石の古竜との誓約。
超越者を目差すものは、生命の超越であり
そのため古竜の完全な似姿を得ることである。

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竜のウロコを捧げよ


古竜への道

 雷の槍―――太陽の光の王を象徴するそれが、一目散に岩に向かっていくと、枝分かれした光の牙で大穴を穿った。岩は見るも無残に砕かれた。矢継ぎ早に配下の者たちが雷を放つ。それは槍であり、それは矢であった。死という概念さえ存在しなかった世界に起きた差異。最初の火が熾ったことで不死身を誇った古竜は、既に固い鱗を持つだけの存在に過ぎなかったのだ。

 岩は砕かれた。ニトの瘴気によって浸食され、イザリスの熱で溶け落ちた。シースの裏切りにより魔術を手にした軍勢により竜は蹂躙されていった。

 そしてしばしの時間が経過した。

 王がロードランへと去ったのだ。

 世界の火を絶やさぬために王は自らのソウルを薪とした。

 薪の王グウィン――燃え殻の王グウィンはこうしてなんとか火の時代を延命した。

 次の時代は北の不死院を抜け出し世界の鴉に選ばれた者だけが選択できると伝えられている。

 

 砕かれた岩がどうなったのかもはや語る人間はいなくなってしまったが、巨人墓場と呼ばれるニトの領域のさらに下。人間性の坩堝、深淵でさえ冒すことの叶わぬ永遠の世界に名残があった。

 果て無く続く灰色の風景。あまりに純粋で味さえせず濁りもない水ばかりが湛えられた一面の地面から、人間たちが大地と呼ぶ平面を支える、そそり立った無数の樹木生い茂る場所。故も知らぬこの世界を誰かはこう呼んだ。

 ――灰の湖。

 かつて世界は灰色だった。そう、無ではない。灰色だったのだ。灰とは燃え殻である。灰は既に燃え尽きたが故に燃やされることもなく、また冒されることも無い。いかなる熱を持っても灰を冒すことは叶わない。例え人間性の黒い火炎とて灰を蹂躙するには足りぬであろう。

 白でもなければ黒でもない。中性。

 まるで鏡のように透き通った水面から生える樹木は人の背丈をはるかに超えて天井の雲へと延びていた。

 水に晒され一切の不純物を除かれた灰の砂浜には無数の骸骨が転がっていた。それは尋常な骨ではない。人が中にすっぽり収まることのできる巨大なものだ。

 灰の湖はまさに永遠である。永延と続くこの場所に限りがあるかどうかさえ、知る者はいない。

 灰の湖には、古竜が住んでいる。かつて戦争で砕かれた岩の末裔と生き残りである。比較的身軽だった竜たちは自由な翼を得て人間の世界へ旅立ったが、古代の栄光に取りつかれたものらはいまだに灰の湖に身を埋めていたのだ。

 岩の古竜。それは紛れもなく生命という概念を得る前の超越者である。最初の火により貶められたとはいえ竜の力は、なお圧倒的である。

 岩が砕かれ、石となった。今、灰の湖に存在するのは、石の竜である。

 彼らは人間という種族を唆した。そして竜のウロコを世界中から集めてくることを求めた。砕かれた力を元通りにするには、可能かなぎり多くの破片をより集めなくてはならなかった。

 今日も――時間が滞り混じり合ったロードラン周辺では適切ではないが――竜の似姿をした人間たちが竜のウロコを石の古竜に捧げに現れる。彼らは皆、一様に異様な容姿をしていた。まるで竜の姿を人の形に造形しなおしたような異形である。

 その人間の姿は、ひたすら座り続ける竜と酷似していたであろう。石、もしくは岩のような、硬質なウロコ。皮膚を隠す厚みのある体毛。強靭な翼と肉体は一見すれば健在であったが、枝の集合があたかも座布団のように敷かれていた。動きも酷く緩慢である。否、動けないのだ。古竜に近づくこと。それは完全に生命から離脱すること。岩は永遠である。例えすり潰されても粉となり残り続ける。粉を蒸発させても霧となり大気に漂う。死ぬことも無く、生きることもない。その竜は、竜であることを止めかけていた。岩の大木と同じように、永遠という概念そのものになりかけていたのだ。岩の古竜へと近づくという妄執がそうさせたのだろうか。もはや口を聞くことも、歩くことも、飛ぶこともできない。やがて竜は大地に根差す大木のように姿を変えるだろう。皮肉なことに妄執に陥った裏切り者シースも結晶という岩の一種に身を変えかけていた。

竜は語らないが超越者――竜のウロコを集めては捧げにやってくる者たちは言外のことをくみ取って行動する。

 竜にウロコを捧げることで、じきに超越者たちも人ではなくなっていく。人は惑わされやすく変化しやすい種族である。人の頭は竜のそれと変わって、やがて全身も変わっていく。そしてやがては翼が生えるであろう。さらに捧げれば骨格までも変わるだろう。そしてしまいには古竜と化すのだ。

 竜は、超越者たちのために、己の身を燃やすことで篝火を作っていた。超越者たちは篝火を起点にウロコを集めに旅立っていく。ある超越者は亡者と成り果てた。あるものは……。

 竜は灰色の湖を只管傍観し続ける。

 たとえ、火の時代が終ろうとも、竜は座り続けるであろう。闇の時代が訪れようとも。そう、灰の湖は決して変わらない不変の場所なのである。

 時代が移り変わる中で、この場所は永遠に変わらない。

 




頭、全身……その次の段階はきっと竜そのものになることでは? と考えています

竜に攻撃しても死なないのはシースと同じように岩になりかけているから
岩にいくら攻撃しても砕けるだけで「殺す」ことはできない

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