東方饅頭拾転録 【本編完結】   作:みずしろオルカ

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 本当にお待たせしてしまって申し訳ありません。

 今回は、HAZAMA さんからリクエストされました。
 雨の日の過ごし方です。

 いつもの日記形式の倍ぐらいの量になってしまいましたが、どうかお楽しみください。


外伝 雨の日の過ごし方

 何でも屋の仕事は、一般的に天候に関係なく仕事があるように思われる。

 

 だが、実際には外での仕事が多く、妖怪退治や里の外に出るための護衛が家に来る仕事としては一番多い。

 

 俺の力を考えると妥当なのだろうが、偏っていると思う。

 

 内職の仕事もあるにはあるのだが、偶然にも今日は内職でできた品を納品したばかりだった。

 

 故に一日暇になったわけだ。

 

「久しぶりに、みんなとゆっくり過ごそうかな」

 

 縁側で屋根から滴る雨水が、今日中にやむ気配が無いのを教えてくれる。

 滴るって言うか、流れてるよなぁ。

 

「台風でも近いのか? とりあえず、花壇と畑は対策しないと!?」

 

 慌てて暴風柵と排水の為に水路を作る。

 風と雨の中でする作業だから少々手こずったが、中々のモノができた。

 

「後は、雨風が止んだら流された土や植物の状態を見ながら肥料をあげてやらないと……」

 

 台風の後の作物のケアは大変なのだ。

 と言うか、何でも屋なんてやっているせいか色んな知識が付いてきているな。

 

「雨の日位居間でゴロゴロしてても、誰も責めませんよ?」

 

 後ろから声をかけてきたのは阿求様だ。

 

 手には紫色の衣服が畳まれているから、パチュリーさんの所に届けに行くところだろうか?

 ちゃっかりその上にYパチュリーが乗っかっているのも見慣れた光景だ。

 

「いや、庭の花壇や畑に対策してきただけだからね。濡れちゃったからお風呂入るけど」

 

「今は鈴仙さんが入ってますよ? この雨の中薬売りの仕事して来たらしくて、風邪ひきそうでしたから……」

 

 なんてこったい。

 とりあえず、着替えないと風邪をひいてしまう。

 

 だが、この状態で家の中を徘徊するのは良くない。

 廊下や畳が傷むし、ただでさえ湿気が酷いのに更にカビさせる原因を家中にばらまくのはダメだ。

 

(現代なら、湿気取りの薬剤やカビの生えた壁や床を掃除する洗剤があるから大丈夫だけど、幻想郷だとその系統は永遠亭の永琳さんに頼む必要があるし、一度永遠亭に行けばTRPGで丸一日は帰って来れないしなぁ)

 

「じゃあ、脱いでください。軽く洗ってからゆっくりパチュリーちゃんに頼んで乾燥させます」

 

 何の抵抗も無く笑顔でこう言ってくる素晴らしい彼女。

 こっちは羞恥心に押し潰されそうです。

 

「え? いや、さすがにパチュリーさんの服を持っている状態でやってもらうわけにはいかないよ。桶に入れて垂らさない様に運ぶしね」

 

「大丈夫です。そっちはもうゆっくりパチュリーちゃんがやってくれてますし、そのままだと風邪ひいちゃいますよ?」

 

 見ると、Yパチュリーがさっきまで阿求様が持っていた畳まれた服を頭に乗せてパチュリーさんの部屋に運んでいた。

 

 ああもう、いい娘だな畜生!?

 

(仕方が無いな。上着だけ渡して下は死守しよう……)

 

 そう考えて、上着に手をかけた。

 

 

******************************

 

 

 手渡された上着は雨水を吸って、若干重くなっていた。

 

 これなら、少し絞ってからゆっくりパチュリーちゃんに頼んで乾燥してもらえば大丈夫だろう。

 

 ふと参護さんの顔を見ると頬が赤くなって顔を逸らしていた。

 

(あれ?)

 

(もしかして、私やってしまいましたか?)

 

 手元には当然さっきまで参護さんが来ていた上着があります。

 ぐっしょりと濡れた上着は雨水で濡れているのにも関わらず、ほんのりと彼の体温が残る上着。

 

 顔を逸らしている彼は、上半身に何も着ていない。

 

 皮膚のすぐ下にある筋肉。

 その形がしっかりと分かる程に参護さんの身体は絞り上げられていた。

 

 皮膚の上を水滴が流れていき、男性特有の匂いと均整のとれた身体が妙に印象に残ってしまう。

 

 ゴクッ。

 

 思わず喉を鳴らしてしまった。

 顔に血が集まるのが分かる。

 

 多分私は今、耳まで真っ赤だろう。

 

「ゆー! ゆー!」

 

 居間から参護さんの着替えを持ったゆっくり咲夜ちゃんが来てくれたおかげで、この妙な空気が何とか解消された。

 

 いけない。

 彼の裸を見て喉を鳴らすなんて、変態じゃないですか。

 はしたない。

 

「き、着替えたら濡れた服をゆっくり咲夜ちゃんに渡してくださいね! 私は先に洗う準備してきますから!」

 

 気まずくて逃げてしまった。

 

 でも目に焼き付いてしまった。

 

 あの腕で抱き締められたら……きっと幸せなんでしょうね。

 

 

******************************

 

 

 耳まで赤くして行ってしまった。

 

 完全に無意識だったなあれ。

 

 そんな反応されると俺も気まずいのだけれど、先に逃げられてはどうしようもない。

 

「ゆー?」

 

 とりあえず、Y咲夜が持ってきた着替えをありがたく使わせてもらおう。

 

「ありがとうな。着替えもタイミング的意味でも」

 

 そういいながら撫でてやると嬉しそうに、俺の掌に頬を擦り付けてくる。

 

「ゆー♪」

 

 着替え終わり、Y咲夜も愛で終わったので立ち上がろうとしたら

 

「うー☆」

 

 後頭部に二連続の衝撃。

 

 声からしてYレミリアとYフランが追いかけっこをしているのだろう。

 

「のぉぉ!? 後頭部はきっつい!!」

 

 しばらくのた打ち回るハメになった。

 

 こっちは結構痛いのにゆっくり達にダメージは見えない。

 硬気功とか教えたかな……?

 

 Y咲夜がYチルノを呼んできて後頭部に乗せてくれる。

 

 ああ、いい感じに冷える。

 

「ゆー!!」

 

 いつの間にかY咲夜が二人を捕まえて説教していた。

 

 もしかして、時を止めた?

 

「ゆーゆー?」

 

 後頭部に乗っているYチルノが不思議そうに声をかけてくる。

 もしかして、どうして呼ばれたか理解してないのこの娘?

 

 とりあえず、Yチルノを乗せたままで痛みが引くのを待っていると、説教が終わったのか二人が俺の前まで来て、謝る様に頭を下げてきた。

 

 二人とも涙目だったので、相当怒られたのだろう。

 

「気を付けるんだよ?」

 

 そう言いながら二人を撫でてやると、涙目の表情から一転してパァァッと音が鳴りそうなぐらいに弾ける笑顔になった。

 くっそ可愛いな。

 

 いつもだったら、外で自由に飛び回るのを見ているのだけど、今日は雨のせいで何もできないな。

 

「なーにしてるのー?」

 

 その言葉と同時に背中に慣れた重みを感じた。

 

 

******************************

 

 

 参護の家に来たら、阿求が顔を真っ赤にしながら参護の上着を持って土間の方へ小走りで向かって行った。

 

 参護の上着を大事そうに抱いていた所を見ると、夜のお供を手に入れたってところかな?

 上着で満足するなんて初心だね。

 

 私は是非とも腰巻が欲しいね!

 

 居間の方には後頭部にゆっくりチルノを乗せた参護がゆっくりレミリアとゆっくりフランを撫でていた。

 

 たぶん、Yフランあたりが頭に突っ込んだんだろうね。

 

 YレミリアとYフランはキラキラした笑顔をしていたから許されたんだろう。

 

 こんな無防備な背中を見せた参護が悪い!

 ということで

 

「なーにしてるのー?」

 

 抱き着いた。

 

 ゆっくりチルノのせいか少し体温が低めかな?

 

「萃香……びっくりするからいきなり抱きつくなよ」

 

「いやだよー。そこに参護の背中があるんだから、抱き着かないと損だってね?」

 

「いや、ね? って言われてもな」

 

 ゆっくりチルノが私と参護に挟まれているけど、なぜか満足そうだ。

 どかして頭を確認するとコブになっていた。

 

「コブになってるねー?」

 

 そのまま、コブの部分を丁寧に舐めていく。

 ツバ付けておけば治るって言うしね?

 

「うを!? 雨に濡れた後なんだから舐めるなよ」

 

「私は気にしないよ? むしろ、参護の匂いが強く感じられてお得感がある」

 

 濡れてから渇きかけると少し匂いが強く感じられる気がするのだ。

 と言うわけで、匂いを堪能しながらコブに舌を這わせ、治療する。

 

「何のお得感だよ?」

 

 花壇や畑を護る為に外で作業したって感じかな?

 相変わらず、優しいね。

 

 セクハラばかりしてて感覚がマヒしてるかもしれないけど、こうして抱き着いているだけでも心地良いんだよね。

 

「濡れたなら、お風呂入らないの?」

 

「無視か……。今風呂は鈴仙さんが使ってるんだよ。空くまでまったりしてるんだよ」

 

 ありゃ、時期が悪かったのね。

 とりあえず、濡れたままだと本格的に風邪をひいちゃうかもしれないし。

 

「ほいっと!」

 

 参護の濡れている部分の水を疎にして乾かす。

 

 身体は冷えてるかもだけど、これ以上冷えることも無い。

 

「ん? 乾かしてくれたのか。ありがとうな萃香」

 

 熱を萃めるってこともできるけど、下手したら参護が焼肉になっちゃうからね。

 

「いいよいいよ。でも、冷えてはいるだろうからお風呂も入ってね? あ、一緒に入る!?」

 

「入らない! 霧になって入ってくるなよ? 前にそれで人の身体に纏わり付いて捕まったんだからな?」

 

 むぅ、残念。

 あの時、素肌に直接触れられたから結構堪能できたんだけどな。

 

「ちぇ、残念。じゃあ、阿求の所行ってるよ」

 

 このまま遊んでても良いけど、風邪ひいたら大変だし、阿求に言って用意できる部分は用意しておこうかな。

 

 波紋で怪我の治りが早いし、代謝が高まるから病気もしにくい。

 でも、人間は死にやすいからね。

 気を付けるに越したことは無いのだ!

 

 

******************************

 

 

 萃香はセクハラして来るけど、俺や阿求、パチュリーさんをよく見ている。

 

 もちろん、ゆっくり妖怪達だって一人一人の性格を把握して気を使っている。

 

 気付かれないようにしているのかもしれないけど、Yパチュリーと記憶を同期しているパチュリーが気付かない訳がないのだ。

 

 だから、パチュリーは繰り返し続ける萃香のセクハラをある程度目を瞑っていると言っていた。

 

 個人的には勘弁してほしいが、彼女の奔放な性格と面倒見の良い性格で俺たちは助かっている。

 

 阿求様は家を回して、俺やゆっくり妖怪達を癒してくれる。

 萃香はそんな阿求様を無理しないように気を遣い、ゆっくり妖怪達が喧嘩したりした時に仲介したりと大変な役割を押し付けてしまっている。

 

 パチュリーさんは俺や阿求様、萃香が逸らしがちな部分を対応してくれる。

 

 俺の人外化の案もパチュリーさんが考えたらしいし、人外化することで起きるであろう人間との軋轢(あつれき)、博麗の巫女である霊夢さんから退治される対象になる可能性、元人間が長い時間を生きる上での死因など、時に厳しいことも言うが、すべて俺や阿求様、萃香やゆっくり妖怪達の為なのだ。

 

 正直な話、俺はこの三人には足を向けて眠れない程の恩がある。

 

 最初の一年は一人で生活して、Yパチュリーを拾ってからは本当にたくさんの人達に助けてもらって、強くもなってきたと思う。

 人間を外れて生きるのはもう決めた事。

 後悔も無いし、むしろ阿求様を護れることに誇りも喜びも感じている。

 

 漠然と決まった人外化の内容を誰よりも考えて、誰よりも良い方向を示そうとしてくれている。

 

 こう考えると本当に色々な人たちに助けられてるな。

 

 ……紅魔館に行ってパチュリーさんにお礼も兼ねて本でもあげよう。

 一応、幻想入りしたばかりの本だし、知らないはず。

 

「あら? おはよう。ちょっと騒がしかったけど、萃香と何かあった?」

 

 居間から大図書館へ行こうと思ったが、すでに居間にはパチュリーさんがお茶を飲みつつ、Y小悪魔と戯れていた。

 

 せんべいを一口サイズまで砕いてから少しずつ与えているので、喉に詰まらせる心配も無い。

 

 しかも、さらにお湯で軽くふやかしてるから喉に詰まらせることの無いという徹底ぶり。

 

 Yパチュリーからゆっくり妖怪達の子供の育て方の知識があるのだろう。

 その知識を彼女なりに応用してこうして育てているのだろう。

 

「いつもの戯れです。パチュリーさんは子育てですか?」

 

 ゆっくり妖怪全員で子育てをしているが、出来る娘と出来ない娘がいる。

 Yパチュリー・Y咲夜・Y美鈴・Y幽香・Y霊夢

 この娘たちは家事や子育てなんかを出来るいわゆる大人のゆっくりだ。

 

「子育てって、私そんな経験ないわよ。まぁ、ゆっくり妖怪の育て方なら私のゆっくり妖怪からの知識で知ってるし、他のゆっくり達も忙しそうだったしね」

 

 Yレミリア・Yフラン・Y小悪魔

 この娘たちは子育てされる側だ。

 

 Yレミリアはあまり手がかからないし、Yフランの面倒を見ようとする。

 だけど、やっぱり子供だから一緒に遊んでしまったり、できないことも多い。

 

 Yフランは遊び盛りだ。

 元気に遊びまわって、放置してるとあちこちに被害が出るから大変だ。

 

 Y小悪魔はまだヨチヨチ歩きの状態。

 あまり一人に出来ないんだよね。

 

「パチュリーさんがY小悪魔の面倒を見てくれるからな。他の仕事もできるんですよ」

 

 Yチルノ・Y大妖精

 

 この娘達は子育てできるほどではないが、されるほど幼くない。

 

 主に子供達の遊び相手になることが多い。

 

 基本的にセットで行動しているから誰かに手間をかけることも無い。

 

 だから、放置しない様にきちんと相手をするのは俺や阿求様、パチュリーさんが多い。

 その影響か、よく俺たち三人と行動するのもこのペアだ。

 

「そう。この娘が一人でいたから相手をしてあげてただけなのだけど」

 

 そう言いつつ、湿らせたせんべいをY小悪魔の口元に持っていく。

 おいしそうにしゃぶる様にして食べていく姿は、すっかり安心している。

 

「そういう事をしてくれているから、安心して生活できるんですよ。お風呂が空くまでここに居てもいいですか?」

 

「あら、雨に濡れたの? いいわよ。ゆっくりしていきなさいな。萃香に乾かしてもらったんでしょ? お茶でも飲んで少しは温まりなさい」

 

 用意されたお茶を飲むと、冷えた身体が少しだけ温まる感覚を得た。

 

 Y小悪魔が嬉しそうに寄って来たので、撫でてあげると満足そうにしていた。

 

「ふぅ、大きくなったな。大人になるのにどれぐらいかかりますか?」

 

「そうね。生まれて一年だし、そろそろ出会った頃のゆっくりレミリアやゆっくりフランぐらいの成長になるわ」

 

 YレミリアもYフランも生まれてそんなに経っていないのか。

 もしかしたら、Yパチュリーが二人の面倒を見ていたのだろうか?

 

 ということは、そろそろY小悪魔もYフランの様にヤンチャな行動力を示すのだろう。

 

「ほら、食べろ」

 

 ふやかしていたせんべいをY小悪魔に与える。

 パアァっと笑顔を広げ、一緒に羽も広げた姿は可愛い。

 

「ゆー!!」

 

 俺の手からおいしそうにふやかしたせんべいを食べるY小悪魔。

 自然と頬が緩んでしまう。

 

 一応お粥のようなものを作ってあげているけど、だんだん硬いものも大丈夫になってきているようだ。

 ふやかしたと言ってもせんべいとしての歯ごたえもある程度残っているし。

 

 

******************************

 

 

 参護さんが人間から外れて生きる決意をした。

 

 それは私達からすればとても喜ばしいことだ。

 

 種族は決まっていないが、仙人になるには百年に一度の死神の襲来を退けなければならない。

 鬼は手段として茨木の百薬枡という酒器で酒を飲み続けることで鬼となるという話だ。

 私の勧める魔法使いは、『捨食や捨虫の魔法』を覚え、使う事で魔法使いになるという事だ。

 

 どの方法にも長所と短所がある。

 

 だけど、魔法使いの欠点は他の二つに比べてそれほど大きいものじゃない。

 

 魔法を使う訓練を行う事。

 つまり、才能が必要なのだ。

 

 その点でいえば海原参護は才能がある。

 

 人間はかなりの種類の力を使える。

 人間独特の力が霊力。

 生き物の特有の力が気功。

 魔法使いや西洋方面の妖怪が持つ魔力。

 呼吸の力で力を得る波紋。

 

 人間が得られる力の代表的な四つの力。

 

 他にも色々あるが、妖力は妖怪特有の力だし、神通力は神かそれに準ずる者のみ、というものがある。

 

 妖力を手に入れるなら霊力は失うし、神通力を得るなら神に準じる者故に魔力を失う。

 

 つまり人間が同時に得られる力は先ほどあげた四つ。

 波紋は参護さんが来て初めて知ったから、それまでは三つだった。

 

 いけないわね。

 魔法使いは要は研究職の様なものだ。

 

 生涯を賭けた目的のために魔法や他の方法を駆使してそれを成し遂げようとする。

 

 私は生涯を本に囲まれて過ごすという目的があるし、アリスは完全な自立人形を完成させるという目的がある。

 

 私の場合は知識に囲まれ、知識を形にする。

 

「おお、うまいか。もう少しすれば、ふやかさなくてもせんべいを食べられるぐらいになるからな」

 

 参護さんは生涯を賭けて到達したいものはあるのだろうか?

 

 阿求を自分の全てを賭けて護ろうという目的は分かる。

 ゆっくり達を護るのもそうだろう。

 

 だけど、それ以外だと参護の目的は無いのではないだろうか?

 

 人を外れるのも、強さを求めるのも。

 

 じゃあ、魔法使いとしての彼の適性は?

 

 研究者としては参護さんは向いていないだろう。

 

「参護さんは……」

 

「ん?」

 

「参護さんは、阿求やゆっくり妖怪達を護る以外で、生涯を賭けてやりたいことってある?」

 

 顔を見れなかったけど、気になっていたことを聞けた。

 

 たぶん、机の対面にはゆっくり小悪魔に餌をあげている参護さんが居るのだろうが、やっぱり気になってしまう。

 

「護る以外で……か」

 

 その声は考えたことが無かったような声色で、この間は何かを考えているのだろう。

 

「阿求様の帰ってくる場所、ゆっくり妖怪達の安寧の地を作りたいかな」

 

 それも阿求やゆっくり妖怪達関連じゃない。

 

 徹底してると思ったけどここまでとはね。

 

 でも、その願いなら。

 仙境や聖域と同じだ。

 阿求の短い寿命を少しは伸ばせる可能性もあるし、ゆっくり妖怪達の様に数が減っている種族たちに良い環境をつくる。

 

 それは完成しない研究だ。

 ゆっくり妖怪だって個体差がある。

 魔力を好む個体、霊力を好む個体、参護にくっ付いて力を得る個体、漂っている力を取り込んでいる個体。

 

 これはもしかするかもしれないわね。

 

「だったら、魔法使いになってその領域を研究したらどうかしら? 幸い参護さんは魔法使いとしての素質はある。波紋・気功・魔力、この三つの力を研究すれば特定の種族や個人に良い領域を作れるかもしれないわよ」

 

 ちょっとずるいかな?

 参護さんの望みに絡めるように魔法使いを進めるなんて。

 

 でも、魔法使いの最大の欠点である才能は現時点でパスしてる。

 その上、生涯を賭けられるだろう研究もある。

 

 他の種族の欠点に比べればだいぶ魅力的な部類のはず。

 

 まぁ、参護さんが悩んでいるのは簡単だ。

 阿求とゆっくり妖怪を護るのに都合の良い種族はどれなのか? だろう。

 

 私や萃香よりもやっぱり阿求の為なんだろうな。

 

 あの娘はいい娘だ。

 話では三十程度しか生きられなくて、参護さんの波紋を使っても四十程度。

 そして百年近く彼岸で仕事をしてから転生する。

 

 圧倒的にこっちにいる時間の方が短い。

 

 それなのに、私達をいっぱい支えてくれて、恋敵だというのに受け入れてくれて、そんなにいい娘が幸せになれないなんて、やっぱり駄目だ。

 

「なるほど、領域の研究か! 家の周囲が仙境のような状態だと言われたこともあるし、これはいい話かもしれないな」

 

 やっぱり、阿求やゆっくり妖怪達に絡めれば、手ごたえがあるのね。

 

「流石パチュリーさんだ。俺たちの考えなきゃいけないことも全部考えてくれる。パチュリーさんだからこそ、信頼して選ぶことができます。俺や阿求様、萃香のことを真剣に考えてくれて、誰よりもパチュリーさんは信頼できます」

 

 ……やばい。

 顔を逸らしたままでよかった。

 

 口元がニヤけて戻らない。

 自分でもわかってしまうのだ。耳が頬が、真っ赤なんだろう。

 

「一歩下がって俺たちを見てますけど、誰よりも俺たちの為に知恵を尽くしてくれる。本当に、ありがとうございます」

 

 やめて!

 私を殺す気なの!?

 

 ダメだ、羞恥心で死んでしまいそうだ。

 

「かまわないわ。私が好きでやっていることよ? それに、私もあの子達もこの子達も大好きなのだから」

 

 今日はもう帰りましょう。

 このままだと、図書館で悶絶する羽目になりそうだし……。




 投稿が遅れてしまいまして本当にすいません。

 本編が書けずに、息抜きのつもりで書いた外伝が思いの他書けてしまいました。

 HAZAMA さんの希望に添えればいいのですが。

 月曜日は泊まりの予定なので更新はありません。

 忘れられてないか心配ですが、一応参護さん。二年以上幻想郷に住んでるので自分である程度できますからね?
 ヒロインたちのヒモじゃないですよ?

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