不死の英雄伝 〜不屈の体現者〜   作:ACS

102 / 224

彼女の思いは彼へと届き、断崖へと向かっていた彼の心に大きな罅を入れる事となった。

最高の魔法で自慢の魔法、その一撃は彼の固い決意を完膚無きまでに打ち砕いた。

だが、その一撃は一手遅かった。


不屈の体現者 102

第百二話 望んだ結末/望まなかった結果

 

「…………恋は、人を変えると言うようだが、正にその通りの言葉だな」

 

 

なのはの全力全開の思いを受け止め、己の内から沸き立つ歓喜の情にとうとう誤魔化しが効かなくなった事を察した不死の英雄はポツポツと自分の中に渦巻く感情を吐き出し始めた。

 

 

「……私は、死ななくてはならないんだ、生きていては道理が通らないんだ」

 

 

彼が切り出した言葉は、血を吐き出すように重々しく、誰が聞いても今にも泣き出しそうな震えた声であった。

 

 

…………始めは、生きる為に剣を振り下ろしていた。相手は正気を失った亡者、自分とは違う、アレは化け物だ、だから殺しても良いと、しかし、その決意とは裏腹に、斬った時には、敵を殺した時には何の感慨も湧かなかった。 剣にべったりと張り付いた血糊を見ても、何処か他人事のようだった。 縋るものが欲しかった、自分を保てるナニカが欲しかった、だから使命に従った、それを追い続けていれば正気を保てると信じて戦った、そうする事で生きていると実感したかった。 強大な敵に身体が竦んだとしても、無理矢理勝つ事だけを考え戦って来た。

 

殺しに慣れ、殺される事に慣れ始めた頃、私は世界のカラクリに気が付いた、不死の使命とは神の世界を延命させる為の燃料探しだと、私はそれを蹴って神の世界を否定した。 今度はその思いを胸に自発的に剣を振るった、血の池を作り、屍の山を作り続けた、そうして出来上がったのがこの世界だ。

 

 

彼はその旅路を思い出すように目を瞑り、自分が踏み潰してきた者達に思いを馳せる。其処に何を感じ、何を思ったのか、それは彼だけにしか分からない。

 

 

神を否定した世界に、神はあってはならない。 それが例え自分であってもだ、『私はこの世界を作った神なのだから、私だけは例外だ』通らんだろう? そんな理屈は、それに私は数え切れない程命を奪って来ている、おめおめとどのツラを下げて生きろと言うのかね?

 

ああ『生きて償う』などと言う妄言は吐かないでくれたまえよ、『百人殺したから万人救った、だから奪った命に対して償いをした事になった』そんな事は償いなどでは無い、唯の自己満足だ、自分を正当化する為の唯の言い訳に過ぎん。 生きる為に殺したのならば、生きる為に殺されるべきだ。 復讐の為に殺したのなら、同じく復讐の為に殺されるべきだ、それが因果応報と言うものなのだ。

 

 

自嘲したような笑いを伴いながら、なのはの目を見て彼女を睨み付ける『これでもまだ、私に生きろと言うのか』と言わんばかりの目で。

 

だがなのははその言葉に聞く耳を持たない、彼の何もかもを知った上で彼の懇願に似た願いを否定する。彼女は壁に凭れ掛かりながら項垂れる彼に歩み寄り、俯く頭を抱き締めながら彼の言葉を否定し、生きていて欲しいと告げる。

 

 

「それでも、貴方に私は生きていて欲しい。 貴方のその『殺して欲しい』って思いは唯の逃げだ。背負った物全てを投げ出したいって言う感情から来る逃げの感情、尤もらしい事を並べて、それらしい事を言って、貴方はそうやって逃げ出したいだけなんだ。 貴方の言う因果応報に当てはめるならば、その重さに押し潰される事こそが因果応報なんだと思うんだ」

 

「…………逃げ、出したい、か」

 

「だから、私が一緒に支えてあげる、潰れる時も一緒に潰れてあげる、貴方を一人にしない、だから、生きて」

 

完全に沈黙した不死の英雄、耳を澄ませていると、自分を優しく抱き締めてくれている少女の身体が震え、鼻をすする音が聞こえている。泣いてくれている、自分の身を最愛の人が涙を流して案じてくれている。 彼は啜り泣くなのはの声に自分が死にたいのか生きたいのか分からなくなって行った。

 

そんな矢先に、彼の身体の末端が少しづつソウルの粒子となって消え始めた。 当然なのはは彼を問い詰める、どう言う事なのかと。

 

 

「ねえ!? 如何して!! 如何してブレンくんの身体が消えているの!!」

 

「…………始めに、言っただろう? 『決着を付ける方法は相手の心を折る事だ』と、私は最早自分がどうしたいのか分からなくなった、君の勝ちだ」

 

「だったらッ!! 如何して!?」

 

「神とは人に対しては何時も不平等なものなのだよ、私が君に勝利すれば、私の願いが叶い、君は自分の意思に反して私を討つ事となっていた」

 

「なに、を言ってるの?」

 

「だからと言って、君が勝利した場合は君の願いが叶う事は無い。 代わりに、私の存在が消滅し、君に始まりの火の所有権が移動する」

 

「そんな……、それじゃあ……」

 

「君が勝とうが、負けようが、始めから私の消滅は確定事項だったのだよ」

 

この戦いは、戦いになった時点で勝敗が決していた、どう転んだとしても、彼の死は確定していたのだ。

 

指先が消え、足首が消え、肘が消え、膝が消える。 彼の身体が消えて行くと同時になのはの胸に始まりの火の熱が流れ込んでくる。 彼女はその灼熱に胸を押さえ、膝を付きながら倒れ込んで行く。

 

その様子を見た不死の英雄は思わず手を伸ばし、彼女の身体を抱き止めようとしたのだが、受け止める為の腕が無かった、駆け寄ろうにも、駆け寄る為の足が無かった。

 

此処に来て、神に至ってから、始めて彼は涙を流し、後悔の念に打ちひしがれる。

 

 

「…………まったく、私は、本当に不器用な男だな、一つの事を達成する為に、全てを捨てなくてはならない。 大切な物であったとしても、捨ててから気が付くのだから世話が無い」

 

 

止めどない涙、此処へ来て初めて彼は心の底から生きたいと、生きて彼女の側で、彼女を支える為に立って居たいとそう願った、だが、消える身体を止める事が出来無い。後悔しながら死んで行くのを待つだけであった。

 

だが、そんな状況下で、彼の涙を見たなのはは這い蹲りながらも彼の取り落とした大王の大剣を握りしめる。 先ほど不死の英雄が始まりの火を使用した際にこの剣を使っていたので、これを使えば自分の中にあるこの創世の火を使う事が出来ると、彼女は確信していた。

 

思った通り、彼女の内にあった火が刃を通して噴出し、弱々しくも力強さを兼ね備えた始まりの火が出現する。 この火に願う事はただ一つ。

 

 

お願い、彼の命が消えると言うのなら、私の命と彼の命を共有させて下さい、お願いします、彼を、消さないで、私の愛しいこの人を、消さないで。

 





彼女が願った命の共有、それは生も死も、運命さえも共有すると言う事、存在の共有と言う事。

彼の涙を見た彼女は悩まなかった、躊躇わなかった、この程度の事で、彼の背負う重荷を一緒に背負う事が出来るのだから、潰れる時も一緒になれたのだから。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。