東方饅頭拾転録 【本編完結】   作:みずしろオルカ

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 更新です。

 今回は外伝になります。

 本当は阿求か魔理沙の日記なのですが、ちょっと書きたくなってしまいまして、書いちゃいました。

 時系列的に、Ш月前です。


外伝 海原参護の忙しい一日

 今日は休みである。

 

 自営業なんだから意図すれば休みぐらいは作れるが、今回は意図しないでできた休みだ。

 明日には護衛の依頼が入っているが、今日は何もない。

 こういう日は内職の仕事を終わらせるのだが、昨日の内に全部終わらせて納品済みと来た。

 

 自営業をやっているとこういう意図しない休みは不安になるものだが、今回は偶発的なものだろう。

 

 その証拠に明日からまた依頼がたくさん入っている。

 

 ならば、今日はゆっくり休むのが吉だろう。

 

 そうだ、Yパチュリー達と遊ぶことにしよう。

 こういう時に家族サービスはするものだ。

 

 連日の仕事でたしかに疲れているが、幻想郷は夜遅くまで起きていると燃料代が高く付く。

 基本的に日の出と共に起きて、日の入りと共に寝る。

 

 これだと睡眠時間が確保できるうえに、身体の調子も良いのだ。

 

 現代社会の弊害というやつを、まさか幻想郷で感じることになるとは思わなかったが……。

 

 居間に行けば誰かしら居るだろうと思い、足を向けると。

 

「あややや! おはようございます、参護さん! 清く! 正しい! 射命丸ですよ!」

 

「……おはようございます。この際、家主が起きるより早く居間でくつろいでいることは置いておきましょう。なぜに朝食を用意して食べている?」

 

 くつろいでいる文さんの前には卵焼きと白米、豆腐と油揚げの味噌汁、白菜のお浸し、キュウリの酢の物とオカラがしっかりと用意されていた。

 

 俺が作っていないなら、YパチュリーやY咲夜なのだが、二人とも首を横に振っている。

 

 つまり、文さんが自分で作ったのだ。

 

「あやや、大丈夫ですとも参護さん! 悪くなりそうなものを優先的に使用してますし、皆さんの分も用意させていただきましたとも!」

 

 そう言って促された方向には、人数分の食事が用意されていた。

 

 メニューもみんな同じ。

 ゆっくり達の分が彼女達用に量が調整されていたあたり、気配りができている。

 

 なんだろう。見た目美少女なだけに、手作りの朝食なんて男が喜ぶシチュエーションなのだが、この素直に喜べない感覚。

 

 ああ、そうか。

 これが、諦めの境地か。

 

 朝食は薄味だったが、おいしかった。

 

 

**********

 

 

 朝食を食べてすぐに文さんは取材に出掛けて行った。

 本当に朝食を食べに来ただけなのか。

 

 しかし、文さんが傷みそうなものを先に処分してくれたおかげで食材を無駄にしないで済んだ。

 となると、冷蔵庫に若干の空きができた訳だ。

 

 日々、鈴仙さんや妹紅さん、魔理沙さんや最近はアリスさんも色々な食材を持って来てくれる。しかし主食となる米や、加工品である豆腐や油揚げ、農作物である野菜なんかは人里に買いに行く必要がある。

 

「なら買い出しに行ってくるか……。ちょっと出かけてくるよ」

 

「ゆっくり買って来てね!」

 

 Yパチュリーに見送られ人里に繰り出す。

 

 天気は雲一つ無い快晴。

 風もそよ風が心地よいレベルの強さなので、歩いているだけで心がリラックスしていくのがわかる。

 

 のんびりしたひと時というのもいいものだ。

 

「おや、海原殿。人里に用事か?」

 

 ふと、後ろから声をかけられた。

 振り返ると、丁度空から着地した慧音さんが居た。

 

「おはようございます、慧音さん。ちょっと食料の買い出しに。慧音さんは里の外へ用事ですか?」

 

「ああ、妹紅の奴がせっかく作った弁当を忘れて帰ってしまってな。届けに行く途中だ」

 

 そう答えた慧音さんはふと何かを思い出したようで、

 

「おお、そういえば海原殿。食料の買い出し前に阿求の家に寄ってこれを渡してくれないか?」

 

 そう言って渡されたのは、紙束を紐で結んだもの。

 

「里の寄合の時に使う資料なんだが、妹紅の所に行く前に届けようと思って失念していた。すまないが、頼まれてくれないか?」

 

 特に断る理由も無い。

 慧音さんには何でも屋の駆け出しの頃に何度も利用してくれたお得意様でもある。

 このぐらいはやって当然だろう。

 

「いいですよ。阿求様の家に届ければいいんですね?」

 

「ああ、それでいい。では、頼んだぞ!」

 

 そう言うと、慧音さんは妹紅さんの家の方向に飛んで行った。

 

「さて、阿求様の家に行きますかね~」

 

 

**********

 

 

 結果から言うと、阿求様は不在だった。

 家の人間に渡すという方法もあったが、直接渡したほうが確実だし、阿求様に会いたいという下心も少しあった。

 

 仕方がないので、先に買い出しを済ませながら、阿求様を探すことにする。

 

 人里で阿求様のことを聞きながら歩き回る。

 

 さすがは人里の有力者だ。

 どこで見た、何の店で買い物をしていた。

 などなど、情報がすぐ入る。

 

「あ、参護さん! 偶然ですね!」

 

 見ると、ウサギの耳にブレザーっぽい服装とミニスカート、鈴仙・優曇華院・イナバさんだ。

 里で回診中だろうか?

 

「丁度良かったです。夕方に伺おうと思ってタケノコたくさん持ってきました!」

 

 ドサッと背負っている籠にいっぱいのタケノコを渡された。

 

 今!?

 

「私、まだまだ回診中ですので、先にお渡ししておきます! それでは急ぎますので~」

 

 そう言うとさっさと次の家に向かっていってしまった。

 

「大体十キロ前後かな?」

 

 背負ってみると結構重量がある。

 しかも、これに買い出しした品を担いで家に戻るのだ。

 

 意図しない訓練が追加されたな……。

 

「あれ? 参護さんじゃないですか。本でも借りていきますか?」

 

「小鈴さんですか、見ての通り食材を運ぶことになってますので、今借りると汚れてしまいます。後日借りに来ますよ」

 

 さすがにタケノコを背負った状態で本なんて借りたら、泥をつけたり落としたりしてしまいそうだ。

 それは、小鈴さんに申し訳ない。

 

「そういえば、小鈴さん。阿求様を見ませんでしたか?」

 

「阿求? 朝からいろいろ買い物をして貴方の家に行ったけど……」

 

 だったら入れ違いになったのだろう。

 

 これは急いで買い物を済ませて、向かう必要がありそうだ。

 

 しかし、タケノコも結構重いが、コメを買う予定なのだ。

 

 米俵一つ。

 

 大体一つが六十キロ前後だったはずだから、タケノコが大体十キロとして七十キロ……。

 

 いい訓練ができると考えよう。

 

 

**********

 

 

 七十キロを背負って担いで家に戻ってきた。

 

 鍛えているとはいえ、七十キロは辛い。

 

 休みなのに仕事以上に疲れるってどうなんだろうな?

 

 家に帰ると阿求様とアリスさん、魔理沙さんがお茶を飲んでいた。

 

「た……ただいま……」

 

「おー、お帰り! 遅かったな? 先にお茶、頂いてるぜ!」

 

「あら、買い出しに行ってたのね? せっかくだからお昼、ごちそうになろうかしら?」

 

「参護さん!? 米俵一俵って一人で持つ重さじゃないですよ!?」

 

 誰がどのセリフかは察してくれってやつだが、先の二人は脳天に米俵ぶつけてやろうか!?

 

「とりあえず、台所に置いてきます。お昼は三人追加でいいか?」

 

 今日の食事当番は俺だから、三人追加の労力は俺持ちという事だ。

 

「ゆっくりパチュリー。ゆっくり咲夜と一緒に三人の相手を頼むわ」

 

「ゆっくりしていくよ!」

 

 さて、タケノコの下ごしらえから始めよう。

 

 参護さんのお料理教室だ!

 

 タケノコをよく洗ってから、頭を斜めに切る。そこから縦に切り込みを入れて鍋に投入。

 

 米の研ぎ汁をたっぷり注いでから少量の米を入れ、唐辛子を投入して日持ちするようにする。

 

 一握り程度の糠を入れて、沸騰させてから火を弱めて四十分ぐらい煮る。

 

 この時灰汁が大量に出るが、皮のまま煮ているので灰汁取りは必要ない。

 

 竹串が簡単に刺さる様になれば煮る作業は終わり。

 

 あとは、自然に冷めるのを待つ。

 この時にYチルノに頼んで冷やすと、エグミが出てしまう。

 自然に冷めるのを待つ。

 

 冷めたら、煮る前に縦に入れた切り込みから丁寧に皮を剥いで完成。

 

 長持ちさせるなら水に浸しておくと二、三日持つから、重宝する。

 

 以上、参護さんのお料理教室でした。

 

「さすがね。さらに日持ちさせるなら塩を溶かした水に浸す事ね。更に持たせるならそれに酢をコップ半分ぐらい入れてあげるともっと日持ちするわよ?」

 

「……いつからいらっしゃいましたか?」

 

 後ろには感心したようにこちらを見るメイドさんがいた。

 

「たしか、参護さんのお料理教室だ! のあたりかしら?」

 

 最初からじゃないですかー、ヤダー!

 

「……お昼、食べていきます?」

 

「そうね、美鈴も来ているから二人分追加でね?」

 

 合計五人分ですか。

 今下ごしらえしたタケノコ使えば十分間に合うかな?

 

「それはそうと、料理できるのね。さすが何でも屋といった所かしら?」

 

「一年以上も一人暮らししてれば覚えますよ。それより、館のお嬢様はいいんですか?」

 

「お昼はお嬢様も眠られてるからね。館の掃除や料理の下ごしらえも終わってるから、今は自由時間なのよ。たまには他の人が作った料理でも食べたいと思って来たの」

 

 選んでくれてありがとうとでも言うべきか?

 

 まぁ、選んでもらえて嬉しいと思ったし、腕によりをかけて作らせてもらうことにしよう。

 

 

**********

 

 

 今日のメニューはタケノコの炊き込みご飯、タケノコと油揚げの味噌汁、ニンジンとタケノコの味噌きんぴら、そしてメインにタケノコのステーキを出した。

 

 すごい量のタケノコを貰ったのと、今日は人数が多いからたくさんあるタケノコが自然と大量消費される献立になった。

 

「すっごい旨いな! タケノコばかりなのに全然飽きないぜ!」

 

「ホントね。いつもおいしいと思ってたけど、今日のは格別ね」

 

「相変わらず、おいしいですね。今度、私の屋敷でも作ってくださいますか?」

 

「これは……、お嬢様にお出ししても大丈夫な品ですね。今度作って差し上げましょう」

 

「おいしいですね! 全身に力が(みなぎ)るようです!」

 

 (おおむ)ね良い評価を貰えて達成感を感じている。

 ゆっくり達も嬉しそうだ。

 

「「「「「「「「「ゆっくり味わっていくね!!」」」」」」」」」

 

 満足そうにみんなで食事をしている姿は、非常に癒される。

 

 天ぷらを作っても良かったが、それはまた別の機会にする。

 

 お昼を食べ終わって、食休みで全員ダラーっと座り込んで話していると、

 

「たのもー! 参護! TRPGしましょう! シナリオ作ってきたし、難易度も調整したからすぐに遊べるから!」

 

 輝夜さんと鈴仙さんが訪ねてきた。

 

 その手に持っているのは、ルールブックだ。

 ああ、この人数巻き込まれたな……。

 

 合計八名。

 

 GMとサブマスも考えても六名。

 

 随分とバタバタしそうな人数だ。

 

 今日中に終わればいいな……。

 

 

**********

 

 

 TRPGは何とか、今日中に終わった。

 

 白熱したのだ。

 輝夜さんが、今日のはログを取っているから書にすると、張り切って流れを書いた大量の紙を持って帰っていった。

 

 その後、みんな帰っていったが、とんでもなく疲れた。

 

 仕事が入っている日の方がまだ疲れてないってどうだろう?

 

 七十キロの荷物を運んで、五人分追加した食事を作って、日が落ちるまでTRPGプレイして、阿求様を屋敷に送って、明日の準備をして、ようやく床に就いた。

 

 花から花へ移動している幽香さん、慧音さんと一緒にいる妹紅さん、竹林からあまり出ているところを見ないてゐさん以外、ウチに来る人たちみんなに会った気がする。

 

 今日はもうゆっくり寝よう。

 

「おやすみ、みんな」

 

「ゆっくり、おやすみなさい!」

 

 Yパチュリーがそう言うと、部屋の脇に寝床を敷いて眠る。

 

 最近はずっと俺の部屋で眠ってくれる。

 

 寝る前と寝起きで彼女の顔が見れるのは、正直役得だと思う。

 

 明日も頑張るとしよう。




 いかがだったでしょうか?

 忙しいというか、疲れる一日でしたね。

 時系列的なことをよく感想で聞かれますので、あらすじに追加しておきます。

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