Demon's Stella ~悪魔の彗星~ 作:Hershel
魔導術
ファンタジーRPGで言う《魔法》と同じもの。この世の全てを織り成す八属性、
火、氷、風、土、雷、水、光、闇を駆使して、様々なことを成す術。
個々に潜在属性を所持しており、主人公である池宮は《闇》、夕張は《雷》といった感じに
分けられている。特殊な訓練を詰むことで潜在能力が開花し、自由に操ることが出来る。
池宮の第五話のときの雷は少し特殊なもので、物語を進めていくと明かされていく。
人の中には、複数の潜在属性を持つハイブリッドも存在し、複数属性の魔導術をこなす。
また、魔導術の中では特殊なギミックで形成されるものもあり、そのギミックに適正がないと使いこなせない。
魔物にも潜在属性が存在しており、その潜在属性によって相性の善し悪しがあったり、魔導術を駆使してきたりだのする。
「ふあぁ・・・」
体内時計が反応し、自然と目覚める。夕張は徹夜でゲームを続け、第三章をクリアして次の章に入ろうとしていた、
現在時刻は午前6時。小刻みに休憩が入ったものの、彼女はここまで殆どぶっ通しでゲームをし続けていた。
その体力は何処から溢れてくるのか。艦娘だから・・・ってわけでもないよな?
・・・ないよな?
「あ、おはようございます、池宮さん」
「おはよう」
俺は夕張が挨拶してきてくれたので俺も返事をする。
一睡したからか、身体を起こすぐらいのことはできた。
「起きて大丈夫なの?」
「ちょっとは楽になったわ」
俺はそう言って身体を起こし笑ってみせる。
相手も少し安心したのか笑みを浮かべる。
「お、結構進んだなぁ」
「うん、池宮さんのとこまではまだまだだけど、療養中に追いつくかも!」
「ゲームそんなするんはええけど休めや!」
「あはは・・・これ面白いからつい・・・」
元気にゲームをしている夕張ではあるものの、彼女も両足を負傷し、特に右足が動かない状態。
二日経って容態はましになったが、まだまだ艦娘として戦えるほどではない。
・・・といっても動けない俺のほうがひどいわけだが。
魔導の力の治癒術もあるが、あくまで外傷を治すもので、こういった身体の内部から来る
痛みを治療することは出来ない。
まぁ、俺がそこまで治癒術に長けてないってのもあるかもしれんが。
「そういや、そろそろ憲兵の皆が起きる時間なんだよね?」
「せやな。うちは案外緩いから起床は朝礼に間に合えばええけど、この時間に起きる奴もぎょーさんおるな」
時計を見ながら呟く。飯田もそろそろ起きているだろうなと思いながら俺は窓の外を見る。
昨日よりも高い視線から見渡す窓の景色は、朝から動き出す人達が映し出されている。
「あーそういや」
俺は思い出したかのように呟く。
「飯どないしよ・・・」
上半身が起こせるようになったとは言え、食事を買いに行くほどの力はまだ回復していない。
治療室は病院ではないため、朝食が運ばれてくることは無い。
艦娘はそういった待遇があるため、朝になると運ばれて来るそうだが、俺は憲兵だ。
くっそーやっぱりどうにかして市民病院やら共済病院にでも行っておくべきだったな。
「あ、そうそう」
俺の言葉が聞こえたのか夕張が話しかけてくる。
「私、今から売店にでも行こうと思うのだけど、何か買ってこようか?」
ここ舞鶴鎮守府は、朝早くから開いている売店がある。そこは鎮守府の従業員であれば、誰でも利用できるもの。
つまり艦娘から憲兵、終いには掃除のおばちゃんですら利用できる。
「お、マジかいな!んじゃ悪いけど梅と鮭のおにぎりに、から揚げ買ってきてくれるか?」
朝からから揚げを食べるのはちょっと重い気もするが、売店飯ではいつもこんな感じだから気にしない。
普段はお金がもったいないという貧乏性が働くせいで、殆ど部屋で作っていたが
今はそうこう言ってられないからな。
「うん、わかった。それじゃ、サクッと買ってくるね」
そう言って夕張はベッドから降りて、立てかけていた松葉杖を手に取り、左足を支えにして
治療室を後にする。
俺はその姿を見送って再度寝転がる。
「痛みは一日だけやったか。これやったら明日ぐらいには意外と動けるようになっとるかもな」
あははと笑いをこぼす。一人呟いていて自分ってちょっと変な奴だなと思いながらも夕張の帰りを待つ。
暇を弄び、窓を眺めていたら、治療室に入ってきた一人の男。
「うわ・・・」
思わず声がこぼれる。その声を聞いて眉間にしわを寄せる男。
上官だ。見舞いに来てくれたのだろうが、少し嫌そうにした俺に対して今でも怒鳴りそうな勢いだ。
「見舞いに来てやったというのに、なんだその態度は?」
「すんません」
砕けた口調で謝る。勤務外でしかも療養中とあってか、気を張って謝りたくなかったからだ。
上官はそれを悟ってくれた。厳しい人だけど、分かってくれる人なのは俺もありがたい。
「ふん、まぁ今日は勘弁してやる」
そう言って上官は腕を組んで俺を見下ろしながら話す。
「それでだ、今日はお前に報告しておくことがある」
そう言って上官は人差し指を立てる。
俺は何だろうと思って、身体を起こして話す姿勢になる。
「一昨日の、小室提督の陸上演習での、お前の戦いっぷりのことだ」
あぁ・・・と俺は思い、あまりいい報告ではないのだろうなと確信する。
上官も決していい報告だ!というような顔をしていない。
どちらかというと言い辛そうなむず痒い顔だ。
「あの陸上演習は俺も遠くから見ていた。もちろん、お前が艦娘と戦っている所も見ていた」
「げっ」
俺はその日、谷岡提督の護衛を上官に任されていた。見ていた、ということは俺がその仕事を放棄
していたことを知っていたのだ。
確実に鉄拳を食らうと思っていたが、いつまで経っても飛んでこなかった。
「別に殴ったりはせん。事情あってのことだったのだろ?」
俺は少し驚いて上官を見上げた。アレだけ谷岡提督の指名を喜んでいたからさぞお怒りだと俺は思っていたんだが。
「俺も艦娘のことについては詳しく知らなかった。だから、あの襲われていた艦娘の命が助かったのは
間違いなくお前の功績だ。それは誇るといい」
上官が褒めてくれた。普段から怒りの塊のような人が褒めてくれると何か気分がいい。
だが、上官の顔つきからして、そこが本題って訳ではなさそうだ。
俺は次の言葉を待つ。
「だが、お前が艦娘と対峙したときに使った・・・あの摩訶不思議な力・・・」
やっぱり魔導術の話か。アレは一般人には知れ渡っていないものだから、奇怪に思われても仕方ないよな。
「あのすさまじい力は、確かに艦娘達を退けて、あくどいことを仕出かそうとした小室提督の野望を止めた。
だが、その力は憲兵達の記憶に、爪あとを残しすぎた」
俺は何となく想像は付いていた。まぁ、使う前から分かっていたことだ。
「あの時から、お前の力を何十人かの憲兵が・・・」
上官は俺の顔色を伺う。言葉を濁らせていたが、俺の表情を見ては咳払いをする。
「・・・正直、憲兵の2/3ほどは、お前のことを恐れている。
本当に人間なのか。あいつは魔物の手先なんじゃないのか?とまで言う輩もいるらしい」
魔物の手先か。さすがにそこまで考えてなかったな。
そりゃそんなこと言われたら辛い。俺は街が少しでも平和になるように、夜な夜な魔物討伐をしているのに
その貢献している俺が魔物扱いされるなんてな。
まぁ、魔物倒せるような人間って意味では、人間の中で一番魔物に近いのかもな。
なんて哲学的な考えを頭の中でめぐらせている。
「だが、俺やその他何人かの憲兵は、お前の居場所をしっかり確保している。
完全に・・・とまでは保障はできないが、ある程度の誤解は解いておくつもりだ。
お前がいつ帰ってきてもいいようにな」
上官が話し終えると口角を上げる。俺が思いつめていたことの一つを晴らしてくれた上官。
素直に感謝しないとな。
「ありがとうございます」
「気にするな。早く良くなるといいな」
そう言って上官は差し入れの果物を置いてさっさと出て行った。
上官にも仕事があるだろうし、俺は呼び止めず、敬礼して見送った。
「やっぱ殆どの奴が見る目変わるよなぁ・・・」
俺は予想通りの変化した現状を受け止めた。
「でも、ちゃんとまだ俺を《池宮憲兵》としてみてくれてる奴らもいるんやな」
それだけは救いだった。正直、全員から軽蔑されていると思っていたからだ。
人間は、自分と同じ形をしたもの、つまり人型のもので圧倒的な力を見せ付けられると
それを恐怖の対象とし、恐れ、軽蔑し、拒絶するものだ。
でも、上官や飯田、他にもまだ庇ってくれている憲兵もいるみたいだし
人間もまだまだ捨てたものじゃないな。
そう考えていると、夕張の松葉杖の音が聞こえてくる。
ドアが開く音が聞こえ、カシャカシャと袋が揺れる音と共に声が飛んでくる。
「ただいま!おにぎりとから揚げ、買って来たよ」
「センキュ」
布団に腰掛ける夕張。その後に袋から梅と鮭のおにぎり、紙のケースに入ってあるから揚げを受け取る。
腹が減っていたため、俺はすぐに食事にありつく。
「やっぱ鮭はうまいなぁ、舞鶴効果もあるんかな?」
俺はそう呟きながらもくもくと食べている。
勢いよく食べていると喉に米を詰まらせてしまう。俺が苦しそうにしてると、夕張が慌てて
袋からペットボトルの緑茶を取り出す。
「あぁもう!そんな急いで食べなくても!」
夕張がペットボトルを持って、俺のベッドに移動してくる。隣に座ってボトルキャップを空け、俺に緑茶を飲ませてくる。
俺は少し口からこぼしながらも、なんとか飲み干して米を胃に通す。
「んあぁ・・・助かった、ありがとな夕張」
「どういたしまして」
そう言ってキャップを閉めてその緑茶を俺に手渡してくる。
「ええんか?」
「さすがに飲み物なしじゃ嫌でしょ?」
「まぁ・・・せやな」
俺は素直に受け取る。夕張は袋からサイダーを取り出して、腰に手を当てて一気飲みの勢いで飲む。
炭酸系だけあって一気飲みは出来なかったものの、1/2ほど一気に飲んでしまった。
女の子なのに大したものだ。艦娘だけど。
「ぷはぁ!やっぱり朝の一杯は、サイダーかラムネに限るよね~」
「炭酸系好きなんか?」
「うん、好き。さっぱり系が好きかな。他にもスプライトとか」
確かに、ラムネやサイダー、スプライトといった炭酸飲料は、味付けが単純な分
水以上にすっきりさっぱりする喉越しが特徴だ。
朝の目覚めに飲むにはいい飲み物なのかもしれない。
俺はいつもコーヒーだけどな。
「へぇ~、いい感じにすっきりしそうやな」
「うん!やっぱり朝は飲まなきゃね」
そう言ってキャップをして一度袋にしまう。
夕張は俺のベッドの隅から動くことなく話し始める。
「そういや、売店で堀本提督と風見提督に会ったよ」
「あぁ、昨日の騒がしい漫才コンビか」
俺の中ではもう仲のいい漫才コンビとして定着してしまったけんちゃんとりんちゃん。
夕張はその言葉を聞いて苦笑いする。
「新人提督の朝は早いのだ~って、眠そうに風見提督が言ってたなぁ」
「あいつ、朝苦手そうだもんな」
「あ、私もそれ思った」
あははと二人で笑う。
「ほんと、あの二人仲がいいよね」
そう言って少し羨ましそうに遠くを見ようとする夕張。
「仲いいってだけなら、俺と夕張もそんな変わらんのちゃう?」
そう言うと少し驚いて夕張が振り向く。
「まぁ、俺らはゲームのことで熱く語り合うゲーマーやけど」
苦笑いする俺。その言葉を聞いて夕張はくすくすと笑い出す。
「ふふっ。そうね。そうだった。池宮さんとは、もう十分の仲だもんね!」
そして笑顔。彼女はよく笑いかけてくれる艦娘だ。笑顔が素敵な子は見ていてこっちまで笑顔になる。
「よし、今日の夜もゲーム頑張るぞ~!」
「さすがに徹夜はやめとけよ~」
「うっ・・・」
徹夜を抑えようと釘をさしておくと、夕張は少ししょぼくれる。
そんなに徹夜してまでやりたいのか・・・と俺は思いため息をこぼす。
夜に強いって羨ましいな。俺だって、できるなら徹夜でゲームしたいよ。
午前11時。
朝食を済ませ終わったら、雑談をひたすら俺達はしていた。
艦娘と人間という価値感の違う存在同士であったため、話は思った以上に弾み
時間はあっという間に過ぎていく。
しかし、午前11時をまたいだところに、突然見知らぬ女の子が入ってくる。
「失礼します」
礼儀正しく、教科書のお手本のような敬礼。あれ?あの弓道着は・・・見たことあるぞ。
たしか・・・赤城だっけ。
「池宮憲兵。その節は、加賀さんがお世話になりました」
「お世話・・・?なんやそれ」
俺は加賀を殴ったぐらいで、全くお世話をした記憶が無いためどう受け取ったらいいかわからなかった。
だが、そのことが本命ではなかったらしく、赤城はすぐに夕張のほうに向いた。
「夕張さん」
「は、はいっ!」
正規空母である赤城に名前を呼ばれ、少し硬くなって返事する。勢いよく立ち上がってしまい
右足にきてしまったのか、顔が歪む。
「無理しなくて座ったままで結構ですよ」
「は、はい」
夕張は申し訳なさそうにまた俺のベッドの端へ座り込む。立ったなら自分のベッドに戻っておけよ。
「貴方にお渡しするものがあります」
夕張は一通の封筒を赤城から受け取る。
「確かにお渡ししました。では」
赤城はそう言って早々出て行った。夕張にこの封筒を渡すだけのために来たようだ。
「中身何かわかるか?」
「ううん、表には何も書いてないから・・・」
そう言って夕張は封を開けていく。
中には一枚の紙が入っていた。
「えっと、何々・・・」
軽巡洋艦 《夕張》。
本日5月15日(金)一一〇〇にて、
小室艦隊第三番艦の任を解く。
「・・・・・・」
夕張は沈黙した。俺もその文字を見て言葉が出なかった。
いや、まぁ当然の結果でもある。あれだけのことをしたんだ。
戻ってきてくれというのも好都合な話であるし、夕張自信が戻りたい場所でもなかっただろうから
この結果は寧ろ喜ぶべきなのだ。
だが、心配してるのはそっちではない。
夕張は、どの艦隊に入るかだ。
新しい艦隊で、また同じような事件が起こらないと保障は出来ない。
また同じような出来事が起きてしまうかもしれない。
そうなったらまた、助けに来てくれるのかな?
今回の事件で、一種のトラウマを植えつけられてしまい、夕張はそういった不安で一杯だった。
だが、その文章には続きがあった。その内容を見て、俺も夕張も目を疑う。
なお、次の所属先は、舞鶴鎮守府所属の憲兵である
《池宮広樹憲兵》の専属艦娘として配属を命ずる。
「・・・は?」
俺は正直意味が分からなかった。専属艦娘?なんだそれ。
というか憲兵に艦娘なんていらないだろ。何考えてるんだこの書類書いた奴は。
最後の文字を見てみると、《谷岡礼司》と書かれ、ムダに請った印が押されている。
「え・・・えっと・・・」
「・・・なんやこれ」
夕張も混乱している。艦娘とは、提督の下で働いていくもの。
いきなり憲兵の下で働けといわれてそりゃ戸惑わないわけが無い。
だが当人の俺も意味が分からない。これは何がしたいんだとしか思えない。
しかも
なお、《夕張》の配属は特殊であるため
艦娘寮の夕張の部屋は一時撤去され、憲兵寮の
池宮憲兵の部屋で生活すること。
「「はあああああああああああああ!!??」」
俺と夕張は同時に叫んだ。廊下にも聞こえていたのか。何人かの人がその声に驚いていた気がする。
「いやいや、なんやこれえええええ!!!」
「ちょっと・・・部屋が撤去されるって・・・ええええ!!??」
なんというか・・・むちゃくちゃだ。俺の部屋で寝泊りって・・・他の方法無かったのかよ!?
というか別に撤去する必要ないんじゃ・・・。
これは大事件、大問題だ。なんというか、内容が濃すぎて頭が付いていけない。
「どうすりゃええやろな・・・」
いくら艦娘だからといって、相手は女の子。見た目はお年頃の女の子。
下ネタは好きな俺だが、女の子と一緒の屋根の下で寝る勇気は無かった。
なんて俺はチキンなんだ。
「え・・・えっと・・・」
夕張も返答に困っている。
「まぁ、今考えてもしゃーないかもな。とりあえず、怪我治してからや」
「うん、そうね」
確かに困ったことではあるが、今どうこうできる問題じゃないしな。
でも、一度ぐらいは一緒に寝たい気持ちはある。もちろん下心も含めて。
女の子の寝る時って、髪の毛とかいい匂いとかするんだろうな・・・
と、俺は初々しい考えを浮かべている。
「一応いろいろ考えとくわ。いざとなったらお婆ちゃんに連絡して、寝床貸してもらうしかないなぁ」
「お婆ちゃん?」
夕張はいきなりお婆ちゃんという単語が出てきて首を傾げる。
「俺のお婆ちゃん、舞鶴出身で舞鶴に住んでるねん」
「あ、そうなんだ」
「商店街で店やってるから、たまに顔出してるんや」
俺はそうやって話していると自然と顔がほころび、夕張も小さく笑う。
「大切にしてるんだね、お婆ちゃんのこと」
夕張が何気なく聞く。俺は少し暗い顔をしてから笑顔で返す。
「せやな。ほんま、お婆ちゃんには感謝してるし」
夕張は俺の一瞬の表情を見て気になったが、口に出さなかった。
そう話を続けていると、いつの間にか正午を過ぎていた。
「あっ、そろそろ昼食の時間かな」
「俺も腹減ったなぁ」
俺はおなかをさする。その姿を夕張が見て心配そうにする。
「また何か買ってこようか?」
「頼むわ。でも、夕張が飯食ってからでええで」
「うん、わかった。何がいい?」
朝はおにぎりだった。朝と同じなのは何か嫌なので、俺は適当に思いついたものを頼む。
「塩やきそば頼むわ。シーフード入りならさらによしやで」
「オッケー。無かったらソースでもいい?」
「ええで、頼むわ」
「了解。それじゃ、ちょっと食べてくるね」
そう言って松葉杖を持った夕張が出て行く。
俺はまた一人になり、暇つぶしになるようなことを考えることにした。
そうしていると、人の気配がした。
その気配はそのまま俺のいる治療室に入ってきた。
「あ、お前ら・・・」
見覚えのある顔だ。つい先日、思いっきりぶん殴った相手。
加賀と日向だ。俺と目が合うと向こうが会釈してくる。
日向の手には見舞いの品と思われる果物と菓子がつめられたかごがある。
「お邪魔しても・・・大丈夫でしょうか・・・」
加賀が遠慮がちに聞く。俺は特に怖がらせないように軽く笑う。
「ええよ、入ってき」
俺は特に拒む理由も無かった。いくら先日本気で戦いあっていても
彼女達は俺がそこまで心の底から憎む相手ではない。
考え方がちょっと強引ではあるかもしれないが、一発殴ってすっきりしたし
夕張も無事だった。これ以上関係を悪化させる気は無い。
失礼します、と小言で呟くと、加賀と日向は中に入ってきた。
加賀は隣のベッドを見た。そこには先ほどまで誰かがいた面影が残った夕張のベッド。
「夕張は・・・いないんですね」
「飯食いに行ったわ」
「そうですか」
加賀はそう短く返事を返す。何か言葉にしようとしているが、中々でてこないのか口をもごもごさせている。
その姿を見て日向は自分から先にと、一歩前へ出て俺に向かい合う。
そして、俺と同じ視線になるまでしゃがみこみ、一礼した。
「池宮憲兵。この度は本当に世話になった」
感謝の言葉が飛んできた。この度とは、まぁ十中八九陸上演習のことだろう。
「怪我大丈夫か?」
俺は出来るだけ怪我はさせないように戦っていたが、怒りに身を任せていたときもあり
万が一怪我でもしていないかと心配になり尋ねる。
日向はくすくすと笑った。
「ふふっ・・・心配ないさ。今は何処も痛くは無い」
その言葉を聞いて、俺は胸をなでおろす。
日向が話しきったら、加賀も口を開きだす。
「あの・・・池宮憲兵」
「何や?」
俺は加賀の声に耳を傾ける。
加賀は深呼吸して呼吸を整え、うん、と頷いて話し出す。
「あれからいろいろ考えたんです」
いろいろ考えた・・・か。
彼女は俺と戦った時、自分を殺してくれと言ってきた。
自分は中途半端だから、今を生きている意味がもうない。
いっそ生まれ変わって完璧な存在になることを、彼女はあのときに望んでいた。
だが、俺はそれは間違っている。中途半端でいいじゃないか。
迷ってもいいから、ゴールを目指せ。途中でリタイアするな。
俺はそう論して・・・そのままの勢いで加賀を殴ったんだっけ。
女の子に顔面グーパンチって、俺中々ひどいことしてるなって今なら思える。
だが、今は加賀の考えを聞こう。
「・・・やっぱり、今でも私は中途半端だと思います」
「そっか」
俺は短く答える。だが、今の加賀なら、その続きがあるはずだ。
俺はその言葉を待ち続ける。
そして、加賀がまた話し出す。
「でも、今はまだ中途半端でもいいかなって思えます」
加賀は胸に手を当てる。自分の気持ちを素直に伝えようと精一杯話す。
「私の身近には、私の知る中でもっとも完璧に近い存在がいます。その人と私は昔は
肩を並べていました。ですが、いつの間にか彼女だけ出世し
どこか遠いところへ行ったかのように、遠い存在になってしまいました」
窓越しの景色を加賀は見る。
「私は焦りました。彼女に追いつかなきゃ。追いつかなきゃって。
一生懸命勉強しました。一生懸命練度を上げました。
一生懸命戦い続けました。そうやっているとまた、彼女と肩を並べる日が来ると信じて」
加賀にもいろいろあるのだろう。このことを話しているときの表情は、あまりいいものではなかった。
「ですが、そうやっているうちに私は、中途半端に迷路をぐるぐる回っているかのように
意識が空回りしていたんです。
そのことを思い出していたら、そのときから中途半端は始まっていたんですね」
ふふっと笑う加賀。窓に顔を向けていたが、身体ごと俺のほうに振り向く。
「どっちよがりでもないから中途半端・・・というのも頷けますが
私に限っては・・・殆どが中途半端でした。
でも、その中途半端な私に・・・」
そして、俺の傍まで近づく。
「貴方が迷路の歩き方を、熱い拳で教えてくれました」
真っ直ぐに俺を見つめる瞳。俺が初めて加賀に会ったときより、目は輝いて見える。
「本当に・・・感謝しています」
加賀は深く頭を下げた。俺は笑い出す。その姿を加賀は見ずに頭を下げ続けている。
「頭上げ。俺が勝手にやったことやし。気にすんなって」
俺は頭を掻く。あまりの礼儀正しさにこちらも少し困惑してしまう。
ある程度話し続けていると、この部屋に彼女達の上司である小室提督は来ていない。
思いっきり俺がぶん殴って演武場まで吹っ飛ばしたけど、大丈夫なのか。
「あ、そろそろ小室提督もいらっしゃると思います」
加賀は備え付けの治療室の時計を見て言う。
時刻は午後十二時二十分。早い人は昼飯が終わっている時間だ。
そう考えていると、治療室のドアに隠れている少年。
白い軍服に小柄な見た目、頬には全て覆いかぶさるような大きな絆創膏が張られている。
どうやらこちらを見ている。小室提督・・・だろうが、何か雰囲気変わったな。
「・・・あれか?」
俺は治療室の入り口にぽつんといる少年に指を刺す。
「ほら、提督。怖がってないで入っておいで」
日向が優しく手招きする。
小室提督はゆっくりと部屋の中へ入ってくる。
そして、加賀に隠れる。
・・・なんだこれ?俺の想像してた性悪の小室提督は何処に行ったんだ。
「え・・・えっとですね・・・」
小室提督は口を開くも、なかなか言葉が出てこない。
「ファイトです、提督」
「君ならできるよ」
加賀と日向が応援している。何の応援だよ何の。
俺は中々言葉が出てこない小室提督をただ見つめることしか出来なかった。
「あ、あの!」
小室提督は大声で叫ぶ。俺は少し驚いたものの、顔にも身体にも出なかった。
そして、一呼吸置いた後に、話す。
「先日は・・・本当にありがとうございました。危うく、邪道の道を歩むところでした」
素直な感謝言葉。なんというか、今まで口が悪かった奴の発言とは思えず、少し吹きそうになる。
「お・・・いや、私はずっと谷岡提督を心酔してました。あの人の威厳、発言、行動、容姿など・・・
私にとってほぼ全てが目標であり、憧れの的でした」
おどおどしながらも最後まで話そうとする小室提督。俺もその気持ちを無駄にしないと、向き合って話を聞く。
「でも、その目標に憧れすぎて、自分を殺して、さらに加賀さんや日向にまで迷惑をかけてしまいました」
そう。こいつは理想を求めすぎて、他人にまで迷惑・・・という言葉では片付けられないものを負わせた。
そこをちゃんと分かっているならまだ救いようはあるというものだ。
「こんな頼りない私なのに・・・彼女達はまだ、私についてきてくれると、言ってくれました。
また昔のように・・・三人で頑張ろうと。償いながらやり直そうって」
小室提督は俯く。
「そして・・・私は、《谷岡派》から脱退しました」
小声で言う。谷岡派をやめた、ということは、谷岡提督との太いパイプが絶たれたということ。
あんなことをするような奴らだし、俺は辞めて正解だと思う。
少なからず、艦娘を殺すような計画を立てるような派閥は正気の沙汰ではない。
「もうあの人の背中を追うのはやめました。これ以上、皆を傷つけてまで押し通すなら願い下げです」
彼は決意を胸に、顔を上げて胸に手を当てて言う。
「それでええんちゃうか」
俺はその姿を見て肯定する。愛想でもなんでもない本心。
最初見たときより、ずっと輝いていると思う。
この姿が本来の小室提督なんだろう。
「お前はやっと、自分の意志で歩み始めたんや。お前はまだ幼いし、いくら海軍学校を卒業したからって
人生では全員に負けてるんや。とりあえず、人生ってのをある程度詰んでからでも遅ない。
それに、お前には、立派な部下が・・・友達がおるわけやしな」
俺はニシシと笑う。その笑顔を見て小室提督は少し照れてしまう。
加賀さんと日向を見つめる。
彼女たちも見つめられては笑顔で答え、頷いてくれる。
そして、小室提督は涙を流す。
「うっ・・・ううっ・・・・・・」
その姿を見て、加賀はそっと頭を撫でてあげる。
泣きじゃくっている姿だけを見ると、まだまだ子供なんだなって思う。
「ありがとう・・・ありがとう・・・!」
そして小室提督は涙をぬぐう。
そのあと、俺をじっと見つめては、息を大きく吸い込み・・・
「あのっ!!」
大声で叫ぶ。こいつ意外と大声で叫ぶの好きだな。
「何や?」
俺は耳を傾ける。そして、小室提督は瞳を輝かせている。
何で俺を見て瞳を輝かせているんだ・・・?
全くよくわらか無い状況を数秒過ごすと、小室提督の一言で沈黙が絶たれる。
「私・・・いや、おいら、貴方から殴られたあのときから、その誠実さと正義感、それに男らしいパンチ。
自分の意見を主張する姿、どれをとってもかっこよかったっす!
おいら、大人になるなら・・・池宮憲兵みたいになりたいっす!」
あれ?なんで砕けた敬語になってるんだ?
しかもおいらって・・・田舎の子供みたいだぞ!というか田舎の子供でもおいらなんて言う奴少ないぞ!
「そ、そうかいな」
だが、さすがにそう直面で言われると照れる。これが女の子に言われたならなおさらよかったが。
そして、次の想像もしていなかった言葉に、俺は度肝を抜かれる。
「池宮憲兵!今日から貴方のことを、師匠と呼ばせてください!!!!」
「・・・・・・は?」
俺は呆ける。師匠?なんでだよ!何の師匠だよ!と俺は心の中で突っ込む。
「いえ、おいら無理やりでも師匠って言い続けます!師匠~!!!」
そう言って小室提督・・・もうめんどくさいから小室は俺に抱きついてくる。
いきなり飛びついてきたため、痛みが全身に走る。
「いでええええええええ!!!」
身体は動かせるようにはなったものの、痛覚はまだまだ感じる。
タックルなみのハグはさすがに堪える。
「ご、ごめんなさいっす師匠!今は療養中っしたね・・・」
俺は痛みの反動で身体をひくつかせている。
その姿を見ておどおどする小室と、くすくす笑っている加賀、日向。
「師匠・・・ですか」
笑いを止めた加賀はその言葉をぼそりと呟く。日向は加賀の肩を軽く叩く。
「提督が自ら決めたことだ。今は見守ってあげよう」
そう言うと日向が頷く。日向は腕を組んで俺と小室のやり取りを見つめている。
「それに・・・彼なら、きっと提督をいい方向へ導いてくれるはずだ」
あたふたしている小室と相変わらず痙攣している俺の姿を見てまた笑う日向。
加賀は日向の顔を見て、二人の姿を見る。
「そうですね・・・私達みたいに・・・提督も・・・」
中途半端を認めてくれ、価値を教えてくれた人、池宮憲兵。
彼ならきっと、私の大切な人を導いてくれるはず。
そして、一歩一歩ずつ歩いていこう。三人で。
私達は、どこまでも貴方についていきます、提督。
どうも。この急激展開は一応構造初期から練っていました。
少年漫画でも最初のころの敵は仲間になる。みたいな感じに思ってくれたらOKです。
小室提督の夕張について触れていないところは、次の話でちゃんと触れるので安心してください。
池宮憲兵はこれからはこの小室提督の力をいろいろ使って大活躍・・・なんてするかもしないかも。
いつの間にかお気に入り登録人数16人突破!ありがとうございます!励みになります!
これからもいい作品になるように精進しますのでよろしくお願いします!