東方饅頭拾転録 【本編完結】   作:みずしろオルカ

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 超短編ですが、勇儀戦の外伝です。

 先ほど気づきましたが、UA40万・お気に入り3600件超えとなっておりました。
 ありがとうございます。

 感想も800件となりまして、非常にありがたい限りでございます。

 そんな中でこんな短い外伝で申し訳ありまえん。

 ただ、ちょっと萃香を可愛く書きたかった、それが理由です。


外伝 地底の激戦

 星熊勇儀は期待感を持ってこの場所に立っていた。

 

 力では彼女が(まさ)ってはいたが、総合力では圧倒的に伊吹萃香が勝っている。

 その萃香が、絶賛した男。

 

 あの、日々の退屈を紛らわすように酒を飲んでいた彼女を、あんなキラキラとした目に変えた男。

 

 期待を抱くなという方が無理だろう。

 

 まぁ、若干依存気味なのは気になったが、あの鬱屈した様子の萃香を見ているよりはずっといい。

 

 対峙している男は、最初こそため息をつきつつも何とかならないかと思案していたが、こうして面と向き合った途端に腹を据えたのか戦士の顔になった。

 

 纏う力は銀色の闘気。

 

 対峙する勇儀は妖力をみなぎらせて相手を睨む。

 いつもならば、杯を片手にして、その中身をこぼすことが出来たら勝ちとかそういうハンデを付けた闘いをしていたが、今回は萃香の話から必要ないと判断した。

 

「この石投げるから、地面に落ちたら開始ね~」

 

 萃香が軽く空中に小石を投げる。

 

 対峙しているだけで勇儀の気分は高揚している。

 萃香が依存している理由が分かる。

 

 波紋使い、気功使い。

 

 この使い手は勇儀の過去の戦闘記憶にも存在した。

 人間の中でも卓越した強さ。

 

 その両方を持っている男が目の前にいる。

 正々堂々、全身を銀色の闘気で輝かせて対峙している。

 

 コツッ。

 

 小石が落ちた音と同時に私の拳と参護の杖がぶつかり合う。

 

 芯に響く良い一撃だ。

 人間が出したとは到底思えない一撃、受けた拳が痺れるような力が流れ込んでくる。

 ビリビリと片手を痺れさせる一撃に、思わず口の端が吊り上る。

 

 波紋でも気功でもない。

 いや、波紋でもあり気功でもあるこの効果。

 

 バチンと、音と共に腕の力を妖力で押し流す。

 

「萃香と同じことを……」

 

「鬼だからね。力任せなのは当然さね」

 

 杖を構えたままこちらを睨みつけている参護。

 

 押し流した方の手をブラブラと振ると、地面を砕くような強さの踏み込みで参護との距離を詰める。

 

 参護は杖で防御し、勇儀は拳で殴り続ける。

 

 正面から受け止めると、萃香の時の二の舞で腕を砕かれる可能性がある。

 なので連撃を右へ左へと逸らしながら耐えていく。

 

 それでも一撃の余波が参護の体を空中へ持ち上げ、勇儀は空中を飛びながら更に参護を追い詰める。

 

 しかし、いきなり参護の軌道が大きく横にずれて勇儀の顔の横に杖が迫る。

 

 上体を反らしてそれを回避すると一端距離を取る。

 

 参護は空中に留まり、その距離を取ろうとする行動を許さない。

 

 すぐに勇儀との距離を縮めて、突きの体勢を取る。

 

「銀色の……いや、銀牙波紋疾走!」

 

 連撃、ただひたすら全力で込められるだけの銀色の闘気を杖に込めて突き続ける。

 

 相手を睨み続けていた参護の目に、いきなり嗤っている勇儀の姿が映った。

 やばい! そう感じた時には参護は強烈な一撃を受けて、宮殿の壁を突き破り、天井を見上げていた。

 

 全身が痛み、関節が軋んでいる、疲労で意識もだいぶ朦朧としていたが、萃香と初めて戦った時のように長期間動けなくなることないだろう。

 

「ありゃりゃ、鬼と戦ってた人間だからザクロになってるかと思ったけど、かなりきれいな状態で残ってるね。こりゃいいコレクションだね!」

 

 死体に間違われた。

 

 まぁ、鬼と戦って壁突き抜けてきた人間が生きてるとは思えないだろう。

 

「生きてますよ。すいませんが、旧都まで……頼めますか?」

 

「驚いた、アンタ生きてんのかい? 旧都って鬼と戦ったんだろ? いいのかい?」

 

「決着はついたので、大丈夫です。疲れたんで、少し眠らせてもらっても……?」

 

「むしろ寝ておきな。人間が壁ぶち破って生きてるなんて奇跡なんだからさ」

 

 その言葉に安心して、参護は眠った。

 

 

 

**********

 

 

「参護!? 起きて! 起きてよ!? 嫌だよ! 死んじゃ嫌だよ!!」

 

 悲鳴にも似た叫びに目を開けると、瞳に涙を溜めた萃香が俺を見ていた。

 

 いつものセクハラをしてくる彼女ではなく、まるで幼子を見ているような印象を受けた。

 

「なにしてるんだ萃香? 疲れてんだから、眠らせてくれよ……」

 

「参護こそ、何言ってるんだよ! 死んだかと思った! 死んだかと思ったよ!! 嫌だよ、参護みたいに戦える人もういないもん! 参護みたいに受け止めてくれる人なんてもういないもん!!」

 

 悲鳴のような独白。

 確かにそうだ。

 兄貴がここに来るわけがないし、受け止める人間となると尚更に少ないだろう。

 その少ない人間が、幻想郷に来るというのも可能性は低いだろう。

 

「大丈夫だよ。かなり疲れたけど、前みたいに寝込むほどのダメージは受けてないからさ」

 

「……うん、……うん!」

 

 俺の服を握りしめて、ひたすら声を殺して泣く彼女を抱き締められないこの身体を少し恨めしく思った。

 

「少し寝るからさ。適当に布団運んでおいてくれ」

 

 そうして俺は本格的に意識を手放した。

 




 いかがだったでしょうか?

 阿求とパチュリーが人気で、萃香がセクハラしかないと思われていたので、気合入れて可愛く書いてみました。

 月曜日は泊まり込みの予定なので、感想返信のみになります。

 それでは、また読んでくださいね。

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