東方饅頭拾転録 【本編完結】   作:みずしろオルカ

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 遅れました。

 考えてたらこの時間です。
 つか、本編考えても出てこなくて、逃げた結果が今回の外伝です。

 外伝ばかりですいません。


外伝 地底の激戦 萃香編

 先日、海原参護と星熊勇儀の模擬戦が行われた地底では、再び同様の熱気が支配していた。

 

 星熊勇儀と戦って、勝てずとも生きて帰ってきた男が、今度は伊吹萃香と戦う。

 

 これだけで、地底の妖怪たちは湧き上がった。

 

 元々はぐれ者の多い集まりだったし、先日の勇儀との戦いで、彼は地底全体を震わせるほどの戦いを見せたのだ。

 

 危険な妖怪が多い地底だが、伊吹萃香と戦う人間を寄ってたかって襲うなどという命知らずも居ないようだ。

 

「今回もこの石を投げて、地面に落ちたら開始さね。死なない程度に暴れな!」

 

 軽く放られた小石は放物線を描き、地面に落ちた。

 

 その瞬間に、双方はぶつかり合う。

 拳を突き出した萃香と、その拳に杖の突きを合わせている参護。

 

 衝撃波が周囲に伝わり、家や地面がビリビリと揺れているのが分かる。

 

 参護の全身から溢れ出ている銀色の闘気。

 初めて萃香と戦った時に使った時は爆発のようだった。

 先日、勇儀と戦った時はまだ吹き出すようなレベルの出力。

 そして、現在萃香と対峙している参護の全身から出ている銀色の闘気は、じんわりと陽炎の様な出力に落ち着いていた。

 

(出力が落ちている? いいや、あの暴風の様な量の闘気を効率よく全身に回せているんだ)

 

 萃香の拳から伝わってくる参護の杖の威力。

 それは決して初めて参護が闘気を纏った時の一撃に負けておらず、むしろ余分な力の逃げ道が無くなった分、腕を突き抜けていく衝撃は凄まじかった。

 

 たった一撃で、萃香の口角が吊り上る。

 加減を忘れて参護に怪我をさせてしまった戦い。あれから何か月か経っているが、比べ物にならない一撃を受けた。

 

 成長。

 

 萃香を喜ばせるのはこの一言で十分だった。

 

 参護は萃香のその表情を確認すると飛び上がり、空中に静止する。

 舞空術という気功の技の一つだ。

 

 弾幕ゲームでいつも飛んでいる萃香からすれば特別なことではないが、参護からすれば驚くほどの進歩だ。

 

 勇儀との戦いで披露していたが、自ら空中戦を誘う姿に萃香も乗って飛び上がった。

 

 あっという間に参護との距離を詰めた萃香は、裏拳で参護を吹き飛ばして地底の壁にぶつける。

 そのまま追い立てるように陥没した壁から出てきた参護をひたすら拳の連打で壁に縫い付ける。参護も横に移動しながら逃れようとするが、陥没痕が横に広がるだけだった。

 

 ふと、拳の感覚に違和感を覚えた萃香が手を止めると、そこには参護の姿は無い。

 殴り壊された壁が崩れているだけだ。

 

 萃香は一瞬で理解する。

 随分前に参護に倒された妖怪のトドメ、疎になって見ていたあの十秒だけ高速移動ができる技だ。

 

 それならば、乱打の中を潜り抜けることができる。

 

 しかし、そう理解すると共に萃香は後方を蹴り上げると丁度参護の胸部に当たり、天井へ激突する。

 普通の後方蹴り上げは、精々腰程度までしか足が上がらないものだが、萃香の場合はほぼ足を真上にまで蹴り上げていた。

 

 当然それは鬼の力なので高い威力を持っている。

 

 天井にもクレーターが出来ていたが、参護は天井を蹴って萃香へ肉薄する。

 しかし、素早く足を戻していた萃香は、向かってくる参護に対して斜め下に蹴り落とすような角度で胴回し蹴りを叩き込んだ。

 

 ボロ屋を壊して墜落した参護は、すぐに立ち上がる。

 

 波紋で痛みを和らげ、気功で防御を上げる。

 銀色の闘気を使えるようになる前は、これを同時に行う事が出来なかった。

 

 つまり、痛みを和らげるか、防御を上げるか。

 選択して戦っていたのだ。

 

 しかし、銀色の闘気はそれを必要としない。

 常に痛みを和らげ、防御を上げてくれる。

 

 同時に二つの選択肢を選べるというのは、戦闘においてかなりの有利な点になる。

 

 一手分の余裕が生まれるだけでなく、今回のような痛みの緩和と防御の向上は常に選んでおきたい項目だし、それが一回で双方を補えるというならそれは二手三手以上の価値になる。

 

 故に参護の行動は前回よりもずっと早く、鋭かった。

 

 杖を構えるとそのまま萃香に向かって飛び上がっていく。

 

 舞空術の操作も上達している。

 一瞬で一定の速度まで加速して、萃香の所で急停止と体勢を複雑に変えたりしている。

 

 そしてその姿に萃香は目を輝かせていた。

 

(すごいすごいすごい!! 威力も、速さも、耐久力も、空を飛ぶ練度だって何もかもが前よりもずっとずっと良くなってる。参護を鍛え続ければ、私だってどうなるかわからない。ああ、最高だよ参護!)

 

 打ち合う度に笑みが深まる萃香。

 打ち合う度に練度が上がる参護。

 

 無限に続くかに思えるその戦いに、萃香と長い付き合いの星熊勇儀は悟った。

 

(もうすぐ終わるかな)

 

 一般的に、萃香は鬼の中でも賢い部類の性格をしている。

 幼い仕草や飲んだくれている姿が強い印象だが、日本の伝承にある鬼の中では最強クラスの伝承を持つ彼女。

 

 長い付き合いの勇儀は、萃香が熱くなればなるほど加減を忘れる性格だと知っていた。

 

 力だけならば、勇儀も萃香と張り合えると自負しているが、総合力ではどうしても勝てないと言わざるを得ない。

 日本で最強の鬼は、対等の相手が少なかったが故に、加減をするのが苦手になった。

 

「イィヤッホォォォォ!!!」

 

 そんな楽しそうな声と共に、参護が吹き飛ばされて、また地霊殿に突き刺さった。

 

 テンションが上がりすぎて、加減を忘れて吹き飛ばしたのだろう。

 

「コラ萃香! 私に加減しろって言っておいて自分はそれかい!?」

 

「ごっめーん! アツくなりすぎて、ついヤッちゃった!」

 

「発音気をつけろ!?」

 

 

 

**********

 

 

 

 三日間で二度も地霊殿に突っ込んだ男。

 俺、海原参護です。 

 

 なんだろう?

 地底の喧嘩は地霊殿に相手をぶち込むことで決着とかいう地方ルールがあるのだろうか?

 

「うにゅ? おにーさん、壁から生えて何してるの?」

 

 声がしたので見上げると、長い黒髪とリボンに背中から黒い羽根を生やしている少女が立っていた。

 

「いや、好きで生えてるわけじゃないからね? とりあえず、抜けなくて困ってたんだ。助けてくださいお願いします」

 

「いいよ。おにーさんから温かいもの感じるし、その温かい力を少しちょーだい?」

 

 そう言うと、手を握ってじっと俺を見つめてくる。

 温かい力というと、銀色の闘気のことだろう。

 

 言われた通り、害にならない様に彼女に分けてあげるとどこかホッとしたような表情をしていた。

 

「うにゅぅ……。これ、キモチイイね~」

 

 うん、発音に気を付けようか?

 

 俺の界隈には発音を間違えるのが流行っているのか?

 しかも限定的に。

 

「うにゅ! 約束通り、おにーさんを助けるよ! 旧都まで運んであげる」

 

「ああ、ありがとう。俺は海原参護。君は?」

 

「私? 私は霊烏路空! お空って呼んでね!」

 

 そう言いながら、ズルリと俺を穴から引きずり出すお空ちゃん。

 片手でやっているあたり、さすが妖怪。

 

「旧都まで運ぶから、温かいのもっとちょーだい?」

 

 波紋や気功の類で餌付けって初めて聞いた気がするな。

 

 結局俺はお空ちゃんに運ばれている間、ずっと彼女に銀色の闘気を与え続けたのだった。

 

 無駄に疲れた。




 参護さんって苦労人だと思うけど、そこを苦にしていないあたり、強者だと思う。

 参護さんの人間離れが進んでおりますが、まだギリ人間です。

 参護日記をお楽しみに!

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