しかし、その先に待っていた物は自身を絶対唯一の神として頂点に置いた世界であった。
神を否定した彼が神となった、それは絶対に認める事の出来無い事であった。
誰がなんと言おうと、自分は唾棄すべき存在、ならばこそ、己は人の手で討たれなくてはならない。
彼は今、始まりの地にて己が運命に終止符を打とうとしていた。
第百一話 不死の英雄
不死の英雄は大王の大剣を一閃する、斬撃と共に剣線から噴き出す始まりの火、その火は炎となり津波となる。雪崩のようになのはに襲い掛かるその津波、彼女は障壁を展開し、その津波に飲み込まれる事を防ぐ。
だが、次の瞬間彼女は圧殺された。
なのはが受け止めた炎の津波は金属の津波へと変質し、そのまま彼女を押し潰し挽肉へと変貌させた、創世の火はありとあらゆる事象を創り出すことが出来る、燃える水、凍った炎、通常ではあり得ない金属の津波でさえ、彼は作り出して見せたのだ。 彼女の身体は瞬く間に再構築されて行き、元の姿へと戻る。
生々しく感じた死の痛み、全身が押しつぶされて行く恐怖、骨が次々と砕け散る音、彼女はその恐ろしさに苛まれ足を止めてしまう。
其処へ容赦無く振り下ろされる大王の大剣、脳天から爪先まで一刀両断され、地面に臓物をぶち撒ける事となった。 彼女が斬殺された事に気が付いたのは、自分が二人いる事に気が付いたからだ。正確には両断された半身を見ていただけの話なのだが。
再びなのはの身体が再生される、その瞬間を不死の英雄は狙い、彼女の幼い身体をボールのように蹴り飛ばし、身体が浮いたところでその足を握って隆起した岩に叩き付ける。身体を串刺しにされた彼女をそのまま引き裂き内臓を引きずり出して殺す。
三度目の再生、今回はなのはも反撃しようとショートバスターを放ったが、中途半端な火力だった為か、彼の纏う鎧を貫く事は出来ず、彼にダメージらしきダメージを与える事が出来なかった。
しかし彼の反撃は容赦が無く、なのはが咄嗟に展開した障壁を物ともせず、心臓に刃を突き立てそのまま灰すら燃やし尽くす、更に再構築された彼女の頭を握り潰し、そのまま身体を地面に叩き付ける事で血と肉で出来た水溜りを作り上げる。
不死の英雄は追撃の手を緩めない、轢殺絞殺刺殺焼殺、ありとあらゆる殺害方法をもって彼女を殺し続けて行く。 死の痛みと恐怖を知らぬ人間の心を折るにはこの方法が手っ取り早いと知っていた。 何故なら、嘗ての旅路で心を折る事無く戦い抜いた彼は、同時に如何すれば人の心を折ることが出来るかと言う事も熟知しているのだから。
圧倒的な強さであった、なのはの反撃を全て見切り、読み切り、その上で何もかもを叩き潰して殺して行く、なのはは自分の全てを見透かされたような錯覚を覚えながら彼からの暴力的な殺戮を浴びていた。
一方的な虐殺を淡々と受け続けていたなのはであったが、その目に諦めや絶望の色は無い、寧ろ殺されれば殺される程闘志を募らせて行く。
(痛く、ない!! 怖く、ない!! だって、ブレンくんはずっとこうやって傷付きながら戦って来たんだ!! 折れるもんか、折れるもんか!! 私が負けたら、折れちゃったら、ブレンくんは死んじゃうんだ!! そんなのはイヤだ!!)
なのはにはこの思いが根付いており、ただ一心に彼を救う為に立ち上がり続けていた。一歩づつ、一歩づつ、惨殺されながらも只管彼女は戦うために杖を構えていた。
再びなのはを飲み込もうとする炎の津波、それを撃ち抜く為、彼女は必死の思いで魔力を収束させ続け、ディバインバスターを放つ。苦し紛れの一発ではあったが、レイジングハートは楔石で強化された最高のデバイスである為、何とかその津波を貫通させる事に成功する。
一点突破の力を持ったディバインバスターは炎の津波を貫通し、不死の英雄の頭部を跡形なく消し飛ばす。 完全に回避されると思っていたにも関わらず、思わぬ結果に呆然としていたなのはだったが、先ほど彼が言っていた事を思い出し、彼が再生仕切る前にその身体をバインドで拘束する、 手足を隆起した岩に固定し、彼の身動きを取れないようにしてから更に説得を試みる。
彼女には薄々分かっていた、今の自分の実力では戦いの中で彼の心を折る事は難しいと、だからこそ戦い以外の部分で、対話による舌戦で彼に勝たなければならないと。幸いな事に彼はその舌戦に乗ってくれる様子、舌戦と言っても自分の思いをぶつけ返すだけなので真似事のような物だったが、ともかくこれで思う存分話し合う事が出来る。
「ねぇ、ブレンくん!! ブレンくんは私と暮らしていて何も思わなかったの!? 答えて!!」
「この後に及んで、まだそのような事を」
「答えてッ!!」
「……何も思わなかったさ。 私は、私の死に関してしか興味が無いのだから。 君の事だってその為のパーツとしか思っていない」
勿論、彼のその言葉は嘘偽りであった。
彼は彼女の事を誰よりも何よりも愛している、惚れて、惚れて、惚れ抜いている相手だからこそ自分は彼女を道具として見ていると思い込もうとしているのであった。 其れ程自分が彼女に惚れてしまった事が彼の中での最大の誤算であり、生きる事への未練に繋がる、あってはならない感情だった。
完全に表情を殺し、感情を殺した声でそう吐き出した彼であったが、なのはには彼の吐いた言葉が偽りの物であると直ぐに見抜かれてしまった。
「嘘だよ、それは嘘だ」
「…………何を根拠に私の言葉が偽りの物と断じたのかね?」
「声が、ほんの少しだけ震えてるからだよ」
それは彼の事を心の底から愛していた彼女だからこそ分かる僅かな機微だった。なのははレイジングハートを構え、スターライトブレイカーの準備に移る。 自分自身の持つ最高の魔法、自分の持つ最大の魔法、絶対の自信を持ったそれに自分の全ての思いを込めて行く。
「ねぇ、ブレンくん。 まだ答えを返して無かったよね」
スターライトブレイカーが一つ完成する、臨界点ギリギリまで魔力を収束しながら更に二つ目のスターライトブレイカーを作って行く。
「答え、とは?」
二つ目の完成、三つ目の製作に取り掛かる、自分の収束している魔力に身体が焼かれて行く、しかし彼女は魔力を収束することを辞めない。
「『貴方に恋をした』これはブレンくんが私に初めて会った時に言った言葉だよ」
三つ目の完成、だがまだ足り無い、死にたがりの彼に生きていて欲しいと言う彼女の思いは此れだけでは全くもって足り無い。 続けて更に三つのスターライトブレイカーを同時に制作して行く、さしものレイジングハートも悲鳴を挙げ始めた。
「私の、私の答えはね!!」
計六つのスターライトブレイカー、それを一つに束ねる事で威力を六乗させたそれを、自らの内に秘めた思いを絶叫しながら全力全開で叩き込んだ。
「私は貴方を愛しています!! だから!! 生きて、私と一緒に!!」
砲撃の反動で自らの両腕の骨が粉砕され、魔力に肉が焼かれ、腐り落ちた果実のように地面に落ちる。しかし、彼女の全ての思いを込めた一撃は確かに彼へと届いた。
彼は己の運命に終止符を打つ為にとある少女と戦っていた。
死ぬ為に意気込んでいた彼は、『自分が死を望んでいるのだから、自分を愛してくれている彼女は愛故に最終的にその願いを叶えてくれるであろう』と思い込んでいた。だからこそ彼女を惨殺し続け、余計な事を考えさせないようにした。
だがそれは唯の浅知恵でしか無く、彼女の本質に見て見ぬ振りをし、己の中に芽生えていた生きる事への僅かな未練に蓋をする為の物だった。
『私は貴方を愛して居ます』
この言葉は、彼の生きる事への僅かな未練を大きく揺り動かす事となった。