東方饅頭拾転録 【本編完結】   作:みずしろオルカ

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 どもです。

 今回は、『夜光』さんのリクエストでスタンドの絡むお話という事だったので、参護さんのスタンド戦を書きました。

 本編はもう少しお待ちください。

 それではどぞ。


外伝 海原参護は幽波紋使い

 

 空が赤く染まり、日はもう落ち、魔が動き出す時間。

 

 幻想郷において、人里は特別な場所だ。

 

 人間と妖怪の均衡を大事にする幻想郷は、人里以外で人間は生きていけない程に過酷な環境だ。

 しかし、だからこそ人里は守られている。

 

 それこそ、人里を襲おうものなら、幻想郷にいる上級妖怪全員を敵に回すほどだ。

 

 妖怪は確かに人の畏れを糧に生きている。

 それこそ、死に際の畏れは極上と言われている。

 

 知能が低い妖怪は、人間が集まる人里を襲うとする。

 しかし、人里で暮らせななれば、人は確実に数を減らしていく。

 

 人が数を減らしていけば、畏れは手に入れられない。

 

 故に守られている。

 

 共存するには相手が居なくては始まらないのだ。

 

 この禁忌を破るのは、知能の低い低級妖怪か、目的がある妖怪だけである。

 

 そしてその目的はたくさんあるのだが、最も多いのが復讐だ。

 

 博麗の巫女に重傷を負わされた妖怪が見せしめに人里を襲うとする。

 当然、霊夢や魔理沙がそれを阻止するのだが、稀に人里に居合わせた上級妖怪に返り討ちにされたりと、襲撃は成功したことは無い。

 

 そして、今回の襲撃者は新しい相手に撃退されることになる。

 

 

**********

 

 

 獣。

 

 その相手は自分に敗北をもたらした人間。

 

 自分は短い期間で中級妖怪にまで登り詰めたのだ。ゆくゆくは上級妖怪へ、最終的には八雲紫を倒して幻想郷に君臨する。

 

 そんな自分がただの人間に敗北した。

 

 この妖怪は復讐に燃えていた。

 

 あの敗北を(すす)ぐには復讐をやり遂げるしかない。

 

 そう考え、人里にやってきた。

 

 里の入り口には、妖怪に敗北をもたらした男が立っていた。

 

 まるで来るのが分かっていたかのように、仁王立ちで妖怪を待ち受けていた。

 

「来たか。悪いけど、ここからは通さないよ。俺と俺のスタンド……」

 

 男の姿がダブる様に揺らぎ、もう一人の影が現れる。

 その姿は、全身に包帯を巻き、目の部分はゴーグルの様なモノをつけて立っていた。

 包帯には呪文のような模様がかき込まれており、握られている拳は包帯が破けて肌が見えてしまっている。

 

「『カーズ・ドライブ』がな!」

 

 妖怪は足を止める。

 こいつに自分は負けたのだと、過去を思い出し、脳内の警鐘が鳴り響く。

 

 この男の後ろに現れる謎の男が妖怪に敗北をもたらした。

 

「セイヤァ!」

 

 殴られた妖怪は後ろに吹き飛ばされ、地面を削り、ようやく止まる。

 

 ダラン……。

 

 感じる腕の違和感。

 妖怪は視線を腕に移すと、ガードした腕が完全に折れていた。

 

 まただ。前に戦った時も、大した威力じゃないのに腕が折られた。

 同じところを同じように。

 

 妖怪の腕を折る力、妖怪同士ですら簡単に骨を折ることは少ない。

 

 ではなぜ?

 

 ブワッと背筋が凍える感覚を覚える。

 

 威力じゃない。

 骨だって弱っていたわけじゃない。

 

 折れる要素が無いのだ。

 

 なのに妖怪の腕は折れたのだ。

 

 意味不明だ。

 近づけるわけにはいかない。

 

 妖怪はそう考えて、近場の岩をもう片方の腕で砕くように相手に飛ばす。

 その様は散弾銃だ。

 

「セイセイセイセイセイィ!!」

 

 拳ですべての飛礫を殴り飛ばす。

 無数の拳が現れたかのように見えるほどの速度。

 

 それはおよそ人間ができる速度ではない。

 ここまで来て、妖怪は包帯だらけの男は人間ではないことに気づく。

 

 しかし、だからどうしたと言うのだっとばかりに、妖怪は参護に襲いかかる。

 元より、彼の妖怪はこれぐらいしかできない。

 

 妖怪の中でも妖獣の類であり、その能力は身体能力や反射神経など野性に特化している。

 妖獣系で能力に開花するのは、中級の半ばから上の位である場合が多い。

 

 もう少しなのだ。

 

 もっと人間を食い殺せば、妖怪として上の次元に行けるというのに、その妖怪は(つまず)いてしまったのだ。

 

 海原参護に。

 

 こいつを殺さないと、二度と進むことができない。

 その衝動に従い、妖怪は参護に襲いかかる。

 しかし、それは悪手だった。

 

 参護は妖怪に向かって踏み込む。

 完全に懐に入った状態で、がら空きの胴体が彼の目の前にある。

 

 結果は言わずもがなだった。

 

「セイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイセイ、セイヤァ!!」

 

 全身を殴られ、吹き飛ばされる。

 

 切り傷、刺し傷、骨折、火傷、喰いちぎられた跡、全身に様々な傷が出来て立ち上がることもままならない。

 

 これこそが、参護のスタンド能力。

 『両こぶしで触れた傷を操作できる』というものだ。

 

 これらの傷はすべて、この妖怪が生涯で負ってきた古傷なのだ。

 完璧に治癒されても、痕が一切残っていなくても、スタンド『カーズ・ドライブ』は、古傷を開き、抉る。

 

 傷を負わずに生きている生物はいない。

 無機物すら風化という傷を負っているのだ。

 

 生物に有効なのは肉体的な傷ではない。

 精神的な傷だ。

 

 妖怪の全身が震えはじめる。

 恐怖・混乱・焦り・思考の単純化。

 トラウマすら開き、抉る。

 

 参護は今まで、負け続けてきた。

 天才の兄に何度も何度も。

 

 だが、すべて糧にして喰らってきた。

 どんな失敗も敗北も参護は受け入れ、古傷を一部にした。

 

 ゆえに生まれたスタンドの能力が傷を操るなどというのは中々に皮肉が効いている。

 

「己が背負っているものを今一度直視しろ」

 

 たった一言。

 

 全身の傷も、苦しめるトラウマも、その妖怪が背負うべき傷だ。

 

 そうして、肉体的にも精神的にもボロボロにされた妖怪は、最後に残っていた理性でその場から逃げた。

 

 それは参護から逃げたのか、罪から逃げたのか、それとも自らの最期を受け入れ、誰もいないところで消える選択をしたのかはわからない。

 

 ただ、妖怪は痛む身体を一切顧みることなく、しっかりとした足取りで参護の視界から消えていった。

 

「相変わらず、エグイ能力だよな」

 

 その呟きは夜風にさらわれ、消えた。




 いかがだったでしょうか?

 『夜光』さんのご期待に応えられたでしょうか?

『カーズ・ドライブ』 本体:海原参護
ステータス
 破壊力  :D
 スピード :C
 射程   :D
 距離   :D
 持続力  :A
 精密   :B
 機動性  :B
 成長性  :C

 ってかんじですかね?

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