この物語は、正道などでは断じてない。
 
 霧烟る街に蠢く奇怪生物・神秘現象・魔道科学・超常謀略……一歩を間違えれば不可逆の混沌に呑まれるこの街に、新たな火種が投げ込まれた外道の世界。

 そんな世界の均衡を守る為に暗躍する『秘密結社ライブラ』

 この物語はその構成員たちの戦いと日常の記録である。


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単発ネタ。

続ける予定は無いです。


麻帆良戦線

 

 

Prrrrrrrrrrrr… Prrrrrrrrrrr….Pi!

 

「電話一本、銀の猿」

 

《おーし、そこ動くな。地球の裏だろうが関係ねーぞ?》

 

「ハハ、悪いな。そこに旦那ァいるかい?」

 

《あぁん? 確かに居るが、直接掛けりゃあいいんじゃねーのか》

 

「スカーフェイスからの通達でな……一定以上の幹部クラスには、ワンクッション置いて連絡しろってよ」

 

《……まぁ、テメエの居場所考えりゃあ当然だわな。ちょっと待ってな》

 

「…………」

 

《…うむ、私だ。そちらはまだ朝も早いことだろう……わざわざ済まない》

 

「構やしませんぜ。こちとらそれが任務だ……で、早速ですが…そちらに動きがあったと聞いてこの電話も寄越した訳でして」

 

《ああ、そのことなのだが。こちらも未だに確認は取れていない……だが、レル・デミソス氏が極秘裏にHLを出たという情報がそこかしこで流れている》

 

「はぁ!?」

 

《外観を誤魔化す偽装表皮と術式を行ったとされる者に、現在接触を試みている。今回は君に無関係とはいかないだろうから、この場をもっての報告とさせてもらった》

 

「そーだろうなぁ……この世界であの偏執狂が興味を持つ外部っつったら…」

 

《ほぼ、君がいるその地で間違いないだろう》

 

 

 

《現状、我々が唯一その所在を把握している『魔法使い』の拠点……麻帆良だ》

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

――――ヘルサレムズ・ロット――――かつてニューヨークと呼ばれていたその地が、たった一日で変貌を遂げた日から早数年。世間では『大崩落』と、それに伴う大規模戦闘が未だに人界の紙面を賑わせ、世界各地で人々の耳目を集めている。

 当然だ。世界の中心とも言えるゴッサムがたった一日で陥落し、完全に独立した社会と秩序を手に入れ、あまつさえ翌日にはそのルールでHLという社会が十全に回っていたのだ。世界の象徴としての面子もある合衆国は当然この動きを善しとせず、速やかに国軍の派遣を決定。このHLの出現に危惧している国家も多く、緊急招集を受けた国連総会議でもすんなりと軍の派遣を容認。ここに異界と人界の初にして大規模な戦闘行為が勃発したのである。結果は諸氏が知っての通りであるのだが。

 

この流れを人々は恐怖の象徴として捉え、ニューヨークが担っていた機能の殆どを北米大陸の対岸であるロサンゼルスに移転させる。現HLにもある程度は世界的機関の役割を残してはいるものの、完全にご機嫌とりの神輿でしかない。最近では首都の移転もまことしやかに囁かれ、ステイツという国家としての先行きは更なる混迷へと舵を切っていた。

斯様に世界の大事件として取り沙汰されている『大崩落』であるが、実はこの一連の事件にはHLの住人のみが知る『最後の一節』が存在する。

 

『七分間の愚行(セブンミニッツ)』

 

 アメリカ国軍艦隊の艦砲射撃が不発に終わり、HLの住人がタコ足の見物を終えて帰ろうとしたその瞬間に事件は起こった。突如として謎の人界勢力がHLに対して非物質性の攻撃を敢行。タコ足では対応しきれないその謎の攻撃に、何も分からないHLの住人が『本気の迎撃』をしてしまったのだ。

単なる荒くれ者のみならず、術に長けた者や改造施術を受けて大規模破壊兵器をその身に宿した者が、その謎の一団に報復攻撃を行う。その結果、報復を受けた者たちの大半が粉砕され、判別もつかないようなゲル状の物質へとその姿を変えた。運よく死体が残った者もあるが、それにしても肉体の七割以上を消失させている。生存者に至っては人間が片手で数えて事足りるほどの様相であった。

謎の攻撃から、その下手人が哀れな姿を晒すまでにかかった時間が約七分間であったことから、この戦闘は『七分間の愚行』と呼ばれ、HLでは一週間もすれば情報の波に呑まれていった。人界ではこの事件が表沙汰になっていないのだが、異界の住人には関心の無い事柄である。だが、この事柄に強い関心を寄せる者たちがいた。

 

秘密結社『ライブラ』

 

それがその者たちの呼称である。異界と人界の調停者を担うライブラがこの案件を放っておく筈もなく、その影を秘密裏に嗅ぎまわった結果、彼等は遂に『魔法使い』という存在へと辿り着く。尻尾を掴めばしめたものと、ライブラは次々と魔法使いについての情報を手にし、組織の大きさや行動理念など知れば知る程に、この勢力への警戒心が高まっていった。これ程の規模を持った組織とライブラが今まで遭遇しなかったのは、ひとえに彼らの『青臭さ』故である。ヒューマニズムを念頭に掲げる外法ほど、厄介なものはない。焦燥も露わに内偵を進めていくうちに、とうとうライブラは魔法使いが牛耳る街に辿り着く。『麻帆良』と呼ばれるその地は、魔法使いの勢力においても重要な意味を持っていた。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

《健闘を祈る。ガルド・ヘイルゾー君》

 

「……今の俺はブランドンですよ」

 

《失礼、Mr.ブランドン……それでは》

 

その言葉を最後に規則的な電子音を鳴らし、相手からの通話が切れたことを伝える携帯を懐に仕舞い込み、青年……ガルド・ヘイルゾー改めブランドンは言葉を発する必要が無くなった口にロリポップを咥え込む。三秒もすればバリボリと噛み砕かれる音が聞こえ、その二秒後にはゴクリと飲み込まれる音が彼の喉元から聞こえた。

 

「プッ! さあてっと、今日も今日とて一日を始めましょ……と」

 

 口元に残った棒を器用に遠くのクズカゴに吹き入れ、腰を下ろしていたベンチから立ち上がる。首元のマフラーを巻き直し、今日のモーニングの内容に思いを馳せながら馴染みのカフェへと進路を取った。

 

「おや、Mr.ブランドン。このような時間に起きているなんて珍しいじゃないか」

 

「げ」

 

 一歩目を踏み出したその瞬間、背後から妙に上機嫌な声を掛けられる。思い当たる人間の顔を思い浮かべ、ブランドンが振り向いたその先には果たして予想通りの人物、龍宮真名が立っていた。クールな佇まいとは裏腹に、その表情は喜びを隠しきれないとばかりにほころび、彼女が歩いていた方向とはまるで違う方向に行こうとしている自分にぴったりと寄り添うように歩いてきた。

 

「アルカナ、行きたい場所があったんじゃないのか」

 

「目的地には辿り着いたから大丈夫だよ。それに今の私は龍宮真名だ、マナと呼べば間違える事も無いと思うんだけどね」

 

「俺が識別できりゃあ良いんだ。じゃあな」

 

「おや、つれないじゃないか。もっと華の女子校生と親睦を深めようとは思わないのかい?」

 

 そそくさと立ち去ろうとする男に、マナは速度を合わせて追従する。自身の目的地たるカフェまであと少し……この女には知られまいとブランドンはどうにか知恵を巡らせた。だが、こんな時に限って良くない事というのはひょっこりと顔を覗かせるものである。

 

「なあ、マ―「あれ、ブランドンの兄ちゃんじゃん! こんな早いのって珍しいね!」ケン坊…お前なぁ……」

 

 彼女の気を逸らすべく、慣れない名前呼びをしようとした瞬間、無情の声が響き渡る。目的地たるカフェの一人息子がブランドンの足にまとわりつく。タイムアップを悟った彼はがっくりと肩を落とし、お手上げだとばかりにケンを担ぎあげた。

 

「随分親しいじゃないか、知り合いかい?」

 

「これから行くトコの息子さんだよ。陽も昇りきらねえ朝っぱらから元気なモンだ」

 

普段見れない目線の高さに、喝采を上げながらはしゃぐケンを興味深げに真名が見遣る。落ちないように支えながら、彼は気だるげにそう返した。自分と話す時とは違い、嫌がっていない彼の態度に多少の苛立ちを抱きながらも、今は隣を歩けているのだと自分に言い聞かせた。そんな内心などおくびにも出さず、彼女はさらりと言葉を紡ぐ。

 

「風の子、とはよく言ったものさ」

 

「ならお前もサッサと吹き飛んで行かねえとな」

 

「背伸びをしたいお年頃ってヤツなのさ。でももう少しできっと……」

 

「抜かせ青二才め」

 

そんな下らない事を話しながら、角をひとつ曲がる。まだ白んできたばかりの瑠璃色の住宅街に、ぽつりと灯る温かな光。喫茶『アストロノミー』はまだ陽も明けない時間から営業を開始していた。チリンチリンと来客を知らせるドアベルを鳴らし、連れだって店内へと入る。

 

「ただいまー! 父さん、ブランドンが来たよ! ブランドン、また遊ぼーな!」

 

「おお、帰ったかい……おや、ブランドン。随分早いじゃないか……そちらのお連れは彼女さんかい?」

 

「笑えねえジョークってのはどの国にでもあるもんだぜ、マスター? いつも通りのモーニングを」

 

好々爺然とした男が三人を迎え、ケンは営業の邪魔になるまいと奥に引っ込む。軽いやり取りをしながら、ブランドンは座り慣れた席に腰を据える。

 

「少々時間をもらうよ…お嬢さんもいかがかな?」

 

「あ、私は…」

 

「今回限りだぞ、マナ…マスター、追加でもうひとつだ」

 

「え…」

 

「ほっほ。これは手を抜くに抜けんなぁ」

 

「おい今まで抜いてたってのかアンタ……おい待て、オイ」

 

 厨房に引っ込むマスターに軽く悪態をつきながら、正面に向き直る。

 

「どうした」

 

「…………うるさい……」

 

思わず口から出た言葉に、彼女にしては珍しい悪態で返される。そんなブランドンの視線の先にはクールとはおおよそ無縁な表情の真名が、真っ赤な顔の口元に手を当てて視線を逸らして座っていた。

 

「……まあいいか、もういいや…」

 

 大きく息をひとつ吐き、窓から明けてくる街並みを見る。殆ど見られなかった人影も、この時間では部活にでも行くのだろう少年少女がちらほらと見えてくる。鋭くなりそうになる視線を意識して緩め、それでもこの街の全てを見逃すまいと、ブランドンはその意識を研ぎ澄ませた。

 

「さあ、待たせたね。ゆっくりしていくといい……コーヒーはいつでも声を掛けるといい」

 

 

 

 まあ、今はこの朝食に集中すべきだろう…この街は内側に甘すぎるのだから。

 

 

 

 

~~~~~

 

 

 

 

 魔法使いが牛耳る魔法の街『麻帆良』

 

 霧烟る異界と化した街『ヘルサレムズ・ロット』

 

 二つの街が、今、繋がる。

 

 

 

「本日よりこの学校にて教鞭を執る事となりました。ネギ・スプリングフィールドと申します!」

 

「おいスカーフェイス。あの餓鬼マークしときゃどうにでもなんじゃねえのか?」

 

「魔法の隠匿を認識操作の術式任せにしているのか……愚かな…」

 

 

 

「ブランドンさん!? どうしてここに!?」

 

「どうもこうも、この腕章落したのはお前だろうに。わざわざ届けたんだから……で、そっちのお嬢さんは?」

 

「あ、か、神楽坂明日菜です! お噂はかねがね……」

 

「え、何、噂とかなってんの?」

 

 

 

 

 

「麻帆良が血界の眷族を飼っているだと!?」

 

「不確定情報だが、警戒には値する。レオナルド・ウォッチを派遣しよう」

 

「ハイハイ! 俺護衛として着いて行きまっす!!」

 

「ティーンエイジャーにもおっ勃つとは、流石の糞猿ね。猿の名は伊達じゃあないわ」

 

「ウルセエ狗女!」

 

 

 

「フフフ……この闇の福音を前にして、随分と胆が据わっているじゃないか?」

 

「……あ、クラウスの旦那? ええ、レオも同意見です……現時点で対象に脅威は認められず、討伐の必要性も感じられない。本件はこれにて終了とされたし!」

 

「なッ! この若造がぁぁ!!」

 

 

 

 

 

「KK! アンタが京都入りのメンバーか?」

 

「そ! なにせトシユキの祖国だからねー。特に京都なんてのは世界的にも有名じゃない?」

 

「相変わらずのおアツさで。ドグ・ハマーは?」

 

「異国の芸術に触れたいとかで、クラウスと美術館に向かってるわ」

 

「…こんなに抜けても大丈夫なのかねぇ」

 

「スカーフェイスの恨み節、覚悟しといた方がいいかもよー」

 

「うっげぇ……」

 

 

 

「ブランドン! もう離さないからな……!!」

 

「言ってる場合かド阿呆が」

 

「ガルド! クラウスが本命よ、アンタが道作りなさい!」

 

「あいよぉッ!!!」

 

「え…ガルド……?」

 

 

 

 

 

「ブレングリード流血闘術」

 

「斗流血法・カグツチ」

 

「954 Blood Bullet Arts」

 

 

 

「938 Blood Cannon Arts」

 

 

 

「「「「推して、参る!!」」」」

 

 

 

 この物語は、正道などでは断じてない。

 

 霧烟る街に蠢く奇怪生物・神秘現象・魔道科学・超常謀略……一歩を間違えれば不可逆の混沌に呑まれるこの街に、新たな火種が投げ込まれた外道の世界。

 

そんな世界の均衡を守る為に暗躍する『秘密結社ライブラ』

 

 この物語はその構成員たちの戦いと日常の記録である。

 

 

 

 



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