は彼女の耳元まで顔を近づけて耳打ちする。

 

「アホォ!んな大声出したら変な噂立って、また小室提督の小言が飛んでくるで」

「そ、そうでした・・・そうですね」

 

小声で話しあう。そしてこのまま話を続ける。

 

「少し楽になったわ。もうちょっとしたら病院に行くつもりや。

夕張のお陰や、感謝してるで」

「そ、そんな・・・私は何も・・・寧ろ私が助けてもらったのですから・・・」

 

加賀と同じような展開になることが予想できたのでさっさと切り上げようと

話の展開を持っていく。

 

「ほら、早く行かないとまた小室提督に叱られるぞ」

 

意地悪い笑みを浮かべては彼女の銀髪を軽く撫でてやる。

夕張はびくっと反射しては俺の元から離れた。

 

「そうですね・・・池宮さん、お仕事がんばってください!」

 

初々しい敬礼。なんとなく見てるとほほえましい光景に癒されつつも俺は誠意の敬礼を返した。

彼女は執務室へと足を向けると、また隣にいた飯田がこっちに顔を覗かせてきた。

 

「おーい・・・池宮くん・・・?」

 

怪しい、と言わんばかりの飯田の顔。俺はだんだん相手にするのが面倒くさくなってきて

その場から逃げようと試みる。

 

「わり、俺今から病院やねん。艦娘の子達が言ってたやろ?」

「あぁ、病院行ったのかっていうのか?お前ついに頭逝ったか」

「しぇしぇしぇのしぇ~ ってちゃうわ!どつきまわすぞ!」

 

どつきまわすぞと言う前に手が出て飯田の頭を引っぱたいた。普段だったら頭が届かない

位置にあるが、今はこちらに顔を覗かせていたため余裕で届いた。

 

「っ~~ 久々にお前にしばかれたぞ」

 

頭をさする飯田。もう二度目は届かない。ジャンプしたら届くだろうけどその前に止められそうだ。

俺はこの隙に飯田から逃げ出す。病院に行くふりをして。

 

「そういうことや、んじゃ、警備よろしくなぁ!」

「あ、おい!お前、さすがにそれはないだろ!!」

 

俺は一目散にその場を後にした。飯田が遠くで怒っているように見えるが気にしない。

病院に行こうにも怪我は殆ど治っている。行っても無駄な診察代を取られるだけだ。

 

「さて、どうすっかなぁ~」

 

俺は正門を後にして、これからの行動について歩きながら決めることにした。

 

 

 

 

 

 

海沿いの道から南下して、東舞鶴商店街に入った。

駅前には大型ショッピングモールが佇むが、ここは魚屋、洋服屋、生肉屋、酒屋など

昔ながらの個人の商店が立ち並ぶ。

高齢化に連なって、シャッターが施された店も少なくはないが、まだまだ活気には満ち溢れているようだ。

俺はこの商店街で時間を潰すことにした。

歩いていると、生肉屋で俺は呼び止められた。

 

「あら、あんた、海軍さんかえ?」

 

派手なパーマが似合う紫の服を着たおばちゃんが話しかけてきてくれた。

そう言えば俺、憲兵服のままだった。私服に着替えるべきだったかな。

しかも槍を背負いっぱなし。平日の朝型だ、これは目立つな、うん。

 

「おはよう、おばちゃん。そんなとこやで」

「あら、こてこての関西人かいな。ここらへんか?」

「ばあちゃんが近くに住んでるんや」

 

俺の祖母は、ここの商店街のとあるお店を営んでいる。その息子が後を次いでいるが、祖母

もまだまだ現役だ、と今でも元気に働いてる。

 

「そうかいなそうかいな、ほれ、コロッケ食べて行き」

 

そういっておばちゃんはコロッケを紙でつつんで俺に押し付けてきた。

 

「ええよええよ、俺金ないし・・・」

「金なんていらんさかい、ほら、食べ!」

 

おばちゃんの押しの強さに負けて、俺はコロッケを受け取っては頬張る。

中で牛肉のミンチとじゃがいもが混ざり合って、溶ける。

 

「うまい!うまいでこれ!」

 

おばちゃんに笑顔を向けた。もしかしたら食べかすが少し飛んだかもしれない。

だが、本当に美味かった。素材がいいのか、油がいいのか、おばちゃんが上手なのか分からないが

これは本当に美味しい。毎日食べたいかもしれない。

しかも値段を見てみると、コンビニの粗末なコロッケとそこまで変わらないじゃないか。

暇があれば買いに来ようかな。

 

「せやろ?おばちゃんの自信作なんや。今度はお金持って食べにきてな!」

「ありがと、おばちゃん!」

 

俺は手を振ってその店を後にする。商店街の人達は、大らかでよそ者でも歓迎してくれる。

俺は、まぁ祖母がいるから実際はよそ者でもないんだけどな。

昔はおもちゃ屋もあったんだが、駅前の大型ショッピングモールに客層を取られてしまい、

やむなく閉店してしまった。少子化も重なって、経営がままならなかったんだろうな。

そう思ってると、今度は酒屋に入った。

 

「いらっしゃい・・・って、広樹やないか」

「ども、おっちゃん」

 

酒屋のおっちゃんとは結構小さいときからの知り合いだ。

向かいのお店は、俺の祖母が経営する店で、昔俺は酒が好きで窓越しから見つめていたら

おっちゃんが店から出てきてくれて相手してくれていたのだ。

もう酒が飲める年になったけど、おっちゃんは変わらず昔のように接してくれる。

もうじいちゃんって年だろうけど、俺は昔どおりにおっちゃんと呼ぶことにしている。

 

「どうじゃ、仕事は順調か?」

 

お酒を見ながらおっちゃんと話す。椅子に座ったおっちゃんは、煙草を吸いながら俺の酒を選ぶ

姿を見ている。

 

「ぼちぼちやな。そっちの子はどうなん?」

 

おっちゃんの孫は、舞鶴鎮守府に勤める提督だ。無名ではあるが、海軍学校をしっかりと卒業

しているため鼻が高いであろう。

 

「たまに家に帰ってくるけど、元気そうじゃ。

というか、お前さんのほうがよくわかっとるんちゃうか?」

「憲兵と提督じゃ全然ちゃうて。俺、殆ど提督とは繋がり無いで」

 

繋がりがあるとしても、規則違反を行った不当な提督を処罰、している程度だ。

憲兵はそういう仕事が主だから、それが普通なのだ。

 

「最近帰ってきたんやけど、提督にもいろいろあるみたいじゃな」

「へぇ?」

 

おっちゃんの話に俺は少し興味を抱く。提督が感じている、提督像が聞けるのならもう少し

お酒を選んでおこうかな。

 

「一番えらい提督・・・なんといったかなぁ・・・」

「谷岡提督、やろ」

 

俺が付け足してあげた。おっちゃん、ちょっと物忘れ激しくないか?

 

「せや、その谷岡ってのが、一番偉いっていっとったわ。

しかも、その谷岡には異様な信者がおるらしくて、その配下に何人かの提督がおるって

話や」

「へぇ~」

 

つまり、谷岡派閥みたいなのが、鎮守府内であるってことか。

なんかちょっと君が悪い気がする。男を慕って何がいいんだ。

俺はどうでもいいことを思いながらもおっちゃんの話に耳を傾けた。

 

「その中でも、今勢いに乗ってるのが、小室っていうちっこい提督らしいんや」

 

思わぬところで聞いたことのある名前が出る。小室提督は谷岡派閥だったか。

そう思えば小さいくせに何か威厳のある喋り方してたな。

あれは谷岡提督をリスペクトでもしているのかな。

 

「海軍学校を主席で卒業、さらに最少年卒業ときたらしい。期待のルーキーって提督の

中では話題らしいで」

「へぇ~・・・期待の・・・ね」

 

お酒のラベルの小さな文字を読み取りながら、頭の中では小室提督を思い浮かべては

おっちゃんの情報を当てはめていく。

たしかに、あの感じだとエリートって言われても納得だな。

 

「でも、孫が言ってたんやけど、おかしいらしいんじゃ」

「ん?」

 

おっちゃんが声色を変えた。俺はそれを感じ取ってお酒を置いておっちゃんと向き合う。

 

「その小室提督って、入った当初は同期の提督とも仲良くしてたらしいんじゃ。

うちの孫もそうなんじゃがな」

 

そうだったのか。昔は、ということは今は違うということなのか?

 

「確か入って半年・・・ぐらいやったかな?急に態度が冷たくなったらしいんじゃ。

孫は『何かにとり付かれた』みたいやっていっとったわ」

「・・・・・・」

 

俺は顎に手を添えて考える仕草をする。確かに小室提督はちょっと様子がおかしかった気がする。

あんな夜中に夕張を買出しに行かせるのもおかしいし、夜の出来事も俺に怒るのは別に

分かるんだが、部下にあそこまで怒る必要があったのか?

う~ん、いろいろ考えることがあるが、帰って纏めることにするか。

 

「ん?どうした、広樹」

 

おっちゃんが顔を覗き込んできた。どうやら結構真顔で考え込んでいたらしい。

 

「あぁ、ごめんおっちゃん。俺そろそろいくわ」

「そか。ほれ、小瓶やけど、もってけ」

 

おっちゃんはレジ前に置いてあったウイスキーの小瓶を俺に投げてきた。

いきなりの出来事に俺は驚きつつもなんとかキャッチして、握りこぶしを作った。

店を後にして、俺は帰路につくことにした。

診断だけと思わせるなら十分に時間を潰した。

祖母、ばあちゃんに挨拶していこうと思ったが、一応勤務時間だし、鎮守府に連絡されたら

たまったもんじゃないから、そこからさっさと逃げ出した。

 

 

 

 

 

俺は海岸沿いに歩いて鎮守府に戻っていると、水面を走る少女達の姿を捉えた。

艤装を施した少女達は、水面を走り、浮かぶ的に向かって砲撃、それを打ち落とした。

艦娘用の訓練、《演習》である。演習は艦娘同士で模擬戦を行うものから、各個人の

能力を底上げする、トレーニング形式のものがあるらしい。

見ていたらこれはトレーニング形式のものだろう。

普段は誰もいない港には、艦娘の姿を見ようと、数人の人だかりがあった。

 

「たしかに、近くで見たら大迫力やろなぁ」

 

そう呟きながら俺はまた歩き出した。

 

 

 

 

 

 

時刻は正午を過ぎていた。艦娘の寮の警備は別の憲兵が行っていたため、俺は敬礼した後に

憲兵の食堂に向かった。

いつも頼む天ぷらうどんをもらって、トレーを飯田のいる席まで運んだ。

飯田は不満そうに俺を睨む。

 

「お怪我のほうはどうでしたか?」

 

顔は笑っているが、でこにしわがよっているのが丸分かりだ。

俺は手元にある小瓶をふらふらと揺らした。

 

「土産や」

「しゃーねぇな」

 

俺と飯田は固い握手をした。こういうときの酒って便利だ。

食事を素早く済ませて、俺は午後の仕事に向かった。

 

午後の仕事は修練。つまり、武器を扱った鍛錬の時間。

各憲兵達は、各々の練習用の武器を取った。

俺は薙刀。さすがに蛇矛を修練で使うのはちょっとまずいので、競技用の薙刀で我慢だ。

他の憲兵は皆木刀。この鎮守府では日本刀で戦う憲兵が多いため、相手は殆どが木刀使いだ。

俺だけ薙刀を使ってるため、本当に目立つ。視線を浴びるって辛いな。

 

「おい、次、池宮の番だぞ」

「おっけー、いってくるわ」

 

俺は正座から立ち上がり、演武場へ足を踏み入れる。

相手は俺どころか飯田より一回り大きい大男。木刀を構えて俺を真っ直ぐ睨んでいる。

憲兵って、俺みたいなチビがいないから、自然と俺はいつも大男と対峙することになるんだよな。

 

「よーい、はじめ!」

 

審判である上官が合図をした。大男は雄たけびを上げて突進してくる。

なんか昨晩のグールみたいだな。

俺は地面を踏みしめ、横にかわす。

 

「遅いで、おっさん」

「なっ!」

 

両手で薙刀を軽々振り回して、相手の手の甲に目掛けて振り下ろす。

大男の手の甲に命中し、その痛みに耐え切れず、木刀を手放した。

薙刀の先を大男の喉下に持って行き、降参を迫る。

 

「・・・参った」

「勝負あり!」

 

周りが湧き上がった。夜に魔物討伐するだけあって、修練は他の憲兵と比べるまでもない。

毎度こうやって完勝してはむさ苦しい男達の客気を浴びることになる。

どうせなら艦娘とかかわいい女の子から浴びたいよ!

 

「さすがだな、池宮」

「どもっす」

 

俺は上官にピースサインをして余裕のアピール。普段なら怒るところが上官はこのときだけは

ほくそ笑んでくれる。強い人の特権だな。

 

「では次だ!」

 

そうやって俺が演武場から降りようとすると、物陰から視線を感じた。

俺は自分の席に戻らず、お手洗いに行くふりをして、その視線の現況に近づいた。

 

「どしたんや、夕張」

「ひゃい!?」

 

俺はあえて後ろから声をかけた。驚き方が見た目相応の少女で可愛い。

 

「い、いえ!偶然通りかかってたら、池宮さんの姿が見えたので・・・」

 

夕張はもじもじしている。俺は胸を張って鼻息を荒くして口を開ける。

 

「どや、俺の華麗な槍捌き!あんな大男も俺にかかればいちころなんやで!」

「うん、すごい!すごいです!」

 

夕張は小さく拍手をしては感激の眼差しを向ける。そうだ、俺はこういう客気を浴びたかった!

何か高揚感、のようなもので俺は満たされていく。

 

「って、それは別にいいんやけど、戻らなくていいんかいな?」

 

小室提督が怒らないのかと言わんばかりに話していくと夕張はにこりと微笑む。

 

「今は休憩時間なんですよ、池宮さん。私だって、休息の時間はあります」

「そかそか」

 

他愛もない話が続く。夕張は俺の話を熱心に聞いてくれるし、彼女が話す艦娘達や生活の

話も聞いてて楽しい。これは後で上官にこっぴどく怒られるなと覚悟しつつも、狭い建物の間

二人でしばらく漫談が続いた。

 

「池宮!!!!」

 

反射的に俺の体が飛び上がる。このピリピリした図太い声は・・・上官だ。

う~ん、やっぱりかなり怒っている。俺はごまをするかのような表情で後退する。

夕張も続いて後ずさりしている。

 

「貴様・・・こんなとこに隠れていると思っていたら・・・艦娘と話をしていたのか」

「え、えっとですね、上官。これには訳がありましてですね」

「問答無用じゃあああ!!!!」

 

上官は地面に鞭を叩きつける!地面に跡が付くほどの鋭い音に夕張は少し縮こまる。

これは・・・逃げるしかない!

 

「夕張!逃げるで!!」

「へっ?」

 

俺は即座に夕張の手を取った。それに引っ張られて夕張は立ち上がり、共に走り出した。

上官はぐだぐだと何か叫びながら追いかけてくる。だが俺は全く聞き入れない。

この類の小言は耳にたんこぶだし、それに・・・

 

「え、えっと・・・池宮・・・さん?」

「夕張」

「は、はい・・・?」

 

俺は夕張の名前を呼ぶと、彼女は首を傾げて不思議そうな顔をする。

 

「いいとこ、見せたるわ」

 

そう言って俺は夕張を引き寄せて、無理やりおんぶした。

急な出来事に夕張は驚きを隠せない。

 

「え・・・ちょっ・・・池宮さん!!??」

「しっかりつかまっときや!!」

 

俺は走りこんで両足を踏みしめ、そのまま跳躍した。鎮守府の柵を超え、そのまま外で降りた。

我ながら驚異的な跳躍力だと感心するが、まぁこれも努力の賜物とでも思ってほしい。

そして彼女を負ぶって、俺はあるところまで走ってきた。

 

 

俺と夕張は、舞鶴フェリーターミナルまで走ってきた。

深海凄艦が出現してから、フェリーは無期限運航休止である。

俺はフェリーの受付に顔を出す。

 

「あら、広樹くんじゃないですか」

「久しぶりやな、受付の姉ちゃん」

 

昔おじの仕事で、店の商品をフェリーターミナルに配達していたのに、俺はいつもついていっていた。

そのときから受付の姉ちゃんとは知り合いで、おじからもらった小金で買ったエナジードリンク

を一気飲みしているところに声をかけられてから今に至る。

 

「その隣の子は・・・?」

「知り合いの子や」

「そうなの?てっきり彼女かと思っちゃった」

「ちゃうちゃう」

 

俺はきっぱり否定する。夕張をちらっと横目で見てみたが、特にどうといった表情はしていない。

少しでもしょぼくれていてほしかったな。

 

「そんでさ、フェリー乗られへんかな?」

「あれ、見に行くの?」

「せや」

「わかった。許可もらってくるね」

 

姉ちゃんは奥へ入っていった。小声ではあるが、お偉いさんと話しているのが聞き取れる。

夕張はターミナルの建物内を見渡していた。

 

「ここって、船の停泊所なのですか?」

「せやで」

 

俺はとあるポスターのところまで歩いた。夕張もそのポスターの目に留まる。

 

「日本最短の地・・・北海道・・・」

 

そのポスターには広大な大地。地平線の先には見えない大地が広がり、ただひたすら直線が続く

この辺りではまず有り得ない、なんとも不思議な写真が乗せられているポスター。

 

「夢なんや、俺の」

 

俺はそのポスターを見て語る。

 

「俺な、実家は大阪なんやけど、大阪に置いてきたバイクで、北海道を旅するのが夢やねん」

 

広大な大地、自然の声、人々の姿、いろいろな状況を想像して俺は話を続ける。

 

「途方もない旅をするねん。どこに行くかも決めず、どこで寝るかも決めず、ただ気まぐれに

でも真っ直ぐに、ひたすら走り続けたいねん。最近あんま走ってなくてバイクも泣いてるから

一日でも早く、深海凄艦がいなくなって、運行が再開できたらええなって、俺は思ってる」

 

艦娘である夕張は、俺の夢を叶えることができる存在。間接的でありながらも、夕張は

俺の艦娘に対する希望、想いを素直に受け止めてくれた。

 

「俺は旅へ向かってただひたすらに・・・頑張ってるだけやねん」

 

ニシシと笑顔を向ける。この笑顔は俺が心の底から笑っている証拠だ。

その後は二人とも笑顔で他愛もない話をしていた。

 

しばらくして姉ちゃんが戻ってきた。

 

「お待たせ。入船許可を貰ってきたわ。戻ってこなくてもいいけど、日が暮れる前には

帰りなさいね」

「ありがとな、姉ちゃん」

 

夕張もお姉さんに会釈して俺の後についてきた。姉ちゃんは俺が見えなくなるまで手を

振り続けてくれていた。

 

 

新日本海フェリーに乗り込んだ。船内は以外にも掃除されている形跡があり、綺麗に整っている。

ターミナルの人達が、船はいつでも旅立てるようにと意気込んでやっているのだろう。

俺は夕張を連れて、フェリーの船上へ向かった。運行中は立ち入ることが禁じられている

場所であるが、今回は特別に許可をもらった。

そこに広がる景色に、夕張は絶句した。

 

「ぁ・・・・・・・」

 

目の前に広がる海と島。島々の間に沈む太陽。海は橙色に染まり、海の輝きをより一層際立たせて

波立っている。優しく吹き起こる潮風も心地よい。

いわゆる、日の入りの絶景スポットだ。俺は小さいころから、ここから見える夕日を見るのが

好きだったのだ。その素晴らしさを、他の誰かに共有したかった。

 

「すごい・・・すごいです!池宮さん!」

「せやろ?俺のお気に入りやで」

 

はぁ・・・と言った顔でその光景に見とれる夕張。俺はそれを横目で見ながらも一緒に夕焼けを

満喫していた。

暫く双方見とれていたが、夕張が口を開いた。

 

「この船も、走りたがっているんですよね。走って、この景色をまた別の場所で見たいんですよね」

 

夕張は地平線、夕焼けを見つめながら話す。俺は何も言わずに彼女の言葉を聞き続ける。

 

「私、頑張りますね!一日でも早く、この子を走らせるために・・・」

 

そのまま言葉を続ける。

 

「そして・・・池宮さんが旅できるように・・・頑張りますね!!」

 

夕張はこちらに振り向いて万遍の笑みを向けた。夕焼けと合わさって絵になるような構造だ。

 

「おぅ、頼んだで!!」

 

俺も精一杯の笑顔で返した。気のせいか、フェリーも夕焼けの光を浴びながら、小さく

微笑んでいる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

俺は鎮守府に戻って、夕張を執務室のある棟まで送り届けた。

夕張を送ったら上官に見つかり、こっぴどく怒られたが、誠意を込めて謝ったらなんとか

許してもらえた。怒るとこは怒って、許すとこは許す。なんだかんだで部下思いのいい上官だと思う。

さて、俺はこれから夜の仕事だ。部屋に戻ると包帯を解き、私服に着替える。

とりあえずテレビの電源を付けて、ゲームを始める。

途中、昼間譲ったウイスキーを持った飯田が絡み酒をしてきたが、何とか飲酒を避けることはできた。

魔物討伐に影響がでたらたまらんからな。

包帯を外していたのは突っ込まれなかった。意外と帽子で隠れていたのか、そもそも怪我

しているのが嘘だと思っていたのか、それともただ酔っているのか・・・

まぁ、ムダに追求されないだけで幸いだったと思っておこう。

 

そして、午後11時。仕事の時間だ。

壁にかけた蛇矛を背に、部屋を出る。俺はこっそり憲兵寮を後にして、正門から鎮守府を後にする。

 

「さて、今日も張り切ってやるでぇ!!」

 

夕べの夕張との一時で、俺はいつも以上に調子がいい。

夕張は海で頑張るんだから、俺は地上で頑張らなきゃな。

 

    ジジジ・・・ジジジ・・・

 

無線の音だ。数秒後に図太い声が聞こえる。親方だ。

 

「広樹ィ!!今日は七条通りの裏山に住まう魔物の討伐じゃ!!」

「オッケー!やったるで!!」

「なんでぃ、今日はやけに威勢がいいじゃねぇか」

 

声質がいつもと違うのを気にしながらも、親方は話を進める。

無線で話をしながら、俺は現場へと足を運ぶ。

今日はいつも以上に足が軽かった。よし、頑張るぞ!!!

 

 

 

 

 

 

 

「提督!!それは・・・」

 

小室提督執務室。加賀は声を荒げる。その隣で日向は腕を組んで何一つ言えずむず痒い

表情を浮かべている。

 

「これは決定事項だ、私の意見に従えないとな?」

「い、いえ・・・それは・・・」

 

加賀は言葉を詰まらせる。懸命に反対の意見を振り絞ろうとするが、どうしてもでてこない。

そして、小室提督は反撃の隙を与えることなく話を進める。

 

「いいか、これは我が鎮守府、いや、我が小室艦隊の更なる進化のために必要なことなのだ。

役に立たぬ艦娘など、置いていても資材のムダだ。憲兵と仲良くしている艦娘だと?

そんなどこの馬の骨かも分からん男なんかとつるむ様な兵器は、ろくなものではない!」

 

艦娘を兵器扱いする提督。小室提督も艦娘を兵器としての価値感しか見出せない人物である。

 

「そういうことだ。決行は明日。我が艦隊の運命は、貴様らにかかっている。では下がれ」

 

加賀と日向は執務室を後にした。

 

「加賀・・・」

 

日向は薄暗い表情を浮かべて加賀の顔を覗く。本人は歯を食いしばって感情を押し殺している。

 

「加賀さん・・・?」

 

聞きなれた声。先ほどまでの作戦会議で名前が出てきた子。夕張は加賀を心配したようで

駆け寄ってきた。

 

「どうしたのですか?体調が優れないのですか?」

 

下から覗き込むようにして加賀を見つめる。加賀は目があった瞬間、勢い良く首を振って

そっぽ向いた。

 

「す、少し疲れているのかもしれませんね。日向、夕張、先に休ませていただきます。」

「あぁ・・・お休み」

 

日向は加賀の心境を察して見送った。

夕張は不思議そうに首を傾げている。

 

「どうしたのでしょう、加賀さん・・・」

 

そう彼女が発言したら横目で夕張を見つめていた日向が口を開く。

 

「今はそっとしておいてやれ」

 

そういい残すと日向はその場から立ち去った。

夕張は暫く立ち尽くして考えるような動作をしていた。

 

 

「『今はそっとしておいてやれ』・・・か」

 

日向は苦笑いを浮かべながら呟いた。そして思わず思っていたことがこぼれてしまう。

 

「彼女には、もう『今』しかないと言うのにな」

 

私はひどいことを言ってしまったのかもしれない、という感情を飲み込んで、日向は自分の

部屋へ戻った。

 

 

「うっ・・・ううっ・・・」

 

加賀のベッドは涙で濡れていた。止められなかった。止めることができなかった。

私は頼りすぎていたのかもしれない。もしかしたら、あの人が、提督を助けてくれるって。

でも、提督の《症状》は、私の思っていた以上に進行していた。止められなかった。

その提督の無慈悲な衝動の犠牲になる人は、自分ではなく・・・

 

 

 

 

 

 

小室提督は声を荒げた。

 

「明日正午、地上演習で夕張を解体する!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ・・・くそっ・・・!!」

 

悔しさあふれ出る拳の抵抗も、虚しくもベッドに吸収される。

目を瞑って起きれば、仲間を実質《殺す》ことになる。

 

「お願いです・・・提督・・・前みたいに・・・優しい貴方に・・・戻って・・・」

 

顔は涙や鼻汁で崩れ落ち、力無き拳が、夜な夜なベッドに打ち付けられた。

 

「助けて・・・ください・・・夕張を・・・彼を・・・」

 

一人の男を頭の中に浮かべ、ベッドに蹲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は鎮守府に戻ってきた。今まで死地を渡り歩いてきたせいか、夜風が心地よい。

工廠へ向かって報告へ向かおうとしていたら、後ろから声をかけられる。

 

「君、ちょっといいか?」

 

俺は振り向くと、見覚えがある人影が見えた。

 

「ん、自分・・・日向・・・やっけ?」

「覚えてくれていたか」

 

なら話が早いと言った調子で近づいてくる。俺は完全に振り向いてそこに留まった。

日向とは近くで面と向かって話すのは初めてだ。無愛想な艦娘だと思っていたが、

向こうから話しかけてくれることもあるんだな。

 

「君にお願いがある」

 

真剣な眼差しで俺を見つめてきた。

 

「今日の朝、演習警備についてくれないか」

 

加賀の希望を日向が紡ぎ、今結び付けようとした。

蛇矛背負う一人の憲兵が、この舞鶴鎮守府に名を大きく轟かせる、濃い一日が、訪れる。

 

 

 

 

 




ご閲覧ありがとうございました。
これでも結構展開遅めなのですが、なかなか筆が進みませんね。駄文すいません。
今は一日一回ペースで更新していますが、いつかペース落ちると思います。
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