東方饅頭拾転録 【本編完結】   作:みずしろオルカ

11 / 87
 趣向を変えて、日記形式じゃない東方饅頭拾転録です。

 シリアスというか戦闘メインです。

 普段のほのぼのじゃないのはちょっと……という方はスルーすることをお勧めします。


外伝 海原参護 妖怪との戦闘

東方饅頭拾転録  妖怪撃退シーン

 

 夕暮れ時…逢魔時とも言われるが、総じて人ならざる者たちの力が増す時間帯と言われている。

 

 一月ほど前、海原参護は一体の妖怪を撃退、同時に片腕の骨を砕いて、護衛任務を無事成功させた。

 最近、人里を騒がせていた獣のような妖怪だ。しかし幻想郷では人と妖怪のバランスを保つために必要以上に妖怪を殺すことも、逆に必要以上に人間を殺すことも禁じられている。

 

 その中でも、討伐対象とされるほどに人間を殺し続けた妖怪。

 人と妖怪のバランスを崩すと見なされた、怪物だ。

 

 いかなる理由があろうとも妖怪は人里を襲うべからず。

 それを破れば人間はおろか妖怪すら敵に回す。明らかな愚行である。妖怪は人の畏れで生きている。畏れられる対象を失うことはすなわち死を意味する。

 

 破れば、博麗の巫女、妖怪の賢者、果ては時を止めるメイドなんかが漏れなく殺しにやってくる。

 

 しかし、この妖怪はそんな冷静な判断をできる状態ではなかった。

 

 復讐。

 

 妖怪退治の専門家である博麗の巫女ならまだわかる。

 妖怪の賢者と呼ばれるスキマ妖怪も十分すぎるほど理解できる。

 

 しかし、この妖怪はただの人間に負けた上に、片腕を砕かれたのだ。

 ただの商人の護衛であり、特別な存在でもないこの男に。

 

 眼前には人里の境界。

 それを背にして、長身の男が棒切れを担ぐようにして立っていた。

 

 視界に入れた瞬間、妖怪の憎悪は一気に膨れ上がる。

 冷静な判断ができないながらに理性を働かせていたが、その理性も憎悪に流されそうになってしまっている。

 

 ニクイ……ニクイ……。

 

 妖怪として、ただの人間に負けるなど恥以外の何物でもない。

 砕かれた腕はしばらくの時間を要して再生させ問題なく動かせるようになっているが、この男を思い出すたびに腕が疼く。

 

 コロス……コロス……。

 

 完治しているはずの腕が、再生してさらに強固になっているはずの腕が、痛み・疼き・圧迫される。

 

 この男が生きている限り、自分は一生この腕の疼きに悩まされ続けるのだ。

 断じて御免だ。

 この身は下級妖怪と称され、人間を殺して肉を、魂を食らい続けることで中級と呼ばれるまでに進化した。

 

 そんな妖怪の中でも成長し続けている自分が、人間なんかにつけられた傷で一生悩むのは御免だ。

 

 そう思い、妖怪は人里を襲おうとしたのだ。

 

 体長は三メートルにもなるだろう。

 二足歩行の獣を思わせる姿に、獰猛な牙と爪を持つ。

 

 その牙は容易に人を噛み砕き、その爪は人間を切り刻むことができる。

 

 しかし、その男は動かない。

 

 初めて対峙した時のように、杖と呼ばれる武器を構えたまま、ただジッと妖怪を見据えている。

 その表情に恐怖や焦りはない。

 あるのは、ただただ冷静な瞳と里には一歩たりとも入れないという鋼の様な意思。

 

 杖に片腕を砕かれた妖怪は、その杖に奇妙は紋様が刻まれていることに気付く。

 しかし、気付いたところで人間が扱う武器だと侮り、目の前の男への憎悪がその奇妙な差異を埋め尽くしてしまう。

 

「グルルルルルルゥゥゥゥゥ……!」

 

「うるさいよ。ゆっくり達や阿求様と慧音さんに聞こえたらこっちに来ちゃうじゃないか」

 

 獣が発する威嚇の唸り、憎しみと殺意の籠ったその声を男は事も無げに切って捨てた。

 

 男の言葉が腹に据えかねたのか、妖怪は唸りではなく吼えることで更に相手に自覚させようとする。

 貴様がケンカを売ったのは妖怪なのだということを、人間ごときが立ち向かえる相手ではないのだと、大きく息を吸い込み、男へ発するその前に

 

 ズドンッ!

 

 すさまじい衝撃が首、正確には喉元を襲った。

 

 男は一瞬の間に、息を吸い込んで顎を上げ、咆哮を飛ばす姿勢の無防備になった喉元を、鋼の杖で貫いただけだ。

 

 容赦の無い一撃。

 喉を潰され、吼えるために吸い込んだ空気が情けなく喉の穴から漏れてしまっている。

 

 一度ならず、二度までも自分の身体に傷をつけた。

 

 妖怪はわずかに残っていた理性を放棄した。

 喉を潰すために、飛び上がって杖を喉に突き刺す、故に男は空中で無防備だ。

 

 手加減なく、慈悲も無く、羽虫を払うように男に裏拳をぶつけ、大木に幹に叩きつける。

 幹は大きく抉れ、男がぶつかった箇所はクレーターのように成形されてしまった。

 

 その状態で男は再び地面に降りると、妖怪へ向かって駆け出す。

 ダメージが無い訳ではない、今の一撃で男はアバラと内臓にダメージを負ってしまった。

 

 しかし、男の攻撃は緩まない。

 

 姿勢を低く、停止からトップスピードに変化したようにジグザグな軌道で妖怪へ近づいて行った。

 喉は生物にとって弱点たり得る部分だ。

 

 そこを真っ先に狙ってきたということは次は心臓か脳天。

 妖怪は男の攻撃を受けた後、その牙で噛み砕いてやろうと防御の姿勢を取った途端だ。

 

 激痛。

 

 男は喉を潰した後、心臓でも脳天でもない。妖怪の足を攻撃した。

 

 上半身に意識が逸れていたから、片足は容易に砕かれた。

 これで、簡単には男の速さについていけなくなった。

 

 だが、妖怪も黙って足を砕かれたわけではない。

 砕かれた足を振り上げ、男を蹴り飛ばした。

 

 これには男も吹き飛ばされ、二度三度と地面に叩きつけられながら転がっていく。

 

「グッ……!!」

 

 しかしコォォォォ!という、不思議な呼吸音を発しながら男は立ち上がると、再びジグザグな軌道で妖怪に近づいていく。

 

 しかし、妖怪も一度見た攻撃だ。

 喉を狙おうが足を狙おうが、打ち込んだ瞬間、確実に爪で八つ裂きにしてやろうと構えた。

 

「ヒューォアァァァァ!!」

 

 飛び上がるには近すぎる、確実に下だという確信が生まれる。

 潰され、穴の開いた喉から空気が漏れるが、妖怪が男に向けて爪を振り抜く。

 

 だが、妖怪の爪に望んだ手応えは無かった。

 あるのは自慢の爪が地面を削った感触のみ。

 

 一瞬、己の視界から男が消え、混乱した妖怪は五感を研ぎ澄ます。

 

 彼の者の身は妖怪。それも、獣を主体とした五感と野生で戦う存在だ。

 わずかな物音に振り返り、飛び上がったのをその目で見てしまった。

 

 瞬間、妖怪の片目は光を失った。

 

 五感の一部を削られ、混乱し、みっともなく喉元の穴から空気を漏らしながら慌てるように足をふらつかせる。

 

 

 

 

 男、海原参護は波紋使いである。

 

 呼吸法により、得られるエネルギーは治癒能力を活性化させ、強力な波紋を相手にぶつけることで太陽に焼かれるような傷を負わせることができる力だ。

 

 参護は波紋の力で五感を研ぎ澄ませ、思考速度を強化し、その思考速度に対応できるように肉体も活性化させた。

 

 そうすることで何が起きるか?

 

 研ぎ澄まされた五感は時の流れを緩やかに感じさせ、強化された思考速度はその緩やかな流れの中で通常の思考となんら変わらない速度で考え、通常では走馬灯でも見るような世界で出来ない行動を活性化された肉体が可能にする。

 

 当然、五感にも脳にも肉体にも多大な負荷をかける行動だ。

 

 故に、この技にかけられた制限は十秒のみ。

 

 それを超えると五感・脳・肉体のいずれかに多大なダメージを負う。

 

 だが、大抵の相手には十秒でも多いと思えるほどに、この技は常軌を逸している。

 

 ジグザグな軌道で妖怪へ向かって行く。

 研ぎ澄まされた五感で妖怪の狙いを感じた、感じ取った妖怪の狙いをどうするか。

 

 実に簡単な話だった。

 スライディングで妖怪の股を抜け、先ほど自分が強かに叩きつけられた大木まで走ると、幹を蹴って空中へ飛び出す。

 

 おもわず、本能的に目で参護を追ってしまった妖怪の負けである。

 

 妖怪が彼を視界に収めたときには、避けられない一撃が妖怪の目に叩き込まれていたのだから。

 

 妖怪が怯んだスキに距離を取ると、一息つく。

 

 五感に変化はないが、頭痛があり、体を重く感じている。

 

 たった二、三秒単位で使ってこの始末だ。

 十秒しっかり使い切った場合、五感にも影響が出るほどにダメージを負う。

 

 そして、その十秒の世界を参護は発動させた。

 

 妖怪の至る所に杖で打撃を与えていく。

 

 三秒

 

 脳天に叩きつけ、腹を杖で打撃を貫通させる。

 

 五秒

 

 全身に波紋を巡らせ、杖に集めていく。

 

銀色の波紋疾走(メタルシルバーオーバードライブ)!!」

 

 ここから、参護は全力で行動する。

 

 六秒

 

 妖怪の右腕に一撃、左腕に一撃。

 

 七秒

 

 同じように両腕に一撃ずつ。

 

 八秒

 

 そして三発目で両腕が砕ける音と感触。

 

 九秒

 

 すぐさま距離を取り、相手に向いたまま杖を構える。

 

 十秒

 

 たった十秒の間に、妖怪は全身を打ちのめされ、脳天を割られ、内臓を衝撃でボロボロにされ、両腕を折られた上に、波紋を流されて肉が爛れるほどのダメージを負った。

 

 この時点で妖怪は誇りも自尊心も砕かれ、痛む足を引きずりながら人里から退散していった。

 

 それを見届けた参護も、ボロボロの身体で家に戻っていく。

 

 

 

 村の入り口で起こった戦闘。

 

 それを途中からとはいえ見ていた二人。

 

 稗田阿求と上白沢慧音。

 

 二人は目を見開き唖然としていた。

 

 当然だろう。

 最後の十秒、参護の命を削る技を見ていたのだから。

 

 加速した参護の視点では一撃一撃を叩き込んでいるように見えただろう。

 

 しかし、通常の時間の流れにいる彼女たちには、風が何度も妖怪を殴りつけ、最後には銀の(やじり)が左右に三本ずつ、次々に展開され、ほぼ同時に妖怪の腕を破壊した光景が見えていたのだから。

 

「慧音さん、最後のあの技は……」

 

「阿求殿、私にもわかりません。ただ、海原殿をただの人間だとはもう言えないほどの光景を見た。そうとしか言えません」

 

 しかし、最後の十秒の印象もあるが、同時に二人は心配していた。

 大木に叩きつけられ、地面に何度も叩きつけられながら転がっている。最後のあの技も、明らかに人間の限界を超えている技だ。

 

「最後の技。あれは人間には辛い技だと思います。肉体強化の最高峰。いくら波紋の力を使ったとしても無傷なわけがありません」

 

「なるほど、では阿求殿。海原殿の様子を見ましょう。ゆっくり妖怪たちだけでは看病も難しい」

 

 そう言うと、二人は参護の家へ向かっていった。

 

 




 いかがだったでしょうか?

 最後の十秒。参護の使った技はそのまんま、仮面ライダー555のアクセルフォームから繰り出されるクリムゾンスマッシュです。

 あれを人の身で再現しようとしているから反動は相当でかいです。

 ちなみに、兄貴直伝であり、兄は参護より負担が少なく使用できます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。